2020/11/11 のログ
ご案内:「訓練施設」にラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが現れました。
ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン >  
「13時から射撃訓練場の利用申請をしていたラウラです。
 ……ありがとうございます」

昼下がりの訓練施設。
普通の生徒は大抵講義や実習で射撃訓練場は閑散としていた。
受け付けに学生証を見せて利用申請を確認してもらうと、
自分の背丈の半分以上ある大きなギターケースを担いで中に入っていく。

「一年近く島を離れていて、戻ってきて最初にやることが射撃訓練とは。
 なんだか悲しくなりますね……」

誰に言うわけじゃない、本当に独り言。
今年に入ってから、しばらく休学して本国に帰還していたのだ。
ちょっとした軍の任務をこなして島に戻ってきたのはいいモノの、
元より人見知りで知り合いの少ない立場で再開を喜ぶような相手もいなかった。

――唯一、親しくなれた彼女も、今はこの島にいるのか、
  それとも島の外にいるのか、はたまた怪異として祓われてしまったのか。
  それすらわからなかった。

そんな状況である。
この訓練はいわば憂さ晴らしのようなものだ。
それを自覚してしまうと、一層自分が哀れに思えて悲しいものだ。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン >  
(まぁ……軍人なんてやっていれば仲間が死んだりするのは珍しくないし。
 特別な人ではあったけど……あったけど)

そんなことを考えながら、ギターケースを開ける。
慣れた手つきで愛銃を組み立てていくと、
あっという間に巨大なM2が完成した。

ヘッドホン型の耳栓をして、
腰だめでも撃ちやすいように改造されたグリップを握ると、
己の手よりもだいぶごつごつしたレバーを引く。
金属の擦れる音が響いて、給弾。

――ガゥンッ!!

爆発音にも似た音が響くと、ずっと向こう、遠くに置かれた木製の的が弾けた。
続けて何発か打ち込むと、あっという間に的は粉々になって、
もともと的があったと認識することすらできない状態になった。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン >  
何か、心の中でもやもやした感情が沸き起こって、銃身が震える。
異能で固定してあるはずの銃身が震える。
それくらい動揺していると自覚して、自分が情けなくなってしまった。

それを誤魔化すように、グリップに据え付けられたスイッチを押し込んだ。
少しだけ緩慢な銃声が連続で鳴り響くと、
あっという間にベルト弾倉の弾を9ヤード分、撃ち尽くしてしまう。

(これから寒くなるけど、凍えていないかな)

そんなことを考えて、訓練場を後にしたのだった。


「今年の冬、寒いのかな」

ご案内:「訓練施設」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にレオさんが現れました。
レオ >  
「――――――」

剣を振るう。
相手の動きを見切り、捌き、相手に当たるように剣を、振るう。
相対する側も同じように、避け、武器を振るう。
幾度かの武器の接触を繰り返し、一撃が当たるか否かを続けてゆく。

「―――――」

素早く続けられるやりとりに反して、思考は静かに事を進めていく。
それが基本。
動じず、起きてる事を処理してゆく。
自分の手札から素早く最適解を選び続ける行為。

特に実力が拮抗した時ほど、その傾向は強まり……
目の前の相手とは二度剣を交え、事模擬戦においては同程度の実力だという認識が互いにあった。
だからこそまるで示し合わせたかのような斬り合いが、起きる筈だった。

「―――」

起きる、筈だった。

レオ >  
その日の模擬戦は、始まりからして普段と様相が異なっていた。
ベージュ髪の青年……レオと呼ばれる方の動きが、明らかに精細を欠いていた。
有効打の寸止め……いわゆる”一本”となるものこそないものの、攻めあぐね相手方の攻撃を凌ぐばかり。
その動きもどこかぎこちなく、危うさを感じさせた。

「―――」

理由は、単純だった。
目の前の戦闘に集中できていない。
集中しようとすればするほど、頭の中にもやがかかるかのように判断力を削がれる。

一瞬の鈍り。
それで十分戦闘を不利な方向へと持ってゆく。

「――――っ」

なんで。
何故。
どうして。
そんな事ばかり頭に浮かぶ。
脳裏に過るのは今の戦いの判断ではなく、ここ最近の周りの事。
そしてこの先にある漠然とした不安。

起きてしまった出来事への答えのない自問自答を、延々と繰り返していた。

歓楽街の襲撃。
落第街の調査と言う名の侵略行為。
それを主導した神代先輩。
怒りを露わにする落第街の住人。
見つからない犯人。

どうすればいい?
どうすれば僕はいい?

レオ >  
「―――――――――ッ!!!!!」

気が付けば模擬戦は、終わっていた。

結果は、レオの勝利だった。
言葉にできぬ苛立ちと不快感を吐き出すかのように、相手の武器を叩き折り、腹部を蹴り飛ばし脳天に剣を振り下ろしていた。
審判の「止め」という声が聞こえなければ、そのまま模擬戦用の武器で相手の頭をたたき割っていた。

その事に気がついたのは、動きを止めてからだった。

「……ありがとうございました」

重々しく、消え入りそうな声での礼。
立ち去る対戦相手をぼんやりと眺めながら、動く気力もないのかその場に立ち尽くしていた。

どちらが勝ったのかすら分からないほどに、レオは憔悴していた。