2021/11/22 のログ
藤白 真夜 >  
「魔力が足りないならコレ使いなさい」

 男のほうも見ずに刀を操作しながら、後ろ手に何かを放り投げる。
 それは、紅い宝石だ。
 深い色を湛えたルビーのように見えるかもしれない。
 わかることは、ふたつ。
 血の匂いがすること。
 相当量の魔力が詰まっている魔石の類であること。 

「ま、使ってほしくないけどね。ホントに。触れても欲しくないケド」

 ついでに、悪態も放り投げていた。

「んも~。だからちゃんと助けてるでしょ~?
 アナタ文句多くない?やっぱり一回死んだほうがいいんじゃない?」

 言いながらも、異能の操作は滞りなかった。
 むしろ少年に悪態を付くほうが本懐まである。

 赤い霧が広がっていく。
 それに伴って、宙に浮かぶ赤い刀も2本、3本と増えていった。
 死の狩人に纏わりつき何度も剣戟を切り結んでは、がしゃりと砕け散る。けれど飛び散った赤い破片は再び刀のカタチを取り、今や死の狩人を防戦一方に追い込んでいた。

「あ゛~……ヤる気出ないわ~……」

 剣の達人同士のような遣り取りを前に、当の本人はさして気にもせず楽しそうな笑みは一瞬で消え去り気怠げに佇んでいた。

 ――どッ。

 重たい何かを弾き飛ばす音がした。
 気怠げに立つだけの女に、横合いから黒犬が飛びついていた。
 軽く吹き飛ばされながらしかし、黒犬は女の腕に食らいつき離れない。
 土塊のカラダすら噛み砕く黒犬の顎の威力は高く、女の腕は半ばまで食われ――ぐしゃり、と何かが潰れた音がする、直後。

 腕に食らいついた黒犬のカラダから無数の赤い刀が“生えた”

「ねえ~?まだ~?」

 立ち上がった女の片腕は、ねじ曲がっている。
 しかしそれでも、女の声に痛みやそれに近しい感情は何一つなく。
 見る間に腕は元通りのものへ癒えていく。赤い霧だけが、残り香のように漂っていた。

深見 透悟 > 「コレ……って、おっとっと
 ! まあ何にせよ有難く借り受けとくけどさ!」

放られたルビーをどうにか片手でキャッチする
隻腕の相手にモノ投げて寄越すか?という当然の疑問は無理やり呑み下して

「そうそう何度も死んで堪るかってーの!
 ともかくっ、そのままそいつら引き付けておいてくれ、任せたッ!!」

魔石を握り締め、その場を少女に任せて駆け出す
直後、獣が少女へと躍りかかったのが見えたが、狩人相手に対等に渡り合っている様子から、どうとでもなるだろうと踏んで今は気に留めず
透悟は透悟なりの目論見を以て足を進める

「転移荒野……色々流れ着くってのは本当らしいな
 あっちこっちから流れ着いただろう魔力がこの地の龍脈とは相容れなくて魔力だまりになってら」

目指すは最も近くの魔力だまり
引き寄せられる様な感覚から察するに、透悟と同じ世界から漂着した魔力なのだろう
そこまでたどり着ければ、逆転の目は無い事も無いが―――

「よし、あとちょい―――でッ!」

手を延ばせば届く距離、わずかに笑みを浮かべた透悟の脚に衝撃が走る
透悟がその場を離れた事を察した獣の一頭が、岩陰を伝い追跡していた
片割れが少女を襲い返り討ちにあった事から透悟へと狙いを変えていたのだろう、その牙が土塊の脚を捕らえる

バキン、と陶器が砕けるような音と共に、透悟の左脚が噛み砕かれる
脚を失ったことでバランスを崩した透悟は、勢いそのままに再度地面へと転がる様に倒れ込む

藤白 真夜 >  
「――ちょッ、こらーっ!
 一人で逃げるなーっ!!」

 ――走り出す少年を見て、真っ先に コイツ逃げた と判断する、信用の無さ。性格の悪さかもしれない。

「……あ。
 やば……」

 そして、少年を罵るのに必死で犬がそちらに行っていたことにも気づかない有様。ヤル気がない。

「ちょっとー?生きてる?死んだー?」

 ふざけるように言いながらも、てのひらからふわりと浮かんだ血の塊が、三本の槍へと分かれ放たれる。
 こちらを警戒していない黒犬を地面に縫い止めるように串刺しにするであろう、それ。

