2020/08/10 のログ
ご案内:「訓練施設」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 訓練施設の一室、中央に裸足のヨキが立っている。
それも、ただ立っているのではない。
全身にぐっと力を込め、口を真一文字に引き結んだ上に――
「…………、」
ほんの五センチほど、浮いている。
「……………………、」
斥力を発生させ、体勢を安定し、“浮かぶ”という動作ひとつとっても凄まじい集中力が要った。
本来、ヨキの天性の魔力とシステマチックな魔術学は破滅的に相性が悪い。
魔力量だけを取ってみれば、ヨキは自由自在に空を飛んでみせることだろう。
だがその力の流れに魔術学というある種の枷を嵌め込むことで、ヨキの実力は初心者を脱することが叶わなかった。
「――だあッ!」
まるで玉乗りに失敗したかのように、空中でたたらを踏んで地面に引っ繰り返る。
■ヨキ > 床に仰向けの大の字で伏したまま、天井を見上げる。
“身一つで空を飛ぶ”という目標が定まって二年。
今はまだ、わずかに浮かび上がることが関の山。
こうして少しの集中を欠いただけで引っ繰り返り、大袈裟なほどに息切れしている。
「……絶ッ……対……、諦めんぞ」
鼻息。
腹筋を使って上体を引き起こし、立ち上がる。
サンダルと共に隅に置いてあったペットボトルの茶で喉を潤し、気を取り直す。
「……ふうッ」
目を閉じる。
両足を広げて踏み締め、膝に手を突いて息を吐く。
■ヨキ > ――瞼を開いた紺碧の瞳の奥に、金色の星。
「…………!」
駆ける。
脚力を使って、跳ぶ。
踏み出した左足が、空中を蹴る。
紫電が小さく爆ぜる。
虚空を踏んで押し上げた身体が、さらに上へ。
「――ふッ!」
もう一段、右足が何もない空間を蹴る。
ふたたび紫電。
“飛翔”とは程遠い、“跳躍”。
それでも。
常人ではとても届くことのない、宙の高みへと身体が舞う。
ご案内:「訓練施設」に阿須賀 冬織さんが現れました。
■阿須賀 冬織 > 長期休暇、異能の練習もしないとなと訪れた訓練施設。
休憩を終えてさあ頑張るかとドアを開ける。
……そこは先ほどまで自分が使っていた部屋ではなかった。
はじめての利用だからか部屋を間違えたようだ。
「……かっけえ。」
ちょうど、長身の男が紫電と共に跳んでいる様が目に入った。
部屋を間違ってしまったことを忘れてその様子に魅入る。
■ヨキ > 左足が、さらにもう一段空中を蹴ろうとして――空振りする。
パルクールめいた宙返りで、地面へ舞い降りる。
無論のこと、着地の際の衝撃を相殺することも抜かりない。
どんなに行使が不十分でも、知識だけは学園の四年間の修了するほどの量を積み上げてきているのだ。
着地するその刹那、紫電と共に着地の衝撃が緩和される。
「…………、ふーーーーッ……」
緊張の糸が切れて、長く長く息を吐き出す。
そこでようやく、入口に立っている冬織に気が付いた。
「――やあ、こんにちは。異能の練習に来たのかね。
こちらは目下、魔術の練習中だ」
額の汗を拭いながら、冬織へ笑い掛けた。
■阿須賀 冬織 > 声を掛けられてはっとする。そうだ、部屋間違えているんだった。
「あっ、はい! 折角の長期休暇だし、異能も練習しないとなときたんですが……
すみません。ここに来るのが初めてなので部屋、間違えちゃったみたいで……。」
笑いかけられて、怒られそうじゃないと思ったのか、安心した調子で返す。
「あの紫色の雷みたいなのも魔術、なんですか……?」
魔術の練習と聞いて、さっきの跳んでいた時に出た紫電も魔術なのだろうかと聞いてみる。
■ヨキ > 「ははは、間違えた? そうだったか。いや、何。気にするな。
この建物は似たような部屋が多くてのう。自分も間違えかけたことがある」
冬織の言葉に、快活に笑う。
