2020/06/26 のログ
■羽月 柊 >
「順序……。」
英治の藪からスティックというか、オブラートに包まない価値観の伝え方については内心冷や汗。
思わず柊の口からそんな言葉も漏れようというもの。
若さというのは怖い。
「……無礼は重々承知ではございます。ただ、貴方様のような力のある御方はまだし、
迷い子として卵や幼生がこちらに来ることも多く。
そういった子らを保護する活動を主にしております。
貴方様は我々の世界、ここ"地球"に顕現成されました。
そちらの男は、我々の価値観上、こうして身体を覆う布を身につけなければ、
貴方様に対する辱めと同義の状態になってしまうと申しているのです。」
そう説明しながら、彼の傍らにいる小竜達は金龍の名を聞くと、
それを鳴声として真似てみせ、片や青い二角はセイル、片や赤い一角はフェリアと鳴声を返した。
それが金龍に伝わるかどうかは分からないが…。
■山本 英治 >
「順序つったって裸の幼女に世界の道理を説くのもなんかおかしいじゃないスか」
羽月さん的にはアウトな行動だったらしい。
龍の行動学とかそういうのがあるのかも知れない。
だけど俺はこれ以上の事案は御免こうむる。
ただでさえロリわからせ幼女連れ去り事案少年ナンパ全裸アフロ居士(戒名)として悪評が立っているというのに。
全く、人の口には戸は建てられないものだ。
「ええと………」
金色の龍だった幼女は名乗った。
名乗ったけど。
よくわからん!! 龍言語は多重詠唱も可能とする人間には発声が難しい言語。
まさか聞き取ることも難しいとは。
「とりあえずヒメと呼ばせてもらおっかな。龍の姫様だし」
とりあえずどこから説明したらいいものか。
簡素に語らなければならない。
「ヒメ、あなたは帰れません。143秒前に上空の門が閉じました」
「帰れないなりにここで暮らすなら、人間の組織にサポートしてもらったほうが楽だと思う」
「その組織……生活委員会の紹介はできるし、できる限り協力はするが」
「あとはヒメの心次第みたいな?」
■■■■■ > 「チキュウ……ふむ、やはり、=■●ではないのじゃな。
うむ、うむ、なるほどのう。」
やはり違う世界であったか。
であれば、さっきまでの重苦しさなども理解できる。
どうやら、向こうとこちらでは理が違うらしい。
「なるほど、道理じゃな。よい、シュウとやら。
世に連なる眷属の守護に努めるがよい。
そのセイル、フェリアとやらも貴様に信を置いているようじゃしな。」
鷹揚にうなずいてみせる。
皇は時として寛大なのである。
そして――
「――ゆえに、貴様らの価値観に従え、と? 不遜じゃな。
が、まあよい。悪意あってのことではないとはわかる。
特別に許してやろう」
エイジとシュウ。二人の言い分を聞き皇は裁決をくだす。
布切れ程度、あろうがなかろうが大した差ではない。
「ヒメ? 勝手な呼び名を……が、まあ貴様らが世の高貴なる名を口にするのに気後れするのも無理なきことじゃな。
よかろう、貴様らにはヒメ、と呼ぶことを許そう。」
勝手にヒメ、と呼ばれたことを自己流に解釈した。
威光により●●●ごときが勝手に引き下がるのはやむを得ないことだろう。
「で、なに? 帰れないじゃと?
ここで、暮らせと?