 一応、少年を気遣うようにそちらに足を向けながらも、死の狩人を剣戟でその場に釘付けにすることも忘れない。

(――愚か者。
 死者が生者の武器に頼ってどうするつもりなの。
 だからスケルトンって弱いのよね)

 亡霊を見るその瞳は、冷たく、つまらなさそうに侮蔑の色を浮かべていた。
 ワイルドハントは、本来もっと大規模なものだ。
 西洋の百鬼夜行のようなそれが、何故かこの場所に繋がってしまったのだろう。
 きっと、何かの……死や亡霊のようなものを呼び水として。

「……ちょ、そろそろ、なんとかして欲しいかなーって……!
 ホント、なんかもっとヤバいの来てもおかしくないからね、コレ……ッ!」

 死の狩人から放たれる矢を、やはり簡単に叩き落としながら、悪態をつく。
 でも、やはりどこか危機感は薄い。むしろ、少年の身柄だけを案じているように。

深見 透悟 > 「大丈夫!生きてる! いやまあ、元から死んでるけど――
 それはそれだ、まだ首と胴がつながってるから問題ナシ!」

足を砕かれ転げる様に辿り着いた魔力だまり
見込んだ通りに自世界から流れ着いたもので心地よさを覚えたが今はそんな感傷に浸っている暇では無く
岩陰から少女へと手を振って健在を示して見せる

「とはいえ今の一発で魔力も限界だから、さっきのアレ使わせて貰うわ!
 丁度良い物もあったから、多分確実に行けるッ!」

右腕丸々と左足の膝から下、それと転んだ拍子に身体と頭のあちこちにヒビが走り
魔力が残っていれば、失った手足はともかくひび割れを修繕するくらいの事は出来るが、言った通りそんな余裕は無い
手の中にあった魔石を、惜しむそぶりも無く魔力だまりに叩きこむ
世界の異なる、相容れない魔力同士が反発し合い奔流となってその場で荒れ狂い始める

「それとごめん!多分そいつらを呼び寄せたのは俺だ!
 俺というか……俺含め、俺の世界の漂着物だと思う!
 だからって訳じゃないけど……ちゃんと俺が責任もって返すから!」

ワイルドハント、本来なら狩人は単騎ではなく軍勢等しいだけの数が居るはずだ
しかし現状、この地に在るのは狩人一人と猟犬二頭
少女の言う通り、このままでは狩の本隊が来てもおかしくは無いだろう
そもそもなぜそれらがこの地に現れたのか? それは異邦人である透悟と共にこの転移荒野に流れ着いていた物による縁だった
そして『それ』は魔石の代わりに透悟の手に握られており

「―――≪烈風よ≫!!」

透悟の口から力ある異界の言葉が放たれる
それと同時に魔力を伴う暴風が、少女を避けて狩人へと吹き付けた

藤白 真夜 >  
 少年の……魔術と言っていいのかもわからない力技が、魔力で編み上げられた暴風となって駆け抜けた。
 魔脈を見抜くセンス。
 相容れぬ魔力を混ぜ合わせるバランス感覚。
 世界と世界を跨ぐ事象への理解力。
 短すぎる詠唱に、しかし十二分に足りる魔術と呼ぶ世界への説得力。

 それらは、魔術を理論上齧る程度の真夜に取っても、素晴らしい行使だった。
 しかし。

「風もメンドいんだけど……」

 私ときたら、やはり気怠そうに靡く髪とスカートを抑えて面倒くさそうな顔をするだけなのであった。


 風をやり過ごせば、ゆっくりと歩み寄るだろう。

「ていうか、アナタの世界のものなら余計にアナタだけのせいじゃない?どう思う?ねえ?」

 ワイルドハントがどうなったかは、振り返らない。
 この魔術と言っていいかすらわからない干渉なら、きっと巧くいっているだろうと、意地悪そうに、砕けたカラダの少年を覗き込む。
 何より、私は死んだモノに興味が無いのだから。

「……アナタ、ボロッボロなんだけど。
 ここに埋めてってあげようか? 埋葬ってヤツ」

 言葉とは裏腹に、見下ろすその顔は満足気にニヤついていた。

深見 透悟 > 「悪かったって!
 あ、いや、そもそもそっちが勝手に飛び込んできたってだけで―――じゃねえ、≪城門よ、閉じよ≫!!」

風が吹き抜けた後、こちらへと苦言を呈する少女へと言葉を返しつつ
暴風はワイルドハントを吹き飛ばすだけの威力を見せたが、決定打には至らず
陣形を立て直そうとする狩人を見て、透悟は続けざまに異国の言葉を紡ぐ
その手には一本の杖。指揮棒にも似たそれは透悟の詠唱に反応し魔力を周囲から集め増幅させ術式へと変える

