2020/06/19 のログ
ご案内:「転移荒野」に九十八 幽さんが現れました。
九十八 幽 > ゆらぁり ゆらり
風の向くまま、気の向くまま
正式に生徒として入学するまでの間は常世島を見て回ろうと決めた青年が荒野を往く

「ここは 何だか少しさびしいところだね」

特別荒れた雰囲気であるわけでもなく、生命の気配がしないわけでもない
それでも胸のどこかが締め付けられるような、僅かな息苦しさ
それらが土埃を孕んだ乾いた風に巻かれ、正面から吹き付ける

「ここには『門』ってのが現れるって聞いたけど
 どうだろう 自分がどこから来たのかも、わかるだろうか」

口の中に砂が入らない様に気を払いつつ
ゆったりとした足取りで、決して止まらずに幽は進む

九十八 幽 > 遠くに低い低い雷鳴のような音が響いている
しかし空には雷雲など見当たらず 梅雨の季節だと言うのに照りつけるような日差しのみ
それでも遠くから ごろごろ ごろごろ と腹の底まで響く様な重低音

「何か 居るね
 この島に来る前に居た、洞窟と同じ感じ
 
 出くわさない様に気を付けないと、だ」

静かに音のする方へと視線を投げて やおら歩むペースを速める
何かが居る それが何なのかはわからない
ヨイモノかもしれないし ワルイモノかもしれない
幽の表情が俄かに険しくなり、いつでも抜刀出来るようにと片手を腰の刀の柄に添える

「こわい 少しだけ、怖いね。まいったな」

小さく震える唇を きゅっと噛み締めて前だけを向いて早足で

九十八 幽 > 歩けども 歩けども
唸り声の様な雷鳴からは ちっとも距離を取れず
つかず離れずの距離をごろごろ ごろごろと鳴り続けている

「害のあるモノじゃ、ないのかも」

わずかに警戒を解いて それでも手は柄にかけたまま
幽は歩く速度を少しだけ緩めた
周りには大きな岩が点々と在って いざという時には隠れられそうだと思いつつ

九十八 幽 > 「ひとつだけ ひとつだけ分かった
 ここは一人で来るところじゃないね
 誰かと一緒に、それも とびきり強い人」

まだ微かに震える唇を少しだけ噛んで
こんな風に怯えているようでは、『門』も自分の事も何もわからないままだろう

「ここは、いつか必ずまた来よう
 でもそのときは一人じゃない
 誰かと 強い誰かと一緒じゃないと」

一度 意を決して足を止める
そして振り返り、歩んできた荒野を見渡す
そこには危険な物も、異常な物も、何も無い

「でも──
 ──……でも ここは何だか酷く寂しい気がするんだ」

クマのこびりついた目元を細く細く眇める
見えない何かがそこにある その何かを見定めるように

九十八 幽 > ──そうして 青年は胸に点った恐怖を大事に抱えるようにして転移荒野を後にした
ご案内:「転移荒野」から九十八 幽さんが去りました。