まて貴様、どういう冗談じゃ? ●●●はよく囀って世を楽しませたものじゃが、さすがにそれは面白くもないぞ?」
ギロリ、と。
やや剣呑な表情を浮かべた。
■羽月 柊 >
ロリわからせ幼女連れ去り事案少年ナンパ全裸アフロ居士(戒名)
…もし今回のことが知れ渡ったら更にどんな名前がプラスされるのだろう。
幼女の所が金髪幼女になるのかもしれない。
というのはさておき。
寛大な許しには今後も精進して参ります、としながら
「~~……ご説明、致します。
こちらの男の申している事は不躾ではございますが、嘘偽りはございません。
我々の世界、地球では、"門"と呼ばれる不規則に他世界と繋がる事象があります。
貴方様は恐らく、それと共にやってこられ、先ほどその門が閉じました。
御身御自身が次元や世界を移動出来る御力を持たぬ場合、
また、あったとしても実行の際にこちら側への影響が多大な場合、
人間はそれを看過することは出来ないでしょう。
また…非常にお伝えするには心苦しく思いますが、
この世界に置いて貴方様だけが唯一最上ではなく、貴方様のような力を持つモノも複数居ます。」
金龍の赤眼の睨みに煽るまいとしながら
英治の言葉を説明していく。
■山本 英治 >
「ああ、ありがとうございます、ヒメ様」
意外とチョロいな、金色の龍。
これなら人間の世界でも生活していけるのかも知れない。
「羽月さんの言う通りなんだ、ヒメ」
「また門があなたの世界とつながるまでは帰れないし」
「それは明日かも知れないし、数十年後かも知れない」
「それまでその姿で暮らすのも難儀……ん?」
生活委員会と風紀委員の混成部隊とも言うべき、バギーカーが複数駆けつける。
よかった、さっきの咆哮と龍の偉容を見て来てくれたんだ。
「おお、よかった! これを見てくれ!」
と言って自慢気にヒメを両手で指す。
■生活委員会と風紀 >
そこにいたのは、風紀の山本英治だ。
何かと噂される男だったが。
なんと、裸に山本の迷彩服を着ただけの状態の幼女を自慢気に見せつけてきた。
「まぁ、とりあえず乗れ」
「山本……お前は拘置所行きだがな」
そのままバギーカーの一台に山本を載せて走り去る。
やっぱりやりやがったな、あいつ。
いつかやると思ってたよ。
■山本 英治 >
「え、いや、ちょっと、誤解なんすよ」
アフロが風に揺られながら。
風紀と生活委員の仲間だったはずの連中に連行されていった。
俺は無実だ!!
ご案内:「転移荒野」から山本 英治さんが去りました。
■■■■■ > 「……!」
シュウの必死の説明に耳を傾けていたところ……
急にドヤドヤと●●●が大勢押しかけてくる。
何事かと、思っていたら……
俺は無実だ!
アフロは連れ去られた。
「……なんだったのじゃ、あれは」
元々、八つ当たりに近い空気での問答だったので本気での怒りではなかった。
その上でこの顛末である。
すっかり毒気を抜かれてしまった。
「……なんだったのじゃ?」
思わず、シュウを見て、もう一度、聞くとはなしに聞いた。
■羽月 柊 >
嵐のように生活委員と風紀委員がやってきて…嵐のように去っていった。
無実のアフロを連れて…なんだったんだろうか。
ムチャシヤガッテ…
「………俺にもさっぱり……あ。」
あまりにあっけに取られては言動が素の状態で返してしまった。
「申し訳ございません。やはり貴方様が衣類を着ておられない状態を勘違いされたのかと。」
■■■■■ > 「ふむ。そういうことか。してみれば、この布にも確かに意味があったのじゃな。
エイジのやつ、なかなか見込みのあるやつだったということか。
これはちと惜しいやつを亡くしてしまったか……」
さらば、アフロ。ありがとう、アフロ。
君のおかげでヒメが少しだけ人間の常識を学んだぞ。
黙祷!
……でもアフロはまだ死んでないぞ、ヒメ。
「さて、そうとなれば。知らねばならぬな、このチキュウ、とやらのことを。
シュウ、先程の貴様の説明。聞き捨てならぬことがあった。
”世が唯一最上ではない”と。説明せよ」
あらためて、向き直る。
その眼に怒りはない。
冷徹なる為政者の眼だ。
■羽月 柊 >
「…まぁ、口は粗野ですが、貴方様の身を案じていたのは最初からです。」
うん、フォローはしておこう。
多分次生きて(?)逢えるだろう時の為に。
「……言葉の通りでございます。
この世界は貴方様のように彷徨の出がおり、
先ほどの男が言うように、多くが帰れずの身となってこの世界に定住している。
その中には貴方様と同じか、もしかすればそれをしのぐ程の力を持つモノもいるかもしれません。
それだけはどうか、御身に覚えておいて頂きたい所存にございます。
また、我々人間の中にも異能・魔術として多大な力を持っているモノもおります。
そして、それらは個人ではなく多くは徒党を組んでいます。
一本の木ならば貴方様は容易く折るでしょう。
しかし、森や山となると貴方様も勝手は違いますでしょう?」
と、納得してもらえるように諭す。
力の限り暴れられては研究者としても困るし、この島としても困る。
■■■■■ > 「……」
じっと。口を挟まずにただ、聞く。
一歩間違えれば、怒りや暴発を招きかねないその説明に
しかし――浮かんだのは喜色だった。
「なかなか、混沌とした世界じゃな。
そのような有様で、貴様、世の眷属の守護、などと悠長なことを言っている場合なのか?
