2020/08/23 のログ
日下 葵 > 「はぁー、終わりました。
 今日はもう動きの訓練までやりますか。
 どうせやることないんです」

タオルで軽く汗を拭えば、次はグローブを嵌めてサンドバッグに向かい合う。

バチィィン。

女が殴ったにしては重い音が響く。
一度感触を確かめると、二打目からは怒涛だった。
普通のボクシングと違って、ほとんど防御の構えを取らない。
バスバスとひたすらに打って蹴ってを繰り返す。

ひたすらに打撃を繰り出す動作はその後しばらく続き、
体力を使い切るまで音はやまなかった>

ご案内:「訓練施設」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「演習施設」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 「……よろしくお願いいたします。
 はい、疑似エネミーを3体ほど。
 強さについてはよく分からないので、お任せいたします。」

すぅ、っと息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
ここも決して、平和ではない。 それを自覚した。
争いが常。 人が死ぬことが当たり前。 そんな世界からやってきて、少々浮かれていたのかもしれない。

力無き正義は無力だ。
いつからその力の部分を、他人に任せきりにするようになったのだろう。


「お願いします。」

長い棍を構えて、ゆっくりと瞳の温度が下がっていく。
長い修道服の下にはいつも通りの鎖の鎧。

目の前には、人の形をした何かが、3体。

マルレーネ > 能力を持った人間は、とても強いのだろう。
爆発や地響き、轟音。 様々なものを目にして、耳にした。
おそらく、高位の魔術師レベルの戦力がこの島にはゴロゴロいるに違いない。
今の自分はおそらく下から数えた方が早いだろう。

「あれだけ言っておいて、何も抵抗できずにやられました、は情けないですからね。」

殴りかかってくる相手に対して、牽制するように脛を狙って横薙ぎのスイング。

不格好になりながらも一閃。
無理やり力で引き戻して、更に一閃。
それを更に引き戻して、もう一閃。

顔も首も腹も狙わない。
修道女は執拗に脛を狙い澄まして。 牽制ではない、この攻撃そのものがもう既に本命。

「………っふ、っ!!」

後は踏み込みの距離を一気に変えるだけ。
一人の脛を横薙ぎに殴れば、足がはっきりと折れ曲がり、崩れ落ちる。

ご案内:「演習施設」に日下 葵さんが現れました。
日下 葵 > サンドバッグを使ったトレーニングを終えて、
飲み物を飲みながらスペースを移すと、そこには修道服で模擬戦闘をする女性がいた。

『あの格好で動くのか』

と、最初は見物するつもりで場外から眺めていたが、
次第にその動きに興味がわいてくる。

服装や見てくれからは想像もつかないほどに力強い。
そしてどういうわけかエネミーの脛ばかりを執拗に攻めるそのスタイルが、
私の目にはとても不思議に映った。

「よく、その格好でうごけますね」

思わず、彼女のトレーニングが終わるのを待って声をかけてしまうくらいには、
興味があった>

マルレーネ > 今度は振り向きざま、その棍を槍のように目の前に迫ってきた相手にぶん投げ。
ついでに迫ってきたもう一人には、飛び掛かるようにして相手の喉を両手で掴んでいく。

スマートさの欠片もない戦い方。修道服の女が全力で頸動脈を絞めて相手を落としていく。

そのまま、ぐ、っと持ち上げて。
ガンッ、と落とす。
ぐ、っと持ち上げて。
ガンッ、と落とす。

後頭部を散々に打ち付けて相手を無力化すれば、ふー、ふー、っと吐息をついて………。


「…………あ。」
「み、見てました? ……不格好なところ見られちゃいましたね。」

声をかけられれば頬を赤くして、てへへ、と舌を出して自分の頬を抑えるシスター。

「………これは、まあ、元からこの仕事をしてるんで、戦うとしたらこの格好じゃないですか。
 実戦を見据えるなら、この格好で動けるようになっておきたいので。」

微笑みながら語る言葉は、実戦を念頭に置いたもの。

日下 葵 > 何か自分なりのルールがあるのだろうか。不殺の掟とか。
なんて思っていると、今度はエネミーの首を掴んで締め落とす様を見てやや驚く。

「いや、まぁ。”ワイルドな”戦い方をするなぁと思いまして
 なるほど、仕事着ですか。――――仕事着?」

思わず聞き返してしまった。
え、だってその格好はシスターじゃないか。なんて顔。

「最近の宗教界隈は宗教戦争でもするんです……?」

なんて失礼極まりないことを問うと、
さすがにそんなわけはなかろうなんて思って。

「まぁ、普段の格好で動けるようにしておくのは重要だとは思いますが……」>

マルレーネ > 「いや仕事着ですよ。」

相手の言葉に、思わずツッコミを一つ入れて。

「……こほん。
 申し遅れました、最近こちらの世界にやってきた………いわゆる異邦人というカテゴリの、マルレーネ、と申します。
 実際、争いが絶えない世界だったので、これくらいはこう………普通でして。」

