2021/11/21 のログ
ご案内:「転移荒野」に深見 透悟さんが現れました。
深見 透悟 > 荒涼とした大地広がる転移荒野、月明かりの下で疾走する影が複数あった
一つは人型、その姿は五体満足な人にしてはいささかに歪で
具体的に言うなら、右腕が二の腕の辺りから、ボッキリと折れ失っていた

「―――クソッ、ある程度覚悟してきたとはいえ、これほどまでかよ!」

大小さまざまな岩に足を取られつつも、決して足を止めることは無く
迫る追手から逃れるべく、ただひたすらに走る

『Grrrrrrr!!』

そんな人影を追うのは二頭の獣
大型の犬の様な姿は、漆黒の闇から這い出たように月明かりの下にあっても黒く、昏い
獣の唸りを上げながら、逃げ惑う人影へと離れ過ぎず近づき過ぎる、追い立てる様に駆ける

深見 透悟 > 「魔力の残りも心許ないってのに、黒犬とはな
 とんだハズレクジ引いちまった、日頃の行いってやつかよ!」

走りながらも背後に迫る獣の気配に、舌打ちを一つ
身体を動かすだけでも魔力は刻々と消費され、手足が鉛の様に重く
元より運動に長けた方では無かったためか、精神的にも疲労の色が濃い
これ以上走っても逃げきるのは不可能、そう判断して人影は大岩を一つ飛び越えたところで足を止めた

「さてさて、既に片腕持ってかれてるけども
 元より土塊の身体……こいつで仕留めりゃ御釣りが来るってェの!」

呼吸を整える暇も持たず そもそも呼吸を必要としない身ではあるが
ピンと伸ばした左腕を獣の一頭へと向け、魔術を編み上げる
詠唱は省略し、魔具による補助なしの魔術
並みの術者なら焼け石に水にもならないそれを、人影は攻撃に値するだけのものへと編み上げ昇華させる

「―――≪焔よ≫」

口から異国の、異界の言葉が漏れ出ると同時に、眩いばかりの火焔が獣へと放たれた

深見 透悟 > 火焔は寸分の狂いもなく獣へと延び、高熱で以てその身を包む
苦しむ獣の吠え声を聞くまでもなく、人影は背を向け再び走り出した
片割れの苦悶の呻きに動じ、怯んでいた獣がそれに気づいて後を追い始める

「今ので倒せてたら御の字だったんだけどなー!
 ああクソ、とりあえずこいつらの狩場から出られれば……」

駆けずりながらも周囲に目を配る
月明かりに照らされた荒野は人の気配どころか生命の気配すら無く
否応にも自分が『そういう場』に這入り込んでしまったことを思い知らせてくる
兎も角、今は一刻も早くこの場から出なければ

「リリィはベッドに置いてきて大正解!
 ズタボロにされちゃ死んでも死にきれねえ――いやもう俺ってば死んでんだけどね!!!」

後を追う獣の足音が一頭から二頭に増えた
先の火焔では致命傷には至らなかったらしい。舌打ちをしながらも人影は走り、走って――

深見 透悟 > ――突如、鋭い風切り音と共に右肩に衝撃が走った
痛みこそ感じない土塊の身体であれど、衝撃の凄まじさに人影は弾き飛ばされ荒れた大地の上に転がる
転がってすぐに体勢を立て直そうとし、違和感に気付けば

「ああクソ、右腕丸っと持って行きやがって!
 作るの結構大変だったんだからなー!」

右肩から脇腹に掛けて、ごっそりと砕け落ちていた
半円を描くようにえぐり取られた痕は、人間の様に臓器も無く、血が滴る事も無い
糸で切られた粘土の様に断面を晒しているだけだった

「頭持ってかれてたら終わってたな――」

場違いな安堵の呟きを漏らしつつ、片腕一本で体を起こして立ち上がれば
既に獣は二頭、人影に追い付き、辺りを囲う様に歩き回っている
常に一定の距離を保って唸り声が闇色の獣から放たれている

深見 透悟 > 「ああクソ、本当についてねえや
 腕一本じゃ見逃してくれそうも……無いよなあ?」

断続的に響く獣の唸り声に問い掛けるも、答えなど無く
答えの無いことが答え、とでもいうかのように唸りに混じって蹄の音が近づいてくる
月に照らされた荒野で、魔術師の少年は苦虫を噛み潰したような顔で新たな影へと目を向けた

―――それは髑髏の頭と骨の体躯を持った馬
そしてそれに跨る、貌の無い狩人。手には弓を携え、腰には角笛を提げていた
月明かりに照らされてなお濃い闇を纏うかのような姿に、少年――深見透悟は自分でも気付かぬうちに身震いをし始めていた

「――ワイルドハント、まさかかち合うなんてな
 故郷じゃ御伽噺程度には知ってるが、現物は斯くもおっかねえもんかね」

物言わぬ狩人と、唸り続ける二頭の獣
透悟が知らず知らずの内に這入り込んだのは、彼らの狩場だった
迂闊、といえばその通りだが、そもそもこんなものが現出することを想定していない
精々が魔物妖魔の類である、そしてその為の準備は十全に行ってから来た筈だった

ご案内:「転移荒野」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 物事には死角というものがある。

 高度な技術が発達し、数多ある異能を制する異能にも依る監視網と、この学園の防犯機構は酷く優秀だろう。
 それでも、この学園にはこういう場所が多い。
 そもそも見放された場所であるとか、立場上一応警備しておくことにするだけの場所だとか。

 転移荒野も、それに近い。
 野放しに出来るほど安全ではないが、飼い慣らすには荷が重い。

 つまり。

(ここならなんか都合良いの転がってないかな~?)