世のごときモノが数いるのであれば、チキュウなど木っ端のごとく吹き飛ぶのではないか?」
暗に、自分にはソレだけの力がある、と示しながら問う。
話としては納得しているようではある。
ただし、眼には喜色が浮かんだままである。
■羽月 柊 >
「吹き飛ばない為に、互いが牽制しあっているのです。
消し飛んでしまえば、もしかすれば帰還の為の門は永久に開かれなくなるかもしれません。
息苦しいやもしれませんが、どうか、
その力を破壊ではなく共存の為に用いて頂きたい。
矮小な人間の身ではありますが、そう進言させていただきます。」
男はそう言って、金龍の紅眼を真っすぐに桃眼で見た。
もちろん敬意を忘れてはいないが、決して怖気づくことはせず、堂々と。
■■■■■ > 「は……」
破顔。
表情がゆるんだ。
「はははははははははは、面白い。面白いのじゃ!
気に入ったぞ、チキュウ! =■●にはなかった刺激じゃ!
”世”はこれより、チキュウを”世”の世界と認めよう。
すなわち、”世”が統べるべき世界である!」
呵々大笑。とんでもないことをいいだしたぞ、この龍。
もちろん、その眼、その顔は見る限りは本気としか思えない。
「ククク…… 面白くなってきたのじゃ……
よし、シュウ。そうとなれば、貴様も”世”のモノじゃ。
この世界を案内するのじゃ」
さらなる傍若無人を口にする。
人権などなんのその。そもそも、この龍、人権という概念を知っているのかどうか。
「それと、だ。貴様、なぜ龍を探る?
貴様の話から察するに、この世界に”世”の眷属はさしておらぬのではないか?
なぜ、そのような境に至った?」
疑問。
部下を知る第一歩である。
■羽月 柊 >
統べるとか言い出してしまったぞこの龍。
なるべく穏便に行くように進言したのだが…若干胃が痛い。
「…貴方様のモノになるなれば、どうか先ほど言ったよう、
無暗に力を振るわないお願いしたい所存でございます。
何分、この身は脆弱な人間故、貴方様の力では簡単に塵となってしまいます。
そうなれば、貴方様の眷属を保護する役目も果たせませんので。」
と、言いつつ、懐から一枚の白布と、壊れた装飾品の予備を出してくる。
しゅるりと軽く風になびかせるようにすると、布が大きく広がった。
「失礼いたします。
そのままでは、私まで先ほどの男のように連行されてしまいます故。」
金龍に近づくと、抵抗しなければ布をパレオの要領で身体に巻き付けて端で結びを作る。
「理由ですか……その希少さ故、というのが第一でした。そしてその姿に憧れ、力に魅入られた。
そして迷い子を知り、手を伸ばし、最初の保護に至ったのがこのセイルとフェリアです。
…多く哀しいことも見てきましたが、貴方がたのその気高さは、今でも私を魅了して止みません。」
そう話す男の右耳には、金色のピアスが光っていた。
■■■■■ > 「は。バカをいうな、この愚か者め!
シュウ、貴様はもう少し賢き者だと思ったのじゃが、違うのか?
