2022/10/25 のログ
ご案内:「訓練施設」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル >
「さて、着いたか――」
此処に来るのも、随分と久しぶりな気がする。
眼前に広がるドーム状の訓練施設、その一つに
レイチェルは足を運んでいた。
施設の入口入ってすぐの所に設置されている横並びの
青いスタジアムシートの一つに腰を下ろす。
座り心地は、悪くない。寧ろ、とても良い。
ここに端末を持ち込んで仕事したとして、
1日中だって座りっぱなしで仕事ができることだろう。
前を見やる。ドームの中を満たす、気。
肌が何処か張るようなその空気。
その懐かしさに、少しだけ頬が緩みつつ、
この後に会う相手のことを考えて、拳を少しだけ握った。
『ちょっと話がある』
待ち合わせの相手にはそのようなメッセージを飛ばし、
訓練施設へ来るように伝えてある。
後は、彼女の到着を待つのみだ――。
ご案内:「訓練施設」に川添 春香さんが現れました。
■川添 春香 >
話がある。
それも訓練施設で。
理由のないことで人を振り回したりはしない人。
そういう先輩だから、私は信頼している。
「すいません、遅れました」
スタジアムシートの前、施設を見渡す。
「私、常世の訓練施設には初めて来ました……」
どこか、機能美が追求されたそこは。
人が自分の限界を超えることに真摯に向き合っているように感じた。
■レイチェル >
―――
――
―
すぐに、その相手はやって来た。
生活委員一年生、川添 春香。
かつてレイチェルが一年生だった時に、
色々と因縁のあった相手、川添 孝一――その、娘だ。
「こちらこそ悪ぃな、急に呼び出しちまって――」
そう言いつつ、眼前の少女――春香の方を見やる。
相変わらず、真っ直ぐな視線だ、と思う。
それはかつての川添 孝一に似ているのは勿論のことだが――
何処か、同じくかつての自分に似ている気もした。
そんな思考をふっと頭に過ぎらせながら、言葉を紡ぐ。
「すげーもんだろ。
必要なもんは何でも揃ってるって言って良い。
学園様々だぜ」
単独で行える訓練プログラムで腕を磨くもよし。
より実戦に近い形で訓練を行いたければ、生徒同士模擬戦を行うもよし。
「ところで、腕の方は大丈夫か?」
彼女の腕を見やりながら、そう口にする。
少し前に、川添 春香がその腕を一度失ったことは知っていた。
ただ、彼女自身から直接聞いたことではない。
故に。
「いや、少しだけ……話には聞いたもんでな。
また結構……いやかなり、無茶したらしいじゃねぇか」
とすん、と腰をシートに再び落とし。
視線はそのまま彼女へと注ぎ。
■川添 春香 >
両手をぱたぱたと左右に振って笑顔で頷く。
「いえいえ、レイチェル先輩にはお世話になってますからね」
「たとえ火の中水の中! ですよ」
うん、と頷いて気にしてません、と。
レイチェル・ラムレイ。
かつて、不良だったパパと交流のあった風紀委員。
不良と、風紀委員。どういう出会いと友情があったんだろう。
「常世学園って人の可能性の追求のためなら人もお金も出し惜しみしませんよね」
「この時代の常世島に来てビックリしました、すごい熱量です」
左腕を見る。
再生には時間がかかったけど、今はもうすっかり自分の腕。
「……パラドックスに負けました」
「信念も、力も。今の私では及ばなかった……悔しい、ですけど」
左腕の再生した部分だけ色白になっている。
メラニン色素は体組織コントロールで生成中。
でも、やっぱり目立つ。
■レイチェル >
「そうだな。人の可能性――その先を探り、育む学園。
ここに来てからもう何年か経ったが……そうだ。
今でもふとした瞬間に、感動させられることがあるな」
少しばかりゆっくりと、沈黙を置いて話をする。
彼女の真っ直ぐな感想に、いつしか当たり前になっていた