長身で体格もよいが、表情はとても柔和だ。
「ああ。紫色のあれは、魔力というものでな。魔術を使うための力だ。
魔術を使うとき、あのように発散されるんだ。
人によって、光であったり、靄のようなものであったり、形はさまざまで……。
ヨキの魔力は、ああして雷のように見える」
笑い掛けて、小首を傾ぐ。
「ヨキというよ。普段は美術を教えている。
よかったら、君が使っている部屋の方で、君の異能を見せてもらっても?」
■阿須賀 冬織 > あはははとつられて笑う。
優しそうな人で良かったーなんて。
「成程……。俺、特別な何かがあるだとかそういった家系なわけでもないんで、まだ座学だから、
魔術見る機会あんまりなくて。」
どうやら、魔術というよりは魔力そのものだったらしい。
人によって現れ方が違うのは面白いななんて思いながら話を聞く。
人によって異なるだろうが、自分は特別熱心という訳でもないのでまだ座学の段階だ。
自身にとって珍しいものを見て目は少し輝いているだろうか。
「あ、俺は阿須賀冬織っていいます。一年で学生してます……ってまあこれは言わなくても大体わかるか。
えーっと……面白いかどうかはわかんないっすけど、それでもよければ。」
自己紹介を返す。
相手が安心できそうだと思ったからか、悪気とかはないが少し敬語は崩れてきている。
異能については特に隠すものでもないし、面白いかなあと思いながら快諾。
間違えただけあって使っていた部屋はすぐ近くだ。
■ヨキ > 「異能だけでも手一杯だろうに、魔術の座学にも取り組んでいるのは結構なことだよ。
このヨキも、魔術を学び始めたのはほんの数年前でな。
魔術師を名乗るにはまだまだ程遠いが、勉強するのはとても楽しい」
冬織の自己紹介に、阿須賀君、と名前を反芻する。
「ふふ、どうぞよろしく。
一年生と言えば、まだまだ覚えることが多くて、大変な時期だな。
有難う、それではお邪魔させてもらうよ。
ちょうど一息つこうと思っていたところでね。人それぞれの異能に、興味があるんだ」
部屋の隅に纏めていた少しの荷物を片付けて、部屋を出る。
冬織の案内に従って、彼が使っていた部屋へと赴こう。
■阿須賀 冬織 > 「先生も勉強してるんっすか。
……んまあ実際手一杯であんまり進んではないんですけどね。
まだ魔術は新しくて楽しいことなんでましかな。」
実際、興味はあるけど手一杯なのであまり進んでいない。
基礎が大事だというのもわかるが、早く実際に使ってみたいなという気持ちも大きい。
「ん、こちらこそよろしくお願いします。
あーまあ、大変だけど楽しいっすよ。向こうとは勝手違うけど新しいこと学べてますし。
異能に興味……まああんまり珍しいものでもないっすけどね。」
なんて話しながら部屋につく。同じ過ちを繰り返さぬよう念入りに部屋の番号なんかを確認してから入る。
といってもまあ、中は他の部屋と変わらず殺風景。
自身の荷物が少々置いてあるくらいか。
「あ、一応大丈夫だと思いますけどこの上にいてください。
俺の異能電気操るってやつなんで。
あーちなみに、こんな感じのものを見たいとかあったりしますか?」
そういって、荷物の中から絶縁シートを取り出して敷く。
そこまで出力を出すつもりはないがまあ念のためといったやつだ。
そうやって動きながらも、見せるといっても何を見せようかと悩んだので聞いてみる。
■ヨキ > 「そう、ヨキも勉強中。異邦人なものでな、こちらの世界のことはいつでも新鮮だ。
突然異能が発現したとなると、大変だったろう。
元の街を離れて、この学園に通わざるを得なくなったのだものな。
この学園で学ぶことが、君の将来にも役立ってくれるといい。
せっかく四年間も過ごすのだから」
穏やかに笑いながら、冬織の後について彼の部屋に辿り着く。
絶縁シートへと促される通り、その上へ。