”世”が”世”のモノを戯れに壊すような愚物に見えるとでも?」
素直に布を巻き付けられながら、皇はのたもうた。
ややプンスコ気味であるが、呆れているようにもみえる。
「ははは、よい。確かに”世”の眷属なるモノたちは、貴様ら●●●には魅力的であろう。
それに――そうか。無念もみたのじゃな。
貴様の言うような世界であるなら、まだ弱き眷属では生きて行けぬこともあったか……」
龍に対する思いを聞き、皇もまた想像を巡らせる。
それが真実かはわからない。しかし、そういうこともあったのだろう、と。
幼女に似合わぬ悲哀の表情を浮かべ……しかし
「シュウ、貴様の労をねぎらうのじゃ。貴様はよくやっておる。
本当に見込みがある。ゆえに、先程のような愚かな発言は厳に慎むがよい。」
厳かに下知をくだす。
それが終われば、また表情をゆるめて
「さて、それでは改めて、じゃ。
先程エイジがどこぞに行くとよい、というようなことをいっておったが……まず、”世”は何処へ征くとよいのじゃ?」
■羽月 柊 >
「……申し訳ありません。行き過ぎた言でした。」
それでも釘を刺しておきたかったのが本音だ。
いくら自身でわきまえていたとしても、他人から言われるのは少し意味が違ってくる。
「…ありがとうございます。
竜・龍・ドラゴンはこの世界では希少です。
魔法学も発達している故に、哀しい事ですが"材料"として狩られることもままあります。
そうして路頭に迷う幼子たちが、私の元へとやってくるのです。
私も全てを抱えることは出来ません。故にセイルやフェリアのように小さく育て、
保証された環境へ移し、他の方に世話をさせることもあります。」
――言い回しがあるが、これは柊の事業の一部だった。
竜の小型化、ペット化が彼の主な事業だ。
もちろん、絶対的な信頼と魔術契約の元に飼い主へ渡しているし、アフターケアもしている。
「……貴方様の道は大まかにいえば二つになります。
一つはあの男が言っていたように、この島の組織である生活委員会へ異邦人として申請に行く。
もう一つは私の研究所です。ただこちらは狭く、同居人も多いので、
異邦人として申請するのが一番だとは思っておりますが。」
■■■■■ > 「よい。考えてみれば、貴様がそのような発想をするということは
すなわち、このチキュウの今までの為政者がそのような愚物であった、とそういうことなのじゃろう。
安んずるがいい。これよりは、”世”の世界。
住みよき世にしてやるのじゃ」
自信たっぷり。幼女は言い切った。
いささか迫力にかけるところがある気もするが……
「――――いや、いい。みなまで言うまい。
●●●の手では限界もあるというものじゃ」
柊の仕事を聞き、思うところがあったのだろう。
なにかを言いかけ……やめる。
そして――
「いまいち良し悪しがわからぬな……
よし、わかった!
まずは貴様のケンキュウジョとやらから案内するのじゃ!
全ては見ねばわからぬ」
出された2つの選択肢。
しかし、正直、この世界もわからないうちには全く判断がつなかった。
それであれば、どちらも見てみる、というのが良いやり方であろう。
■羽月 柊 >
「……私の所からですか??? かなりの数の子達がいますよ?」
割と面食らった顔をした。自分の研究所は
サシミノタンポポぐらいに選択肢にそっと添えた気持ちだったのだ。
「どちらにせよ、主導がどちらかというだけで、異邦人届は必要ですが…。」
まぁ、言っても聞かないというのは振舞いから分かるので、
案内しますと言って歩き出す。
ここは転移荒野。研究区は隣の区画であり、割と研究所ならば近い。
■■■■■ > 「そも、”世”に連なる眷属たちがいるというのであれば、
顔を見ねばいかんのじゃ。
”世”が此処にある、と示さねばなるまい!」
フンスっという感じに息巻く龍。
威厳があるのか無いのか……
「なんじゃ、イホージントドケ、とやらは必要なのか。
その辺りも教えるのじゃ」
案内に素直についてはいく
ついてはいくが、おとなしくする、とは一言もいっていない。
ケンキュウジョまでは割と近い距離だったはずなのに、そうとは思えないくらいにあれこれと質問をしかけるのであった。
■羽月 柊 >
帰る道中で数年分の敬語を使った気がする………。
とりあえず、研究所に一旦寄り、孤児院ならぬ孤竜院状態になっているそこに顔を見せ、
その後に異邦人届をするために必要なモノをまとめ、更に案内は続くのだろう。
そこで彼の息子に出逢うのか、何があったのかは、また別の話…。
ご案内:「転移荒野」から■■■■さんが去りました。
ご案内:「転移荒野」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「転移荒野」に人見瞳さんが現れました。
ご案内:「転移荒野」に山本 英治さんが現れました。
■人見瞳 > 転移荒野には、過去の転移の余波で生まれた大小無数の穴が開いている。
落とし穴くらいのサイズのものから、クレーターみたいな大きなものまでさまざまだ。
そこに雨水がたまり、地下の水脈とつながって湖になる。
やがて草木が生い茂り、鳥や小さな生き物たちが集まってくる。
転移荒野にはそんな風にして、不自然に生まれた自然が広がっている。
そんな中でも最大の「転移湖」のほとりに私は立っていた。
『ほんとにいるのかなー?』
「それを確かめに来たんでしょ」
私の頭上、偵察用ドローンが唸りをあげて駆け抜けていく。
『常世島に潜む謎の首長龍《とっしー》……か。ふざけた名前だ』
ヘッドセットから別の私の声がした。
やっぱり気になるのかな。常世島が誇る謎のUMAとっしー。
未知の存在と接触するかもしれない時は、かならず複数人でモニタリングを。
というかそもそも、よい子は転移荒野に近づいてはいけません。
なぜならとっても危ないから。
お姉さんとの約束だ!
