2020/09/07 のログ
■神代理央 >
放たれた砲弾は、跳躍した彼を捕らえる事無く大地を抉り、爆風を巻き上げる。
立ち込める砲煙の中、異形に前方に迫る少年に対して――
「…良い動きだ。それに、速さもある」
少年を迎え撃つ大楯の異形は、その巨大な二つの盾で彼の一閃を受け止めようと前方に掲げる。
受け止める速度は間に合っている。しかし、それを受け止めきれるのか。その巨大な盾ごと両断されるのか。全ては、少年の技量次第、だが――
更に、両脇の異形達も動き出す。
背中に生えた砲身は不愉快な金属音と共に動き出し、大楯の異形諸共、少年に照準を合わせ始めて――
■レオ > 盾で斬撃を防がれる。盾に一閃で生じた数センチ程の傷が一直線に作られる。
その大盾を切り裂く程の威力は、ない。
「(硬度は鋼かそれ以上か…この剣の一撃で斬れるものじゃ、ない)」
のも、織り込み済み。
照準を合わせるのを肌で感じつつ、こちらも次の動きに入る。
『役目を果たした』とばかりに剣を天井へと投げるのと…
――――タンッ
斬りつけてできた傷に靴の先をひっかけ、そのまままるでとび職のように軽々と登り、跳躍する。
機械兵の頭上を、瞬く間にとるだろう。
人、いや生物の視界は、縦方向の移動は横方向の移動に比べて圧倒的に鈍い。
この機械たちに同じ原理が通用するのであれば……
機械が反応する前に、落下してくる剣の柄を、タイミングよく踵落としの要領で叩き込む。
叩き下ろされた剣は、一本の鋭い杭のように、大盾の機械兵の、頭部に真っ直ぐ突き刺さるだろう…
「屍鴉の型―――『啄み』」
■神代理央 >
大楯は、切り裂かれなかった。
其の侭大楯を押し出して、少年を地面に押し付けようとした異形の動きは――盾を足場にして飛び上がった少年によって、あっさりと失敗する事に成る。
大楯の異形は機械式の複眼を持つ故に、少年の動きを捉えることは出来ていた。元々防御に特化した異形。視界の広さ。脚の速さ。盾の頑丈さ。これらにおいては、決して劣る事は無いだろう。
しかし捉えられているからといって、対応出来るとも限らない。
大楯の異形が行動するよりも早く、少年が動く。ただそれだけの、事。
杭の様に突き刺さった剣によって、大楯の異形は見事、その活動を停止させる。
しかし、少年に向けられている『敵意』は、それだけではない。
「……放て」
短く告げた言葉と共に。砲身の照準を大楯の異形に合わせた多脚の異形達は、轟音と共に砲弾を放つ。
大気が揺れる様な砲声と共に、質量と爆発力を持った無数の砲弾が少年へと襲い掛かる。
■レオ > 崩れ落ちる大盾の機械兵から剣を引き抜きながらすぐに降り、動かなくなった機械兵の体を壁にして砲弾を凌ぐ。
大盾、防御力に秀でた兵士。それが自分の兵隊の武器で一瞬で粉砕されるような事はないだろうという想定した動き
1,2秒の時間があればいい。それだけあれば次の動きに移せる。
「(あとは2体。多脚の砲兵……兵装の多彩さを見るに、大分重量が重い。
車輪の盾兵の方が多分、動くのは速い筈)」
綺麗に頭上から貫かれた盾兵を、先ほど加速したのと同じ要領で脚力を爆発的に引き上げて片側の砲兵に蹴り飛ばす。
車輪の破壊されていない盾兵は、その車輪を回転させながら重量に反して真っ直ぐ、素早く砲兵に突撃していく筈だろう。
その巨体は、片側の砲兵の視界、斜線を遮る筈だ。
その隙に、もう一方の砲兵の方に駆けた―――
■神代理央 >
少年の思惑は見事に的中。
大楯の異形だったモノは、砲弾を見事に防ぎきる。
あちらこちらが破損しながらも、大凡の形を保った儘少年の盾となるだろうか。
其の侭蹴飛ばされた大楯の異形の残骸。
残骸の迎撃態勢に入った異形は、結果的に少年から照準を外す事に成る。
しかし、少年が駆ける方の異形はそうではない。真正面に向けた砲身からは、絶え間なく砲弾が吐き出され続ける。
爆炎と轟音。放たれた砲弾と熱波が、少年に襲い掛かる――
■レオ > 無数の砲弾、熱。
当たれば死ぬ鉛の塊たち。
だが放たれる方向は1方向。
弾速は速い。見切るのは至難。
