2020/12/07 のログ
ご案内:「転移荒野」に石蒜さんが現れました。
ご案内:「転移荒野」に迦具楽さんが現れました。
石蒜 > 荒野を自転車が土煙を上げながら走っている。荒れ地用のマウンテンバイクではなく街乗りを目的としたシティサイクル、いわゆるママチャリタイプのそれを、メーカーが想定した耐荷重を超えそうなほどの力で立ち漕ぎしているのは、ファー付きのジャンパーにカーゴパンツ姿の褐色の肌をした女性、石蒜。革ベルトで出来た紐をたすき掛けにして、刀を背負っている。
その後ろ、荷台に座らされているのは同居人、焔誼迦具楽である。
荒れた路面をガタガタと跳ねながらも、鼻歌交じりで走っているのは、数ある中でも石蒜の一番好きな遊びである試合を迦具楽とやる機会が巡ってきたからだ。

「ここらへんかなぁー!」
急ブレーキとカーブ、車体を直角にして横滑りしながら止まったのは、転移荒野の中でも人どころか獣すら寄り付かない、岩と砂ばかりの不毛の地であった。
スタンドを足で蹴って立てると自転車を駐める。

「よしよし、かぐらー!降りて降りて!早くやろー!」
バンバンとサドルを叩きながら迦具楽を急かす、大人びた姿にもかからわず子供そのものといった仕草、豊満な胸が腕の動きに合わせて揺れた。

迦具楽 >  
 十二月に入り、寒さも本格的になり始めたこの日。
 暖房全開の部屋から出たくないと布団で丸まっていたら、友人に引っ張り出されてしまった。
 もちろん、嫌だったら逃げるなりなんなりしたので、遊びに行く自体は構わないのである。
 ただ、その遊びが少しばかり過激になるのが、ちょっと考えどころではあったが。

「うわあー」

 急ブレーキと急カーブ。
 横滑りしながら停止すると、荷台に乗せられていた迦具楽は勢いよく射出された。
 そのまま、やる気のない悲鳴を上げながら荒野の瓦礫の中に頭から突き刺さった。

 石蒜が待ちきれないとばかりに後ろを向けば、すでに迦具楽の姿はなく。
 近くの瓦礫から下半身だけが突き出して、だらんと垂れ下がっているだろう。
 

石蒜 > 「あれ、居な…あー!」
無人の荷台に首を捻る。見回せば見慣れた足が瓦礫から垂れ下がっており。

「もー、ちゃんとやってよ!こんなんで勝ちとか石蒜やだからね!」
吹き飛んだ責任を転嫁しながら駆け寄って無遠慮に足を掴んで引っ張り出そうとする。

迦具楽 >  
 勢いよく引っ張れば、ずぼっと抜ける。
 よっこらしょ、どっこいしょ。
 大きなかぶじゃないけれど。

「ええー、ひどいなあ。
 無茶なブレーキしたのは石蒜でしょー」

 引っ張り出された迦具楽は、多少汚れているが当然のように無傷である。
 今日はあらかじめ、皮膚の性質を変えてある。
 簡単には切れたり傷ついたりしないのだ。

「まあそれより、やるのはいいんだけどさ。
 勝ち負けとかどうするの?
 ほら、もうお互い殺したら死ぬ身体なわけだしさ、昔ほど無茶できないでしょ」

 と、脱げてしまったニット帽をかぶり直しながら聞いた。
 そう、昔のように、軽く何度も死ねるようなじゃれ合いを、気が済むまで続けるような事は出来ないのだ。

「あんまり怪我するような事するとサヤにも怒られちゃうし。
 何かしらルールでも決めておかないと危ないじゃない?」

 そもそも、この二人の『遊び』というだけで大概な事になるのだが。
 だからこそ好き放題やっていたら、うっかり大怪我くらいはしかねないのだ。
 

石蒜 > 引っこ抜いた迦具楽を立たせると、土埃を叩いて払う。
「石蒜は落ちなかったんだから迦具楽も平気でしょ、寒いからって気が抜けてるなー。」
やれやれ、と大げさにため息をついてみせる。

