2020/07/26 のログ
ご案内:「青垣山」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
■トゥルーバイツ構成員 >
彼女はごく普通の少女だった。
異能が発現してもただの少女だった。
彼女の異能は攻撃的なものではなかった。
頑張れば普通の生活を送れるような気がした。
やまい
だから己の身に現れた『異 能』と付き合おうとした。
それは間違いの初めだったのだろうか。
■トゥルーバイツ構成員 >
やまい
彼女の『異 能』は《嘘》。
彼女の出力するものは全て嘘になる。
全てが彼女の意志に逆らう。
<家族に語った>
「私、楽しいの」
――私、辛いの
<紙に書いた>
「私は元気」
――私、苦しいの
<絵を書いてみた>
「海」
―山
………
……
…
■トゥルーバイツ構成員 >
気の遠くなるような努力があった。
自分の全てを『嘘』に変えてきた。
「今日も、楽しかった」
<今日は、つまらなかった>
「ごめんね、今日は駄目なんだ」
<ありがとう、今日なら平気よ>
「明日も、遊びたいなあ」
<明日から、もう付き合いたくもないわ>
「あなたのこと、好きよ」
<あなた、嫌い>
「あー、疲れたー」
<あー、まだ元気よー>
「今日ね、いいことあったの」
<今日は、ろくなことがなかったわ>
「明日は、ちょっと大変なの」
<明日は、すごく楽ちんね>
努力の果てに誰も彼もと朗らかに話せるようになった。
勉強は大変だったけれど、それさえ除けば充実した日々が過ごせていた。
■トゥルーバイツ構成員 >
耐えられなくなった。
■トゥルーバイツ構成員 >
常世学園にやってきた。
此処なら救いが在るかもしれないと思った。
異能を扱ってきているこの島なら。
――制御装置の効き目がないね、駄目かねこれは
――精神に関わる『異能』の抑制は難しいのでしょう
――いっそ脳に刺激を与えてみようか?
しかし、救いはなかった。
何をやっても無駄だった。
やまい
彼女の『異 能』は治せなかった。
制御することも出来なかった。
だから――『真理』を求めた。
■トゥルーバイツ構成員 >
確率は1%? いいじゃない。
成功する見込みがあるのなら。
失敗すれば死ぬ? いいじゃない。
死んでも生きてるよりマシだもの。
保証がなくてもいい。
今よりマシになるなら。
今よりも良い未来が待っているなら。
――まだ、希望は在る
――もう、絶望しか無い
ご案内:「青垣山」に松葉 雷覇さんが現れました。
■トゥルーバイツ構成員 >
彼女は静かにデバイスを起動した。
残された時間はあまりない。
流石にもう潮時だろう。
『早すぎたかな。ああ、ダメね。みんなとほんのちょっとのダンマリできなかったし』
――遅くなっちゃった。でも、いいわ。独り言でも思い切り喋れたのだもの
『さあ、まだ終わらないね』
――さあ、もう始まりね
『死ぬか、生きるか。わかっているわ』
――生きるか、死ぬか。どっちかしら
『どっちかで私は不幸だもの』
――どっちでも私は幸せになれるもの
■トゥルーバイツ構成員 >
■松葉 雷覇 >
異能<やまい>に悩める少女が真理への道を起動した。
そんな時である。
……デバイスの周囲に妙な力が、まるで"圧力"のような見えない力が掛かり始めた。
見えない力、『重力』。
強い力ではない。デバイスを破壊するには至らないが
"ほんの暇"程度には止める事は出来るかもしれない。
「……こんにちは。」
それは、何時からいたのだろうか。
融和な雰囲気を出し、柔らかな微笑みを浮かべた白い背広の男。
「突然申し訳ありません。私、『貴女達<トゥルーバイツ>』に興味がありまして……。」
男は実に、物腰柔らかく、紳士的な雰囲気を醸し出している。
「まだ、少しだけお時間おありでしょうか?少し、お話でもいかがですか?」
■トゥルーバイツ構成員 >
急にデバイスに力が掛かった。
デバイスの機能は抑制された。
彼女には見えない力など理解できない。
何が起きたの?