だが銃弾の発射は発射されるまでの照準でほぼほぼすべての命中が決まると言っていい。
『狩足』での加速で、一体分の照準なら振り払える。
そうすれば後は死角から切り伏せれば、この一体は倒せる。
…ただ、ここで時間どれば盾兵の迎撃を終えた砲兵が、こちらを撃ち抜く。
故に―――
■レオ > 狩足の加速で背後を取り
目の前の砲兵と、盾兵の対処を行っている砲兵両方が入るように位置取りをする……
そして
右手の指で、剣の切っ先をつまむ。
まるで弓の弦を引くような構え。
限界まで、剣に「溜め」を作る。
狙いは一撃二殺。
目の前と、そして遠方の兵をもろとも断つ。
当然、見ている側には、その剣の斬撃が遠方の砲兵に届くとは、全く思えない。
■神代理央 >
「………ほう?」
観戦席の様なベンチから"観測"しながら異形に指示を出していた己は、少年の構えに僅かに瞳を細める。
何をするのかは分からない。しかし、この状況では同時に二体の異形を処理しなければ、その身に危険が及ぶ事になる。
だからきっと、何かをするつもりなのだろう。しかし、それが何なのかは分からない。
――だから、それを見てみたい。
残骸を押しのけた異形が、砲身を高く掲げる。
それは、少年が背後に回った異形を通り抜けて少年を撃とうと曲射する為の角度。
しかし、砲身を動かしているその一瞬。その一瞬は、全ての攻撃から少年が解放された――
■レオ > ―――魔力を、剣先に集中させる。
魔力探知力の低いものですら感じるほどに、異質の魔力を大きく纏わせる。
之は孤眼流の中でも、複数の敵と戦う為生み出された型。
使うには、デコピンの原理で『溜め』を作るための、常人ならざる左右の腕の筋力と、つまむ指の握力。
解放させる事によって生まれる加速は常軌を逸し、本来物理法則に作用されない魔力を『遠心力で吹き飛ばさせる』。
それを維持する為の、強靭に練られた魔力でそれを『引き留める』。
剣に魔力を纏わせ、それを剣速で鞭のようにしならせ、伸ばす業。
剣の射程を数倍、数十倍に引き延ばす剣技。
■レオ > 「―――――――鉈蛇の型
『大蛇薙ぎ』」
■レオ > 右手の指から切っ先が解放された瞬間、剣が、音よりも速く縦に振り降ろされる。
それと共に、魔力の斬撃がまるで『大蛇の尾のよう』に、叩き落ちる。
数m、十数mにまで伸びたその斬撃は――――
そのまま二体の砲兵を、縦に切り裂く。
■神代理央 >
「――そこまでだ」
■神代理央 >
異形達が真っ二つに切り裂かれ、ずしん、と大地に倒れ伏す。
それと同時に響き渡る、観戦官たる少年の声。
「制限時間内に見事異形を捌き切ったな。戦闘テストは此れにて終了だ。……見事だった」
ぱちぱち、と拍手しながら少年に近付く。
にこやかな笑顔を浮かべながら、言葉を続けていく。
「見事な剣技。見事な体術。風紀委員として、君は多くの人を救い、多くの悪を切り裂く事が出来るだろう」
「そして、我々風紀委員は…特に、落第街やスラムと呼ばれる危険地帯へ赴く委員は、常に戦力不足だ。それ故に、君の様な優秀な人材は、心から歓迎する」
「テスト結果については、私から上層部に報告しておくが…先に言っておこう。テストは合格。危険地帯への警邏は手当も増えるし、委員会活動は単位にもなる」
「私も含めて、多くの委員が君をサポートしよう。直ぐに現場に出られる様に、鍛え上げるとも」
つらつらと言葉を並べる。
それは、平穏を望む少年にはどの様に聞こえるだろうか――
「おめでとう。そして、此れからも宜しくな、レオ」
ふわり、と。少女めいた穏やかな笑みと共に。
握手を求めて、彼に手を差し出した。
■レオ > それらの剣は、普通とは遥か遠方に存在する、風紀でも十分通用する「超常の剣技」に他ならないだろう。
それを終えればさっきまでの異常なまでに戦闘慣れした、ある種冷静を通り越して冷酷に片足踏み込んだような立ち回りからうって変わり。
軽く息をつきながら終わりを確認した。
「…っと、こんな感じでよかったでs…え?」
そして神代の方を見て確認をとろうとして……言葉を止める。
え?
