2020/08/20 のログ
ご案内:「演習施設」に絵描きさんさんが現れました。
絵描きさん > 「………時間になったね。それじゃあ、
『魔法の危機管理』の第一回目の授業を始めよう。」

演習施設に生徒を集めての実習授業。
『魔法の危機管理』と題される授業は、夏季に集中して行われる魔法の授業の一つだ。
魔法の先生のおにーさんが授業の開始を告げると移動教室後の騒然とした空気がしん、と静まり返る。

絵描きさん > 「さて、まずは最初に確認しておくべきことがある。
この授業は魔法が使える子も、使えない子も受けられるようにしている。
理由は………もうボクの授業を受けた子は知っているかもしれないけど、話しておこう。」

「理由は一つ。魔法はその便利さ故に、将来普及していくだろうものだからだ。少なくとも、この常世島ではそうじゃないか。
魔法が使えない子も、魔法に影響される生活を送るようになる日が来るからね。」

空間にホワイトボードがあるかのように、魔法が普及するという文字が浮かび上がり、先生はそれを生徒たちに見せる。

絵描きさん > 「中でも、この授業魔法の危機管理というものは魔法を扱わない子にとっても、非常に重要なコトなんだ。」

「だって、そうだろう?」

「自動車を運転できないからといって、自動車事故に巻き込まれない理由にはならない。」

「それと同じ事だ。」

絵描きさん > 「魔法が使えないからと言って、魔法の危険に巻き込まれない理由にはならない。」

「故に、魔法の持つ危険性について理解し、どのように危機管理、危機回避を行うべきか。」

「魔法が普及する世界で安全に暮らすには、必要不可欠だといって良いだろう。」

絵描きさん > 「………以上。簡単にだけど、ボクが魔法を使わない子も、この授業を受けてもらいたい理由だよ。」

空間に自動車と炎の魔法の絵が描き上げられて、どちらも事故を起こしている風景が続いて書き出される。

絵描きさん > 「さて、第一回目の授業は、魔法を使う上で、もしくは魔法が使えない子も、
魔法に関わる上では絶対に覚えておくべき、とても大事な事を教えておこう。」

おにーさんの先生は一言前置きをする。
空間に浮かび上がる文字が消えて、更に空気がしん、と静まり返る。

絵描きさん > 「魔法はタダでは使えない。」
絵描きさん > 「或いは………ごくわずかな例外があるかもしれない。
でも、およそほとんどの世界に存在する99%の魔法は、
必ず何かしら、代償を支払うものだ。」

魔法を使うには、代償が必要との文字を赤字で浮かび上がらせるおにーさん

絵描きさん > 「そのほとんどは魔力が代償になる。
精神力や体力を代償にしたり、特定の物質を代償にする魔法もあるだろう。」

「だが、代償の種類はどうあれ、大なり小なり代償を支払う必要がある。
例えば………」

おにーさんが手を翳す。すると………演習施設の中で吹雪が起こり、暑い夏の気温を一気に冷え込ませる。

絵描きさん > 「今の冷房の魔法は、ボクの魔力が代償になったわけだ。」

「機械の冷房も同じ事………電力が代償になってるだろう?」

「こうしたちょっとした力を働かせるには、何かの代償がやっぱり必要なのさ。」

絵描きさん > 「さて。ここからが大事だ。」

「………魔法を使う時、この代償となるものを持っていなかったら?」

「それで無理矢理魔法を使おうとしたら、どうなると思う?」

絵描きさん > 「………分かる子は、手を挙げてみようか?」

なんておにーさんが声をかけるが………。

「ふふふ、やったことがないから分からない?」

分かるって子は、いないみたいだ。

ご案内:「演習施設」に時任時図さんが現れました。
時任時図 >   
「使えない……んじゃないっすか?」

中列。後ろでも前でもない、真ん中あたりの席に座っている男子生徒。
制服を着崩し、左目を眼帯で覆った黒髪赤瞳の生徒がそう手を挙げて、意見を言う。

「その例えでいうなら、電気がない時、もしくは外気温が高すぎる時に無理に冷房つかっても……十全に機能しないだけっすよね?
 金を払えないなら飯は食えないのと同じで、代償が支払えないならそもそもサービスが受けられない」

教師の例示を元に、男子生徒は意見を言う。
そして、最後に大袈裟に首をかしげて見せる。

「そう言う事なんじゃないっスか?」

絵描きさん > 「………良いね。そういうのを待ってた。」

おにーさんはしんと静まり返った中で口を開く男子生徒に優しく微笑みかける。
意見を出してくれたのが嬉しそうだ。

「そう、冷房なら、使えない。サービスもお金がないと、使えない。魔法もそう………だと良いんだけどね。
魔法ってのはさ、強引なコトが多いんだ。」

思わせぶりに、おにーさんはそこで言葉を切る。

「キミの言ったコトが結構いい譬えになりそうだ。使わせてもらうね………。
そう、例えば………。お客さんがキミのレストランでご飯を食べた。でも、支払いの時にお金がなかった。」

