2021/10/21 のログ
> 「黙って見てな」

突然現れ狼を投げ飛ばした男は、後ろで混乱している青年を尻目に微笑いながら狼の方を見据える。

一息に飛びかかってきた狼は、どうやら自分の首をへし折ろうとしているようだ。
男は一瞬で臨戦体勢の構えをとる。その表情はどこか楽しそうでもあった。
右前方から剛速で迫り来る狼の前脚が首に振れる寸前、一瞬引き裂くように嗤った男は自身の右拳を裏拳の要領でその前脚に叩きつけた。

普通なら絶対に人間側が押し負ける状況。
常人ならばその腕が砕けるどころか、身体が粉々に砕け散っていることだろう_______
しかし、そこで砕け散っていたのは狼の前脚だった。

狼に苦悶と怒りの混じった唸り声をあげる暇も与えず、男はその左足を思い切り右斜めに薙ぐ。
周囲に轟音が鳴り響くほどの速度で振り回されたその足は大鎌のように______狼の頭を容易にその体から切り飛ばした。

100メートルほど先にぼとりと狼の頭が落下し、首なし狼の死骸がぴくぴくと痙攣しながらくず折れる時には、男は混乱して止まない青年の方に向き直っていた。

「よォ、大変だったなァ 」
男は狼の返り血に染まりながらも飄々とした態度を崩さなかった。
顔を流れる血をペロリと舐めながら青年を品定めするように見つめている。

霧島 孝介 > 「は、はい、黙ってみてます」

片手に持ってたメイスを地面に置き、彼の一連の動作を見る。
裏拳で受け止めた瞬間、援護に回ろうとするも、目にも留まらぬ速さで狼の前足が砕け
瞬きをした後には狼の頭と首が離れていた。

(こいつ……人間じゃねぇ…)

その光景に息を呑み、こちらに向き直る男に無意識に震える。
しかし、相手がどんな存在であれ助けてもらったのは事実だ。
ここは道徳教育を学んだ日本男児として、とりあえず礼を言おう。


「あ、あぁー…えっと、助けてくれてありがとうございました。あなたが居なかったら多分、首無くなってたかも…」

返り血に染まった彼をちょっと怖がりながらも、丁寧に礼を言い
良ければ握手を…と手を差し出す。

> 「首は皮一枚で繋がってただろうが、あの世には楽に逝けてただろうな」

背筋が薄ら寒くなる台詞を吐きながら、ニっと笑って男は握手に一瞬だけ応じる。
死体のようにひんやりとして、返り血でびちゃびちゃになったその手の感触にあなたはびっくりするだろうか。

「それから____別にお前を助けたかったわけじャねェ、俺は今日の食材『兼』遊び相手を屠りに来ただけだ」
男は周囲に散らばる死体の群れを見渡しながらそう言った。
今夜の食糧が手に入り、満足そうな表情である。

「お前が万全の状態だったらお前とも“遊んで”みたかったけどな.....お前が泣き叫ぶ表情とか面白そうだし」
少し残念そうなトーン、ではあるが嗜虐心に染まった残酷な表情で、あなたに向かって言い放つ。
そんな男の全身を包み込むように生暖かくどこか悍ましい雰囲気が男から漂っている。

霧島 孝介 > 「っ……」

男のセリフと体温、そして手に付いた狼の血。
それらに慣れない感情が押し寄せる。
恐怖、或いは焦燥。居心地の悪い感覚に背筋が凍り、一瞬喉が詰まる。

「…っすねぇ、いや、なら良かったんですけど、ハイ
 え、これ食べるんですか?」

何とか言葉を取り戻し、死体の群れに目を向ける。
彼の言葉を聞いた後、怪訝そうな顔をして死体を指さす。
いや、異世界由来のものだから食って大丈夫なのか…?でも多分、この男なら大丈夫なのだろう

「ははは、多分僕なんて鼻くそ以下に弱いんで、すぐ泣き叫びますよ」

冷や汗をかきながら、残酷な表情の彼に背筋が凍る。
居心地の悪い生暖かな雰囲気とそれに相反した彼の子供じみた発言により恐怖心が増す。
幸い、自分を今すぐ襲う感じではないので、ここは一つ雑魚のフリ作戦で行くことにしようと決意する。

ご案内:「転移荒野」にさんが現れました。
> 「この世界の肉食生物とだいたいおんなじ肉質だ」

デカい犬を喰うようなもんだよ、と言いながら、狼の親玉の死体、他に数体の狼の死体の尾を束ねて右肩に担いだ。
総じて1トンほどの重量の死体たちをその片肩で担いでいるのだが、男は重さを感じるそぶりも見せない。

「はは!そんなに偽るなよ!謙遜しすぎて自分を卑下するのは良くねェぜ?」

男はあなたが雑魚のフリをしてこの場を切り抜けようとしていることに気づいていた。
洒落臭いあなたの試みに対し朗らかに笑いながらも、その本心は隠しきれない邪悪に満ちている。
いつもの彼であればここで血みどろの殺戮を繰り広げるところであるが....
今はそんな気分でも無かったようだ。

「今はまだその時じャねェが.....今度会ったら本気のお前と戦れそうだな」

男はまたな、と別れを言うと狼の死体を引きずりながら東へ東へと歩いて行く。
ずるずると男が歩いた跡には狼の血がべったりと塗りつけられ、赫い道が続いていた。

霧島 孝介 > 「なるほど…」

いや、犬食ったことないんですけど!?と内心ツッコミを入れるが
やけに軽々しく狼を持ち上げる男に驚嘆する。
狼の攻撃を受けた事、首を一瞬にして切断したこと。
それらを考えれば、肉体強化系の能力だろうか…と予想を立てて

「ヒッ、あぁ…はい、じゃあ、多分強いですハイ…」

自分の真意を見破られ、情けない声を出しつつ、逆のことを述べる。
今まで自分の人生の中で遭遇したことない人種(そもそも人かわからない)に出会い、ひたすら困惑と恐怖。
消耗した状態で戦わなくて良かったと、冷や汗をかいて息を吐く。

「はは、そ、その時はお手柔らかにお願いします」

彼に手を振って、苦笑いを浮かべながら別れる。
彼が見えないところまで行くと、ガクッと肩を下ろして「疲れたぁぁ~」とため息交じり話す。
流石に今日はもう帰ろう…そう決断し、帰路につくのだった

ご案内:「転移荒野」から霧島 孝介さんが去りました。
ご案内:「転移荒野」からさんが去りました。