2020/08/01 のログ
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 会場」にル・ルゥさんが現れました。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 会場」に水無月 沙羅さんが現れました。
ル・ルゥ >  
開催当初と比べれば人の入りも落ち着いてきた頃。
ル・ルゥはスラムを離れ、普段とは異なる装いで慰霊祭の会場を訪れていた。
喪服を意識した露出ひかえめの黒いワンピース、日除けと素性隠しを兼ねたつば広帽子。
それから、裸足ではなんなので薄いストッキングとパンプスも履かされている。
死者を悼むにあたり、相応しい装いがあると言われて着替えさせられたのであった。
当人としては疑似餌を着飾ったところで何になる、という心持ちなのだが素直に従っている。

水無月 沙羅 > 「お待たせしましたか?」

いつもの制服とは違う、落第街で手に入れた中古の洋服と帽子を着て現れる。
追われる、というか探されているであろう身のため、とりあえずの変装。
約束を違えるのはためらわれたため、直接誘ってこの場所にやってきた。
《慰霊祭》この島で亡くなった多くの命を弔う場所。
本日の大きな催しは既にお終わり、少しだけ人も捌けてきた時間帯だ。
それでもここには何人もの人が足を運んでいる。

自分が与えた服を身に着けたルゥを見ながら、さてこの子にとっては鬱陶しいかもしれないなと思う。

ル・ルゥ >  
自分を誘った本人───沙羅の姿を認めて顔を上げる。
彼女も以前とは異なる装いをしていたが、ル・ルゥは視覚ではなく魔力で相手を"視て"いるため見紛うことはない。
変装をしたい沙羅にとっては複雑かもしれないが……

「そうでもないわ。
 見たこともない物ばかりで、退屈はしなかったし」

スラムを出たのはこれが初めてなので、見るもの全てが珍しい。
流石に公衆の面前で人を襲うリスクは承知しているため、大人しく待っていた。

「それにしても、ヒトは外見に拘るのね。わたしにはよく分からないわ」

ワンピースのスカートを軽くつまんで持ち上げながら首を傾げている。

水無月 沙羅 > 「それはなにより、こうして外に出ることも、未知を知る上では大切なことですよ。」

視たことない物ばかり、というのならばそれは僥倖だろう。
彼女にはこれから人間という生き物を学んでもらわなければならない。
退屈しなかったという事は興味を持って目にしていたという事だ。
それは学ぶにあたって最もエネルギーになる。

「外見は、中身を映す鏡、っていうんですよ。 悲しいから泣く、楽しいから笑う、みたいに。
 服装も同じです、その人がどんな人物かなのかを表す最初の指標。
 貴方のそれは、死者を悼んでいるというポーズになるんです。」

すこし遠巻きに献花台を見る、
今日も、多くの献花が捧げられている。
その中に、涙を浮かべる人も何人か見えるだろう。
わき目も振れず、大泣きする子供。
感情を抑えて涙を一粒だけながす大人。
なんの表情も浮かべず、黙々と献花を置くだけの人も。

此処には悲しみが詰まっている。

ル・ルゥ >  
「そういうものなのね……」

実を言うと、その理屈はル・ルゥも無自覚に適用していた。
外見から非力な少女に見せることで疑似餌として機能しているからだ。
そうして獲物の油断を誘い、不用意に近付いてきた獲物を狩るのである。

「この姿や、彼らの様が……死者を想っている、ということなのね」

死者に祈りを捧げる人々の姿をぼんやりと眺めている。
完全な理解には程遠いが、この光景が悲しいものであるというのはおぼろげながら把握したようだ。

水無月 沙羅 > 「そうですね……きっと、みんなそこから何かにつなげているんです。」

殺し屋と名乗った彼は言っていた。
罪を償おうとしないから殺される。
それも、死が生み出すものの一つ、沙羅も、無関係ではいられない。
買っておいた花束を献花台に置きに行こうとしたその時だった。

水無月 沙羅 > 唐突に、沙羅の持っていた献花が弾き飛ばされる。
沙羅が立っていた場所には、沙羅よりも少し大きい男性らしき人物が見える。
肩を震わせて、怒りの表情で、尻もちをつく沙羅を見下ろしている。

男の拳は赤に染まって、沙羅の頬も赤みを増していた。
それもすぐに癒えてしまうのだが。

「なんで彼奴を殺したやつが此処に居るんだよ! なぁ!!」

見るからに、二級生という格好。
みすぼらしくて、住むにも困るような、生きて行くのも苦労する、そんなスラム街に居そうな住人。
沙羅が知る限り、自分が手を下したのを見ているのだとしたら。

『違反部活』を行っていた生徒の友人だろうか。

何度か、度を超した違反部活の検挙の際に、手段として『やむを得ない殺害』を選ぶことがあった。
彼はきっと、そういうものを見てきた人間。
沙羅の裏の顔を知っている、表にはいない人間。