危険地帯?
そういえば、目立たないようにするのを忘れてた。
「あ‥‥…」
完全に、戦力として目をかけられたことを悟った。悟ってしまった。
平穏を求めた彼は
神代のその屈託ない笑顔と握手に応じながら……
「…は、ははは……」
顔面は、引きつっていた。
ご案内:「訓練施設」からレオさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にレオさんが現れました。
■神代理央 >
戦闘中の少年の姿と、終えた後の少年の態度は、とても同じ者とは思えない程。そんな姿にもにこにこと笑みを浮かべつつ。
「おや、顔色が悪いな。テストで疲れたかな?今日はもうこれ以上何も無いから、ゆっくり休むと良い。何、これからどんどん忙しくなる」
「疲れを残すのも良く無いし、体調管理も仕事の内だ。
余り無理はしない様にして欲しいな」
交わした握手を解いて。笑顔と共に"同僚"を労う。
そして、その笑みの儘、少年に近付いて肩をぽんぽん、と叩いた後――
「……楽が出来る、とは思わぬ事だ。多くの死と、多くの敵意に向き合う覚悟も、或る程度は決めておきたまえ。
ようこそ、風紀委員会へ。心から、歓迎するよ」
静かに少年の耳元で囁いて笑うと、其の侭歩みを進めて離れていき――
「ではな、レオ。先程も言ったが、ゆっくり休めよ。疲れを残しては、授業にも集中出来なくなるからな?」
と、ひらひらと手を振りながら。立ち去っていくのだろう。
■レオ > 「は、ははは…がんばります……」
体の方より心労のが嵩みそうだ、と心の中でぼやきながら。
神代が去った後、一人残った訓練室で……
静かに肩を落とした。がくん
ご案内:「訓練施設」からレオさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に日月 輝さんが現れました。
■日月 輝 > 午後。
訓練施設と言うよりもスポーツジムやトレーニングルームと言った言葉が似合いそうな所。
様々な最新機材が並ぶ場所は平時であれば人が多いに違いなく、けれども今はそうでもない。
「……何処行っちゃったんだか」
あたしの呟きに返る声は無く、貸切状態の室内。
苛立たし気に壁を蹴ったところで咎める誰かは居ない。
……結局、何が出来るかも解らないから、身体を動かそうとこんな所に居る。
でも、いざって時に動けないようじゃあ困るのだから、間違いじゃない筈。
「杞憂で終わるといいんだけど……ねえ」
杞憂では終わらない気がするのも間違いじゃあない筈。
夜更けに修道院を見に行った時も、マリーは戻ってはいなかった。
■日月 輝 > 「……そういえば戸締りしてこなかったような気が……いや、どうだったかな」
一つの事に囚われて日頃の事を忘れる。そも、修道院の鍵の在処など知る由も無いのだから
「いえいえ、何を言っているのよ。あたしが出来る訳無いじゃない」
呆けた老人のような物言いに、後から頭を振る事にだってなる。
誰が見ている訳でもないけれど、大仰に肩だって竦めるわ。
「マリーが居ないんじゃ居座る人も居ないだろうし、今は当人の所在よね」
呟きながらぽちぽちと機械を操作して距離を設定。3km.5km.7kmと並ぶ中から5kmをチョイス。
実際そんなに走るのか?と言うと飽きたら適当に止めるので問題は無い。
