2020/07/23 のログ
■アーヴァリティ > 『うるさい!』
「うるさいのはお前だ!黙れ黙れ黙れ黙れ!」
自分の中で自分と喧嘩するとか。馬鹿らしい。でも、叫ばずにはいられなかった。
視界がぼやけて、天高く伸びる光の柱が白金の何かとなって視界を染め上げる。
一色で埋まった視界の中、悲痛な叫び声を上げ続ける幼い子供はひたすら否定と肯定を繰り返す。
『僕は戦いが好きなんだ
僕は孤独じゃない
僕は怪異である事を誇りに思っている
僕は人間にありたいなんて思ったことはない
僕はお話がしたいんだ
僕は誰かと一緒にいたいわけじゃない』
そしてそれを、うざったい思考が。こびり付いた離れない、否、隠され続けて深く根を張った怪異の本音が。
随分と昔に忘れてしまった記憶が。
もう目覚める事はないと思考の端からすらもこぼれ落ちたそいつは。
僕の否定と肯定を、自己防衛を。忌々しげに、辛そうに、悲しそうに読み上げ続ける。
『認めたら?』
頭を振り続けた影響ではない。
もう逃げ道はないと。随分と追い込まれた、認めたくなくとも認めざるを得ない。
でも、認めたくないと。堂々巡りを続ける思考がエラーを吐いて体が再び倒れた。
こんなんじゃ、機械未満だ。
■アーヴァリティ > 『認めたら、進めるのに。このまま居ても楽には済まないってわかってるのに』
駄々を捏ねる子供をあやす母親のように手を差し伸べる僕。
その手を取れば...突き落とされるのは言わなくともわかる。
試練に、僕が先に進む為に、変わる為に必要な試練に突き落とされる。
進化しないのか、と。切人の言葉が頭をよぎった。
嗚呼、これが進化だと言うのなら、これを受け入れて進むのが進化だと言うのなら。
「酷いよ...」
認めたくない。
僕は孤独が嫌だから、人間になりたくて、その為に魔法を覚えて、異能を得たから人に為って、擬態して。
それを誤魔化す為に怪異である事を誇っていたなんて。
信じたくない。
倒れたまま、涙を流し続ける幼子が、酷く掠れた、普段の調子を損なわない調子で、震えを必死に押さえて。
嘆いた。哀れな幼い怪異を。
自我を得たから、知能を得たから、力を得たから、異能を得たから。
そして、人との関わりを得たから。
この島は素晴らしい。
僕を進化させてくれる、先に送り出してくれる。
素晴らしい島だ。
わかってても、進めない自分だけが。
ダメだ。
『場所に頼るのは悪くないと思うよ。ほら、あそこに考えるには...ちょっと奇抜かもしれないけど』
『あんなに神々しいんだから。きっと導いてくれるよ』
横向きの視界をも埋め尽くす白金の柱がその視界により一層、存在感を増して映った。
あそこに行けば、何か得られるかもしれないと。
僕もそんな気がする。
でも、今は...
「ちょっと...休ませて欲しいかな...」
叫んで、泣いて、痺れて、倒れて、起き上がって倒れてと。
随分と忙しい。ここ最近悩みっぱなしで、思考が晴れたのなんていつぶりか。
そして、ようやく、少しだけ進めたのなら。思考がまとまったのなら。
安心のまま、僕のやれやれ、といった声と共に。
寝るには少し硬いけど、
あのふかふかの布団を思い出してしまうけど。
試練に突き落される前に、その中に飛び込む前に。
少し休むとしよう。
「おやすみ...」
ご案内:「異世界産廃墟郡」からアーヴァリティさんが去りました。
ご案内:「遺跡群」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
■トゥルーバイツ構成員 > ジェドは異邦人だった。
門を通じてこの世界にきて、翻訳魔術をかけられ、異邦人街で過ごした。
だが、そこにジェドの居場所はなかった。
■トゥルーバイツ構成員 > リザードマンのジェドにとって、この世界はただただ、ジェドには馴染めない場所だった。
空気が馴染めなかった。言葉が馴染めなかった。文化が馴染めなかった。
食事一つとってもジェドには物足りず、会話をしても砂を噛むような思いばかり。
ジェドは、異邦人だった。
異邦は、ただ遠かった。
■トゥルーバイツ構成員 > 「まァ、ここなら邪魔は入りませんかネ」
ずらりと牙の並んだ口を開けて笑う。
実際は笑っているわけではない。