感覚が、改めて感動となって胸にこみ上げてきたのだった。
この目の輝きを見ていると、
自分はこの常世学園が好きなんだと改めて思い知らされる。
「そうだな、あの男に挑んで……川添春香は、負けた。
オレもそう聞いてる」
パラドックス。常世学園の破壊者。
勿論その名はレイチェルも知るところである。
彼の起こした事件の後片付けを担当したこともある。
変色したその腕に目を細めながら、言葉を続ける。
「分かってるじゃねぇか、春香。
そう。
力も……それから、奴の語った信念もかなりのもんだ。
次に戦ったとしたら、腕だけじゃ済まねぇかもしれねぇぜ」
そう口にして、しっかりその目を見つめれば、
簡潔に一言。
■レイチェル >
「『徒花として消えるなら、一世一代女伊達』――その覚悟。
まだ続ける気はあるのか?」
自分が消えても構わない、それでも戦い続ける。
この少女は以前、レイチェルを前にそう口にした。
手痛い敗北を喫した今、その覚悟の程を確認したかったのだ。
「――もし自信がねぇなら、退けば良い。
誰もお前を責めやしねぇよ」
その言葉は、冷たく。
「元よりお前は風紀でもねぇ。
言ってしまえば、
常世学園の『善意の協力者』だ。
後のことは、オレらに任せたって良いんだぜ」
そしてその表情は、何処か挑戦的なそれに見えたかもしれない。
■川添 春香 >
「はい………」
確かに私は。
意気消沈している。
私の志では足元にも及ばず。
私の力ではヤツを止めることはできない。
それでも。
「曲げません」
そう、はっきりと言った。
視線はレイチェル先輩を、その左目を真っ直ぐに見る。
「この先に続く未来が消え去った後に」
「私はどこにも帰れません」
「破壊者を放って自分だけ逃げ出した後にパパの目を見ることはできませんし」
「我が身可愛さに曲げた意思でママにただいまを言うことはできません」
拳を握る。
そうだ、今、この瞬間にだってパラドックスは誰かの未来を握り潰しているかもしれない。
だったら。
「それ以上に」
「みんなの未来を守りたい」
「私の全てを賭けて……!!」
たとえ、それが私をどこにも辿りつけない因果に閉じ込めたとしても。
ご案内:「訓練施設」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル >
「そうか――」
左目を焼く視線――真っ直ぐな炎がこうして、
オレの心を揺さぶる。揺さぶってくれる。
呆れと諦め。
そして、安堵と感嘆。
そんな気持ちが渦巻く中で。
その言葉は――
「――曲げねぇか」
――自分が思っていたよりもずっと軽やかに放たれていた。
「全て賭けるってのはいただけねぇが。
それでも、気持ちはよく伝わったぜ。
で、そっちに勝算は?
勝算のねぇ覚悟は、ただの蛮勇だぜ」
そこまで口にして、立ち上がる。
「どうせ覚悟して向かっていくなら――
対策はしていかねぇとな」
頭の後ろに手をやり、春香の方を振り返る。
「今日は風紀委員としてのオレじゃなく、
川添 孝一に世話になった一生徒、レイチェル・ラムレイとして
春香に会いに来た」
そうして、ふっと笑って。
「お前が全力だってんなら、
オレも全力で手助けをするつもりだぜ」
そう口にして訓練施設、そのフィールドの方へと歩いていく。
■レイチェル >
「まずは、ちょいと腕試しだ――」
フィールドの中央に立ち、クロークの内から魔剣を取り出す。
「――来いよ、覚悟があるってんならぶつけて来い!」
彼女の持つ魔剣、切札《イレギュラー》。
その鉄をフィールドに突き刺すと同時に、周囲の装置が一斉に起動し、
落第街のそれを模した、建造物の様子が再現、投影される――。
■川添 春香 >
「勝算……」
少し考えて、彼女に自分の異能について語る。
私の異能には、ある秘密があるということを。
生徒、レイチェル・ラムレイとして。