携帯端末からお気に入りのBGMを再生し、いざいざと走り始める。
勿論、異能込みで。
「よし、と」
あたしの異能、重力驚動と呼ばれる質量操作は行使に身体の熱量を使う。
理屈は不明、原理は未解明。けれども異能というものは、そうであるから、そうである。と思うからそれはいい。
別に困っている訳ではないし、むしろあたしのような乙女には好都合ってもの。
こうして最初の一歩を体重を軽くして跳び、適度に重くして着地。
傍目には不自然に大きな歩幅であるような走法は、体力をそこまで使わずに効率的に移動距離が取れる。
だから、今ではただ走るよりも此方の方に慣れてしまった。
ご案内:「訓練施設」に日下 葵さんが現れました。
■日下 葵 > 午前の仕事を終えて、訓練施設。
いつものように筋トレやら訓練をしようと、着替えてやって来た。
今日はいつもより空いていて、どこを使ってもよさそうだなぁなんて思っていると
「あれは……日月さんでしたか」
以前バーベキューで見かけた人物が目に入った。
その体躯からは想像もつかないような歩幅で走る彼女を見て、
声をかけようかかけまいか少し悩む。
邪魔をしてもいけないかな、と思って、
ランニングマシン1台を開けて自分も走り始めた。
適当に走りづつけて、彼女が走り終えたタイミングで走るのをやめる。
「日月さーん?」
こちらは彼女の心の内など知らず
まるで友人に声をかけるかのように気さくに声をかける。
果たしてどんな顔をされるだろう>
■日月 輝 > 単純な運動と単純な音楽は単純な思考を呼ぶ。
マリーが戻らないなら、戻らない理由がある筈で、
けれどもマリーが信仰を捨てることはやっぱりどうも、考えずらい。
現場の状況からして、神名火さんとの会話からして、誰かに拐かされたのが自然よね。
よし、思考の再整理完了。
「……まったくもう、心配ばっかりかけちゃってさ」
年上のマリーをまるきり年下を案ずるように想う。
でも、彼女は異邦人で、この世界1年生であるのだから
この世界16年生のあたしが気を配るのも無理からぬこと。
むしろ当然、必然であるからこの感情は間違ってはいない。
設定された距離よりも早く機械を止め、誰もいないのだからと目隠しを取って汗を拭こうとして
「──と、日下さん。びっくりした……いつのまに、じゃなくて……ええと、こんにちは。
BBQの時以来、ですね」
そこで漸く、傍に誰かが訪っている事に気付いて、アイマスクを取らずに曖昧に笑った。
目隠し越しの視線が日下さんのことを不躾に眺め、暫しの沈黙。
運動に慣れ親しんだ人の体型をしている。こうした場所を利用するのだから、体育会系の人なのかと思った。
「此処、良く使われるんですか?」
あの時はわちゃわちゃとしていてあまり話せなかった一人でもあって、言葉は自然と訊ねるように。
■日下 葵 > 「やっと気づいてもらえました。
っとすみません、驚かせてしまったようで」
邪魔するのもあれかなぁと思って一つ開けて隣で走っていました。
こちらを見て驚いた彼女にそんな説明をする。
「そうですねえ、バーベキュー依頼ですね。
まさかここでお会いするなんて思いませんでした。
ええ、曲がりなりにも風紀委員ですから、休みの日とかはここで訓練をしてます。
日月さんはよく使うんですか?ここ」
それとも気分転換とか?
