2020/07/23 のログ
吸血鬼《ヴラド》 >  
男の言葉を聞き、倒れたそいつの方へとゆっくりと動く。
長身の男とは距離を維持し弧を描くようにして。

「個々人で……だと」

集団で失敗してから、個々人で?
それはなんというか。

一瞬だけ倒れた男の手の位置を確認して、
右手で男の手首を――脈を確認する。

「死にたがりかよ……」

脈はない。
未だ身体に残る熱がつい先程までは確かに彼が生きていたという証明をしている。
男の言う、"真理に触れた者は死ぬ"。
それは正しくここに成っている。

つまり、この地面に落ちた端末こそ彼らを殺す『化け物』への接続の鍵か。
全く、前の人数で足りなかったんだぞ。
個々人で、『私たち』ってそういう事か……?

「……だとしても、
 救えない、手は足りない、そう言いたいのか?
 だが、だとしても」

倒れたソレは間に合わなかった。
けれど、まだ全てが失われたわけじゃない。 終わっちゃいない。
だから、

「俺は、―――俺達は決めている」

長身の男の問いに答えるために、立ち上がる。

「『真理』なんかに命を使わせやしない。
 そんな『願い』は止めてやる。
 全てを止めることは出来ないかも知れない。


 だとしても、それが諦める理由になんてなるかよ」

欠けた面の隙間から見える赤い瞳で長身の男を睨みつける。

ヨキ > 「……それしか方法がないのだ、彼らには」

青年が脈拍を確認する様子を見下ろす。

「出来れば、よく考えたものだ、と言ってやって欲しいね。
以前は――壊滅を招き、“たった一人”しか生き残らなかった。
彼らは今、手数を増やし、手段を講じ、立派に手を尽くしている。

