2020/12/06 のログ
ご案内:「転移荒野」に虚無さんが現れました。
虚無 >  
 雲を裂き地面に降り立つ。
 今日、このエリアにこの姿で来た理由は二つある。
 一つ目は単純に戦力的な問題だ。奏詩としてここに来るのはいくらなんでも無理がありすぎる。まず間違いなく怪異の餌食になって終わりだろう。
 誰も見ていないし奏詩のまま能力を全開にしてしまっても良いのだろうが……もし万が一それを見られた場合生徒としての奏詩の終わりだ。
 そして二つ目は目的としてこの姿の方がふさわしいと判断したから。

「……情報ではこの辺りということだが」

 前の落第街の騒動。その時に逮捕され適当な理由で開放された落第街の住人。その一部がここの方面に放たれた。そんな情報を得たのだ。
 生存者などいるわけがないだろう。だがここならば遺留品くらいは見つけられるかもしれない。
 せめてそれだけでも……供養してやりたかった。
 その為に情報を得ていてやっとヒットしたのだが。

「流石に無防備に立っているだけ……ということはないか」

 流石にそのまま突っ立っている等は無い。逃げるようにどこかに散ったのだろう。だがそう遠くにはいけないはずだ。
 痕跡を探すのは無理だろうし、ここからはしらみつぶしに歩いて回る事になる。

虚無 >  
 一歩ずつ歩く。見落としが無いように、あるとは思えないがほんのわずかな痕跡も見落とさないように。
 冬の冷気が吹き荒れる荒野の中を一歩一歩しっかりと歩く。本来であれば寒さを感じるだろう。だが能力で冷気を拒絶している状態では寒さなど感じるはずもない。

「そもそも情報の真偽すら不明か……賭けというにはあまりに分が悪いか」

 思わず少しだけ笑ってしまう。
 失敗する可能性の方が高い状態。それでもわずかでもと思い行動したのは少しだけ悪の組織としては人間臭すぎるだろうか。
 でも来た以上ただ引き返すというのも意味はない。せめて何かひとつでも持ち帰りたい所だが。
 現状あるのは砂と岩とわずかな植物だけであった。

虚無 >  
 歩いているが結局中々見つからない。当然といえば当然だろうか。
 情報の真偽はともかく、仮に情報が本当だったとして近くにいるわけがない。歩いて逃げた走って逃げた。そういう意味だけでなくすでに怪異によって遠くに連れていかれたか食われたか。
 あまり遅いのも問題だろう。少し出直そう。そう思った時にふと目に留まった。

「……これだけか。被害者の物かはわからないが」

 拾ったのは安物の指輪。ここに迷い込んだ者のつけていたものか探していたものかはわからない。
 しかしそれを拾うとポケットにしまい込む。

「ひとつでも見つかったかもしれない。と言ったところか……先は長いな」

 地面をけると甲高い金属音と共に彼の姿ははるか上空へと消え去る。後には荒野だけが広がっていた。

ご案内:「転移荒野」から虚無さんが去りました。