■人見瞳 > ドローンの行方を目で追っていると、唐突に別の私から通信が舞い込む。
すべての私に同時発信できるオープンチャンネルの入電だった。
『どなたか、転移荒野の近くにいませんか!?』
『うわぉ! 何何どうしたの?』
『今ならひとり現地にいるが』
「………とっしーより大切なこと?」
『たぶん、はい。「お客様」がいらっしゃいました』
私たちのあいだに緊張が走る。
異界からの客人。
本来であれば、決してこの世界に現れるはずのないものたちだ。
彼らにとってもこちらは異世界。
転移直後は混乱の極致にあって、ひどく怯えていたりもする。
私たちの常識や善意が、そのままに通じると思ってはいけない。
文化も価値観も、そもそも種族からして違う存在がこの荒野には現れるのだから。
『Valut 3に熱源反応アリだ。近くだな』
「うん。私に任せて」
『単独行動は推奨されませんが……大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃないけど、装備は揃ってるから。みんなもモニターしてくれるでしょ?」
『ん~~~~? どうしよっかな~~?』
『ふざけている場合か!!』
『わかってるってば。このままドローン回しちゃうねぇ』
観測機器を背負いなおして、地図アプリを頼りにVault 3へと歩きだす。
■人見瞳 > Vault 3。
《ブルーブック》が転移荒野のあちこちに設けた避難所のひとつ。
この世界に飛ばされた人々のために開かれた、最初の文明のともしび。
小さなシェルターの中には、快適に寝泊まりができる施設が備えられている。
水や食糧の備蓄があるほか、テレビに本に雑誌に漫画に……と至れり尽くせりだ。
そこは招かれざる客人のための場所。
誰が来てもいい様に門戸が開かれているのだけれど―――。
「中の様子はわかる?」
『すこしお待ちを。映像出しますね』
ビデオチャットの画面のひとつが監視カメラの映像に切り替わる。
不鮮明な映像に目が慣れてくると、滅茶苦茶に荒らされた様子が見てとれた。
『NANIGOTO!!?』
『これは酷いな………お客の姿は映っていないのか?』
シェルターの中で竜巻が発生したみたいな惨状に私たちが言葉を失う。
監視カメラの映像が巻き戻されて、シェルターが異変に襲われた前後へとさしかかる。
『……………なにこれ…?』
■人見瞳 > 監視カメラに写っていた「お客様」。その姿は異様そのもの。
遠目に見えるシルエットは人型に近く、けれどそれだけ。
顔のような部位は大きく縦に裂けて、棘のように鋭い乱杭歯が無数に突き出ている。
青みがかった肌は分厚い筋肉の鎧で覆われ、虚ろに濁った瞳は深海魚のそれに似ていた。
副腕のひとつが大きなテーブルを軽々と持ち上げ、壁に投げつける様子が映りこんでいて。
『わー!! 絶対ヤバいやつじゃん!!!!』
『あっ、奥の部屋にいました!』
『封鎖しろ! 今すぐにだ!! 僕は風紀に一報を入れる!』
「うーん…行きたくないなぁ……」
映像が切り替わり、奥まった部屋に閉じ込められた「何か」の姿が映し出される。
怒りにかられて猛り狂い、異世界の言葉のような何かを叫んで壁面を乱打している。
『ジェット機が突入しても傷ひとつつかない特殊合金だ。破られる心配はない、が……』
『接触は避けて、風紀の皆様にお任せした方がよろしいのではなくて?』
『かもねえ』
Vault 3の建物に近づくと、鐘を突くような、銅鑼を打ち鳴らすような異様な物音がしていた。
「こわっ。誰か来るまで外から見張ってる感じでいい……?」
『さんせーさんせー大さんせー!!』
『……………ん、待て……おい、あいつはどこにいった?』
■山本 英治 >
なんだかんだで最近、転移荒野にいることが多い。
防塵防砂対怪異戦装備も装着に慣れて。
今はジープに乗って転移荒野を見て回っている。
昨日は帰りが遅くなった。
転移荒野に舞い降りた金色の龍、ヒメを襲ったロリコン疑惑が長引いたからだ。
疲れが残るほどではないが、精神的にはもう帰りたい。
その時。
「うん……?」