大きな口を開けて喋る都合、そうなるだけだ。
威圧的にならないように笑みを象る癖がついた。
ジェドは笑う以外の喋り方を知らない。
それ以外の喋り方は忘れてしまった。
そも、ジェドは元々は言葉を持っていなかった。
そんなものは必要としない種族だった。
ジェドの種族同士は舌先を震わせるだけで意思疎通ができる。
言葉なんてややこしいものは必要ない。
だから、それも含めて、ジェドはどこまでも……異邦人だった。
■トゥルーバイツ構成員 > 日頃、ジェドは車椅子に乗って移動している。
尻尾が通るように作った特注品。
今も、その車椅子で此処まで移動してきた。
ジェドが《門》を通じて《転移》した場所。
この世界で初めて着た場所。
半分は願いも込めていた。
ジェドの願いは、至極単純だった。
「ここなら、少しは『帰りやすい』ですかネ」
■トゥルーバイツ構成員 > ジェドにとって、『トゥルーバイツ』も居心地の悪い場所だった。
どいつもこいつも好き勝手なことしかしないくせに、やることなすこと全てが回りくどい。
腕力に訴える事のほうがずっとわかりやすい。
ジェドは出来ればそうしたかった。
だが、出来なかった。この世界がそれを許さなかった。
その結果として、ジェドは今は車椅子の使用を余儀なくされていた。
それも含めて……ジェドにとって、日ノ岡あかねの誘いは魅力的というより、ほとんどただの山師の囁きでしかなかった。
しかし、ジェドには……どんな慰めよりも、その『囁き』のほうが楽だった。
当初から『計画』に加担したジェドは、この日をただ待ち、ただ無我で過ごした。
『燃える空』のジェド。この名前も気に入らない。
自分はそんな名前じゃない。
自分はそんな言葉で表せない。
勝手に『この世界にローカライズ』しやがって。
名誉ある死すら、この島にはない。
ジェドは戦士として死ぬことすら許されない。
なら、もうジェドの取れる選択肢は……一つしかなかった。
■トゥルーバイツ構成員 > 「そろそろ、ですかネ」
震える身体に鞭を打って、傍らの槍を手代わりに立ち上がる。
特殊合金製の槍。これも気に入らなかった。
確かに、ジェドが元々故郷で持っていたそれより遥かに武器としては高性能だ。
だが、そんなことはどうでもいい。
そんなことは重要じゃない。
ただ、これは『違う』のだ。
それでも、見た目だけは何とか似せたそれを片手に立ち上がろうとして……転んだ。
「……情けない、です、ネ」
立ち上がる事も、ジェドには既に難しかった。
この世界はジェドにとって……酸素が薄く、重力が強すぎた。
おかげで、ジェドの体は今や全身至る所が忌まわしい技術によって生かされている。
骨も出来る限りまで『補強』した。
それでも、立ち上がる事すら難しい。
何もかもが、ジェドには忌まわしかった。
■トゥルーバイツ構成員 > せめて、体さえ動けば。
ジェドは常にそう思っていた。
せめて、体さえ五体満足なら……死ねたはずなのだ。
戦士として。脅威として。
異邦の恐るべき怪物、『燃える空』のジェドとして。
華々しく戦い、血に躍り、その末に戦士としての死を得られるはずだった。
だが、この世界は……そんなジェドの切なる願いまで、踏み潰した。
■トゥルーバイツ構成員 > だから、ジェドは『真理』に手を染めた。
忌まわしい技術と希望とやらに縋った。
何もかもを擲ち、誇りすらも投げ捨てて、たかが人間の小娘の甘言に乗った。
無理に全身を強化して、無理に戦うということも考えた。
だが、その意図は既に委員会に察されていた。
故にジェドは……『戦えるほど』までの治療は受けられなかった。
それをすれば暴れることはわかっている。
だから、誰もジェドをそこまで治療はしなかった。出来なかった。
落第街ですら、そうだった。
金を積めばそれも出来たかもしれない。
だが、そんな金はどこにある。どうやってその金を手に入れる。
答えなんてわかりきっていた。
■トゥルーバイツ構成員 > 『デバイス』が、妖しく輝いた。
接続可能の合図。
ジェドの願いは分かりやすい。
故に、そこまで時間は掛からない。
ジェドは笑って、無理に笑って立ち上がる。
紛い物の槍を片手に、鉛よりも重い身体を引き摺って。
そうだ、自分は帰るのだ。
