2022/12/18 のログ
ご案内:「開拓村」に『渡し守』さんが現れました。
『渡し守』 > 常世島の北、転移荒野や未開拓地域が広がる一角にある開拓村。
まるで現代文明から退化したような、或いは隔絶されたような。
そんな光景が広がる中に、紛れ込むようにぽつん…と。
何時からそこに立っていたのか、灰色の薄汚れた外套で全身を覆い隠す人影。

『―――。』

その顔は見えない。外套と繋がるフードにより顔をすっぽりと覆い隠しているから。
ただ、かろうじて覗く口元から声にならない声が僅かに漏れる。言語の意味を成さない呟きにも似た。

『――、――――あ、―――ん、ン…。」

段々と、不明瞭ながらノイズのように声が発せられる。
まるで何かに合わせてチューニングでもしているかのような。

『――こんな――かんじ――で、すか――』

少しずつではあるが、意味のある言葉の羅列となってくる。
その声は男のようでもあり、女のようでもあり。
やがて、ゆっくりと…吐息にも嘆きにも似た息継ぎを零し、緩やかに顔を上げる。

「……さて。」

相変わらず、不自然に顔の大部分は何故か見えないまま口元が滑らかに言語を紡ぐ。
一歩、踏み出した先には一つの村。携えていた物体――黒い櫂のような物を肩に担ぎ直す。

『渡し守』 > 村の出入り口に差し掛かり、ふと一度足を止める。
暫し無言で出入り口とその向こう側、村の中の様子を観察するように眺めて。

「―――ん。」

何か納得する事でもあったのだろう。緩く首肯してから歩みを再開して村の中へ。
踏み入れた先、村の住民が何人かこちらに視線を寄越してくるが、物珍しそうに一瞥を寄越した程度。
少なくとも、外套の人物が露骨に浮く訳でもなければ異彩を放つでもない。
溶け込んでいる、とはとても言えないが…過度に目立つ事も無い。少なくとも、この村に於いては。

「……余所者にも慣れている…と。」

すっかり現れた時とは違い流暢な言語による呟きを漏らし、村の中をゆっくりと櫂を担ぎながら歩く。
少し歩いて気付く事は、排他的ではないが何処か無法的な空気が漂っている事だ。
治安が悪い、というのはまた少し違う。これは村の住人達が纏う空気感、とでも言うべきものだろうか?

――少なくとも、薄汚れた外套を纏い奇妙な櫂を担ぐ彼/彼女…を、歓迎はせずとも拒みもしない。
来る者は拒まず、去る者は追わず…と、そんな所だろう。お陰で、村の散策に支障はさして無い。

『渡し守』 > 大まかに歩き回った感じ、宿泊施設、村の住人の住居、酒場らしき店もあった。
その外、農作物を収穫する為の畑や何がしかの研究施設のような物も。

「………。」

一つ一つ、確認をするように巡るが店に入る事も、住民に話し掛ける事も無い。
そして、最後に村外れにある墓地のような一角へと足を運ぶ。

「――きちんとしていますね…。」

ぽつりと。大小、形すら異なる幾つかの墓石を眺めて頷きながら独り言。
この墓に眠る者達は、迷い出でる事も彷徨う事も無く…きちんと【彼岸】へと既に渡っている。
それを確認出来ただけでも僥倖なれば、今まで何処か無味乾燥な言葉に若干の安堵。

自分の役目を果たす為に存在している身としては、このような在り方が好ましく。
そして、それ以上に――このような在り方ばかりではない事もよく分かっている。

『渡し守』 > 見たいものは一通り見た。この村に長居する理由は無いが…休息は必要だろう。
そういえば、宿泊施設があったようなので、墓地に背を向けてそちらへと足を運ぶ。

――宿泊施設にて、帳簿に名前を書くように促された事で暫しの逡巡。

「――名前……名前、ですか。」

そんなものは彼/彼女には無い。名は己を縛る枷となりかねないもの。
それでも、役目をこなすには便宜上、必要となる場面もこの先あるかもしれない。

気乗りはしないが、少しの間だけ考える間を置いて、やがてペンを手にサラサラと名前を書いてチェックイン。

そこに記された名前は――【Charon】――カロン。
ある神話に於いて、悲劇の冥河の渡し守の名を今この時は拝借するのだった。

ご案内:「開拓村」から『渡し守』さんが去りました。