2020/08/29 のログ
ご案内:「転移荒野」にハルシャッハさんが現れました。
ハルシャッハ >  
――転移荒野。
この世界に変容が起きた、その時に共に生まれた未開拓の荒野であり、
何者も寄らぬ、ただ獣と未開のそれだけが広がる場所。

そんな、あまり誰も来ないであろう場所に、男はいた。
街の中で使用するにはまだ少し早い、そう感じた、あるものの練習のために。

「――誰も来ねぇからこそやれることがあるってものかね……。行くか。」

そう、ポツリと呟けば、深い呼吸を一つして、意識を集中する。

『風よ 己に 纏え』

竜の言葉で紡ぐ言葉は蛇の言葉にも似た長い歯舌の音にも似たものだ。
己の白に纏わせる風を呼び起こすための魔術詠唱、
より言うならばこの後のための戦闘に向けての下地を作る、
そのための荒野での練習だった。

ハルシャッハ >  
――元来、男が纏う白は正面からの戦闘を助けるための風切羽であり、
同時にそれは空中の走行を可能にする魔術を纏わせたものだ。
風と親和性は比較的高く、また同時に追い風が己に常に吹くならば速度も早くなる。

男は、それを知っていたからこそ、今の精霊魔術の組み合わせを考えていた。
魔術的に付与されたものを精霊的に更に付与することで、
より速度を増すことができないか、と。

軽くサイドステップを踏む。
進行方向に突風の追い風が吹けば、白からは梟の羽が舞った。
空中の高速移動の感覚が、男をより速い世界へと連れて行く。

「――速えぇな……。 慣れるまでにかかるか。」

二度、三度とステップを踏めば、
それは天使との舞踏と左程変わらぬ速度まで早く、
そして少しづつ制動を取り戻していく。

ハルシャッハ >  
少しづつ、左右への動きが実戦を意識したそれへと変わっていく。
正面に敵を捉えながら盾を相手の正面に構え、
左右から敵の懐にダイブする動きは盗賊ならば狙うべきインファイトの構えだ。
今の魔力付与の力があるならば、その動きは容易に行える。

飛び込んだ先で体を捻り、回転の力を活かせば銀刃が想定敵の体を掠めた。
その回転をそのまま活かし、更にサイドステップを踏めば離脱する。
相手が振り返る頃にはこちらは相手のさらに後ろだ。
砂埃が舞い上がる中で、男はそれに紛れるように少しづつ速度と精度を上げながら、
どのように戦うべきなのか、そして新しい戦い方とは何かを見定めていた。

それは、自衛のためであるとともに、
同時にこれから先悪化しうる状況に対応するためでもある。
くるくると舞う動きの中で、刃を差し込む動きを練習しながら、
男はより先のことを考え、生きるための鍛錬を続けていた。

ハルシャッハ >  
――サイドステップを二度踏む。
梟の羽が二度舞ったと思えば、男の姿は向いていた方向の反対側へ。
風がもたらす速度に体がまだ追いつかないのか、ふらつくのは正直やむを得ない。
しかし、これを使いこなせれば男としては及第点だった。
実際早すぎるほどの速度だ、一日二日で慣れるとは思っていない。

「……やっぱ速えぇな……。 数こなすしかねぇか……。」

この夏場の暑さに汗だくになりながらだが、
それでもこの動きは練習するに値する。そんな事を考えながら、
男は二度三度と体を捌いては流しを繰り返していく。

初級の精霊魔術でも、組み合わせ一つで千変万化する。

それは、男が今よく実感していた。
現に、この使い方だけでも、戦闘のステージが変わる。
そして、音を消す事もある程度自前でできるようになるのが更に有用であり、
戦闘において逃れられない様々な要因を組み合わせ一つで消し込めるのは、
極めて強い要素でもあったのだった。

ハルシャッハ >  
――やがて、高速の舞踏もある程度疲労を伴って男の足を止める。
速度と付き合うための体があるといえど、
それでもやはり厳しいものは厳しい。
上がる息を肩で抑え込み、
タオルで汗を拭きながら木陰の水筒へと歩みをすすめるだろう。
給水を取り続けなければ、今年の夏は本当に暑い。

「――生き返る……。」

透明な液体が喉を潤す度に、自身が生きていることを再確認する。
汗が引くまでは、まずは休憩だろう。
持ち込んだタオルさえも、汗で完全に濡れる程度には、
この気温は殺人的だった。 魔術の冷却札がなければ、
生存自体が厳しいと思わせる程度には本当に、暑い。

木陰に足を伸ばして、男は木を背もたれ代わりに穏やかな時間を過ごしていた。
蝉の声が、耳膜をくすぐる。 ――これが、夏だろう。

ハルシャッハ >  
――やがて、男の姿もココからは消えるだろう。
鍛錬は短く、濃く。 その方が疲労も取れやすく、
また時間を無駄にすることもないと言うのが男の持論だった。

焦ることはない。 時間はいくらでもあるし、
まずは一つ、緊急時の札が増えただけでも十分だ。

男が日陰の世界に戻るのに、そう時間は要しない。
また、半日陰のその世界に戻れば、少しは涼しい場所があるだろうから――。

ご案内:「転移荒野」からハルシャッハさんが去りました。