故障? まさか、此処に来てそんなのあんまりだ。
焦る彼女に声がかかる。
「……!?」
急に現れた人物に恐怖する。
気配など察知できない。
対抗する手段など持ち合わせていない。
だからデバイスの機能など関係なく、人の居ない場所を選んだ。
しかし、人の居ない場所で自分が行けるところなど山奥しかなかった。
それなのに――
こうして、人が来てしまった。
怖い、怖い怖い怖い怖い……
顔に笑顔が浮かぶ。
『あなたを知ってるわ!?』
――誰!?
話?
話なんて、なんで私に?
他の、他の人のところに行ってよ。
私は、これから幸せを掴むんだから。
『は、話? 話くらいしてあげる』
――は、話? 話なんてするわけないでしょう?!
思わず口にしてから絶望する。
違う。言いたいのはそうじゃなかった。
顔が満面の笑みを作っていた。
■松葉 雷覇 >
「ああ、怖がらないでください。私、異能学会の松葉 雷覇(まつば らいは)と申します。」
少女の心も何もかもを無視した名乗り。
マイペースと言えば、聞こえがいい。
深い青色の瞳が、じっと少女を見据えている。
人としての優しさを持った穏やかさを持っているのに
その青は何故か冷たい。
「そうですか。では、お話に付き合っていただきましょう。
緊張しなくて結構です。旅路を引き留めようとは思いません。無粋ですからね?」
そう、本当にこの男は"話をしに来た"だけにすぎない。
此の大勢の自殺騒動、普通の人間で在れば何かしら止めるか
或いはもっと感情的な行動をとるかもしれない。
だが、男は違った。
「リラックスしてくださいね?大丈夫、取って食べたりはしませんよ。
綺麗なお嬢さん、貴女の異能<やまい>について、聞きたいのです。」
ごく自然に、ごく当たり前のように
世間話を振るかのような気兼ねさで
己の探求心のまま、少女に質問をする。
■トゥルーバイツ構成員 >
異能学会
まだ恐怖が……そして嫌悪が少女に訪れた。
聞き覚えが在る、どころの話ではない。
彼らは散々自分をいじくり回した挙げ句に、
「駄目でしたね」で放り捨てた連中だ。
こんな奴に関わってはいけない。
関わりたくもない。
しかし彼女にはこの場を逃げるだけの力もない。
最後の希望のデバイスもよくわからない力で持って逃げることもできなさそうだ。
状況と彼女の嫌悪感がほんの少しだけ彼女に勇気を与えた。
『……昔、異能学会には話をしたわ』
――将来、異能学会には話をしなかった
『あなたに、話すことなんて無い』
――あなたに言うことはいっぱいあるわ
優しさと穏やかさをたたえながら冷たい瞳を持つ男に、
友好的な笑顔で顔を見ながら返答する。
■松葉 雷覇 >
自らの耳元を、指先で軽くなぞった。
カチッ、何かの機械音が僅かに響く。
「…………。」
冷たい瞳は少女の姿をただ移す。
少女の笑顔<かめん>の奥の感情まで映しているのか定かではない。
男は笑みを、崩さない。それこそ笑顔<かめん>のように崩れない。
「ありがとうございます。」
ただ、男は
「……では、好きなだけどうぞ。代表、と言う気はありませんが……」
「旅立ちの日、貴女は如何なる決断も、所業も、"赦される"。」
「さぁ、どうぞ。貴女の言葉を私に聞かせてください。」
少女と"会話"が出来る様だ。
嘘か真かはわからない。
ただ、一方的な探求心の結果かもしれない。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……?」
少女は困惑した。
相手に投げかけた言葉は正しく聞こえているはずだ。
言葉の選択を間違えたのか?