沙羅は、それに何も答えない。
ただ静かに、男を見つめるだけ。

ル・ルゥ >  
沙羅が献花しようとする様子を観察していたら、不意にそれが叩き落とされた。
そちらに視線を向ければ、棲み処の近くに住んでいるような男が一人。

「……あなたの知り合い?」

彼が怒っていると知らないル・ルゥは平素と変わらぬ様子で沙羅に訊ねる。
あなたが抵抗しないので敵と見做してもいないようだ。

水無月 沙羅 > 「……さぁ、顔に覚えもありません。 たぶん、『仕事』で会った事がある程度です。」

落したした献花を拾いなおし、誇りを叩いてもう一度男を見据えた。

「私が貴方に負わせた傷を、私は覚えていない。
 だから、ごめんなさい。
 貴方の怒りに答えられる言葉を、私はほかに知らない。」

もう一度、沙羅の顔に拳が飛んだ。
避けずにただ、受け止める。
其れしかなかった、彼の正当な怒りに対して沙羅が出来る事は、それしかない。

『ふざけるなよっ、くそっ……ふざけんな……。』

辺りがざわめきだしたことに怯えた少年は、倒れた沙羅をそのままに駆け出してゆく。
その姿は路地裏に消えて行った。

「……これが報い、なんですかね。 まだまだ小さい方ですけど。」

痛みに耐えながら、もう一度起き上がった。
今度は手放さなかった献花を、ルゥに渡す。

「ルゥ、貴方は今の人を、如何見ましたか?」

ル・ルゥ >  
「……行ってしまったわね」

ル・ルゥも獲物の顔などいちいち覚えていないので、それについてはとやかく言わない。
沙羅が攻撃を受けた時は身構えたが、当人が何も言わなければ動かずに見届けていた。
逃げていく男を追いかけることもせず、ただ沙羅の傍に立っている。

「どうして何もしなかったの? あれはあなたを攻撃してきたのに」

防御も反撃もしない、ただ殴られるままの様子に首を傾げながら花を受け取った。
どう見たか、と訊かれても疑問が先立ってしまっているようだ。

水無月 沙羅 > 「そうですね、貴方にはまだ難しいかもしれません。」

疑問に頷いて、腫れの引いた頬を触る。
彼の小さな復讐も、すぐに消えてしまう己の肉体が少しだけ憎たらしい。

「……人は、死を全て許容するには、未熟すぎるんです。
 そこまで完全な精神構造をしていない。」

それは、彼が怒りをあらわにした理由であって、沙羅が何もしなかった理由ではない。
ただ、まずはそこを教えなければならなかった。
怒りの理由が無ければ、その先の答えも存在しないから。

「彼にとって、それが正当なものであるから。 彼はきっと、私にそうする権利があった。
 怒りを私に向ける権利があった。 私はそれを受け止める責任があった。
 それが、殺したものと、殺された者の関係です。
 それは、死者以外にも引き継がれてゆく。
 連鎖していくんです、人の感情は、目に見えない糸でつながっている。」

自分もいつか、そうして殺されるのだろうか。
目に見えない糸の先にある、悪意によって。

「すこし、難しいですかね?」

優しく教えるのは、難しい。
人間の心なんて、沙羅にだって理解できないことが多いのだ。

ル・ルゥ >  
「前にあなたが言っていた、あとに続くものの一つということ?」

未だ全てを理解したわけではない。
が、言っていることはそれと同様であると感じた。
自分が喰らってきた人間たちの後にも、今のような感情を抱く者がいるのだろうか。
だが、それは生きるために必要だからやったことだ。
獲物が報復に来たからと言って無抵抗を晒すつもりにはなれない。

「今の人間があなたを殺すつもりだったらどうしたの?」

水無月 沙羅 > 「戦います、きっと。 殺すことはしたくないですけれど。
 その必要があれば、そうするかもしれません。」

彼女にとって、捕食とは生きる事そのものだ。
それに対して復讐だと何かが攻撃してきても、それを受け止めることはない。
彼女にとってそれは『罪』ではないから。

「後に続く者、その一つの形です。 これは、ぶつけ様のない怒りの行き場を求めた誰かの行く末。
 同じ、『人』を殺めたがゆえに発生する『罪』への『罰』」

「ルゥ、もし今私が殺されたとしたら、残念に思いますか?
 それとも、自分の『知る』機会を奪った相手を憎いと思いますか?」

彼女に近い感情はどこにあるのだろう。
知性があるならば、何処かに感情もある。
わたしは、教えると同時に彼女を知らないといけない。

ル・ルゥ >  
全くの無抵抗、というわけでもないらしい。殺意の有無の違いなのだろうか。
ますます人間の心は複雑さを増してきて、一筋縄ではいかないと思い知らされる。
それでも理解したかった。
自分が何者であるかを見極めるために。

「罪と、罰」

人を殺めるのが『罪』であるのなら。
それを見た風紀の人間が追ってきたのも納得できる。
あれは『罰』を与えようとしたのだろう。

「……そうね。今あなたが殺されてしまうのは困るわ。
 わたしにヒトのことを教えてくれる存在がいなくなってしまうから。
 憎い……というのは、よく分からないけれど」