そんな問いを投げかけたのは、彼女が走るのをやめる際に呟いた
『心配ばかりかけちゃってさ』
という言葉を耳にしたからである。
半ば盗み聞きの様になってしまったが、何となく気になって質問してしまった。
「意外といろんな人が来るんですよ。
同じ風紀委員の同僚とか。
それこそバーベキューにいた人だとドラゴニックなんとかの龍さんとか
――マルレーネさんでしたっけ、彼女とか」
そう言って、隣の格闘訓練用のリングを見やる。
思えば結構いろんな人と手合わせをしているなぁと>
■日月 輝 > 「いえ、大丈夫。ちょっと考え事をしていたものだから
でも人が悪いわ?普通に声をかけてくださっても良かったのに」
邪魔をするのも、と言う日下さんに曖昧に唇が笑む。
けれども彼女が風紀委員と言うならば、その笑みも消える。
二人ぼっちのトレーニングルームに環境音めいた音楽だけが流れる静謐が、少し。
「えっと……時折?乙女には運動も大事で……気分転換も、まあ
ってそうなんです?ラオは、まあ来そうだけど──」
それから言葉が流れ始めて、マリーの名前を聞いてまた止まる。
目隠しの裏の視線が、日下さんの視線を追った。
そこにマリーの姿は無い。格闘戦の練習に使うようなリングが設えてあるばかり。
「マリーもああいうリングで?」
問いは言外に、貴方と戦った事が?と問うもの。
一歩、日下さんに近づいて腰を曲げて、下から見上げるようにして訊ねる。
■日下 葵 > 「まぁ、ちょっと驚かせてやろう、って気持ちもありましたけど。
それにしたって自分のペースを乱されるのって嫌じゃあないですか」
困ったように、とでもいうのだろうか。
そんな曖昧な笑みを浮かべる彼女に対して、こちらは楽しそうにニコニコわらう。
「なるほど?
確かに乙女にも運動は必要ですよね。
私の場合乙女じゃなくても運動しないといけないんですけど」
およそ騒がしいとは言えない、ちょっとしたBGMがかかるだけの広い空間。
そこで談笑をしていると、こちらの言葉に彼女の――目隠し越しの視線が動く。
「ええ、マリーさんを見かけた……というか、
手合わせをしてもらったことが一度だけ。
あの人、見かけによらずとても強いんですよねえ。
私も危うく降参してしまうところでした」
リングから私の方へ、視線が移る。
普段からマルレーネさんがああいうリングで戦いの訓練をしているかはわからないが、
少なくとも、私が過去に出会ったときはあのリングの上で手合わせをした。
「また手合わせをお願いしたいものですねえ。
彼女の支援施設とやらにも一度挨拶に行ってみたいですし」
そう言って、彼女との手合わせを懐かしんでみせる>
■日月 輝 > 「風紀の方なのに悪い人ね。あたしが驚いて心臓でも咎めてしまったらどうするのかしら」
これ以上の心臓の負荷は堪らない。
肩を竦めて、かつての手合わせの話を聞く。
日下さんの話によると、僅差で彼女が勝ったらしいことが判った。
マリーがアグレッシブなのは知っている。
けれども、治安維持を担う風紀委員に僅差に至る格闘センスを持っているのは初耳だった。
熟練の旅人であるのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
路地裏で出会った時も
扶桑で買物をした時も
共に魚釣りをした時も
夏祭りを楽しんだ時も
まるきりそうは思わせなかったのは、改めてあの子の人柄かしらと、呆れたように嘆息する。
日下さんから見ると、何のことかと思う所かも。
「日下さんって割とヤンチャ好き?駄目よ、怪我でもしたら大変でしょうに。
それこそマリーの施術院に挨拶するのと、入院が同時になってしまうかも
それでなくとも今、あの子ちょっと留守みたいだから空振りになってしまうかもだから」
少し前まで山本さんが入院していたらしいことは聞いている。
風紀委員は、今何かと大変らしいことは噂程度で流れ聞いていて、
だから風紀委員の日下さんの、些か暢気な言葉に唇を尖らせるようにして言葉を並べた。
