2020/08/07 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
水無月 斬鬼丸 > 夕焼け小焼けで日が暮れて。
山のお寺の鐘が…ならない。
なるのは山の神社の社に設えられた階段に座る少年の腹くらいなもんだ。
はらへった。

そりゃそうだ。
今日は午前中のバイトをおえて、ずっとここにいた。
ずっと考えていた。

沙羅ちゃん…大事な妹を助けるために。これから何ができるのか。

風紀委員になる?NO。同じ鉄火場に立つことは物理的な救いにはなるかも知れないけど
精神的には辛さの共有にしかならない。何より自分が下手打った場合さらに負担になる。

ピンチのときにババーンと現れられるように自分を呼べるようになんか持たせる?NO。
移動型異能を持ってないし身体能力だって並。危機が迫ったときによんだところでもう遅い。
そもそも彼女のほうがずっと強いんだからそんな現場に行ったところで何もできない。

彼女がつらそうなときに連絡でも何でもして寄り添う?…NO。
四六時中顔を合わせるわけではないし、心が読めるわけでもない。
何にしたって沙羅ちゃんからの助けを求める声が必要になる。

「わぁぁっかんねんぇぇぇええ」

頭をかいてゴロゴロ。
どうするんだよこれ。

水無月 斬鬼丸 > わからん。なんもわからん。
じゃあどうするか…。
せめて…そう、どうするか。
何かあったときになにかできるように、選択肢を広げる。
これか?これなのか?

つまり…これからは…封印していたこと。
努力、しなければなるまい。

自分の中の何かを断ち切って、自分が無限に成長するおぞましいなにかであることを悟ってから
ずっと、人の道を外れないようにと我慢してた。
努力はもともと嫌いじゃなかった。だけど…怖かった。

でも、『怖がって、一歩も動けずにいる兄さん』はお呼びではないらしい。
彼女がほしいヒーローは《チェイン・リッパー》という名前だそうだ。

気は進まない。
どう頑張ってヒーローなんて器じゃない。
だけど、やらなきゃ…

やらずに、またあの子が無茶をして、泣かせたままでは…
もう二度と家族としても顔向けできやしない。

水無月 斬鬼丸 > 沙羅ちゃんもだけど、フェイも守れなんて言われたら…
そうするしかないんだ。
だって、好きなんだから。
フェイのためなら…多少頑張るくらいわけない。
もちろん沙羅ちゃんのためにだってだけども。

「…でも…異能を鍛えるってどんなことすれば…」

思わず口に出る。
自分の異能。自分に触れているもの…道具を介さずともあらゆるものを斬ることができる。
あと、なんだか知らないけど…自分だけに関わる事象限定であらゆるものを概念的な意味でも断ち切ることが可能らしい。
自分の限界を断ち切ったのもそのせいだ。
重力とかも断ち切れるだろうが、それやった場合二度と地球には戻れないだろう。

「これをどう鍛えるんだ…?」

そういえば、最初は道具を持ってなきゃ使えなかったっけ。
刃物を持ってなきゃこの異能は発言しなかった。
剣術を習い始めて、刀は腕の延長…みたいな話を聞いて…しばらくしたら刀がなくてもできるようになってた。

「…んーんーー??」

水無月 斬鬼丸 > つまり、この異能は…刀とか…そういうもの。
自分の触れているなにかを自分の延長にあるなにかを
伝うことができるということか?

その自分の延長…そして自分の異能のイメージの輪郭…
それがはっきりしてくることで、異能の力が開花している?
・・・つまり…この気付きは…危険なのでは?

例えば…今触れているもの…階段。
今触れてるもの…空気。
今触れてるもの…光。

「……っ」

硬いつばを飲み込む。
手が震える。一筋、冷や汗が落ちる。
もちろん、自分の異能にはそんな力はないのかも知れない。
生身で触れているものを斬れる。刃物にはイメージ補正で同等の能力を与えられる
程度なのかも知れない。

だが、万に一つ。億に一つ。
今のイメージ通り…それ以上にこの異能が成長するものだとしたら……。

水無月 斬鬼丸 > 遠くの枝葉に視線を送る。
イメージ…今の異能を……刀に通して使ったときのように。
刃に異能を通していくように。
視線に…枝葉と瞳それをつなぐ光…それに