「んー、それだよねー。迦具楽ってさー、どれぐらいで死ぬの?今頭から突っ込んで無傷だから普通の人間よりは頑丈なんでしょ?
石蒜はまぁ、もう普通の人間、今みたいに突っ込んだら怪我するよね。」
お互い随分と変わったものである。落第街で辻斬りを繰り返していた怪異は血の気が多いだけの人間となった。

「うー、サヤはなぁー、サヤ怒ると怖いんだよー、石蒜が怪我しても怒るし迦具楽に怪我させても怒るからなー。」
サヤは怒っても大声を出すようなことはしないが、ひたすら威圧感を出しながら問い詰め続けるのだ。
同じ体に同居している以上石蒜がそれを逃れる術は無く、大の苦手になっていた。

「えーと、じゃあさー、血が出たら負けにしよ、で、刃物禁止。迦具楽って血出るよね、こないだトイレで出してたし。」
『遊び』のルール決めついでに、デリカシーの欠片もないような発言。

迦具楽 >  
「寒いのは苦手なんだってばー」

 こうして寒空の下に居るだけで、どんどんエネルギーを消耗するのである。
 とはいえ、今の貯蔵総量からすれば、微々たるものなのだが。

「どれくらい、かぁ。
 私も大体、人間が死ぬような事をされたら死ぬかな。
 今のはね、体の材質を変えてたから平気だっただけ。
 所謂、肉体強化に近いのかな」

 たしかに頑丈にすることは出来るが、それは前もって身体を作り替えておかなくてはいけないのだ。
 不意打ちや咄嗟の事には対応しきれない。

「サヤみたいな子は怒らせちゃいけないんだよ。
 浮気とかしようものなら、きっと私、刺されちゃうんだろうなー」

 なんて、笑いながら石蒜に近づいて、その頬を摘まみ上げようと手を伸ばす。

「それはそうと、女子どうしてももうちょっとデリカシーを持ちなさーい」

 迦具楽にだって羞恥心はあるのだ、一応。

「まあいいや、血が出たらね。
 じゃあ身体は戻しておこっと。
 あ、でも私、昔よりもかなり馬鹿力になってるから、そこは気を付けてよ?」

 肌の材質を普通の人間に戻しながら、足元の石ころを軽く蹴飛ばしてみる。
 それはライフル弾のように吹っ飛んでいき、岩にぶつかって派手にはじけた。

「――どれくらい抑えればいいかな?」

 蓄えたエネルギー総量に応じて変化してしまう、迦具楽の膂力は、中々加減が難しい。
 それこそうかつに触れれば理不尽に相手を壊してしまう。
 普段は何かと気を付けて、全力でソフトタッチを意識しているから何とかなっているが。
 ついうっかり、力を込めてしまえば大変な事になる。
 

石蒜 > 「寒さに強い材質に変えればいいのに、『子供は冬の寒風と夏の陽射しに鍛えられて育つ』ってサヤの世界で言うんだよ。んうー、じゃあ普通に斬ったら死んじゃうのか、気をつけないと。」
石蒜が本気で斬れば硬い金属や軟体でも容易く両断出来る、耐久の面ではそういう異能を持った人間とさほど変わらないのだろう。

「迦具楽浮気するつもり?浮気したらねー、専用の地獄に落ちるんだって、浮気された人に引っ張られてビリビリにされるのを何度も繰り返すんだって、迦具楽落ちたら可哀想だし浮気しないほうが…いひゃいー。まだ始まってないでしょー!」
クスクス笑いながら友人の末路を説明してあげていると、頬を引っ張られる。サヤから知識は受け継いでいるが、まだ生まれて4年しか経っていない石蒜にはデリカシーとは難しい概念だった。