「だから俺の責任は俺のボロボロ加減でとんとんじゃねえ?
 ……って普段なら言えるけど、実際結果として助けてもらったわけだし、うーん……」

透悟が少女の問いかけに返答する間、魔術は正常に発動し効果を発揮する
光の鎖が狩人に絡みつき、虚空へと引きずり込んでいく様を少女越しに見て、ようやく透悟は杖を掲げていた腕を力なく下ろした

「埋めんな埋めんな、この体たらくでもまだ生きてんだから
 あいや、とっくに死んでるんだけども、それでもまだ埋めないで」

片足を失って立つことも出来ず、岩に背を預ける様にして少女を見上げながら答える

藤白 真夜 >  
 「……ふーん」

 ものすご~く興味が無さそうな声と共に、少年の詠唱に振り返る。腕を体の後ろで所在なさげに組んだまま。
 送還の有様を見つめながら、内心では驚いていた。

(……結構な魔術じゃない、コレ?
 異邦の魔術師なら確かに……でもまあいいか。
 死んでるし。)

 少年に対するすべての評価や感慨の前に、死んでるから、で全てが台無しになっているのであった。

「アナタやれば出来るじゃない。
 ……死んでなければなぁ……。……はぁ」

 文字通りに座り込む少年を見て、溜め息をついた。盛大に。

「あーあ。しかも私の石使っちゃってるし」

 文句も出た。自分から渡したのに。

「……ソレ。
 アナタ一人で帰れる?」

 少しだけ心配するようなことを言ったかと思えば、

「背負えとか絶対言わないでね。
 あんまり近づきたくないの。
 なんか移りそうで……憑かれそうっていうか……」

 めちゃくちゃ嫌そうな顔で見下ろすだけだった。

深見 透悟 > 「まあね、これでも一応天っっっ才魔術師なもんで」

ボロボロだけど、と疲れた様子で少女を見上げて告げる
生者なら明らかに致命的な損傷でも、所詮は仮初の肉体、首さえ飛んでなければ痛みも何も無いのだ

「お褒めに与りどーも、てかさっきから何なん
 そんなに俺の生死が関係する? せんでしょーよ?
 石使ったのは悪いと思ってるさ、でも使えって言って渡されたんだし、そりゃ使うでしょ」

使わずに返せればそりゃベストだったけど、とぶつぶつ口を尖らせながら
帰れるかどうかを問われれば、うーん、と少しだけ悩むそぶりを見せ

「帰る手段が無いわけじゃないけど……
 別に背負ってもらう気なんて無いかんね!?
 憑かれそうだ何だって失敬な、俺だって憑く先選ぶ権利くらいあるわ!!」

そもそも生体への憑依は未だに試したことすらない
憑こうと思って憑けるかは透悟自身も分からないのだけど

藤白 真夜 >  
「えぇー……」

 自ら天才と名乗る少年を前に、すごく微妙な顔。
 天才が自分のこと天才って言う? いや言うタイプの天才いるかも……。
 確かに魔術はかなり出来てたし、でもにしてはあまりにもバカっぽいっていうか……。

「こんなバカっぽい天才いるの……? しかも死んでるし……」

 声にも出た。しかも死んでる。

「いや、死んでたらダメでしょ。全部が。
 生きてないんだもん。血が流れてないもん。
 冷たくて、石みたいで、人の温かみが無いのよキミ。
 幽霊?にしてはバカっぽいけど……」

 直喩というか、もはやただの悪口みたいに応えながら。

「失ッ礼ねぇ! アナタが天才魔術師だったらこちとら天才巫女で天才憑坐で天才異能使いなんですけどぉ~~~?
 憑依とか余裕すぎて神さまくらい降ろせるんですけどーーー!」

 小学生のように対抗して言いながら、歩き出した。
 マジで放っておいていい気がする。
 何か問われれば足を止めるかもしれない。
 止めないかも。
 死んでるし。

深見 透悟 > 「ちゃんと魔力蓄えて、土塊じゃないちゃんとした肉体なら今のも比じゃないくらいの天才なの!
 ああもう叫ばすなよ……ヒビが広がってくし!」

バカっぽいと言われて思わず言い返す
口を開き過ぎて顔のひび割れが悪化したが、本人はああやっちまった、くらいにしか思っていない
そんなに死んでるのがマイナスなのかよ、と半ば呆れたように少女を見ていたが

