2021/05/02 のログ
ご案内:「演習施設」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
異能を意のままに扱うために必要なものは、なんだろうか。
天与の才能?弛まぬ努力?
この学園で教わるモノは、おおよそそういった模範解答ばかり。
文字通り千差万別の異能に、型通りの教えでどうにかなるはずもない。
一説によれば、ステージと呼ばれ段階的に異能に目覚める人たちも居るのだとか。
そういう人たちが新たなステージに目覚めるのには、ある種の試練や生死の境界を乗り越えただとか、そんな話もある……らしい。
だとするのならば、きっと私に新たな可能性が目覚めることは無いのだろう。
甘き死と苦い生など幾度となく繰り返してきたのだから。
だから、私の答えは決まっている。
異能とは、ただ反復することでのみ、成長する。
努力と言い換えてもいいかもしれなかったけれど、そんなに特別なものであってはならない。
何一つ変わりない日常と同じ線の上に、文字通りの異常な能力を纏わせること。
それだけが、かつての私の……死にものぐるいの努力の行き着く先だったから。
「……。
はあ。どうすれば、できるのかなぁ……」
誰にも迷惑がかからないよう、演習施設の、はじっこ。
休憩用なのか、見学用なのか。
カフェにでも置いてありそうなテーブルに肘をついて。
ため息を溢しながら悩む、私。
何かを探るように落とす目線の先には、掌。
さも日常の風景かのように、その掌から血液が溢れていた。
女はその光景を気にすることもなく、流れる血液がふわりと宙に浮かぶ。
異常を、日常に落とし込むこと。
それが私にできる努力だと、信じていたから。
■藤白 真夜 >
以前の、戦闘能力試験。
結局、私への評価はあんまり変わらないまま。
けれど、その挫折と失敗は、私に疑問を残していった。
意図して人を傷つけられなかった。
それは、別にいい。
むしろ当たり前のことだと思うし、良いことに入ると思う。
けれど、お陰様で試験には散々だったし、怪異と戦うことだって起こり得る祭祀局の仕事には不便極まりない。
何より、新しい問題が。
「……、こういう時だけ、言うこと効かないんですよね」
掌から溢れる血液は、私の意のままに動いた。
ふわふわと掌の上で漂って、形を変える。
真っ赤な天使の輪っかのように丸くなれば、
次は一つに固まって綺麗な球形になって、
私が意識すれば、ぺきぺきと音を立てて硬化し八角形に結晶化して。
「……っ」
今度こそ。
意識して、"戦う"ための形をイメージする。
私にとって、それは意識の外にあるものだ。考えたことすらない。
けど、私の好きな小説に出てくる人たちは、剣や魔法で戦っていた。
なら、私が思い描くべきは、剣のかたち。
それが、私にとっての"戦い"のイメージ――、
ぺきゃ。
小さく、プラスチックが割れるような音が響く。
掌の上で浮く血液だったモノは、歪んで固まっていた。
剣の形とは、到底呼べない。
歪み尖った、異形の爪のような、それ。
(……どうしてだろう。
ほかは大体うまくいくのに……。
異能くらいしか、うまくいかないんだけどなぁ)
■藤白 真夜 >
結局のところ。
私の異能の才能は、私の意思に関わらず肥大化せざるをえなかった。
研究所の期待に応えるため。
何より、私自身の価値を証明するため。
血液なんていくらでも出せるし、多少の怪我なんて意にも介さないだろう。
けれど、それ以外の技術については、気にも留めなかった。
死ななければ良いと思っていたし、事実それ以外必要はなかったし。
……何より、"価値"があることを除けば、こんな力、呪わしいと思ったことしかなかったから。
異能に向き合ったことも、少なかったはず。
こんな血なまぐさいモノを考えるより、期待や可能性に満ちた魔術のほうが好きだった。
けれど。
今の私が居るのは、この異能のおかげだった。
幾度となく嫌な眼で見られ、呪いだと蔑まれ。
私のおぞましい記憶の在処がこの異能にあるとしても。
私を救いあげ、居場所を与えてくれたのも、このチカラだ。
「……」
掌の上で醜く尖り何かを傷つけようとばかりに姿を変える血塊を見つめる。
……ああ。
そうか。
私の、"戦い"のイメージこそが、コレだったんだ。
何かを傷付けること。
それ自体を恐れ、忌避したモノの、具現化。
目前の爪は、何かに悦ぶように打ち震えるばかり。
意識の中でのみソレを振るえば、さぞ効率よく人を傷付けるのだろう。
私は静かに瞳を閉じた。
■藤白 真夜 >
私が間違えていた。
私が求めているのは、血を流す闘争でも、誰かを効率良く傷付けるための道具でもなかった。
以前読んだ小説を思い出す。
田舎に産まれた少女が、ひょんなことから闘いに巻き込まれる話。
ひたすら戦争だけを綴る話なのに、主人公である少女は一度も人を斬らなかった。
ただただ、勇ましく剣を振り上げるたけで、振り下ろさない。
それは、自らの手を汚さない浅ましさなのか。
誰かの命を奪う勇気が無かったのか。
誰も傷つけない優しさだったのか。
私には判別が付かない。
それでも、"イメージ"は出来る。
その話の中で剣は、理不尽な現実に立ち向かうための、道具だった。
「……力を貸して」
イメージをしても、未だ歪な形のまま震えるばかりの血塊に、語りかける。
「――私の中に居るのは、あなただけ。
あなたこそが、私を守る騎士で――剣!」
声に応えるように、というのは私の妄想かも、しれなかったけれど。
歪に震えるだけの血の塊が、紅く輝く。
私の中のイメージに沿って、血は形を変えて……、
一本の剣が、そこに浮かんでいた。
自分のやったことなのに、呆気に取られる、私。
「……、……ふふ」
けれど、どこか懐かしい誰かを見たかのように、笑みを浮かべる。
……きっと、私の真の友は、この力に他ならなかったから。
■藤白 真夜 >
"誰かと戦うための形"が造れることと、実際に誰かを傷付けるのは別のこと。
私にそんな意思は、かけらもなかったし、実際に人に刃を向けたら、また同じことになるだろうけれど。
怪異と渡り合うことくらいは、できるだろうし。
何より。
「……えへへ……」
自分の意のままに剣は動いた。その様に、一人にまにまとしてしまう。
それだけなのに、何処か心強いものが心に宿った気がしていた。
小説の中の少女は、決して誰も傷つけなかった。
形を借りた私も、それに倣うだろう。
心に刃を持つ。
けれど、誰も傷つけない。
その在り方を証明するように。
私が意識するだけで、命令を待つかのように浮かぶ剣は、見る間に形を崩して。
差し出した私のてのひらの上で、薔薇の花弁の形を取って、舞い戻った。
「……うん」
きっと、私に友達は居ないけれど。
呪われたように見えても。血生臭くとも。
この力は、この異能は、共にあるから。
自らの能力の理解と、認識。
訓練などとは言えなくとも、それが私と私の異能にとって、必要なことだったから。
薔薇の花を大切に握るように掌を閉じれば。
もう、血液も傷痕も何も残っていない。
異能を当たり前に受け止めて、また一つ、歩を進める。
ご案内:「演習施設」から藤白 真夜さんが去りました。