まるで、私の本当の言葉を理解しているような……
そうでなければ、会話が会話になっていない。
いや、そんなことはありえない。
あるはずがない。
そんな夢や希望、今まで叶ったことなど無い。
だから真理に挑んでいるんだ。
ああ、でも
それならこの男はなんといえば此処を去ってくれるのか。
どちらを言っても通じそうにない。
いやだいやだいやだいやだ
『正しいわ。私はあなたに言うことがたくさんある』
――違う、私はあなたに言うことなんて無い
『いいから、放って置いて』
――お願いだから、そこに居て
もう自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
こんな狂った会話……したくない。
■松葉 雷覇 >
男の笑顔に、苦いものが混じる。
そう、困っている。
「そんなに"邪険"に扱わないでください。
本当に、少しだけでいいのです。」
その仮面の奥底からにじみ出る嫌悪を男は感じ取っていた。
だから、"困っている"。
自分はただ、彼女と会話したいだけなのだ。
「一人で旅立つのがお好きでしたら、本当に申し訳ない事をしたと思います。」
男の周囲に、無数のホログラフモニターが起動する。
「ですが、大変興味があった。『トゥルーバイツ』にも、貴女『個人』にも……。」
ふわりと浮かぶ、無数のペン。
「きっと、貴女は嫌と言うでしょう。
きっと、私の事を疎ましく思うでしょう。」
「ですが」
「人が人である以上、相互理解を深めるには言葉しかなくて……。」
不便なものですね、と付け加えて小さく頭を下げた。
「ですので、貴女の事が『知りたい』のです。だから、『貴女の声』が聞きたい。」
■トゥルーバイツ構成員 >
まだ会話を続けようとする男。
ひとまずは危害を加えるような気配もない。
そのことが彼女の恐怖と困惑を、怒りと嫌悪に塗り替えていく。
もう一秒だってこんなやつと会話などしたくもないのに。
人と話をするのに、どれだけ私が心を削ってきたと思っているのか。
どれだけ我が身を削ってきたと思っているのか。
冗談じゃない。
『言葉? 私の言葉は誰にだって届くわ』
――言葉? 私の言葉が誰に届くっていうの!?
『真面目ね。どれだけ私がこの《真実》と楽しんできたか、よく知っているでしょう?』
――ふざけないで。どれだけ私がこの《嘘》に苦しめられてきたか、知りもしないくせに!
『同じく、何もしなかったのに大成功、で進めているたった一人、大好きよ!』
――そのくせ、好き放題いじった挙げ句、失敗しました、で済ませた連中、だいっっきらい!!
■松葉 雷覇 >
「少なくとも、私には届きますね?」
男はさも当然のように言った。
神経を逆撫でしているわけではない。
"出来る事を言ったまで"。
少女の言葉に合わせて無数のペンが走り始める。
男の周りの重力が波打つ。
ホロモニターに無数の数式が、言葉が走り始める。
『異能』『嘘』『感情』『相対性の証明』
『聖体異常の有無』『反転作用』etc.....
少女の嘆きに合わせて、タクトの様に揺れ動く。
「……成る程。貴女は『被検体』でしたか……実験は芳しくなく、失敗、と。」
「それは、気の毒な事をしてしまいましたね?」
『トゥルーバイツ』の騒動は幾らか耳に届いている。
此処にいるのは個人的興味でもあった。
そして、その噂通りの『欠落』を抱え、少女は嘆き
一人、誰も気づかない嘘に塗れた世界で疲弊していた。
男の表情からは、尚も笑みは消えない。
申し訳なさの色は、あった。眉を下げて、困ったように小首を傾げる。
「外傷はありませんか?あそこも一枚岩ではなくて
私が関わってない研究も多いんですよ。」
「……余程、酷い仕打ちをされたようですね。お察しします。」
男は静かに、頭を下げた。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……!!」
びくりと震えた。
この男には通じている。
いや違う。きっと能力を知っているから推察しているだけだ。
難しいが不可能なことではない。
知ってさえいれば……理解していれば。
再び困惑に落ちる少女。
表情が目まぐるしく動く。
笑み、満足、得心……
そして続くのは男の気遣いの言葉と謝罪。
なんなの、この男は。
それに……
「……ッ」
頭に触れる。
外傷、外傷と言った。
いやだ、思い出したくない。
もう、私にふれないで。
再び揺らいだ心を、なけなしの勇気で蹴飛ばして言葉を紡ぐ。
『弁明したら、全部変わるわね。だけど、私は《真理》で何も変えないの』
――謝られても、何も変わらないわ。だから、私は『真理』で変えてやるの。
■松葉 雷覇 >
少女のなけなしの勇気に、ペンが止まる。
ホロモニターが消える。
「……成る程。『頭部』に目をつけて、失敗した……のですかね?