「さぁ」

「キミは、どうする?」

時任時図 >  
「事情を説明して大人しく風紀の縛につくか、皿洗いのバイトとかで勘弁して貰えないか交渉っすかね」

片手を顎にあて、眉間に皺を寄せて、片目で虚空を睨みながら……教師のおにーさんの質問に答える。

「まぁ順当に代価を支払えなかった罪に対して罰を受ける。
 そう言う事になるんじゃないっすか?
 僕の『読み違え』っすかね?」

紅い片目で、教師のおにーさんの答えを待つ。

絵描きさん > 「うん、全部正解だ。
使えないってのも、そういう場合もあるから間違いじゃないよ。自信を持って。」

おにーさんはにこやかに彼の答えに頷く。

「とりあえずさ、バイトでも、皿洗いでも、罰でも………どんな形でもとにかく………。
タダじゃ済まないってのが分かるだろう?
何かしらの形で、埋め合わせをさせられる。」

要は、そういう事なのだ。
魔法は使ってしまえばただでは済まない。形を変えて代償を支払う事になる。

「魔法はね、無理矢理使おうと思ったら使えてしまうケースが多いのさ。その点、冷房は安全だね。」

「無理に魔法を使った結果、疲れが募ったりするくらいはよくある事で………。
魔力が暴発した、肉体が消えた、精神を乗っ取られた………そういうの、噂でも聞いた事ない?」

おにーさんは再び周りに語り掛けるように話す。

時任時図 >  
「ああ、良く聞きますね。
 そういうのお構いなしでブッ飛ばしてヤリまくったら死んだみたいな話」

おにーさんの言葉に頷きながら、一つ一つの事例を想像して指折り数え。

「死んだ方がマシだったみたいな話もチラホラ」

最後に親指を折りながら、おにーさんをちらりと見る。

絵描きさん > 「そう、それだ。
ボクが今まさに話したい事だよ。」

おにーさんは深く頷く。
彼の死んだほうがましなんて発言にあたりが少しざわめくが………
それは、事実だ。少なくともおにーさんはそう考えている。

「禁断の術に手を伸ばして、体を乗っ取られるなんて悲惨なものもあるよね。
ああなったら、正に死んだ方がマシだ。
代償がない魔法は、そうなる。
………ま、具体例は良く知ってるだろう。知らない子も、帰ったら調べておくといい。
調べてきたレポートを提出するのが、今日の宿題だよ。」

空間にレポート課題のタイトルを浮かび上がらせる。

「さて、………魔法を使えないのに使おうとする危険、
代償が足りないのに魔法を使った事で発生するリスクをボクは「魔力の反動」と呼んでいるよ。
もっとも、なんて呼ぶかは………この世界では決まっていないようだけれど。」

時任時図 >  
「美味しい話には裏がないこともあるけど、便利な話はだいたい裏がある。
 見えてないだけ、読めてないだけ、知らないだけ。
 ちょっと捲ってみればいくらでも出てくる。
 今喋った事例もその一片に過ぎない」

周囲のざわめきを煽るようにそう呟いて、おにーさんの言葉に首肯する。
また、指折り数えだす。

「悪魔に騙されて身体の自由を奪われた。
 感覚を失って好きなことが出来なくなった。
 倫理や常識が欠如して理性を理性と認めれ貰えなくなった。
 いやぁ、数えれは数えるほど出てくるし、ちょっと調べるだけでもきっと一杯でてきますよね」

レポート課題のネタを一つ一つ口遊みつつ、生徒は「ああ、そうだ」と呟いて。

「先生、宿題の話でたってことは、多分今日の講義はぼちぼち終わりっすよね?
 最後に質問いいっすか?」
 

絵描きさん > 「だから、怖いのさ。魔法が使えない子も、使える子も………
魔法を使う前に知っておいてほしい。」
「もう一度、今日の授業で大事な事を伝えよう。」

「魔法はタダでは使えない。」

「以上だよ。覚えて帰って。」

再び赤い字を光らせて、何もない空間に浮かび上がらせる。
………生徒たちが課題のネタを知っていれば、後は具体的な事例を持ってくるのを楽しみにしようかと、
おにーさんは笑って眺めている。