「ほう、電気を。いや、君が練習したい通りにしてくれれば大丈夫。
安心したまえ、ヨキは異能に興味はあれど、採点出来るほど玄人でもない。
先程までは、どんな練習をしていたのだね?」
■阿須賀 冬織 > 「まあそっすね……。異能ってモノによっちゃ簡単に人傷つけられますし。
でもまあここの人たちって面白いし優しい人多くて全然大変じゃないですよ。
あ、でも一人暮らしはちょっと大変かな……? 料理とか全然できなかったし。」
教師という立場の大人だからだろうか、なんだか安心できるし気遣いといったものがひしひしと伝わってくる。
「んまあ、そっすね。こんな感じで電気を操るってのが俺の異能です。
さっきも言ったように人傷つけられるのでこっちに来る前も来てからも、あんまり使ってなかったんですけどね。
まあ、向き合わないといけないなって。」
ヨキ先生が絶縁シートの上にのったことを確認してから。
そういって軽く両手を前に出して、手のひらの間に電流を流してプラズマを出す。
青白い光と共に独特の音が響くだろう。
「んでまあ、練習って言ってもやってることは扱える容量を増やすために放電し続けるのと、
細かい操作の練習するくらいっすね。……あーこれなんかは見て面白いかな。」
放電の方は地面に流してしまえばいいので最近では日課となっている。
今日はどっちかといえば操作の方を練習しに来たわけなので
……一ついいものを思い出した。
そういって放電をやめて金属球を持ってくる。大きさはそれほど大きくないしあまり重くもない。
見やすい位置に置いてからたった状態でその真上に手をかざす。
「電気が流れると磁場が出来るんですね。
んでまあ今からこの手のひらの中で電流作るんですけど、そうすると……
……よっと、こんな感じで、ものを浮かせられる。」
手のひらからバチバチといった音とともにその下にあった金属球が浮かんだ。
十分な高さに浮かんだことを確認したらもう片方の手も持ってきて、左右に動かしたりしてみる。
多少小刻みに揺れているあたりまだまだ制御は完璧ではないが。
■ヨキ > 「異能者の中には、制御が出来ずに苦労している者も多いからな。
ひとりひとりが違う能力ゆえ、万人に通じるサポートがあるでもなし。
君が打ち解けていられるなら、安心したよ。
ふふ、料理も慣れると楽しいが、この街には美味しいお店も多いからな。
いろいろな者が、いろいろな形で支え合っているのだ」
絶縁シートの上から、冬織が異能を行使する様子を注視する。
ほう、と感嘆の声。
金属球を浮かす様子に、思わず拍手。
「なるほど、なるほど。
君はなかなか、自分の異能を制御出来ているようだね。
基本の知識はきちんと心得ているようだし、応用の仕方も上手だ。
これからの学園生活、君がその力をどう扱ってゆくのか楽しみだ。
……だが、放電し続けたり、細かな操作を続けることで、副作用はないのかね。
心身に不調を来してしまうようなことは? 異能となると、そればかりが心配でな」
■阿須賀 冬織 > 「本当に、いい場所だなって思います。」
ここは毎日が新しいものにあふれていて本当に楽しくていい場所だと思う。
「そりゃまあ、制御だけは必死でやってきたので……。まあその分、出力は今後の課題かなって。
……そんなに褒められるとちょっと恥ずかしいって言うか。まだ目標には全然だし……。
今はあまり重量のない電気と相性いい物だけなんっすけど、出力を上げて行けばそのうち、
自分自身を浮かせられるようになるはずなんっすよ。
副作用……。どうにも電気への耐性みたいなのが出来ているみたいでそこまで酷いのは今のとこないっすね。
あーでも、流石に無から電気を生み出すってわけじゃないんで、使いすぎると腹減ったり疲れたりってのはありますけど。
……そこまで気を使ってもらってありがとうございます。」