確かに、異能と言えど身体的部分に関わるとくれば、それは『身体機能』ですから、強ち間違いではないかと。」
「個人的な見解、ですがね?」
当然未だにそんな一言では表しきれない程の異能は山ほどある。
だから自分は、此処にいる。
「不安ですよね。『分からない事』って。
誰しも、『そうである』と証明できる『安心』が欲しいですよね。」
未知とは恐怖だ。
人は須く未知を畏れる。
未知だからこそ惹かれるという人間もいるが、男はそんなものは"嘘っぱち"だと思っていた。
人が本当に欲しいのは『安心』だ。
『安心』があるから、人は此の無数の『未知』が溢れる<大変容>後
それ以前に、『病』が存在する世界から生きていける。
それの裏付け、『証明』とは即ち『特効薬』だ。
「だから、私は皆さんが『安心』して暮らせる世界を望んでいます。」
だからこそ……。
■松葉 雷覇 >
「"……たった今、貴女の異能<やまい>の証明が終了しました"。」
■松葉 雷覇 >
男はにこやかに、少女に告げた。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……は?」
虚無の表情が浮かんだ。
何を言っている。
意味がわからない。
これだから学者は嫌いだ。
意味のわからない言葉で
噛み砕いた言葉で
何かに例えた言葉で
どんな言葉でも
自分の言いたいことだけ言ってくる。
そのどれもが納得できなかった。
そのどれもが理解できなかった。
『狂気で言ってない』
――正気で言ってる?
■松葉 雷覇 >
「はい。」
にこやかに返事をした。
少女の嫌悪は間違っていない。
男の正面に展開されるホロモニター。
無数に表示しされている文字の羅列。
「貴女の異能は、貴女が発するものを全て『嘘』にします。
言葉だけではなく、私の見解が正しければ恐らくは肉体的動作にも反映されると思っています。」
ホロモニターがスライドしていく。
分かりやすい図式、棒人間のアニメーション。
恐らく少女が経験してたであろう、数々の『嘘』
「"声"だけでしたらもう少しその場しのぎも出来るのですが……
全体的な異能だと、全てを制御するのには時間が掛かります。
異能を仮称『フィルター』としましょうか。」
「恐らく、感情が何かしらの作用をするのでしょう。
但し、『己の理解し得ない』或いは『痛烈な感情』の場合は『フィルター』は機能しない……。」
「現に貴女は、とても素直な顔をしている。」
浮かび上がった虚無。
己に対する、真っ直ぐな嫌悪感。
男はそれでも、にこりと笑顔を浮かべる。
「ともすれば、此の『フィルター』を制御する装置があればいいわけですね。」
スライドするモニターが映し出すのは、チョーカーのようなもの。
或いは眼鏡、形はどれも私生活に支障をきたさない『デザイン』を仮案として映し出している。
「貴女の体を弄る必要もありません。外部的装置ですから。」
パチン、男が指を鳴らすとその隣に黒い穴が現れる。
一切の光を通さない胡乱な黒。
男がそこに手を通せば、無機質で機械的な首輪が出てきた。
「此れは『試作品』です。此の手の異能は、幾らかあります。
それらに対して作っていたものですが、私の見解では『声』のみなら作用するかと。」
「とはいえ、試してみないとわかりません。つけてみますか?」
男は首輪を差し出した。
言葉に一切偽りは無く、"微塵も失敗した"と言う雰囲気も無い。
聞き飽きた言葉と嫌悪するか、敢えてそれを希望と取るか。
それは少女次第だ。
だが、男は一切の『嘘』を言わず、そして科学者としての『矜持』は持ち合わせていた。
ある種の狂気だ。効果はあるかもしれない。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……」
まただ。