単純に死にたがっているのではない。それだけ叶えたい悲願があるということだ」

瞳の赤と紺碧とが交わる。

「そうか。
――止めようというのだな、君は。……『君ら』は。

自分は、《トゥルーバイツ》を止めるつもりはない。
そうして、彼らを止めようとする者たちのことも。

だが、自分自身の激情に駆られて阻止しようとする者は、到底歓迎出来ない」

まるで午後の教室のように落ち着いた声で、問いを重ねる。
詰問でも、糾弾でもなく。静かな静かな、問い掛け。

「たとえばもし。君の言うとおり、制止が叶ったとして。

……《トゥルーバイツ》の面々が抱える『欠損』を埋めてやれるか?
『真理』に触れなければ到底叶うべくもない願いを目指して、共に歩んでやることが出来るかね?」

問う。問い続ける。目の前の青年が持つ、信念を見定めるかのように。

「《トゥルーバイツ》が挑む、一パーセントの覚悟。
そんな人ひとりの人生に立ち入って、『彼らのためになる』と胸を張れるか?」

吸血鬼《ヴラド》 > 「『彼らのためになる』?
 この世を憎んでるような奴らに言えるか、そんな事」
そう、許せない程に憎い。
 
「それでも、止めるさ、否定してやる。 そんな悲願。

 別に努力するな、と言ってる訳じゃない。
 《トゥルーバイツ》が憎い訳じゃない。

 けれど、
 『真理《外の化け物》』を頼るのは認められない」

叶うはず願いを目指していた者と、共に歩む。

「共にも歩めない。 俺には彼らの『願い』を理解出来ない。
 『願い』を共にみて共に歩むなんて言うのは耳心地のいい『幻想』だ。

 俺に出来るのは『願い』を否定して、"恨まれてやる"。 それだけだ」


そもそもこの男。
段々気に食わなく成ってきた碧を覗き込む。

「あんた『真理』なんて解決にもならないって分かってるだろ。
 じゃなきゃ、"『真理』に触れたものは、死ぬ"なんて簡単に言えないはずだよな」

だとすれば、こいつは―――

「あんた、『悪』い奴だな」

    ・・・・・
右腕から血を伸ばす端末へと。
相手の目的が分からないからこちらが欲しい物は確保はさせてもらおうと《異能》を操り出す。

ヨキ > 「……外の化け物、か」

それだけ言って、ふっと笑う。

「そうだな。君にとっては確かに、『恨まれてやること』……それが正しいのやも知れん。

それでも……『耳心地のいい幻想』。
この島には、それを信じ、多くの人間の人生に立ち入り、ともに歩もうと足掻く者も在るのだ。
その者の名を、『教師』という」

視界の端へ伸びる血を見遣る。
一瞬、半身を青年に向けて身構えかけたが、それ以上に踏み出すことはしなかった。

「ああ。確かに悪党やも知れぬ。だが。――だがな。
簡単に口にしているとは、決して思ってくれるな。

彼は。今そこに倒れている『彼』は――かつての教え子だった」

語調は変わらない。

「彼の名前も。願いも。《トゥルーバイツ》に加入した経緯も知っておる。
たとえ後ろ向きな方法でも。『お人好し』と謗られようとも。彼の望む幸福を、共に目指せなかったとしても――
彼が秘めていた決意を、知っているから。

だから。
……どうか一人でも、『一パーセント』が叶うようにと。
それを見届けるために……《トゥルーバイツ》の面々を追っていた」

事切れた彼が、別れ際、最後の最後に見せた不敵な笑みを、この目に焼き付けているからこそ。

「……ヨキという。学園で、教師をやっている。
《トゥルーバイツ》を止めようという君を、咎めはせぬ。

存分にぶつかり合うがいい。……手緩い真似は、してくれるな」

目の前の青年が、そんな生易しい人物でないことは肌で理解している。
それでも――堂々と素性を明かしたヨキという男は、ここではじめてふっと笑った。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「……『教師』ね」

教師か。
言ってることは分かる。
説明されれば、そういう考え方もあるのかと思わされる。

教師という立場、知りもしないその立ち位置を理解なんて出来やしない。
しかして、全てを『知って』そうして今ここにいるというのなら、

敢えて、もう一度口にしよう。

「やっぱ趣味悪いよ、あんた」

血液は器用に端末を掴むとそのまま青年の黒い霧に包まれた身体の中に沈んでいく。

「手なんか抜けるかよ。 決死の相手にそんな事したら、恨まれてもやれなくなる。
                 ・・・・
 ……あんたの名前は覚えておくよ、ヨキ先生」

そう告げると黒い霧が濃くなり出す。
黒が夜明け前の最も暗くなる時間に溶け込んでいく。

ヨキ > 「知ってる」

もう一度、趣味が悪い、と言われれば。
今度はそう答えた。

「そうでもなければ、この島で教師などやってはゆけないのだ」

目を伏せて、笑う。
弁解の余地もない、とばかりに。

「《トゥルーバイツ》の面々が、『真理』に頼る他になかったように。
……ヨキもまた、他の『教え方』を知らぬ」

視線を引き戻す。
端末を手に、霧が闇の中に溶けてゆくのを見届ける。

「ああ、どうぞ覚えておきたまえ。
――君が立ち向かう先を、楽しみにしているから」

狐面の下の、赤い瞳が視界から消えるまで。
ずっとずっと、見据えていた。
隠された容貌を、覚え込むために。

ご案内:「青垣山 廃神社」から吸血鬼《ヴラド》さんが去りました。
ヨキ > ――仮面の青年が、姿を消したのち。

ヨキは独り、遺体の元へ歩み寄った。

「……………………、■■君」

ぽつりと名前を呼ぶ。
掠れたそれは、死んだ青年のもの。

「駄目だったか」

一人。また一人と。
悲壮な決意を胸に、教え子が去っていく。

無言のまま、遺体をぐっと引き起こす。
神性がらみの膂力で、さながら眠っている人間を抱きかかえるように。

そのまま、歩き出す。

闇の中へ。
闇の中へ。

子を喪う親の悲しみを、いかに言葉に出来ようか?