てへ、と少しだけ笑って見せつつ、棍を拾い上げて。

「………今、落第街と呼ばれる場所で支援活動を行っています。
 己の身も守れないようでは、逆に迷惑をかけてしまいますからね。」

戦う可能性、身を守るべき必要性を、簡潔に説明して。
目を細めて笑った。

日下 葵 > 「はぁ、仕事着……」

何回仕事着と言うつもりだ。

「あー、なるほど。どおりで」

身のこなしの理由を聞いて納得した。
今でこそ常世、もといこの世界は表立って世界を巻き込む戦争とか、
そういうのはないものの、異邦となれば話は別だ。
情勢が不安定な世界からくる異邦人も少なくない。

「落第街で支援活動ですか。
 こちらの世界でもシスターとしての性は健在なんですね」

褒めたつもりで言ったが、彼女はどうとらえるだろう。
そういう支援の必要ない世界が理想だろうが、
この島(常世)もなかなかそうはいかない。

「練習の邪魔をしてしまいましたね。
 もしよければそうですね、手合わせでもいかがですか?
 私は特別強力な異能とかはないので、相手として足りるかわかりませんが」

そう言って、練習相手の打診をしてみよう>

マルレーネ > 「あはは、そうですね。
 いやー、強制的に10年以上やっていると、無ければ無いで身体がどうにも。」

あっはっは、と笑い話に変えてしまう。
治安が悪いということなのだから重い話になるはずが、明るく笑いとばして。

「いえいえ、邪魔だなんて。
 いいんですか? ………それでは、よろしくお願いします。

 もしよろしければ、終わった後でもよいので、お名前などを伺っても?

 ルールは、どのように致します?」

棍を手に、首を傾げる。

日下 葵 > 「すみません、自己紹介が遅れました。
 風紀委員の日下葵と言います。”あおい”と書いて”まもる”と読みます」

落第街の巡回もよくやっているので、以後お見知りおきを。
なんて付け加えて自己紹介。
彼女の様子を見ると、特別何か重く受け止めているとかではなさそうで安心した。

「ルールはそうですね、得物を使うかどうかに依りますが、
 首より上への打撃なし、四肢以外への打撃は寸止め、でどうでしょう?」

こちらとしてはルールなんてなくてもいいのだが、
相手がそうもいかない。
彼女の能力が分からないから何とも言えないが、
普通に人間同士の徒手格闘ルールでいいのではないだろうか。>

マルレーネ > 「よろしくお願いしますね。
 私、あんまり戦うことは好きではないんですけれど。
 それでも、お相手頂けるだけでも嬉しいので、全力で頑張ります。」

軽くお辞儀をしながら相手の言葉を聞いて、なるほど、と。

「……分かりました。
 では、よろしくお願いします。」

相手の言葉に、ゆっくりと頷いて。

「開始の合図はお任せしますね。
 それでは………」

そ、っと静かに構える。
また、先ほどの明るかった表情から、瞳の温度がぐ、っと下がる。

はじめ、と言ったその瞬間。
おそらく、その3文字が終わる前に、棍が思い切り脛を狙って振り下ろされるだろうか。

卑怯という言葉を知らない修道女の奇襲。

日下 葵 > 「まぁ、好きな人は中々いないでしょうね」

そう、なかなかいない。
今日はたまたま、ここにいた。

「ではでは、お手柔らかに。
 構えて―――はじめッ」

お互いに向かい合って挨拶をすると、開始の挨拶をする。
向かい合った彼女の瞳が、ぐっと冷たくなるのを見れば、
思わず笑みが浮かんだ。

そして合図が終わる寸前に棍が振り下ろされると、
それをかわすように大きくジャンプ。

やはり初手は脛を狙ってきた。
のぞき見して技を予想するのはやや卑怯だが、
実戦に非今日もくそもあったものではない。

まるでバレエでも踊っているのかと思わせるほどの高さまで跳ねれば、
空中で身体をひねって蹴りを棍に放つ。
まずは武装の解除、続いて制圧。
その基本に則ってまずは棍に狙いを定めていく>