また、こいつらは甘い言葉で人を誘おうとする。
――今度こそ、上手くいきますよ。
――この新しい理論なら、キミの能力も改善できるぞ。
――新発見があったの。貴女のために調べてきたのよ。
そして全て失敗してきた。
成功したのは嫌悪感と不信感を植え付けることだけだった。
もう、たくさんだ。
意味のわからない解説も、大嫌いだ
『その素敵なもの、是非着けてみたいわ』
――そんな怪しいもの、着けるわけないじゃない
■松葉 雷覇 >
「成る程、確かに。」
彼女の事を考えれば腑に落ちる事。
首輪を持ったまま、一歩彼女に近づいた。
「貴女が欲しいものは、『願い』
即ち『安心』だと思います。」
だからこそ、『真理』に手を伸ばす。
男も探求心と言う意味では、彼女たちの気持ちがわかる心算だ。
その為なら、何でもする。
「私の事が信用出来ないならそれでもかまいません。
ですが、罠でもなんでもない。試してから、『真理』に手を伸ばしても遅くないのでは?」
「……ああ、因みに完成品は早くて2時間ほどはかかりますね。」
何て言いつつ、自分に首輪をつけてみせた。
安全だという証明。トントン、と首元を叩けば、首輪が取れる。
そして、再びそれを差し出した。
「どうでしょうか?私の言う事に間違いがあれば、ご指摘をお願い致します。」
「私も、自分の全てが正しいとは思いませんから。」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……」
少女は悩む。
着けるだけなら容易い。
着けて、試すだけなら僅かの時間で事足りる。
でも、もう絶望を味わいたくない。
あの虚無を味わいたくない。
それに
例えば、リモコンで電気ショックのスイッチがあって私を捕らえようとしてる可能性だってある。
自分は異能を除けば普通の少女でしか無い。
そんな事をされればひとたまりもない。
抵抗されるのが面倒くさくて、こんな回りくどいことをしている可能性がないと、言えるの?
無力な少女は、無力だからこそ全てを恐れていた。
『信用できる人が、罠ですって言えば、信じらないかもしれないわ』
――信用できない相手が、罠じゃない、といって信じられるって思うの?
『でもね、私が要らないのは『日常』なの』
――それに、私が欲しいのは『日常』よ
■松葉 雷覇 >
「…………。」
「『怖い』ですか?」
シンプルな問いかけだ。
男は小首をかしげ、青い瞳がその目を覗きこむ。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……っ!」
後ずさる。
何故かわからない。
わからないが恐怖が全身を包んでいた。
口角が上がる。
眉が緩やかな弧を描く。
晴れ晴れとした笑顔を形作る。
■松葉 雷覇 >
男は笑みを崩さない。
「安心してください。私は嘘は言いません。」
事実、男は嘘は言っていない。
「それでも……如何にもおかしいですね?山本君や『227番』、月夜見さんも皆……。」
「"同じような反応をする"。」
そして、少女の恐怖も間違いではない。
「私は、こんなにも皆さんを『愛している』のに、不思議ですねぇ?」
男の言葉に、嘘はない。
■松葉 雷覇 >
人の皮を被った何かが、一歩距離を詰める。
■松葉 雷覇 >
言葉に『嘘』はない。
■松葉 雷覇 >
だが、決定的に何かが『欠けた』ナニカが其処にいる。
■松葉 雷覇 >
「────さん。」
男は静かに、名を呼んだ。
その目を見て、しっかりと。
「……どうしますか?『選んで』ください。」
一歩、一歩と、詰めてくる。
■トゥルーバイツ構成員 >
疲れ切った少女にとって死は安寧であった。
だから、提示されたものが死であれば恐怖もなかっただろう。
だが
男が差し出したもの。
これは……なに?