ご案内:「青垣山 廃神社」からヨキさんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 【御約束待ちです】
ご案内:「青垣山 廃神社」に園刃 華霧さんが現れました。
神代理央 > 祭る神も、敬う人々も消え果た神社だった場所。
その一角で、煙草を燻らせる少年の姿があった。
風紀委員会の腕章を纏う、小柄な少年の姿が。

「……珍しい事もあるものだ。まさか、アイツから呼び出されるとは」

人の目が無いのを良い事に、甘ったるい紫煙をぷかぷかと吐き出す。
待ち人は、普段呼び出される事の無い珍しい人物であった。

園刃 華霧 >  
ゆらり、と何かが揺らめいた気がした
気づけば、そこに女の姿
 
「いよウ、りおちー。おっひサー。
 新しいファッションで土手っ腹にトンネル開ケたって聞いタけど、その後どうヨ?」

ひひひ、といつもの悪い笑みを浮かべて女は手を振った。

「つーカ、未成年の煙草ってアウトだロー?
 いいノか、いイのか、模範生ー?」

いつものように携帯を出して"激写"などとやらかす。
とてもいつものような姿だった

神代理央 > 「…お前は相変わらずだな、園刃。生憎、御覧の通り元気にやっているよ。腹から煙草の煙が出る、なんて芸もしなくて済みそうだ」

ぷかり、と吐き出す紫煙。
指先で軽く煙草を叩いて先端の灰を落とせば、ゆっくりと視線を彼女に向ける。

「多少は構わんさ。最近はストレスも多くてな。少しくらい模範生からはみ出ぬとやってられぬ」

携帯に撮影されても、さして気にする様子は無い。
何時もなら「撮るんじゃない!」と噛み付くところではあるのだが――

「…それで?真理に噛みつく御一行様が、一体何の用で私を呼び出した?心配せずとも、風紀委員会が組織的に貴様達を捕らえる様な事は無いが」

唇に咥えた煙草をゆっくりと吸い込んで。
甘ったるい紫煙を吐き出しながら、小さく首を傾げた。

園刃 華霧 >  
「ァー……」

んー……と、上から下まで眺める仕草
首をひねる

「ン―……腹に穴開けテ、毒でも抜けタ?
 りおちーらしクないヨーな、りおちーらしーヨーな。
 わっかリづラ! 本物か、火星人かハッキリして欲しイ」

言動のわずかな違いにやや戸惑った
いや、コイツも変わるんだなあ……
変わるんだぁ……

でも、変わらないところもあるし
とりあえずはいいか

「委員会が組織的に? ハハッ。
 そンなこと考えテるなラ、過激派トップのりおちー呼んだリしないヨ。
 そーダったら真っ先に取り締マり命令出て、制圧でモしてルころじゃネ?」

違う違う、と手をふる

「どッチかってート、そうイう物言いスるりおちーダから呼んだッテとこダね。
 ま、正直、用はそう多くナいんダけど……
 一個目、念の為。りおちーは、この騒ぎ、どう思ってル?」

神代理央 > 「……火星人って何だ火星人って。…まあ、色々あったからな。思う所もあるし、変わる事もある。それだけの事だよ」

此方をじろじろと眺める様な視線に軽くジト目を向けながらも、小さな苦笑いで言葉を返す。
しかし火星人とは。最早異世界どころか地球ですらない。

「…まあな。とはいえ、過激派も穏健派も色々とごたごたしているからな。そう言った点では、良く考えられた作戦だったと思うよ」

と、手を振る彼女に視線を向ければ。
投げかけられた質問に、ふむ、と考える様な素振り。

「トゥルーバイツの件に関しては、日ノ岡がヘマしなければ静観。それ以外には特に何も。強いて言うなら、この騒動が終わった後の方が私の関心事だな。トゥルーバイツの後釜は、さぞ探すのが大変だろう」

