2021/11/15 のログ
■ノーフェイス >
「それならぁ…帰巣本能ってやつかもね。
迷ってもそこに帰れるように、そうやって造られるいのちがあるんだってサ」
熟考などしない、思いついた端から言葉を繰るような軽さで。
奈落の闇に引き寄せられてしまった少女のほうに興味が動いてしまうのは仕方がないことだろう。
この先で、一体だれが…なんていうのは考えても仕方がないから、女は考えてしまう。
「やぁっとかわいく笑ってくれたキミに、『こわい』なんて言われちゃって…
ボクは喜べばいいのか、悲しめばいいのか、わからないよ~」
腕のなかの重みがずしりと増したのを感じた。
女は、それが意識を手放した時の合図だと過去の色々から知っている。
不思議なもので、そうなるのだ…
少女にどんな形であれいのちが宿っているのだと、女は感じた。
「得意なことはそれなりにあるけど…ボクがすきなのは…『たのしいコト』だよ、調香師さん。
いっぱいつかれたみたいだから、いまはどうかゆっくりと眠って。
目覚めた時にみあげた天井が、キミのかえる場所なのかどうか、ボクにはわからないけど…
そこには、キミがいう『思い出の香り』がありますように」
あとは安全運転、風を切って飛ばすことはできない。
引き裂いてしまえる柔らかな体、女はじぶんのことを、
『こわい』といってくれた少女を、丁重に扱うことに決めた。
「『Wings Tickle』…ああ、きいたことあるよ、ちょうど、きのう。
カンラクガイの、香水屋さん…ははっ、ちょうどいい。
ボクもそこに帰るとこだったし…え、ウソ?
てことは島の反対側じゃん…このまま行くのぉ…?」
泣き言は漏れてしまうけれど、調香一回分の労働としては…順当か。
『おかしな事』はしない。眠る彼女に、島に漂う香りを。
少しずつ、少しずつ、彼女の寝床に近づいていく実感を…
目覚めたら女は現れた時のように忽然と消えていて、少女は知っている天井と出会うはずだ。
ご案内:「遺跡群」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「遺跡群」からノーフェイスさんが去りました。