 悪いコトを企むには良い場所ということ。

 この私にこの学園の知識はあまり無い。
 ただ“バレなさそう”な場所をぶらりと歩いているだけの、目的の無い散歩のよう。
 だから、ちらりと逃げる人影を見た時は、胸が躍った。
 ――思わぬ拾い物に。


 女は空を撫ぜるように指先を躍らせた。
 その指先から赤い光が迸る。
 さながら指揮者のタクトのように、光は紅い軌跡を描き、低く翔び――その半ばにあった黒犬の爪先を切り刻んだ。

「やっほ、生きてる?」

 ――決まった。
 荒野で狼に襲われる少年を助ける、完璧な構図。これならお礼に何を要求してもイケるだろうというもの。

 だからこそ、怪我をしているような少年の有様を見た時の私の落胆は凄まじい。

「――アナタ。
 それ死んでない?」

 目前の男に、命の要素はおおよそ見当たらなかった。何か、よく出来た人形なのかもしれないけれど。

 挙げ句の果てに、せいぜいブラックドッグくらいでしょ?さすがに私でもなんとかなるなる、と思い助太刀じみた真似をしてみたものの。
 目前に広がる、百鬼夜行の先触れめいた死の狩人。

「……ねえ私帰ってもいい?」

 一応助けた青年を一瞬で見捨てようと感情の無い笑顔を浮かべているのだが。

深見 透悟 > 「さてどうする……と言ってもまあ、逃げの一手かここは」

一歩一歩と此方へと近づいてくる狩人を前に思考を止めることは無い透悟
今この場で出来ることは、となけなしの魔力を集めて魔術を編み始める
別にこの狩人たちを斃す必要はない、勝利の最低条件は透悟自身がこの場から離脱する事だ
出来れば五体満足で、と行きたかったが生憎既に右腕を失っている

「逆に逃げ切れなかったら……めでたく俺も狩猟団の一員か
 何一つめでたくねえし、そんな時代錯誤な真似、到底受け入れられるわけ――」

その時だった、突然何処からともなく紅い閃光が奔り獣へと攻撃を行った
見事なまでの奇襲、不意打ちに獣たちは一斉に吠え始める

「……何、えっと、誰!?
 生きてるか死んでるかで言えば俺は死んでるんだけども!」

そして続いた女の声に、透悟は面食らったように応える
しかし、間髪入れずに問われれば、しばし唖然として

「―――ええと、逃げれそうなら連れてってくれると助かる」

藤白 真夜 >  
「え、死人とか、ホントに嫌なんだけど……」

 助けておきながら、ものすごく嫌そうな顔をしてあなたを覗き込む、女。
 白馬の王子様が助けに来てくれたのかと思ったら山賊だったみたいな。

「……ま、アナタのご同輩みたいなものよ。
 今のココ、ロクなの居ないじゃない?化け物とか、亡霊とかさ」
 
 問われれば、名乗ることは無い。
 皮肉めいて不機嫌そうな応えばかり。ちょうど、ごちそうを目前から奪い取られた子供のように。

「いや、逃げるとか無理じゃない?
 あれ馬乗ってるし、弓だし。
 あなたもう一度死んだほうが良いって言われてるんじゃないの?」

 何一つあなたに応えることも無いかと思えば。

「私、時間稼ぐからさ。アナタ、なんかないの?出来るんでしょ?」

 振り向いて、アナタを真っ直ぐに見つめてそう言った。
 背後から放たれていた狩人の矢が、女の後頭部を射抜く寸前で、ひしゃげるような音を立てて赤い霧に阻まれている。

「……あと、私が異能使うと亡霊呼ぶからさ。
 はやくしないと死んじゃうからね?」

 なんて、悪戯めいた意地悪そうな笑みを浮かべると。

 あたりに、赤い霧が漂い出した。……血の匂いがする。

 狩人が放ちだした矢を、宙から顕れた赤い刀が、叩き落とし。
 そのまま撃ち出された赤い刀が狩人のサーベルで叩き割られた。

「……いや無理じゃないアレ?」

 ……言葉とは裏腹に、楽しげに微笑んでいた。
 意味の無い戦闘。
 命の無いモノ。
 私にとってなんの価値も持たないソレですら、今は愛おしい。

深見 透悟 > 「何しに来たのマジで!!!
 ――いや、いやいや、こう言っちゃ申し訳ないけどもだ
 明らかに見当違いな理由で助太刀しようとして、そして勝手に萎えてません!?萎えてるよね!?」

だいぶ身勝手な助太刀もあったもんだな、と吐き捨てる様に少女へと告げる
別に助けを求めた覚えはない、といえばあんまりだが、人が居るとは思わなかった
だからこうしているのも想定外、混乱しそうな頭を無理やり抑え込んで、ひとまずは状況を確かめる透悟

「時間を稼いでもらったところで、俺がどうにか出来るのは俺一人分だけだぜ!
 実際どうこうする為の魔力は尽きかけだし、助太刀が入るのも想定外だし!
 ただまあ―――数発、あの矢を止めといてくれればどうにか逃げ遂せるだけの事は出来る、やれると思う!運が良ければ!」

何なんだこの女、と言わずとも表情は雄弁に
しかしそのまま透悟は今己に出来ることを告げる
可能であれば犬の方も何とかしておいてくれると嬉しいが、そこはそれ、無理なら無理でも構わない

周囲を漂う赤い霧を訝しみつつ、漂う血の香には利く鼻が無いのか感じるところは無いらしい
ともあれ、動かず護られているだけというのは性に合わないのですぐさま動けるように身構えた