「んー、じゃあね。」こちらも石を拾い上げて、軽く放る。背負った刀の柄に手をかけると、神速の抜き打ち。
音すら置き去りにした迦具楽のものに比べれば随分と遅い、時速100kmを超える程度の速度で石が弾き飛ばされ、同じ地点に着弾し砕けた。
「――これぐらいなら長く楽しめる。」
柄に手をかけた瞬間から振り抜いた姿のコマを切り抜いたような速度の一撃。
おおよその指針を示しながら、不死性を無くしても弱くなってはいないと不敵な笑みを浮かべた。

迦具楽 >  
「それはそれで疲れるんだよ。
 夏の日差しは大好きなんだけどなー」

 断熱性が高くなるよう皮膚を変えた事もあるのだが。
 それを長時間維持し続けるのは、そこそこ大変だったのだ。
 さすがに一冬続けていれば、体温を維持するのと消耗は大差ない。

「しないよ。
 私もサヤが好きだもん。
 怒らせたくも、悲しませたくもない」

 その時だけ、真面目なトーンで言って、石蒜から手をはなした。

「わーお」

 石蒜の見事なワザマエに、声が漏れた。
 なるほど、死なずでは無くなっただけで、むしろ強くなっているかもしれない。

「――あ、でもそれ、私くらったら死ぬからね?」

 もう一回り意識して手加減しようと思った。
 殴ったら殺しちゃった、じゃあ笑うにも笑えない。

 手を組んで大きく背伸び。
 屈伸しながら足を伸ばす、軽い準備運動。
 隣に並んだところから、一歩二歩と引いて、大体五歩。
 本気でやりあうには短すぎる距離だが、手加減前提ならこの程度だろうかと距離を測る。
 

石蒜 > 「じゃあいいよ、石蒜もねー、サヤのこと嫌いじゃないから、怒らせたり悲しませるヤツは許さない。」
お互いサヤをからかって遊ぶのはしょっちゅうだが、そこは共通している。にんまりと口の端を上げて、一度刀を収める。

んふふー、と感嘆の声に自慢気に息を漏らしながら距離を取る。
「オッケーオッケー、こっちも手加減するよ。迦具楽が死んだら石蒜もヤだから。」
指を組んで関節をを鳴らしながら、間合いは5歩で止まる。

「じゃあ、礼しよっか。礼に始まり礼に終わるのが試合なんだよ。あと『礼節を忘れた友は友にあらず』とかなんとか、いろいろ。」
両手をだらりと下げて自然体、まだ構えには入らないまま、サヤの知識から引用した言葉。
普段の石蒜からは思いも寄らないだろう言葉だが、従ってくれるだろうか。

迦具楽 >  
「お互い、うっかりやり過ぎないようにしないとねー」

 ちょっと遊ぶつもりだったのに、で悲しませるような事になったら目も当てられない。
 血が出たら負け、力加減は殴っても即死しないくらい。
 そんな大雑把すぎるルールを確認しながら、初手に『創造』するものをいくつか思い浮かべて。

「ああうん、礼――礼、え、礼?」

 なんだか、友人に似つかわしくない言葉を聞いた気がする。
 一瞬、ぽかんと口を開き、その後はわざとらしく目じりをぬぐった。

「うう、石蒜、大人になったんだねえ」

 友人の成長は素晴らしい。
 自由奔放を絵に描いたような友人が、礼節なんて言葉を使うようになるなんて。

「うんうん、そうだね、親しき仲にも礼儀あり。
 それじゃあ――よろしくおねがいします」

 そう手をそろえてオジギをする。
 同時に、いつ始まっても良いように、『創造』の工程を完了させて備えた。
 

石蒜 > 「よろしくお願いします。」
武術家なら誰もがするであろう試合前の礼。タイミングを合わせて頭を下げたその瞬間に石蒜の使う流派、人刃一刀流の攻撃は始まる。
下げた頭の体重移動とつま先のバネだけで前方宙返り。頭を上げた迦具楽の目に映るのは勢いよく飛び込んでくる石蒜の下半身。
「隙ありぃ!!」
アイサツ・キリングと呼ばれる技である。反応できなければそのまま首の上に座るように足を絡みつけ、フランケンシュタイナーの如く投げ飛ばされることだろう。

迦具楽 >  
 ――そんな事だろうと思った!