"邪魔者"は排除すべきだ。そう感じた。

水無月 沙羅 > 「では質問を変えましょう。
 いなくなった『私』を想像してください。
 貴方にはもう、人間を教えてくれる、言葉を弄して教えてくれる存在はいません。
 どんなに呼びかけても、私も、他の誰も、貴方に答えない。
 その時あなたが浮かべる感情は、なんですか?
 どうして、『困る』、その答えに行く着く過程に、何かがあるはずです。」

いま必要なのは、敵意ではなく、自らが抱く感情に気が付く事。
敵意には理由がある。
それに彼女は気が付けるだろうか。

ル・ルゥ >  
「そんなの、あなたと出会うまえに戻るだけ……」

言われた通りの想像をしてみる。
せっかく得た機会を奪われ、二度と得られない。それは決して"以前と同じ"ではない。
その埋めがたい喪失に気付いた時───

血の通っていないはずのル・ルゥの頬を透明な雫が伝った。

「えっ……なに、これ?」

掌に落ちる雫を茫然と見下ろす。
今まで味わったことのない感覚に戸惑いを隠せない。

水無月 沙羅 > 「ぇっ……」

予想もしえなかった結果に、沙羅でさえ絶句した。
ルゥが、人間ではなかった彼女が、感情すら理解しえない彼女が涙を流している。
沙羅の喪失に、涙を流している。
それは、間違いなく『悲しみ』だった。
たった一度、いいや、二度目の邂逅で、そこまでの感情を得られるものなのか。

沙羅でさえ、そこまでの成長を彼女がするとは思っても居なかった。

「……それは、涙です。『悲しみ』という感情からあふれる、人体の機能の一部。
 それは、喪失感の証。 失ったモノを、もう二度と戻らないものを想う心が流す物です。」
 
献花台を見る、人々を見る、悲しみが流す涙が、此処には溢れすぎている。

「それを、どこにも向けられないその心を、あそこにおいて、もう会えない人を想う、悲しみに埋もれないように。
 立ち止まってしまわないように。」

そっと、ルゥの背中を押す。 献花台に向けて歩みを進める。

ル・ルゥ >  
「涙……わたしが、悲しいと感じている……?」

流れたのはたった一筋。それでも信じられないような現象だった。
ここにいる人々と同じ『悲しみ』の感情を今、ル・ルゥは抱いている。
背中を押され、彼らと並び立つところまで歩いていく。

「ここにいるヒトたちはみんな、こんな気持ちで……」

水無月 沙羅 > 「……その気持ちを、持ち続けるのは辛いことなんです。
 だからそれを昇華して、己の一部にするための儀式なんです。
 人は死を悼んで、己の一部にする。
 それが、人の死というものです。
 今の貴方のそれは、架空の悲しみだけれど。
 きっといつか、本当を失うことがあるかもしれない。
 その時の為に、さぁ、今はその花を置いて、悲しみを自分のものにしましょう?
 ルゥ。」

まるで、子供を見ている様。
何も知らない子供が、ようやく独り歩きを始めたような。
その様子を、見ているような。
相手は人間ではないけれど、それでも美しいと思った。

ル・ルゥ >  
想像だけでこれだけの喪失感なのだ。
ここにいる人々は、いったいどれだけの痛みを抱えているというのか……
芽生えたばかりのル・ルゥには想像もつかないことだ。

「……ええ」

促されるまま、花を手に慰霊碑へと歩み寄る。
あなたが見守る前で、周囲に倣ってそっと花を添えた。

「すごいのね、ヒトは。いつもこんな事をしているなんて」

ただの獲物、から評価が変わった瞬間であった。

水無月 沙羅 > 「いつも……ではありませんよ、人生に数度、あるくらいです。
 普通の人なら。」

「ルゥ、貴方が人間を捕食するというのは、こういう事です。
 だからといって、それを止めろ、などとは言えないけれど。」

ルゥの手を、手に見える器官を手に取って。

「それを理解してもらえたなら、今日は終わりにしましょう。
 すべてを一日で覚えたら、きっと壊れてしまうから。」

今日のことを思いだしたら、人を食えなくなるかもしれない。
本当にそれでよかったのか、沙羅にはわからない。
少しだけの罪悪感と、ほっとしたような気持ち。
複雑すぎる相反する感情は、沙羅を蝕んだ。

「送りますよルゥ。 未知は、どうでしたか?」

元のスラムへと、彼女を導くように歩きだした。

ル・ルゥ >  
「ますます人間のことが知りたくなったわ。
 わたしはいったい何なのか、その答えに少し近付いた気がするの」

ヒトの『感情』に強い興味を抱いたようだ。
彼らと同様に涙を流せたということは、他の感情も理解できるかもしれない。
これからは捕食の前に対話を試みようと決めた。
手始めに───先ほど沙羅に殴りかかった少年でも探してみようか。

「礼を言うわ、サラ」

そのまま手を引かれて歩いていく。
傍から見れば、それは少女と少女の微笑ましい光景に映るかもしれない……

ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 会場」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 会場」からル・ルゥさんが去りました。