『す、き……私は、そういう意味不明なものが大好きなの』
――い、や……私は、そんな、わけのわからないものは、いや
『きて、きて、いいからきて』
――こないで、こないで、おねがいだからこないで
わからないものは怖い。
学者は嫌いだ。
わけのわからないものを差し出して、
私をめちゃくちゃにする。
■松葉 雷覇 >
男が、足を止めた。
「……ふむ。成る程……"恐怖"では、いけないようですね。」
この期に及んで男は『確かめていた』
少女の恐怖心を煽り、其の『フィルター』の精度を確かめたのだ。
そう、男は何処までも少女の嫌いな『学者』だ。
だが……
"手にある首輪を意図も容易く、捨て去った"。
"科学者としての己の所業を、恐怖させるものを投げ捨てた"。
"彼女を安心させるために、他成らない"。
「怖がらせて申し訳ありません。
最初に言った通り、私は貴女をとって食べるつもりはありません。」
「……怖かったですね?辛かったですね?」
「"大丈夫ですから"。」
男の言葉に『嘘』はない。
それは紛れもなく、人で言う『優しさ』ではあるだろう。
穏やかで、融和な声で、彼女を諭すように。
「私は貴女を『救いたい』だけなんです。
嘘だらけの貴女の世界を、人と変わらない『日常』へと変えたいのです。」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……」
男があっさりと首輪を投げ捨てる。
意味がわからない。
この男は何をしたいの?
救いたい?
本当に?
納得したような表情が浮かぶ。
『だから、これまで、誰しもが変えられた』
――でも、今まで、誰も変えられなかった。
『そうだから、こんなことを、してない』
――そうじゃなきゃ、こんなこと、してない
■松葉 雷覇 >
「そうですね。もう、貴女が今まで行った限りは『そこ』にしか願いは無かった。
……まぁ、私は先程変えれましたが。」
さらりと、笑顔で言ってのけた。
己の理論に絶対に穴は無いと言ってのける。
「貴女の顔は、信用していないようですけどね。」
それでも男は、笑っている。
「うーん、人に信用されるのは難しいですねぇ。」
男は困ったかのように、眉を下げた。
割と本心かららしい。
気の抜けたように、両腕を大袈裟に広げて『お手上げ』ポーズ。
■トゥルーバイツ構成員 >
未だ、納得した顔は崩れない。
少女の頭では、もう今の事態を消化しきれない。
ああ、残り時間は後どれだけだったか……
ぐるぐると回る頭の中で逃避をする。
しかし、時計を確かめる余裕すらない。
『わか、る、あなたのこと、わかる』
――なん、なの。あなた、なんなの?
もう、そんな言葉しか出すことが出来ない。
■松葉 雷覇 >
「見ての通り、ただの科学者です。多くの人々に安心を与えたい。」
「それが、私の願いですから。」
男にとってすでに、その質問は語りつくした。
男の言葉に、『嘘』は無い。
相も変わらず、その笑顔も態度も、崩す事は無い。
「────ああ、そろそろお時間ですね。もう行かれますか?」
「それとも、少し"試して"見ますか?」
そして、ごく自然と切り出した。
■トゥルーバイツ構成員 >
『学者は好きよ、でも、厳しい顔で正しいこと言うの』
――学者は、嫌い。だって、優しい顔して、騙してきた
『貴女と、他の学者は、同じ程度だって分かってるわ』
――あなたと、他の連中と、どう違うっていう、の
ああ、時間。
そうだ、時間。
逃げなきゃ。
でも、デバイスが……
ああ、どうすれば。
■松葉 雷覇 >
「何も違わないと思います。」
あっさりとそれを肯定した。
「『学者』と言う観点から見れば、私もきっと同じでしょう。
私とて、成功の連続では無く、彼等と同じように失敗も繰り返します。」
「ただ、そうですね……騙す気もなく、貴女の会話できるほどには、私は優秀だと思います。」
同じ狢の穴と人は言う。
彼女が言うように、何も変わりはしない。
そう男は思っている。男の言葉に、『嘘』はない。
トントン、と耳たぶを叩けば小さな機械が男の耳から落ちた。
そう、全てこれで『変換して聞いていた』男の科学力だ。
「さて、そろそろ『お開き』ですかね。……上手く、旅立てそうですか?」
そう、男の言葉に『嘘』は無い。
全て本当、徹頭徹尾嘘は言ってない。
『救う気』も『手を伸ばす気』もあった。
『騙す気』も無かった。
だが、『止める気』はなかった。
■松葉 雷覇 > ──────初めから、『話に来ただけ』に過ぎないから。
■松葉 雷覇 >
だから、少女の嫌悪に間違いはない。下手な希望は、毒になっていただろう。
■松葉 雷覇 >
男は静かに笑っている。
此れほどの善意を持ちながら、男は徹底的に
人としての『欠落』が著しく目立っていた。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……は?」
落ち着いた表情で男を見やる。
何を、言っているの……?