「ああ、今さっき授業の締めをしたところだ。」

「何が聞きたいのかな?」

おにーさんが終わりの合図をすれば生徒もまばらに帰り始める。
彼とまだ向き合ったまま、優しげな目つきを向ける。

時任時図 >  
「今言った話って、異能でもだいたい同じこと言えると思うんスよ」

異能。
常世島では有り触れた力。
使える者も、使えない者も、知らずに生きることは難しい。

「だから、僕いつも思ってることがあるんスよ。
 それが今からする質問なんスけど」

優しげな視線に向き合ったまま、生徒はまた大袈裟に首をかしげて。

「異能と魔術の違いって、なんスか?」

そう、質問した。

絵描きさん > 「なるほど。」

おにーさんは彼の質問に頷く。
異能と魔術、この2つが常世島を取り巻くイレギュラーだといって良い。

「ボクなりの答えでよければ、答えよう。」

帰らずに残っていた生徒も何人か耳をたてて居る。

「理論で全てを解説できるものが魔術。
理論で全てを解説できないものが異能。」

「ボクはそう考えているよ。」

おにーさんは答える。
どちらも不思議な力だ。………だが、魔法は全て解き明かせる。知る事が出来る。
異能は、全てを知る事は出来ない。

「これで、満足できたかな………?」

………と言っても、おにーさんは異能の事は深く知らない。
本当は理論で解説できる可能性があるかもしれない事も、知らない。

時任時図 >  
「そっすかね? 
 魔術も理論が確立してない奴は山ほどありますよね?
 禁術なんて正にその筆頭だ。
 正しい使い方がわかんねぇからとりあえず臭いものには蓋をしておく。
 いや、それが悪いってわけじゃねぇんすよ。
 当然の事だと思うし、理屈はわかんねぇけど危ない事だけわかるなら封じるってのは良くある話でしかない」

人が疎らになった教室で、生徒は疑問を投げ掛け続ける。

「特に異邦人が持ち込んだ魔術なんて特例ばっかりで分かんねぇ奴も一杯ある。
 向こうでも『なんとなく使ってた』ってだけで体系化されてなかったりする。
 こっち側の魔術もそういうのあるみたいだし」

首を傾げる。

「異能との違いは、誰でも学べ習得できる可能性があること。
 もちろん才能などで違いも出るが、本人の体質などは大きく関わらないことである。
 ただ、この区分には問題もあり、魔術によっては当人の体質などが関係してくるものもある。
 必ずしも上記の限りではない。
 ……でしたっけ? この学園のガイダンスだと」

入学当初のガイダンスの資料に書いてあったことをそのまま言う。
誰でも学べ、習得できる可能性がある。
だが、それは、言い換えるなら。

「でもこれって、最終的に『個人の資質』が結局重要になるってことッスよね。
 じゃあ、具体的な違いや差って……あるのかなって」

つまりは、そういうこと。
 
「ないならないで、いいんスけどね。
 おもしれーし」

絵描きさん > 「………ふふふ、確かにそうだね、今は。
禁術なんて、良く分からなし危ないから学ばれていないだけで、将来的に魔術が発展すれば、
必ず理論で解説できるようになるよ。ボクはそう思う。
特例だって、一つ一つ解き明かせば分かるはずさ。」

おにーさんは魔法の普及と発展を疑わない。
今は、確かに………理論で解説できない魔法だってある。
でも将来全て解説可能になるのだと信じ切っているようだ。

それからは、しばし彼の言葉に耳を傾けて頷き続けるおにーさん。

「………なるほどな。結局魔法も、異能も、誰にでも優位に使えるわけではない、
個人の資質次第で差が出得る、だから異能と魔法は同じだと?」

「キミはそういいたい………それであってるかい?」

改めて言葉の意味を問い直す。

時任時図 >  
「異能学なんてあるくらいですしねぇ。
 じゃあ、『いずれ解き明かされる』と期待されてるなら、どっちもそんなかわんねぇんじゃねぇのって」

異能も魔術もどちらにも踏破領域と未踏破領域がある。
割合でいえば、魔術の方が踏破領域は恐らく広いのだろう。
だが、齎される結果……化学的説明を無視し、既存の物理法則を鼻で笑う不可思議はどちらも同じ。

「具体的な違いを知りたい……ってのが正しいっすかね?
 線引きがないならないでいいし、あるならあるで『なんでそういう線引きなのか』に興味がある。
 だからまぁ、僕はどっちでもいいんすよ。
 誰がどう『読んでいる』のか気になるだけで。
 僕がどう『読み違えたか』も知れるし」

絵描きさん > 「………どうだろう?
魔法は代償から炎を作り出すけれど、異能は代償をなく炎を作り出すんだ。
魔法は学ぶことで炎を作り出すようになるけれど、異能はある日突然炎を作り出せるようになるんだ。
魔法で起こす炎は形は同じ魔導書から学べば同じ魔法だけど、異能で作り出す炎は100人いれば100通りだ。
ボクに言わせれば、異能の理論は全く分からないし、これから解き明かされることもない。」