■日下 葵 > 「よく言われますねえ。 ”良い性格してる”って。
そうなったら私が責任もって蘇生してあげますよ」
これでも訓練は受けているので安心してください。
なんて言って胸を叩く様は、”性格の良さ”をよく表している。
そんなやり取りをしている間、彼女の様子を観察する。
「やだなぁ、私が怪我で入院なんてありえませんよ。
私が彼女の施設に行くときは本当に様子見か、
お腹を壊して運ばれるときくらいなものです。
やんちゃ好き、とは違いますが、よく荒事に巻き込まれたり、
首を突っ込んだりはしてますねえ。
そもそも部署がそこそこ荒事担当ですし」
そう言って笑っていると、気になる言葉が出てきた。
留守だから。
「おや、今マルレーネさんは施設に不在なんですか?」
それはつまり、物資を調達するために、ということだろうか。
何となく、先ほどからの彼女の不安そうな表情だったり、言葉だったり、
そういうのがいろいろと重なって良くないことを考えてしまった。
「近いうちに行こうと思っていたんですが、不在ですか。
日月さんとマルレーネさんは親しいようですが、
いつ彼女がいるかなんてのはわからないですよね?」>
■日月 輝 > "良い性格"をしてるから。そう、からりと言ってのけて胸を叩く様子は善性を感じさせた。
部署が荒事を担当していると言うのなら"誘拐事件も取り扱っているに違いない"と思わせた。
だから、口が緩む。
「あの子、マリーってしょっちゅう修道院──異邦人街に在るんだけど、其処を留守にするのよね。
携帯デバイスも持たないからいい加減持てって言ってたんだけど……と、そうじゃなくて。
ちょっと……不自然な」
不自然な様子を残して忽然と姿を消してしまったこと。
夜になっても戻らなかったこと。
落第街にある施術院の方はまだ確認してはいないこと。
そうしたことを伝え、もしかしたら誘拐でもされたのかも──なんてことは冗談めかして笑って見せることが出来た。
多分。
「──と、まあ。そんな有様だからすこうしだけ、心配なのよ、友人としてね。
争った痕跡なんてなかったから、大方何処かほっつき歩いてるだけと思いたいんだけど……」
世間話のように振る舞って、足が動いて自動販売機の前。
ペットボトルの紅茶を買って、口にして、御行儀悪く舌なめずりをする。
「……もしね。誘拐事件だったとしたなら、あたしは犯人に地獄を見せてやらないといけないから
そうした時に、動けないのは駄目だから」
もしも/Ifの話をして、苦く笑う。
■日下 葵 > 「なるほど……?」
不在なのか。
そんな問いに対して帰ってきた返答はやや予想外のものだった。
ひとしきり話を聞くと少し考えるようにして、口を開く。
「風紀委員という組織としては、事件性が確認されるか数日――
それこそ普段以上に帰ってこないか、
そういう状況でないと表立って捜査には乗り出せません。
現状、今のところそういう報告は上がっていませんし、
――あの場所はよく人がいなくなる 」
だから組織として動けるかどうかはわからない、と説明する。
この説明は、聞かされる側にとってはひどく残酷に聞こえるだろう。
「――ただ、私個人が動くくらいならできると思いますよ。
もし本当に不自然で、多くの人が彼女を案ずるなら、
もうじき報告が上がるはずです。
今の話も、私の方から市民からの相談という形で報告を上げておきましょう」
先日、報告書はちゃんと書いて読めと同僚に言われたばかり。
まさかこんなに早くその言葉が意味する状況が降ってくるとは。
内心、嬉しくない。皮肉交じりの笑みが漏れた。
「争った形跡がなくても、最悪の事態は想定しておくべきでしょう。
不自然だと思ったなら何かいつもと違うことが起きたのでしょうし。
――さすがにリンチはいけないので止めさせていただきますけど、
備えておくことは良いことだと思いますよ」
そういえば、私も水を一口飲んで、
私の報告書が無駄になればいいなぁなんて、
生まれて初めて考えた。>