「それって……」
真意を問うまでもない。
彼女は私の覚悟を問うているのだから。
「……はい!!」
フィールドにゆっくり歩いていく。
心臓が壊れそう。
あのレイチェル・ラムレイは。風紀の生ける伝説。
違反部活フェニーチェの魔人・癲狂聖者の討伐。
殺戮の救世主“マスターツェノン”の捕縛。
ウォーカー(余所者)の継承者である違反部活“レーヴン・ヒェーヴェン”の廃部作戦指揮。
……噂だけで両手の指では足りない。
いや、今は噂はどうでもいい。
レイチェル・ラムレイが私の腕を試そうとしている。
その心意気に応えること。
今はそれに全力を出すだけ。
「……いいんですか」
鼓動を抑えるために、相手から少し離れた距離で声を出す。
「もう届きますよ、攻撃」
■レイチェル >
「……そいつがお前の勝算か。
確かに、すげぇ隠し玉だ」
彼女が静かに語ったその言葉を、胸の内にしまう。
成程。
彼女が隠し持っている勝算は、確かに稀有なもので。
様々な異能者を見てきたが、『そんな芸当』ができる異能者など、
どれだけ居たことか。
――ったく、それが本当だってんなら、想像以上にすげぇ奴だぜ。
フィールドに立ち、彼女を待つ。
己に、どれだけのことができるか分からない。
だが、真っ直ぐな瞳を持つあの少女に、出来るだけのことはしてやりたい。
この先戦場で、無駄死にだけは、しないように。
「――手加減、すんじゃねぇぞ」
すぅ、と一呼吸。
そうして、続ける言葉は決まり文句だ。
これは、いつだって戦闘訓練の際に、相手に口にする言葉。
「……ああ、『オレを殺す気で来い』!」
彼女の言葉が発せられるのと同時に、脚に力を込める!
■川添 春香 >
殺す気で来いと。
あのレイチェル・ラムレイが言うのであれば。
そうしないのは非礼に当たる。
きっとパパもこのヒトとこうして絆を結んだんだね。
サイドに飛びながら両手の人差し指を向ける。
人差し指の骨が射出される。
この銃撃は当たれば痛いでは済まない。
手加減なし、その上で。
常に動く。
レイチェル先輩くらいの腕前ならサイドに走ってても攻撃を当ててくる。
しかし私が動いている以上、こちらを向く以外の自由がなくなる。
意識の間隙を突くならそこだ。
■レイチェル >
いくつかの装置が音を立てて動き出せば、立体投影が完了する。
そのフィールドは最早、
落第街と寸分違わぬ様相を呈していた。
建造物がある場所にはしっかりと物理的なオブジェクトが配置され、
遮蔽等に利用ができるようになっている。
まさに、実戦に向けた模擬戦に相応しいシステムだ。
「さて――」
サイドへのステップ。想像の上を行く速度。
その勢い、疾風の如く。
身体強化の異能だからこそ実現できるのだろうその速さに、
口端を僅かに上げて奥歯を噛みしめる。
うかうかしていては、こちらも取り返しのつかない痛手を負う。
「――骨かッ!」
黒の鉄塊をフィールドから引き抜き、
撃ち落とす。
飛来する骨を、一つ、二つ――
撃ち落とすのみに留まらない。
弾く。
肉を抉るその骨の銃撃を。
蹴る。
力強く、その地を。
レイチェルの影が数度、春香の方へ近づきながら弾け飛ぶ。
骨を幾つか弾いた鉄塊を、後方へ振りかぶりながら。
そうして、豪速で春香へ向けてその鉄塊を――投げた。
春香の方を、見据えて。
空気を切り裂きながら、動き続ける春香が到達するであろう、
その地点へ向けて魔剣は一直線に飛ぶ。
――投げ終わると同時に、
最後の一発が黒のリボンで結んだ金糸を僅かに、散らす。
そうして背後にあった窓ガラスが、音を立てて割れ落ちた。
落第街の建造物が、その空気。
リアルに存在するように感じられる立体投影技術は、
この戦闘によって起きる破壊を全て反映するのだ。
■川添 春香 >
弾いた!!
それもあの黒い刀剣で!!
現役を退いた今でも。
予測と反射神経は今でもトップクラスかもしれない……!!