通報だ。どうやら怪異らしい。
生活委員会共々、現場に急行せよ、か。
「じゃあ行くしかねぇよなぁ…」
今日も帰りは遅くなるかもな、とひとりごちながらジープを走らせた。
■人見瞳 > 『嘘……シェルター内部のどこにもいません!』
『えー? 封鎖したじゃーん。貸してみ貸してみ??……あーほんとだ。消えちゃったみたい』
監視カメラの映像が目まぐるしく切り替わる。
そのどこにも映っていない。あんなに大きな存在が。煙のように消え失せてしまった。
「待って。諦め早くない? ちゃんと探した…?」
『脱走されたのでないとすると……サーモグラフィーに切り替えてみろ』
『光学的に透明になってるってこと?』
監視カメラが室内の熱分布を色づけして可視化する。
私たちが手分けをして複数台同時にチェックして、それでも異常な点が見つからない。
『マズいぞ。中にはもう……いないのか…?』
『壁をすり抜けちゃうマンだったとか』
「…………はー……見てこなきゃダメかな……」
『ふぁいとー!』
さっきまでの大騒ぎが嘘みたいに静まり返ったVault 3。
対BC装備に身を固めて、気密性を確かめてからぽっかりと空いた入口へと踏み込む。
異邦人を歓迎する映像を流していた液晶パネルが真っ二つになっていた。
照明も設備も破壊され、真っ暗になった空間をライトの明かりだけで進んでいく。
自分自身の吐息と鼓動と、調度品の残骸を踏みしめる音だけが大きく聞こえる。
―――そして、封鎖したばかりのドアの前へとたどり着く。
■山本 英治 >
さっきから聞こえる通信機が慌ただしい。
通報者は人見瞳。ヒトミ・ヒトミ……確か、偏在する女学生として有名だ。
分裂して。活動して。合併して。同期して。分離して。
そんなことを繰り返している、とか。
ブルーブックという異邦人関係の組織に所属しているとか。
俺も遠目に見たことがある。
二人組(一人だけど)の可愛い女の子だった。
「それで、人見瞳はなんだってこんな僻地に?」
通信機から返答はなかった。
誰も知らないのだ。
行ってみればわかる、か。
アクセルを強く踏み込んだ。
■人見瞳 > 『どうでした? やっぱりもういませんか……?』
「わからない。けど……」
平和的なコンタクトはもう望めない気がする。
こんなにもはっきりと攻撃性を示す「お客様」は滅多にいないから。
『開けてみるか?』
「……………開けたくないんだけど!!」
『そのまま誰かが来るのを待つ方法もありますけど……』
『僕らではなく、別の犠牲者が出る可能性がある』
私が口にした言葉にびくりと身体が反応する。
そう、風紀の人が対処すれば別の誰かが傷つくだけ。
もしかしたら、たったひとつの生命まで失くしてしまうかもしれない。
―――それだけは許せない。絶対にあってはいけないことだ。
「開けてみて。ちょっとずつね。何かあったらすぐ閉めて。いい?」
『りょーかーい! 気をつけてね』
銀行の金庫室みたいに、ドアを固定していた杭が遠隔操作で引き抜かれる。
たくさんの私が固唾をのんで見守る前で、少しずつ少しずつドアが開いていく。
■人見瞳 > そして異変は、隔壁の隙間が人間の頭ひとつ分くらいまで開いた瞬間に。
闇の奥から大きな手が突き出され、隔壁に爪を立てる。
『わーーー!! やっぱいるじゃーーん!』
『馬鹿な! 完全な熱光学迷彩だと!?』
「いいから閉めて!!! 早く!」
油圧式の動力が作動して、大きな手のひらごと圧し潰す勢いで封鎖を始める。
扉の向こうからさらに二つ三つと手が突き出され、四つ目で拮抗する。
「………………ぁ、あ………!」
青い肌がぐんぐんと盛り上がる。機械の軋む音がする。
ガコン、と何かが外れた音がして、隔壁が一気に開け放たれる。
気付けばどこかの壁面に吹き飛ばされ、視界に極彩色の星が乱れ飛んでいて。
生暖かい血潮が前髪を濡らし、どろどろと額から滴り落ちていた。
「―――――――………」
■山本 英治 >
連絡の通りなら。
怪物だ。怪物が女の子を襲っているとしよう。
どうするべきか………考えるまでもない!!