園刃 華霧 >  
「……ヒヒ……
 はは、あははは、ヒヒヒヒヒヒヒ!!
 なールほど、うははは! 変わっテも、ソコはやッパりおちーなのナ!
 さいっこう!!」

ひゃははははは、と楽しそうに笑う
とても楽しそうに笑う。

「まっさか、後始末考えテたとハね。
 思った通りの安心感だワ。」

笑いを収める
自分が知っている風紀委員で、此処まで安定した考えで居られるのは
彼くらいしか思いつかなかった。
だからこそ、呼んだ意味がある。

「ンじゃ、組織的にはあり得無いカラ個人的に止めヨう、なンてつマんない話も無し、だヨな?
 どう、ソコんとこ?」

じっと顔を見て聞く

神代理央 > 「お褒め頂いて光栄だ、とでも言えば良いのかね。全く、日ノ岡といい貴様といい、トゥルーバイツの連中は良く笑う事だな。別に不快では無いが」

一体何が面白いのだろうと思わなくも無いのだが。
少し不思議そうな表情で、彼女を見つめているだろう。

「当然だ。貴様らが真理とやらに辿り着いて満足したとして。それで此の学園都市がどうこうなる訳でも無い。
曲がりなりにも治安維持の任務を担っていたトゥルーバイツを喪う穴を考えるのは、当たり前の事だ」

フン、と何時もの様に吐き出す尊大な吐息。
半分程になった煙草を、再び咥えて燻らせる。

「止めぬよ。各々が自ら選んだ道だ。それをどうこう言う程野暮ではない。止めて欲しいなら止めるし、止めて欲しくないのなら止めない。私が貴様達の意志に関係無く止めに入るのは、それが学園の治安と秩序を乱すと判断した時だけ。
そして、日ノ岡の計画は体制に影響を及ぼさない。ならば、私個人としても止める理由が無い。それだけだ」

そして、紫煙の彼方で此方を見つめる彼女を見返す。
こんなに真剣な表情が出来たんだな、と思考の片隅で暢気な事を考えていたり。

「……とはいえ、私とて人間だ。貴様の様に、見知った顔が死に至ろうとするのは、流石に心苦しい。止めたいと、思わなくもない。
だが、それは貴様へ。貴様達へ。…日ノ岡への冒涜だ。行動する、と決意したのなら、残念ではあるが止めはしないよ」

と、小さく微笑んだ。

園刃 華霧 >  
「アー……あかねちんとも逢ったンだナ。
 同じよウな話しタとすりゃ、そりゃ笑うダろ。
 『逃げた』わけデも『無視』しタわけデもなイ。
 りおちーらしク向かい合っテっかラね。
 考え方は違うケど。嫌いじゃナいさ、そういウのは。」

にっと笑う
よく笑うこの女にしても珍しい種類の笑い

「でーモ、なー。
 りおちー、もうチョッと辛辣なもの言いスると思ってタからソコは意外ダわ。
 "色々あった"辺りに秘密がアる……? 聞かせてヨー」

ひひひ、と笑ってせがむ
すっかりいつもの笑いに戻っていた

「最近、つまンない話バっかデさー。
 面白い話もチっとは聞きタいケど、こんな状況ダろ?
 あンま人と話せナくてサ」

神代理央 > 「…あの女。トゥルーバイツ各員に連絡を取ったその日に人の執務室に押し掛けてきたんだぞ。全く……。
…まあ、日ノ岡にも言った事ではあるが、成功しないだろうと侮っている部分も正直ある。だが、成功して欲しいと。命を張ったギャンブルに勝って欲しいと思う気持ちもある。だから、推奨はせぬが止めはしない。本当に、それだけの事だよ」

見掛ける事の珍しい――というか初めて見た気がする――彼女の笑みに、少し驚いた様な表情を浮かべつつ。
穏やかな笑みと口調で、言葉を紡ぐだろう。

「お前、人の事何だと思ってるんだ…。私だって一応、16歳の多感な男子高校生なんだがな。
……む?秘密主義のトゥルーバイツ様が、人の秘密を聞き出そうと言うのか?笑い話だな」