マルレーネ > 「………んぐ、っ!」

蹴りを放てば、その棍はまるで地面に根が生えているかのような、がっちりとした硬い感覚。
身体を強化してガッチリと握れば、蹴りを受け止めて尚、その棍を保持して。
蹴りの威力を、丸ごとその体で受け止める。

「………せいっ!」

くるり、と棍を回転させて足首を絡めとり、そのまま地面へと叩きつけんと振り下ろす。

身体を強化していることも。
棍を強化していることも、これで知れるか。 棍のしなりがほとんどない。
まるで、鋼鉄か何かのようだ。

先ほども脛をへし折っていたのも、それが理由か。

日下 葵 > 「堅ッ!」

棍の硬さもさることながら、それを保持する彼女の力も並み大抵ではない。
――どうして最近の私の相手は鋼鉄みたいに硬い人種が多いんだろう。
そんな心境を心の中で吐露しているうちに、足を持っていかれてしまった。
半ばたたきつけられるように地面に伏すが、さすがに風紀委員。
受け身だけはきれいに取る。

無理に立ち上がることはせず、棍に絡まった足をそのままに、
絡まっていない足で棍を持つ彼女の手首に蹴りを入れる。
最初の内は本気で蹴っていいものか悩んだが、そんな心配はもう必要あるまい。
なんせ蹴られた棍を支えるほどに彼女の身体が丈夫なのだから>

マルレーネ > 「あっつ、っ!?」

手首、身体は強化されていても頑丈というわけではないのか、顔をゆがめて蹴りが入ったところから片手を放し。
ああ、棍を警戒しているんだな。
それが分かれば、残った片手でその棍を相手に向かって投げるように手から離し。

「お貸しします。」

一言を付け加えて。
そのまま、倒れた相手に飛び掛かるようにつかみかかる。
ただつかみかかるだけならまだしも、長い棍を叩きつけるように手を放してからの飛び掛かり。
流石に殴りこそしないものの、上腕を振り下ろして相手の顔と首の間に挟み込もうとするラフファイト。

日下 葵 > 「武器は間に合ってますよッ!」

ようやく棍が持ち主の手から離れた。
しかし次の瞬間にはその棍がこちらに投げつけられて、
応用に彼女がとびかかってきた。

「いいですねえッ!
 寝技も好きですよ!」

掴みかかってくる彼女と自分の身体の間に、足膝を立てるようにして距離を保つ。
そしてもう片方の足で彼女の横っ腹をとらえると、
振り下ろされる上腕を両腕で捌いて、そのまま抱きかかえるように腕を回そうとする。
もし腕が彼女の上半身をとらえたなら、
今度はお互いの間に入れていた膝を抜いて絞め技に持っていこうとするだろう>

マルレーネ > 「……っ!」

がつり、っと膝が間に入れば顔をゆがめて、抱きかかえてくる相手を見下ろす。
そのまま相手の腕の下、腋を掴むように手を伸ばして。
何かにはっ、と気が付いたように一瞬動きが止まり。

「……っと、っ、ぁぅ、っ!?」

彼女の動きには術理が無い。
殺意と、相手の意表を突く動きと、ハッタリ。
それが彼女の戦闘の大半であり、気迫で飲み込めなければ、そのまま思い切り締めあげられ。

「………っつ、ぐ、っ………!!」

じゃり、っと音がする。
修道服の下にあるチェインメイルのせいだろうか、身体がずっしりと重く。
呼吸をはっきり奪っているのに、まだ抵抗しようと暴れ。

日下 葵 > とびかかってくる彼女を、片膝で受け止めようとしたとき、
膝にかかる重量に一瞬驚きの表情を隠せなかった。

それでも何とか彼女の身体を腕がとらえると、
彼女の身体と自分の身体を入れ替えるようにして、
覆いかぶさって彼女を組み敷こうとする。
しかし彼女の腕がこちらの脇をとらえているため、身体を圧迫しきれない。
そう判断すれば自分の腹を彼女の顔に押し付けるように自身の身体を押し上げて、
逆に彼女の脇を太ももでとらえようとする。