『それなら、「目の前で人を殺しそうな相手で、殺しでもしないと止められない」相手がいたら。
もしみんなが警ら中で、それを見かけることがあったとしたら、みんなはどう判断する?』
幌川先輩のあの日の言葉が頭の中に浮かぶ。
俺の答えは、もう決まっている!!
■NPC > 「ピザの配達でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!!」
■山本 英治 >
ギリギリで制動をかけ、ブレーキをかけた。
飛び降り、シェルターの中へダッシュ。
人が倒れている。
人見瞳と思われる少女の元へ。
「大丈夫か!? 今、人を呼ぶ! 死ぬな、人見瞳!!」
抱き起こして、意識の確認をする。
■人見瞳 > 全身の細胞が悲鳴をあげて、経験したことのない痛みを訴えていた。
喉の奥からこみ上げた血の塊が器官をふさいで激しく咳き込み、更なる痛みに襲われる。
「ごほごほっ……!!」
『やっば!! まだ生きてる? 聞こえてるー?』
流れ落ちてきた血液が目に入り、視界が塞がれてしまう。
ガンガンと耳鳴りがして、身じろぎさえもできないまま誰かの声を聞いた。
遠のいていく意識をつなぎとめ、頭蓋の中を乱れ飛ぶ声に集中する。
それは、その声はあの客人のものではなく―――。
風紀の人だ。「あれ」はまだここにいる。警告を発しないといけないのに。
「…………………」
私の声はひゅうひゅうとかすれた風音が漏れただけ。
背後から大きな腕が迫り、私を助けに来てくれた誰かを枯れ木のように投げ飛ばす。
■山本 英治 >
「指、何本に見える? 美しい顔が台無しだ、セニョリータ」
彼女の前で指を三本立てて軽く振る。
まずはペインキラーか、それとも止血か。
その時。
俺の巨体が持ち上がった。
嵐の過ぎ去った後のようなシェルターの中を。
サッカーボールでも転がすかのようにバウンドしていく。
「がッ!!」
起き上がって構えを取る。
───化け物め!!
「美少女傷害罪は重いぜ、ストレンジャー!!」
全力で崩拳を打つ。
この単なる中段突きには、俺の七年の鍛錬が込められているぜえッ!!
■人見瞳 > 「……………」
返事をする代わりにごぼごぼと溺れるように鮮血を吐く。
肋骨が何本か折れて、内臓が傷ついてしまったのかもしれない。
私は……今ここで生きていた私は、もう長くはもたないのだろう。
それでいい。それでもいい。私の代わりに、この人が助かるのなら。
『おい!! そこのお前、何してるんだ!? 退避しろ!』
『ごめん邪魔! ちょっと出てってくれるー?』
シェルターの壁面から武装モジュールの機械腕が吐き出され、「お客様」に攻撃を加え始める。
暴徒制圧用のワイヤーといった非殺傷武器も効果がないわけではない。
ほんの数瞬でも動きを制約して、その間に風紀の人の一撃が叩き込まれる。
異形のマレビトは半歩よろめき、膝をつく。しかし衝撃は分厚い筋肉の鎧に吸収されてしまう。
歯向かう者の全身を砕かんと、副腕のひとつが怒号とともに打ち下ろされる!
『硬い、ですね……これならどうでしょう?』
マニュピレータに接続された機関砲が火を噴き、秒速100発の銃弾を叩きこむ。
青い体液をまき散らし、異形の腕がひとつちぎれ飛んでいった。
■山本 英治 >
「退避だぁ!? まだお前を助けてねーよ!!」
元気なほうじゃなく、こっちで死にかけてるほうの!!
異形をワイヤーが拘束し、機関砲が腕を千切り取る。
それでもまだだ!! まだこいつは生きてる!!
まだ俺はこの人見を助けてねぇ!!
「お前……カタいな…!!」
怯むことなく、拳と蹴足を繰り出していく。
八極拳。形意拳。心意六合拳。翻子拳。陳氏太極拳。
全て、全てを出してなお、相手の筋肉を貫けない!!
「人見!! 早く救助を呼べ!! 俺が時間を稼いでる間に人見を助け出させろ!!」
連打、連打、連打。
重く、鋭く、打つ。