「そこまで言う……まあ、いいけど
 ええ、ええ、悪うござんしたね、こちとら歴とした死人ですよ
 実際この体も土塊を人っぽくしただけだし、仰る通りだけどな
 それでもバカっぽいだけは余計だろ!?」

バカではないと自分では思っている透悟。助平だと言われたらぐうの音も出ないけど

「憑くなっつったかと思えば何で言い返してくんだよ!
 はいはい分かったわーかーりーまーしーた!
 別にどんだけ天才で神さまくらい降ろせても俺は憑かねえから!もう意地でも憑かねえ!」

そして歩き出す少女へとぎゃんぎゃん吠えて
別に引き留める理由は無い、見たところ怪我も何も無さそうだし
此方も此方でこの場から動くための手段は残してある
ただ、そう言えばと、ひとつ思い出して

「どんな思惑があったにせよ助太刀、ありがとさん」

そう伝えるのを忘れていた、と

藤白 真夜 >  
「……」

 やっぱりもう何を言われても振り返んなくていーや。
 ほってかーえろ。
 と、足音荒く帰ろうとしていたものの。
 その耳に礼が届けば、少しだけ足を止める。

 振り返ったその顔は、やっぱり嫌そうに不機嫌だったものの。

 祈るように手を合わせる。
 あたりに漂っていた霧が、魔力の残滓とともにてのひらの中に吸い込まれていく。

「――わがみたまよ。
 我が涙よ。
 我が血肉よ。
 輝きを宿し、火を灯せ。
 屍人を送る、篝火とならんことを」

 祈りの掌から、紅い輝きが溢れ出す。
 それは太陽の光を遮る掌のような優しげな赤色であり、夕日のように悲しげな赤色。
 それは死者への別れの祈りのようでもあり、未だこの世に別れを告げられない死者への……憐れみのようでもあった。

 が。

「あーめんどくさ」

 ぶすーっ、と不機嫌そうな顔に変わりはなく。
 
「はい、これ」

 やっぱり、ボロボロの体の相手に対して、わざと手を伸ばさないと取れないくらいの距離に宝石を投げる。
 以前のとは違い、少し小さいものの魔力の籠もった魔石の類であることに違いはなかった。

「カラダ直せそうな分だけ魔力籠めといたから。
 じゃあね。
 あ、ついてこないでね。
 あーぞくぞくしたー……」

 そう言い残しながら、今度こそ歩き去る。
 もはや少年に興味も無く、名も告げぬままに。

ご案内:「転移荒野」から藤白 真夜さんが去りました。
深見 透悟 > 「んなッ……何なんだよもー!!
 最初から最後までやたらと一方的だし!
 そんなに死んでるのが悪いのか!いやまあ良くはないか……
 うんまあ……良くはないよな、うん……」

魔石を放って去って行った少女の背を見送って後、一人残されて
ぷんすこぷんすこと怒っていたものの、次第に落ち着きを取り戻してみれば相手の態度もまあ、一理あると
納得できるものではないが、理解できないほどでは無い

「俺だって好きで温かみが無い訳じゃねーんだけどなあ」

よっこいせ、と左腕一本で座ったまま体を引きずって魔石を回収する
腹いせに残しておいても良かったが、善からぬモノに拾われるのはあの少女も本意ではないだろう
同じ不本意なら自分が使う方がマシだと判断したのだった

「体、直す前に材料も集めなきゃ……と
 その前に早いとこ移動しよう、ここに居続けてたら今度は何が来るか分かったもんじゃないし
 幸い、こいつが見つかったから収穫が無い訳でもないし」

魔石を仕舞って、代わりに先程手にしていた杖を改めて手に持つ
一振りの杖、それは間違いなく元居た世界で透悟が使用していた杖、そのものだった

深見 透悟 > 「さてさて、上手い事行きますよーに
 とりあえず知り合いンとこ、知り合いンとこ……
 なるべくなら俺のこの身の上を理解してくれてて……って殆ど限られるじゃんそれ!」

杖を顔の前に立てる様に構え、精神を研ぎ澄ませる
自分の中に残っているオドと、周囲を漂うこの世界のマナ
それらを混ぜ合わせ、一つの魔力として術式に編み上げて

「―――≪転移を≫」

呟くように異国の言葉を口にし、透悟の身体を光が包む
移動する先はポケットに忍ばせていた黒い無記の魔石をくれた友人の許―――

ご案内:「転移荒野」から深見 透悟さんが去りました。