おにーさんはやっぱり、異能が理論で解説できるものだとは思わないようだ。
単に解き明かされていない部分が大きいだけ………なのかもしれないけれど。

「具体的に………ね。」

おにーさんは俯く。

「やっぱり、理論で解説できるか、出来ないか。ボクはこれ以外思いつかないなぁ。
でも、キミはそうじゃないと思っているようだね。今度また考えておくよ。」

お手上げのようで、困ったように笑った。

時任時図 >  
「でも異能も使い過ぎると暴走したり、疲れちゃったり死んじゃったりもしますよね?
 マジで完全ノーリスクの異能は珍しい気がするんすよ。
 それに、ガチで何の体力的・精神的かつ物質的消耗がなかったとしても代償は生まれる」

おにーさんの笑みにあわせて、生徒も笑う。

「社会的迫害という代償。
 めっちゃ問題になってますし、きっと解決しませんよね。
 ま、仕方ないっすけどね。
 そらだって、常時弾切れなし故障なしの銃で武装してるのとかわんないんだから」

お手上げポーズに合わせて両手を上げる。
多分、どうしようもない問題だろうから。

「まぁ、理論的説明が出来る出来ないでいうと、そうだなぁ。
 『魔術の方が体系化されてて、それらしく説明できることが多い』ってことかなって。
 それだって、魔力やら何やらなんて観測で来てるかどうかもわからねぇ。
 法力とか呪力とか言う事もある上に、全部パワーソース違いますって事もあったりするみたいじゃねーっすか。
 でも、具体的分類はできない。突っ込んでいけば最後には精神力の一言で片付けられる。
 それは……異能の制御がメンタル部分に由来するのとあんまりかわんねーなって。
 どっちも、僕は『理論的説明はされてない』と思うんすよね。
 少なくとも、化学や物理学に比べると全く透明化されてない。
 いやむしろ……大筋でいうと同じじゃないかなって。
 最先端過ぎるだけで」

そこにあるものを考えるのが科学と、どこかで聞いたことがある。
そこになぜあるのかを考える。
だから、既存の理屈ではありえないことが起きた場合は今までが間違っている……と考える。
そうして、新しい理論を何度もくみ上げ、何度も破壊する。
それを永久に繰り返す。
終わりはない。
だとすれば……異能や魔術が入ってきたところで、それは『新しい要素』以上にはなりえない。

「どっちも今後解き明かされるかもしれないし、解き明かされないかもしれない。
 ただ、フラットにみるなら魔術も異能も『今までの人類史では観測が曖昧だったもの』でしかなくて、それが『前よりハッキリ観測できるようになった』のが今。
 なら、どちらも理論的説明は結局今までの理論では不可能で、これからの理論を組み上げるしかない。
 そうなると、異能と魔術の差って何なんだろうって。
 いや、面白いなぁとおもうんすよ、僕こういうの」

絵描きさん > 「………ふふ、なるほどなぁ。」

中身はどうあれ、外から見れば大分似ている。
社会的迫害なんて、魔法使いにもあるんだから。
精神力でどうにかするって事も異能でも魔法でもある。
それでも、やっぱり………

「魔法は万人が同じものを学べるけど、異能はそうじゃない。
精神力で片付けられる事も確かにある…魔法はそれだけじゃどうにもならない事も多いよ。異能はどうにかなることが多いようだけど。
種種雑多で色々とあるのはその通りだけれど。………ところでキミ、魔法とどれくらい傍にいたのかな。
多分、魔法が解明できることに違和感があるのは、魔法に慣れ親しんでないからじゃないか。
その点ボクは異能に慣れ親しんではないから、異能は解明できないと思ってる、なんだろうけどな。」

やっぱりおにーさんは、解明できるものだと思っている。

「まぁでも、考えてみれば………
唐突に門が開いて、異界から齎された謎の力で謎の現象が起きたとして。
それが異能なのか、魔法なのか………パッと判断できる人は、少ないだろうね。」

「答えが分かるのは、魔法が解明された後、異能が解明できるかどうか、かなぁ………?」

「………異能が万人に使えるものにならない限り、将来的に人を豊かに出来るのは、魔法の方だ。
でも………今は不確定すぎて今はどう違うか、具体的に出せないね。ごめんね。」

………世界は広い。
異世界から理解できないものが多量に流れてきて、確かに分からないものもある。
そう、今はわからない。将来どうなるか、その変化だって。

「また、何かの機会に気の利いた答えを考えておくよ。」

おにーさんは困った顔で立ち上がって、教室から姿を消した。

ご案内:「演習施設」から絵描きさんさんが去りました。