2022/05/24 のログ
ご案内:「訓練施設」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
演習場の一角、訓練標的が設置されただけの
シンプルな訓練施設。10mほど離れた位置で
ぼうっと的を見つめるのは車椅子の少女。

(こーゆー場所、無縁だと思ってたのにな)

落第して以降、実践的な試行錯誤の機会なんて
一生訪れやしないと自棄にやっていたけれど……
人生何が起きるか分からないものだ。

「とりゃえず、っと」

シンプルな魔力弾を生成し、的に向かって打ち出す。
掠ったと表現するよりはマシだが、命中と喜ぶには
端に近過ぎる位置に着弾。

黛 薫 >  
「ま、そーよなぁ」

例えるなら野球を始めて初のキャッチボール。
上手く飛んだだけでも上々の成果と言える。
これはこれで練習してみたいけれど、さておき。

「本命はこっち、っと」

半透明のホロスクリーン、改造魔法陣を前方に
展開し、さらにその前方に魔力弾を8つ生成。
それぞれ異なる軌道で飛んだそれらは、過たず
的の真ん中を同時に貫いてみせた。

「よしよし、イィ感じ」

黛薫が着手しているのは魔術を用いた情報機器の
機能再現。今行なったのはそれを用いた弾道計算。

黛 薫 >  
「で、加えてコレを」

弾道が表示されていたホロモニターがシンプルな
魔法円を表示する。今度は魔力弾ではなく水泡が
8個生成され、全く同じ軌道を描いて飛んだ。

「こっちも問題ナシだな」

見た目がスクリーンとはいえ、魔法円を改造した物。
元に戻してやれば魔術の発動媒体として機能するし、
情報機器由来の演算能力も兼ね備えている。

命名は『電脳魔術』。

大規模な術式の行使には向かないものの、
魔法陣1つ、スクロール1つで完結するような
小規模な術式の保存、即時発動、組み合わせ等
出来ることは幅広い。

黛 薫 >  
とはいえ、未だ欠点は多い。

魔力を電子へ変換し、魔力へ再還元するという
工程の都合上、自力で魔法陣を編み上げるより
僅かに消費は重いし、複雑な術式の行使になれば
魔導書を用いた記録の方が利も理もある。

操作の簡単さや発動速度で勝ると言えど、個々の
術式の規模は小さめ。熟練の魔術師なら直接陣を
敷設した方が効率が良い。

セールスポイントである情報機器の機能再現も
個人開発だから企業が作ったスマートフォンや
パソコンには到底及ばない。

何より術式の起点となる『本体』がデスクトップの
PC並みに分厚い魔導書を介している。このサイズの
魔導書を持ち歩くのなら、魔術に特化した魔導書と
スマートフォンの両方を持ち歩いた方が機能的にも
重量的にも取り回しが良い。

黛 薫 >  
逆に言えば、強みも弱みも明確なのだから
強みを伸ばして弱みを潰す開発をすれば良い。
方向性自体はそう難しくない。

(方向が定まってても作れるかは別なんだけぉ)

ランダムに出現した訓練標的を前に再度魔法弾を
複数展開。直線的な軌道を描きつつ、殆どの標的を
迂回して最奥部の1つだけを綺麗に打ち抜く。

「当たり前だけぉ、威力は低ぃよな」

術式を描くという行為は小規模の儀式でもある。
複製の魔術で大量生産したスクロールの出力が
手描きに劣るように、保存した術式を起動する
電脳魔術は最大出力が低い。

黛 薫 >  
差し当たっての問題は大き過ぎる発動媒体。
ここさえ縮小できれば、出力では劣っていても
利便性を考えれば十分妥協できる範囲になる。

「さて……と」

そこで今日の本題。取り出したのは魔術で補強した
一本の試験管。中を満たしているのは透明な液体か。

(考えてみりゃ、ヒントは身近にあったんだ)

魔導書本体とのリンクを切り、電脳魔術を起動。
じり、とノイズ混じりの音と共にホロモニターが
浮かび上がる。挙動は不安定で、動作も重い。

「この量でこの挙動なら、イケるな」

黛 薫 >  
一通り研究の成果を試して、黛薫は帰路に着く。
あとは時間と資金さえあれば何とかなりそうだ。

……そのうち資金に関しては、先日の学術大会で
寄稿した論文がそこそこの評価を受け、一定額の
資金援助を受けられることになる。黛薫本人は
まだ与り知らぬ話である。

ついでに評価されると思っていなかった彼女は
動揺のあまりしばらく布団から出られなくなるが、
それもまた別のお話。

ご案内:「訓練施設」から黛 薫さんが去りました。