と、普段通りの笑みを浮かべる彼女には、普段通りの笑みを。
尊大で、傲慢で――同僚の発言に呆れている様な、そんな笑み。

「と言っても、大したことは無いぞ。お前も知っている通り、孤児院で腹を撃たれた。スイーツ部に入部して店舗開店に出資した。恋人が出来た。黄泉の穴の領域に突入した。……それくらいか?」

指折り数えながらあげつらって、大したことは無かったんだが、と首を傾げるだろう。

園刃 華霧 >  
「ヨぉーし、待て。
 待て待て、色々ツッコミどころが有るンだが。
 全部聞いテると終わらン気がすルな?
 風穴事件は、まア聞いたかラよしトするケド。
 恋人? 恋人って言った? りおちーに? マジで?
 ちょ、それ詳しク」

え?
あ、いま絶対マヌケな顔してる自信ある
マジで? ウッソー?
これに? 恋人?
え?
狐に騙されてる、とかじゃないの?

「……明日の常世広報載っタぞコラって感じダけど……
 いヤ、今更、なンだろーナぁ……
 うーン、やっぱソッチ居りゃよカったカ? な~んテな」

一瞬の真顔
そして、笑い
やばい、腹の底から笑うわ、これ

「そッカ……りおちーも人間ダッたんダなぁ……」

ぼそ、と一言

「……そッカ。」

神代理央 > 「何だ、貴様が突っ込み役とは珍しいな。ボケ担当だと思っていたが人事資料を書き換えねばならんか。折角この間わざわざ【同僚の評価欄:ボケ担当】って書いておいたのに」

と、何とも愉快な顔を晒している彼女に、からからと笑ってみせる。
そう言えば言ってなかったな、とも思いながら。
あと、何か失礼な事を思われてる気がする。異能発動させておこうかとちょっと悩む。4割くらい。

「常世広報は風紀委員会全力で検閲だ。全裸アフロだけで相当なゴシップだったというのに…」

と、小さく肩を竦めた後。
彼女の呟きを。囁きを。残り少なくなった煙草を咥えながら受け止める。
そして、ポケットから取り出した携帯灰皿に煙草を押し込めば、ゆっくりと唇を開くだろうか。

「……もう一度だけ言うが、私個人としてはお前に死んで欲しくはない。見知った顔が死ぬのは心苦しいし、お前の様に愉快な奴がいなくなるのは、きっと、寂しいだろう」

「お前を慕う者も大勢いる。お前が死んで悲しむ者も、きっと大勢いる。トゥルーバイツは多少の処罰こそあっても、風紀委員を辞めさせる等という処分にはならないだろう。そういった裏処理は、日ノ岡が恙なく引き受けている筈だ」

「……まあ、こんな安い文句でお前が止まるのかは知らぬし、お前が真理に求めるモノも知らん。だから、強くは言わぬ。言わぬが…」

懐から、二本目の煙草を取り出しかけて――仕舞いこむ。
静かに、彼女と瞳を合わせようとして。

「此方側に戻ってこないか、園刃。私も、お前に恋人の惚気をしてやりたいんだが」

園刃 華霧 >  
「…………」

眉が、下がる
浮かんだのは、奇妙な表情

「……そッカ。
 結局、りおちーも……」

はぁ、と溜息をつく
いや、昔の彼ならどうだっただろう?
答えは出るわけがない

「……誘いは……あんがと。
 正直、りおちーの惚気、とかヤバすぎて気になる。
 けど……アタシは、『変われない』『どうしようもねぇ奴』だ。」

訥々と、言葉にする

「『空っぽ』でしょうがない、中身を埋めたくてどうしようもない『化け物』だ。
 そのくせ、手にしたものは全部零していっちまう」

懐から、データカードと小さな折りたたまれたメモを取り出す。
それらを迷わず差し出す

「りおちー、これ。
 持っててくれ。
 データは、アタシが"発見"した二級学生で、ひょっとしたら保護を求めてくるかもしんない。
 メモは……まあ、アタシが見事にくたばったら見てくれ。
 運良く生きてたら、どっか捨ててくれりゃいい」