あの故郷に帰るのだ。凱旋するのだ。
なのに、女子供の様に座り込んでいられるか。
立ち上がれ、立ち上がれ、立ち上がれ。
その想念だけで、立ち上がる。
震える脚に喝をいれ、全身に力を入れて……ジェドは『デバイス』を握り締める。
「『真理』よ……私の『願い』を叶える方法を、教えてくださいネ」
出来損ないの翻訳魔術、全部語尾に『ネ』をつけやがって。
俺をまとめるな、俺をその他大勢にするな、俺を括るな。
ふざけやがって。
だから、願いなんて。
もう、わかりきってる。
■トゥルーバイツ構成員 >
「私に『戦士として誉ある死』を与える方法を……ネ」
■トゥルーバイツ構成員 >
――――――
■トゥルーバイツ構成員 >
―――――
■トゥルーバイツ構成員 >
――
■トゥルーバイツ構成員 > 後に残ったのは、立ったまま事切れたリザードマンの死体だけだった。
その顔に張り付いた笑みは、どこまでも満足気で、どこまでも満ち足りていた。
その死を知る者が、どれだけいるかは知れない。
だが、一つだけ残った事実がある。
彼は彼なりに戦ったのだ、この『世界』と最期まで。
■トゥルーバイツ構成員 >
その『願い』の結末と行方は、誰にも分からない。
ご案内:「遺跡群」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ご案内:「遺跡群」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > 「…………………」
家族への手土産に、なんて携帯電話に様々な景色を切り取っていた。
あのひとの言葉通り――この眼が多くを視るための日常。
行動範囲を広げようと思った矢先の事だ。
まず目に入ったのは無人の車椅子の後ろ姿であり、
「…………………」
次には死体だ。ひとめ見てわかる。
異邦人か、この様に変質してしまった地球人かはわからないが。
静かに歩を進めて、そちらに歩み寄る。
手は触れずに、亡骸の近くにしゃがみこんだ。
■群千鳥 睡蓮 > そう、ひとめ見てわかる。
既に天命を全うした者である、と。
視線は一瞬だけ、冷たい光を発しているデバイスに目が向いた。
死因はこれだろう、となんとなく思った。
その身体はボロボロで、それこそ車椅子に頼って此処に来るような身体なのに、だ。
第六感。本当に、なんとなく。それが確かである必要はない。
「………………」
息を吸って、吐く。
笑っているように見える。
それが本当にそうなのかなど、もはやわからない。
いや、全く、本当に勝手な話だ。
生者が死者を語る。その時に往々に起こる勝手な解釈。
「あんたは、受け入れられたのか?」
運命を。
――で、あってほしい。そんな期待を込めた、完全な独り言。
■群千鳥 睡蓮 > 運命論。
少なくとも自分が奉じているそれは、
『すべてを定めている存在』を定義するものではない。
後ろ向きな諦めを、何かのせいにするといったものではない。
「そうせざるを得なかったのだとしても」
何もかもに意味があり、何もかもがそのために在る。
その終端の在り方が運命であり、如何にしてそれを受け止めるか。
物事への弁え方のアプローチだ。
「やらずには居られなかったんだとしても」
誰が指差しその有様を笑おうと。
「……自分で『選んで』、『決めた』なら」
であれば、この存在が生きていたとして。
自分が問えたことはといえば、精々は名前くらいのものだっただろう。
物言わぬ仏には、もはや問える言葉もなかった。
だからこれは、全く勝手な独り言。
■群千鳥 睡蓮 > これは生者の勝手な推測に過ぎず。
しかし、唯だ、識だけがあるこの無数の世界の在り方を見れば。
黒い影は、その有り様を認識し。
自らの世界にその存在を刻みつける。
祈りも経も読めぬ身なら、浮かんだ衝動にけりをつけると立ち上がり、
コートの裾を翼のように払い、その場を後にする。
選んだ死は穢すまい。
触れもするまい。
誰にも報せるまい。
ただそこに勝者が在ったと、認識しただれかが居ただけの話。
■群千鳥 睡蓮 > 残るは沈黙。
ご案内:「遺跡群」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。