この島に来る前から、異能の制御だけは必至でやってきた。
そのことを手放しに誉められたので嬉しく恥ずかしいといった気分だ。
実際休憩前も異能を使っていて少しお腹がすいたので鞄から飴玉を取り出して口にする。
先生もどうっすかと一つ差し出してみる。
■ヨキ > いい場所。その言葉に、まるで自分のふるさとを褒められたような顔になる。
「制御は練習の賜物か。――ほう、自分自身を浮かす、か。
ヨキもな、先程は“空を飛ぶ”魔術の練習をしておったのだ。
今は集中しすぎて浮いている実感もないが、いずれは自由に空を飛んでみたいものだよ。
ふむ、腹が減ったり疲れたり、か。食べ盛りの年頃では、それはそれで大変だな。
確かに料理を賄うのも苦労するだろう。
いや、大したことはない。
異能を知り、人となりを知り、ヨキはそうして生徒の皆と関わり合ってゆきたいだけさ」
飴玉を差し出されると、おお、と笑って受け取る。
「それでは有難くいただこう。ヨキもちょうど、手持ちのおやつが……」
そう言って、個包装の一口サイズのおかきを取り出す。
飴玉と交換に、彼の手元へ差し出しながら。
「阿須賀君も、よければこれを。
甘いのとしょっぱいので、ちょうど良かろう」
■阿須賀 冬織 > 「暴走したら本当に不味いですからね……。
……魔術でも飛べるのかー。うーん、流石に磁力だけで自由に飛ぶのはきちーかな……。
多分発電所くらい出力出せるようにならないと……。
まあ普段は携帯の充電だとかくらいにしか使わないんでそんなに減らねーんだけどな。
……美術だったっけ? 秋から受けられないかな……。」
魔術で飛ぼうとしていると聞いて目を輝かせる。
すごくいい先生というのがわかったので休み明けから授業受けられないかななんて。
「んじゃ、俺も有難く。
……ん、こういうのも中々。」
しまうと割れちゃうかなと貰ってすぐに頬張る。
■ヨキ > 「磁力で推進力を出すのは可能だが、高度を出すのが難しそうだな。
ふふ、発電所くらい出力が上がる頃には、引く手あまたで宙に浮くどころではなくなったりしてな。
携帯の充電に使えるなど、とても便利ではないか。
ヨキも授業で機材をあれこれと使うものでなあ、電源の工面はいつでも苦心しておるよ。
――美術の授業を? あはは、大歓迎だとも!
絵を描いたり、ものを作ったり、誰でも楽しめるような授業を心掛けておるよ。
もし興味があれば、見学だけでも気軽に来てくれたまえ」
荷物の中から名刺を取り出して、冬織に差し出す。
そこにはメールや電話、SNSのアカウントなどの連絡先が記されている。
「……と、ヨキはそろそろ次の仕事へ向かわねばなるまいな。
君はもう少し練習してゆくかね?」
飴玉を頬張りながら、冬織へ尋ねる。
■阿須賀 冬織 > 「あはは、まあそれくらい目標を目標にしていきたいですね。
いいんっすか!?じゃあ今度見に行ってみますね。」
そういって名刺を受け取る。
「……俺はもうちょっとだけ練習していきますね。付き合ってもらってありがとうございます。」
そういって頭を下げる。
■ヨキ > 「受講するも自由、しないも自由。
元々それほど人が多くない授業だからね、みな気楽にやっておるよ。
ぜひ遊びに来てくれたまえ」
冬織の礼に、こちらも会釈を返す。
「ああ、どういたしまして。
こちらこそ、君の異能を見せてくれてありがとう。
またいずれ、ゆっくり話をしよう。お疲れ様、阿須賀君」
絶縁シートの汚れを払ってから、ではね、と軽く手を挙げる。
飴玉を味わいつつ、軽い足取りで訓練施設を後にしていった。
ご案内:「訓練施設」からヨキさんが去りました。
■阿須賀 冬織 > 「こちらこそまたお話したいです。」
そう言って見送る。
あとはまあしばらく練習して彼もまたここを去った。
ご案内:「訓練施設」から阿須賀 冬織さんが去りました。