 アイサツからカマエに移り、ジンジョウにシアイを始めるのがレイセツ!
 恐ろしくも友人はそのレイセツを無視した技を放ったのだ!
 成長に喜んだ感動を返せ。

「これだからもう――」

 頭を上げながら、迦具楽のコートの裾から、ぼとぼとぼと、と球形の物体が幾つも転がりだす。
 迦具楽の最も多様する能力『創造』。
 その材質や構造を理解していれば、あらゆるものを造り出せる能力だ。

「――どっかーん!」

 そして、足元に転がった球形は一斉に爆発する。
 それらは全てが焼夷榴弾。
 焼夷剤が燃え上がり、爆発と同時に迦具楽の周囲を炎が包み込む。

 自分を火だるまにしながら、さあこい、とばかりに石蒜相手に両手を広げる。
 もちろん、炎を自在に操れる迦具楽は、火傷どころか服の繊維一つ燃えていないが。
 その体に燃えあがった炎を、鎧のように纏っている。

 迦具楽の武器は、肉体の材質変化でも、馬鹿力でもない。
 この、なんでもありの手札の多さである。
 開けてびっくりパンドラボックス。
 

石蒜 > 「これが石蒜とサヤの流派だもーん!!」
人刃一刀流はあらゆる手を使って生き延びることを至上の命題とする流派である。どんな手を使おうとも負けた奴が悪いのだ。

さて、並の使い手なら何が起きたかも理解できず頭蓋を地面に叩きつけられていただろうが、遊び相手足り得る友人はやはり反応してきた。
燃え上がる炎は槍衾の如き攻撃性の壁だ、このまま突っ込めば火傷は必須。即座に魔術で斥力の力場を発生させて空気を蹴る。
後方へ飛び退きながら蹴った空気が大きく風を起こし、巻き上げた土埃が両者の視線を遮った。

「んふー、楽しい。迦具楽さぁ、やっぱ好き。」
猫のようにしなやかに音もなく着地したのは10歩ほど離れた距離。時間を味わうようにゆっくりと背負った刀を抜いていく。
峰打ちになるよう、刃を返した。

「じゃあ次は、これとかどう?」
足元を切りつけて小石を跳ね上げ、左手に纏った斥力を使って発射する、その数同時に4発、大分加減した速度は時速50km程度か。狙いは四肢に1発ずつ、当たれば骨折ものだろうが、この友人ならきっと対処してくれるだろう。

迦具楽 >  
 あっさりと空中移動で熱い抱擁を避けられてしまう。
 火傷なら血が出ないから、ルール上セーフだというのに。
 本当にセーフだろうか?

 さて、迦具楽の武器が手札の多さというのなら。
 この友人の武器もまた、その手札の多さである。
 そして、その一つ一つがこれまた、殺意が高い。

「だーから、死んじゃうって!」

 材質変換をしていない身体は、あっさり壊れてしまうのである。
 当たり所が悪ければ死ぬような石礫を四発。
 まあまあ、野球選手の投球ほどじゃないからセーフとしましょう。

 とはいえ、手足の骨折はしたくないので防御はするのだ。
 纏った炎を熱に変換し、圧縮して薄く広げる。
 超高温の膜は、飛んできた石礫を瞬時に蒸発させた。

「そう言うことをするんならー!」

 思い切り地面を蹴って、熱の膜を通りながら突進する。
 迦具楽の身体は、先ほどの超高温の膜に覆われている。
 つまり、触れればその部位は一瞬で沸騰蒸発。

 でも大丈夫、血は出ないから。

 真正面から猛進しながら、両手で友人に掴みかかる。
 特に技があるわけでもなく、ただ掴みかかるだけとは言え、迦具楽に直接触れれば洒落にならない。
 これもまた、大概殺意の塊ではないだろうか?

 友人が友人なら、迦具楽も迦具楽である。
 手加減が出来ていない。
 おバカさんだった。