神代理央 > 「……そうか。まあ、残念だが仕方ない。正直、余り良い返事を期待していた訳でもない」

不可思議な表情を浮かべるものだ、と思いながら吐き出した溜息は、彼女とほぼ同じタイミング。
何でこんなタイミングで溜息が被るんだ、とちょっと苦笑い。

「……いや、人は案外変わっていくものさ。少なくともお前は、何かしら思う所があって日ノ岡の手を取り、真理に噛みつく道を選んだのだろう。その決断は、日ノ岡との出会いによって、お前の中で僅かにでも変化があった故の事じゃないのか?」

「どうしようもない奴だと、自覚しているだけマシさ。俺なぞ、ついぞ気付かずに何度恋人を傷付けた事か」

そして取り出したのは、二本目の煙草。
豪奢な装飾が施されたオイルライターで、純白の煙草に火を灯す。
二人の間に、再び紫煙が漂うだろう。

「では、真理とやらにその穴を埋めて貰うと良い。改めて残念だよ。お前は、中々良い女だと思っていたのだがね」

と、紫煙を吐き出しながら小さく笑えば、差し出されたメモとデータカードを一瞥する。

「構わんよ。無謀なギャンブルに挑む者の保証人くらい、引き受けてやるとも。………しかし、渡す相手は私で良かったのか?メモは兎も角、二級学生の扱いは、貴様とて噂は聞いているだろうに」

園刃 華霧 >  
「"風紀委員"に"発見"された"二級学生"、は
 風紀委員でも"保護対象"だろ?
 まっさか、その原則、やぶる? りおちー」

けらけらと笑う
強情で過激ではあるが、決まりを横破りするような狂人でもない
そういう男だ、と思っている

風紀委員の決まりごと
ほぼほぼ形骸化したと言えなくもないそれ
しかし、確かに決まっていること

一時期はえらいさんもやっていた
最近じゃどうだろうね
アタシくらいしか触れてなかったりして

「それに、あれ。
 風穴事件、さ。細かいことは知らないけど、なーんか、あったんだろ?
 "変わった理由"の一つなんだし?」

意外とちゃんと覚えている
確かに変わった理由の"色々"に含まれていた

「ま、それに……
 なんなら他の誰かにぶん投げるでしょ、りおちー」

神代理央 > 「……成程。意外とお前、俺の事を分かっているじゃないか。
良いだろう。保護を求める二級学生は、私が責任を持って保護しよう」

降参だ、と言わんばかりに緩く笑みを浮かべる。
是迄、散々血に手を染めてきた己に、それでもデータを渡してきた。
その理由は実に正しく。己は"ルールを破らない"
何だか見透かされている様な気がして、小さく笑った。

「……どうだろうな。俺は結局、落第街の子供を殺せなかった。自分を撃とうとした子供を殺せなかった。それだけの事だ。変わったとは思うが、それが良い変化なのかどうか。それは、此れから分かる事だろうさ」

「お前の決断とて同じだろう?それが正しいかどうかはさておき。少なくとも、日ノ岡の手を取った事は、間違いではないのだろうさ」

と、小さく肩を竦める。
あの時の判断が間違えていたとは決して思わないが、それが己の未来にどう関わっていくのかは、未だ分からない。
それは彼女も同じ事では無いかと、首を傾げるのだ。

「……其処まで薄情な人間じゃないさ。同僚からの頼みだ。責任を持って、預からせて貰うともさ」

園刃 華霧 >  
「ヒヒッ、こう見えて人間観察ってヤツは得意なんだよ」

そうしなければ、生きていけなかったから。
それだけのことだ。そこは言う理由はないから口をつぐむ

とはいえまあ、チョット前に大失敗したんだけど……
その辺は不調だったから多分仕方ない。
……運が良ければ、謝るかなあアイツ……
まあ、向こうとしてみりゃ御免こうむるかもしれないし面倒くさいな……