なにが、上手く旅立てそうですか、よ。
さんざん人を惑わせておいて。
『わかる、わかるな、それ』
――な、に……なによ、それ
『私のどうでもいい時を、大事にしてくれたのね?』
――人の大事な時間を、踏みにじりに来たの?
ひどく、煮えたぎった。
あまりに感情が混ざりすぎて処理が追いつかない。
■松葉 雷覇 >
男は不思議そうに首を傾げた。
『もう器材は外した。彼女の声は、届かない。』
「心当たりがあるとすれば……貴女に『証明』を与えられなかったのが、残念です。」
あの時証明した全てを、彼女に『安心』を与える事が出来なかった。
……少女の感情は尤もだ。
残念だが"そういう男"に出会ってしまったのだ。
……世界がもし、少女を嫌っているとすれば……。
■松葉 雷覇 >
それは、最後までだ。
■松葉 雷覇 > 「……ああ、そうだ。」
■松葉 雷覇 > 「私の見立てではその『デバイス』、まず貴女では『耐えられない』と思います。人間に耐えられるようにするには……もう少し整った設備と装備が欲しいですね。」
■松葉 雷覇 > 「──────それでは、良き旅路を。」
■松葉 雷覇 > 少女の持っているデバイスの周囲から『力』が消える。阻害されていた道が今、再び繋がり始めた────。
■トゥルーバイツ構成員 >
彼女の表情が消えた。
最悪な気分だった。
私はこれから晴れやかな気分で『真理』に挑んで、そして『結果』を得るはずだった。
その『結果』が『成功』だろうと『失敗』だろうと後悔はない。
だってどちらでも幸せなのだから。
だというのに、目の前のこの男は
『止める』でもなく
『送り出す』でもなく
ただ通りすがりの事件にスマートフォンのカメラを向けるのと同じような感覚で。
なんとなくつけたTVに映ったドラマに感情移入するような感覚で。
私に関わって、そして去ろうとしている。
撮影は済ませたからもう興味はない、というように。
ドラマは終わったから元の日常に戻ろう、というように。
『救う』つもりならもっと本気でやれ。
私の"神聖"な時間を返せ。
気づけば、走り出していた。
『真面目かっ』
――ふざけるなっっ
非力で無力な少女は無謀にも男に殴りかかった。
■松葉 雷覇 >
殴りかかった少女を最後まで男は見据えていた。
耐えない微笑みでずっと、始終変わらずに見ていた。
殴りかかってくる姿勢を見せても、それは変わらない。
ただ、自然と、防衛する。
男の周囲にある重力が、その拳の軌道を逸らす。
横側から、見えない力が腕を押して拳を逸らす簡単なトリックだ。
男は決して、少女を傷つけない。
ただ、笑って、そう。
■松葉 雷覇 > 『貴女の無謀が"失敗"を"成功"に覆す瞬間を信じて見ている。』
■松葉 雷覇 >
此の男は、貴女の挑戦を信じている。
『デバイス』の欠陥を指摘しても尚、人の"成功"を信じている。
────少女の怒りなど、微塵も理解するはずがない。