2020/11/20 のログ
ご案内:「転移荒野」にイチゴウさんが現れました。
■イチゴウ > 果てしない夜空に星達が煌めいている。
荒野は棘のある寒気に包まれ、時折吹く風が地面の砂を巻き上げる。
多くの人間が微睡むこの時間に転移荒野で異変は起こった。
近づいてくる耳障りな甲高い爆音。
明かりなど存在しない暗闇が広がる転移荒野に突如輝いた眩い光、
巻き上がる黒煙からそれが何らかの大爆発であることは想像に容易い。
じきに遅れて衝撃波と爆発音が空気を伝う。
■イチゴウ > 煙と砂塵が晴れればそこにあるのは荒野を引っかくようにして転がる
航空機と思われる残骸と辺り一面に散らばった細かな部品の数々。
吹き飛んだエンジンが空しくファンブレードを回転させ
漏れ出た液体燃料が引火して辺りに炎を激しく灯し続ける。
炎は広がっていき、ついには機体をほぼ全て覆うほどに。
再び荒野の静寂が支配を始めた。風が炎を揺らす。
■イチゴウ > 紅く灯る残骸から漏れる様に何かが這い出てくる。
燃料といった液体ではない。むしろそれは砂状で異様なまでに白く。
それは意思を持つようにサラサラとどんどん外へと流れ出てくる。
燃え上がる機体から出てきたというのにその砂状の物体には
焦げといったものは全く見当たらず均一に同じ色をしていた。
残骸から白い砂の行列が途切れれば今度はその物体が堆積を始める。
まるで粘土工作のように柔軟に形を変えながら一つの構造体を形成していく。
厚みがどんどん増してゆく。
■イチゴウ > 「... ...。」
数分と経った。荒野の上に佇んでいたのはおかしな顔と丸っこい胴体に
四つの足を持つ不可思議な物体。
何を見るわけでもなくぼーっと直線上にその視線を向けている。
しばらくして身体を揺らすような幾つかの仕草を見せた後に
顔を上へと向けた。星空を見る。
■イチゴウ > 「... ...。」
何かしら納得できたのだろう。身体を揺らすだけだったその構造体は
四つある足を前から順番に動かし荒野の砂を踏みしみながら移動を開始する。
その足取りはまっすぐ直線を描いているものの行き先など決まっていない。
その歩行速度は遅いが確実に前へ前へと。
荒野を包む暗闇へ消えてゆく。
■イチゴウ > 日付が変わりたての真夜中に大企業の無人輸送機が転移荒野に墜落したという出来事は
今日の常世島のニュースで放送されるかもしれない。
フラッシュに包まれながら企業の代表者と思われる人間が出てきて
謝罪の後に機体はあくまで荷物を下ろした帰還中で
有害物質は積まれておらず墜落による被害も発生していないといった旨が連ねられるだろう。
人々が信頼するデジタル信号は必ずしも真実を届けない。
チャンネルが変わればお茶の間に届けられた一端の不安感は間もなく蒸発し
せいぜいネット空間の掃き溜めでつまらない陰謀論が囁かれるだけで終わるそんな程度の出来事。
但し一つの機械が彷徨いだした、それは紛れもない真実である。
ご案内:「転移荒野」からイチゴウさんが去りました。