「わお、そりゃだいぶ変わったね。会議の時の録音記録でも取り出して突き合わせたいわ。
 ま、概ね良いんじゃないかと思うよ。
 清濁併せ呑む、だっけ? そういうのも大事じゃない?
 ホントのトコの答え合わせは、まあ確かにこれからやってちょ」

ああ……ほんとに、変わったんだなあ
ああ……本当に本当に
そうかあ……

「そう? んじゃ、よろしく。
 まあ、『自分』で行くように、って言ってあるから、来なきゃしょうがないけどね」

へらり、と笑う。
嗚呼、もう用事は終わってしまった。
これで、この話はオシマイなのだ

「ま……用事は、そんなとこ。
 りおちー、なんかある?」

神代理央 > 「…止めてくれ。あの会議での発言も決して誤りだったとは思わぬが、流石に比較されるのは辛いものがあるぞ…。
清濁併せ呑む、か。難しい言葉を知っているじゃないか。前期の試験は、そこそこ良い点数が取れたんじゃないか?」

もう彼女には、試験も何も関係無いのかも知れない。
真理に挑戦して失敗すれば、そもそもそこで御終い。仮に成功したとして、それから彼女がどうするのか、等も知る由も無い。
だから、今の二人の立場で。『真面目な風紀委員』と『不真面目な風紀委員』として向かい合う現在を尊ぶ様に、軽い口調で言葉を紡ぎ続ける。

「流石に私も、自ら救いを求めぬ者は救えぬからな。その辺りは、各々の連中の選択に任せるとしよう」

その返事を返せば、互いの用件は御終い。
御互いの立場から話すべき言葉は、もう何もない。

「……いや。私からは何も……いや、無い事も無いか。事務伝達の様なものだが」

「まず一つ。夏季休暇に入ってシフトの人数が足りん。お前も頭数に一応入れてある。警邏のシフトは確認しておく様に。盆休み期間が特に厳しいからな。警邏場所は確認しておけよ」

「それと……シフトに穴をあけるようなら、きちんと代わりを立てておけ。その為に、話をしなければならない奴がいるなら"ちゃんと話をしておけ"」

「……それだけだ。それで、御終いだ」

深く、深く吸い込んで吐き出した紫煙。ふと、懐から取り出したのは一本の煙草。

「……吸うか?嫌いなら、別に構わないが」

園刃 華霧 >  
「……ま、言葉の教師だけはたくさんいたからね。
 っても、言葉だってどっちかってーとりおちーの想像してそうなスラングとかのが多いよ」

けらけらと笑う。
落第街も様々。当然インテリも混ざる
そんな連中の言葉も覚えてきたからには、
たまに妙な語彙も有る

「へいへい、ここに来てそれかよ……
 と。ヤニかー。
 あんま吸わないんだけど、たまにゃいいか。」

受け取る。
人生数度目の喫煙
それを咥えて……

「ァー……火、ないじゃン。
 それ、ちょうダい」

咥えた煙草をそのまま、理央の煙草に近づける

神代理央 > 「…良いじゃないか。その方がお前らしい。堅苦しく真面目に話しているお前は、ちょっと想像が出来ないからな」

彼女に釣られる様に、クスリと笑う。
真面目ぶった言葉を並べる彼女より、今の様な。或いは、スラングを多用する彼女の方が、きっと彼女らしい。

「偶には、なのか。つくづく不良風紀を極めているな、お前は」

と、小さく苦笑い。
そして、火が無いと告げた彼女にライターを、とポケットを弄ろうとして――

「……全く。世話の焼ける同僚だ。本当に」

咥え直した煙草を緩く吸い込んで火種を瞬かせれば、その先端を彼女の咥える煙草に摺合せる。
火種が彼女の煙草に移り、燻る迄。二人の間を穏やかな沈黙と、僅かに吹き抜けるだけの夏の夜風だけが包んでいたのだろう。
やがて、二人の姿は神社から消え失せ。全てを見ていたのは、朽ち果てた鳥居のみ――

ご案内:「青垣山 廃神社」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から神代理央さんが去りました。