修道服越しにジャラジャラとなるチェインメイルに加えて、
人一人が胸の上に載れば相当に苦しいはずだ>

マルレーネ > 「ん、ぐ、ぅ、っ………!!」

脚で挟まれ、全体重をかけられれば肺から息が全て押し出され、表情がゆがむ。
呼吸ができないまま、何度ももがく仕草を見せれば。

今度は、相手の胴に腕が絡みついて、ぎゅ、っとお腹を思い切り圧迫しようとする。
いわゆるベアハッグ、もしくはさばおりという体勢だ。

こちらは呼吸もままならない状態であれば、殴打の一発でもくれれば簡単に腕は解けるだろうが。
全力で、ある意味熱烈過ぎる抱擁が襲い掛かってくる。

日下 葵 > 「ふッ……!?
 いいですねえ……!我慢比べも好きですよッ」

このまま絞め堕とすところまで持ち込もうとしたとき、
今度は彼女の腕が絡みついて、肋骨が圧迫される。
ギリギリときしむ音が聞こえて来そうなほどの締め上げは、
本当に彼女の腕から発せられる力なのか疑うほどだ。

このまま殴打すればこの腕も解かれるだろうが、
今に限って言えば顔と胴体への打撃は禁止というルールだ。
ならば、このまま二人のどちらが先に根を上げるかの我慢比べに持ち込もうではないかと、
自分の脚の締め上げと、彼女の抱擁の勝負にでる>

マルレーネ > お互いの身体から、みしり、みし、っと音が漏れる。
こうなれば、お互いの身体の頑丈さ、精神力が勝負を分ける。
少しでも自分が不利だと考えてしまえば、一気に押し込まれてしまう。

そして、「先に技をかけられた」という事実はそれには十分だった。

「……っ、か、……っ」

ギブアップはしない。
しないまま、抱き着いた腕から力が、す、っと抜ける。
訓練だと言っているのに、失神するまで絞め続けて。
失神しても、腕を外さない。

闘争心というよりは、職業軍人かのような、噛みついたら離さない女。
腕を回したままタップもしないから、気が付かないかもしれないが。

日下 葵 > 恐らく時間にすれば十数秒、それくらいの時間だろう。
我ながら嫌な特技だが、自分の身体の限界を嫌と言うほど知っている。

『あっ、これはそろそろ肋骨が折れる』と悟った瞬間、
脚の力を緩めようかと思ったが、その必要はなかった。

すぅっと胴に回された彼女の腕の力が抜けたのを感じると、
すぐに脚の力を緩める。
しかし彼女の腕は身体にまとわりついたままで、離す気配も、緩まる気配もない。

「マルレーネさん、
 マルレーネさん!」

彼女が落ちたのには、すぐに気が付いた。
脚の力を緩めて、すぐに彼女の身体を揺らす。
落ちて間もないので、動脈さえ緩めばすぐに気が付くはずであるが――>

マルレーネ > 「…………ぁ、っ……」

気が付けば。 自分に置かれた状況を理解するのは流石に早い。

「………ふふ、負けちゃいました。」

青い顔で、苦笑を一つ浮かべるシスター。
さっきまでの殺気はどこへやら、弱々しく、えへへ、と笑って見せて。

日下 葵 > 「大丈夫ですか?」

気が付いて、状況を飲みこんな彼女。
大変ににこやかな彼女だが、
さっきまでの絞め技の応酬を体験した身としては何とも複雑な気持ちである。

「いやー、あまり勝った気がしないんですが…」

絞め技で肋骨を折られる寸前だったのだ。
このシスター、ただものじゃない。

「マルレーネさんてほんとにシスターなんです?
 その……殺気に慈悲がなかったというか」

何だろう、彼女が本気になったらその辺の二級学生のチンピラより怖いかもしれない>

マルレーネ > 「……いいえ、割とこう、驚かせることが多いんですけど。
 やっぱり正規兵……じゃなかった、訓練を受けている方は強いですね。

 ああ……旅、してたんです。 ずっと。
 ですから、こういうのも慣れっこ、でして。」

とはいえ、目を閉じて、ふう、っと吐息が漏れる。
本当に、と聞かれてしまえば、少しだけ言葉に悩む。


「…そのつもりではいるんですけどね。」

荒事の方が得意では、大きな口も叩けない。
少しばかり視線を逸らして、そうとだけ口にした。

日下 葵 > 「あはは、まぁ……訓練を受けるくらいしか私には出来ませんから」

これは事実である。
私の場合、強くなろうとすれば訓練するしかない。
他人よりオーバーワークできることくらいしか戦闘において有利なことがない。

「旅ですか。
 そうですねえ、この島は旅をするには少し狭いですから、
 一つの場所を守るくらいでいいのかもしれません」

彼女の、言葉を選ぶような表情にこちらも少し言葉に詰まる。
彼女だって、慣れたくて荒事に慣れたわけではあるまい。
慣れざるを得なかったのだろう。
そんな推測をした。