そして。
「うええ!?」
投げられた“黒”が目の前に突き刺さる。
慌てて足でブレーキをかけなかったら直撃していた。
しまった、動きを止められた!?
でも、まだお互い無傷!!
「それなら!!」
前方に宙返りしながら跳んで、足を撓らせながらムチのように振り下ろす。
レイチェル先輩まで距離が遠くても関係ない。私の手足は伸びる。
威力に過不足はない。鞭の先端は常人が振るっても音速を超える。
気がかりはレイチェル先輩と買いに行ったお気に入りの靴を履いてきちゃったことだけ!!
■レイチェル >
そのままサイドに動いていれば、鉄塊の直撃を受けていたことだろう。
最初の一撃は、敢えて重くした。
それでも臆すことなく対応し、こちらへ向かって来るのならば。
――覚悟ができてるらしいな! 十分にッ!
春香の見せる、軽やかな跳躍。
ただの回避では無いだろう。
恐らく、次へ繋がる攻撃に向けての布石。
凄まじい速度で振るわれる、音速の鞭。
異能の無い今、無傷で躱すのは至難の業だ。
脚の鞭を躱すべく、地を転がる。
そのすぐ後ろを、鞭が抉った。
「……ッ!」
厚い石畳が、砕け散る。
背に滲む、熱いモノ。
久々に感じる感覚に、拳を握りしめる。
「……流石に無傷って訳にはいかねぇか」
すかさず、クロークの内の銃を掴む。
靡くクローク。狙うは、攻撃をし終えた彼女の隙だ。
刹那の内に、銃弾を3発、抜き放つ。
かつて川添孝一相手にも使用したゴム弾だが、
威力は十分――!
■川添 春香 >
着地。この蹴りは滅多に人には使わない。
パパが猛獣と対峙した時にでもな、と教えてくれた技だ。
それを回避したのは、流石に手強い。
そして回避した後に反応射撃が来るのはわかっている。
でも……三発!?
あの一瞬で!!
上半身を折り曲げるように後方に逸して二発回避、でも。
一撃は腹部に当たって悶絶する。
苦しんでいる場合じゃない!!
相手はまだ弾倉にゴム弾が残ってる!!
動け、動け動け動け!!
「くっ!!」
両腕を左右から回り込むように伸ばす。
苦し紛れだけど、一人で挟み撃ちというシンプルな一手。
掴めば投げ技、外しても伸びる腕は止まらない!!
そして……相手と相対している今、次の射撃に対する対策と覚悟を決める。
■レイチェル >
「……直撃したら流石にやべーな、そりゃ」
背に流れるのは、何も汗のみではない。
僅かに血も混じっている。身を転がしたが、まさに変幻自在の攻撃。
吸血鬼の身体能力を有しているとはいえ、
異能が無い身では、完全な回避などできなかった。
「やるじゃねぇか、春香!
それじゃ、次のステージ……でもって、今日のラストステージだ。
パラドックスの使う能力――全てじゃねぇが、
その幾つかはオレ達がよく把握してるもんだ」
花咲里をはじめとした風紀委員達の、力の残滓。
レイチェルが直接指導したこと自体は無いが、顔くらいは知っていた。
話をしたことだって、ある。何より、風紀の同僚だ。
だからこそ、悔しい。
レイチェル・ラムレイとて、悔しいのだ。
迫る両腕に、残り三発のゴム弾を撃ち込みながら、
レイチェルは己の眼帯に触れる。
同時に呼応する、周辺の装置。
「そんな中で、オレも――いや、オレ達も。
安穏と惰眠を貪ってた訳じゃねぇのさ」
既に、戦闘データは取れている。
勿論、未知の能力だってあるだろうが、
ある程度予測を立てることは可能だ。
そして、予測は対策となり、戦う為の力となる。
戦場で剣を振り銃を抜くだけが風紀の仕事じゃないってことを、
見せてやる。
両腕が迫る中、四方八方から光の照射を受ける――!
■レイチェル >
無機質な電子音声が、訓練施設に響き渡る。
<クォンタムドライバー!>