「いやぁ私、頑張っちゃいますよ。
 ええ。さすがに落第街全部を見て回るのは難しいですが、
 マルレーネさんの周辺を巡回するくらいならもう!
 『巡回してる風紀委員よりそこにいるシスターの方が強い』
 なんて言われちゃったら情けないですからねえ」

自衛のためとは言え、彼女がこれ以上強くなる必要はないだろう。
いや、風紀委員としてそんなことはあってはならない。
命のクーポン券を使うなら、
命が安売りされている落第街で使うのがいいだろう>

マルレーネ > 「………あはは、そうですね。
 大丈夫ですよ。 昔からこれしかしていなかったんで。」

微笑む。
きっと風紀の人々は、戦うことを良しとはしないのだろう。
相手の言動からそれは察して、何も言わない。

けれども、彼女もまた荒事しか知らない人間であれば。

荒事を否定されれば、少しだけ困ったように笑うだけ。
本音を出すわけもない。

ああ、昔から訓練は苦手だ。 だって最期まで持っていけないんだから。


「なあに。
 この服着てると、皆さん油断するんですよね。」

なんて、てへ、と舌を出して笑って見せて、立ち上がる。
ひょこっと立ち上がれば、首をこきりと鳴らして。

日下 葵 > 「昔は昔、これからはこれからです。
 とはいえ、これからを考えて、これまでと変わらないこともあるかもしれませんが」

私はここに来る前の彼女を知らない。
どんな世界にいたのかも、どう生きてきたのかも。
もちろん、彼女が前の世界から持っている考えは尊重されるべきだろう。
それでも、風紀委員の仕事は人を守ることに変わりはない。

いつでも彼女や、その周りを守れるわけではないから、
彼女が自分で訓練したり、
荒事に巻き込まれても対応できるようにしておくに越したことはない。
それでも、彼女が一度でもその拳をふるうことが少なくなれば、
そのほうがいいだろうと思う。

彼女の手は人を殴るために拳を握るよりも、人に差し出される手であってほしい。

「それは正直私も油断しました。
 マルレーネさん、多分その下にチェインメイル仕込んでますよね?」

そこまで行くともはや私の知るシスターではない。
首をこきこき鳴らす彼女を見ては、思わず苦笑いする>

マルレーネ > 「………そう、ですね。」

彼女の言葉は正しいのだろう。きっと。
今の彼女には、そうとしか思えなかった。プラスの意味でも、マイナスの意味でも。

曖昧に笑って、目を伏せる。

異邦人であることを、ここまで自覚させられるのは久々だった。


「……え、何のことでしょう?
 ほら、純粋なシスターですし、祈ることくらいしかできませんし、ちょっとわかんないですねー?」

鼻歌交じりでくるりと回って、にへ、と舌を出してウィンク一つ。
今日はありがとうございました、と頭を下げる。

日下 葵 > 「……私には巡回くらいしか手伝えることができませんから。
 もし、困った人を見つけたらシスターの所を紹介させていただきます」

もし巡回中に二級学生がこまっているのを見つけても、
登録されていない学生をすぐに助けるのは難しい。
そんな時に、シスターの支援所は役に立つだろう。
荒くれた世界を知っているシスターにしかできないことだと思う。

もし、余計なお世話だったとしても、風紀委員として給料をもらっている以上は、
意地でも巡回してやる、なんて内心思っていたりもして。


「おやおや、それはそれは失礼しました。
 ではシスターの祈りが邪魔されないように、
 給料分は巡回させていただくことにしましょう」

ちょっと意地悪を言うように返事をすれば、
鼻歌交じりのシスターを演習場から見送る。



数日後に、支援所の周りをやたら巡回する風紀委員が目撃されて、
支援所の人間が不安がってしまうなんてことが起きたり起きなかったりするが、
それはまた別のお話>

ご案内:「演習施設」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「演習施設」から日下 葵さんが去りました。