『斬』

切断の意思を強く持つ。
枝葉が揺れる。

「…………」

なにもおこらない。
…何も起こらなかった。

「っはーー……ですよねぇえ!」

そんな強力な異能であるはずがない。
触れば斬れる、それだけの異能のはずだ。
なら、それはそれとして、それで彼女のために何ができるのか…

水無月 斬鬼丸 > そもそも異能というものは成長するのだろうか?
自分の物は…成長していると言えるのだろうか?
異能ステージ説とか疾患説とかあるようだが…
そのへんもどうも眉唾というかなんというか。

使い続けたところで、異能筋とかあるわけでもないんだし
今ある力の使い方がうまくなるだけだ。
それは異能の成長ではなく本人の技術の向上でしかない。

やはり、頼りになる…
状況を打開できる男になるためには
異能よりもフィジカル的な修行を…

などとかんがえつつ、むむむと唸っていた。

すると、パサリと、何かが落ちる音がした。

水無月 斬鬼丸 > 「………」

方向は、前方から。
正直、気づきたくない。
そのまま何事もなかったことにしたい。
そもそも、海を割るといった状況にしたことがある。
海の水が、そのまま大気や光に置き換えられただけのことなのだ。
そう考えれば理屈は通る。
とおるが……

正直に言えばコワイ。

水無月 斬鬼丸 > 見るだけで人を、ものを、何でも分解せしめる異能など…
自分の手には余る。絶対に。
だが、彼女たちを護るチェインリッパーは…それが可能だと言っているのだ。
それを操り、使いこなすことが…
家族を…沙羅ちゃんを護ることになるのだろう。

怖がって、一歩も動けないままの俺は…もう、いらないんだ。

目を開ける。
そこにあるのは…先程見た枝葉だ。
苦虫を噛み潰したような表情。
…できてしまった。
やれてしまった。

水無月 斬鬼丸 > 心の変わりよう。
心境の変化や覚悟の有無で
異能が強化されたという事例がいくつかあったという話は
学園内で耳に入ることがあった。
精神的な強化で力そのものがましたという話も。

だけど、自分はそうではないと思う。

異能というものは…与えられたものに気づいていくものなんだと。
気づくことがいわゆる異能の進化とか…強化とか…
そういうところなんだろう。
気づいても技術の不足とか、開放する力の不慣れでできないところもあるんだろう。
だが、そういう前提をクリアした上であれば…気づくことでそれが可能になるのだ。

そして自分は、気づいてしまった。

水無月 斬鬼丸 > 目の届く場所であれば人を斬殺できる。
ものを切断できる。

目を上げる。
崩れた鳥居の破片をじっと…みる。

それが瞬時に砂と化した。

「……あぁーぁ…」

できちゃったよ。
できてしまった。
これから人と目を合わせるときは気をつけなければなるまい。
いや、人を視界に入れるときは、か…。

水無月 斬鬼丸 > 「こんなんで…沙羅ちゃんを助けられるのか?」

どこまですればいいんだ?
なにをすればいいんだ?どうすれば…
どうすることが…

辛いあの子を救うことになるんだ?

ひとまずは…そうだ。
そうだな…

心配をかけない程度には、つよくなるかな…。

ご案内:「青垣山 廃神社」にシュシュクルさんが現れました。
シュシュクル >  
「ざんきまる~♪ しゅしゅくる~♪
 ざんしゅしゅ♪ ざんしゅしゅ♪
 ざんしゅまる~♪」

廃神社の向こう側から、聴き慣れた声と――
それから陽気な歌が聞こえてくる。
どうやら、まだそちらに気づいている様子はないらしい。
上機嫌で歌いながらスキップを踏んでいるようだ。

水無月 斬鬼丸 > あの子の重荷にならないように
あの子が安心して帰ってこれるように
あの子が助けを求めてきたときに…

『貴方に何ができるんですか!?』

などと言われないように…

そのためには、色々と、自分ができることをやらなきゃいけない。

水無月 斬鬼丸 > などと考えていると、なんか呼び声…?
いや、そうじゃない。
歌?
ってか、俺の名前?
むしろこの声は……

ゆっくりと振り向いて、廃神社を挟んだその奥。
そっと覗いてみる。

シュシュクル >  
何ということだろう!
こっそり覗いたその顔を、
野生児は見つめ返しているではないか。

そうして、目が合ってしまう。
あの野生児と。
かつて、サメを食わされ。
かつて、バナナ泥棒の罪を背負わされた、
あの褐色の狼が、目を輝かせながらそちらを見ている!

「ざんきまる~~っ!!」

ぱああぁっと、明るい表情で、両手を広げて全力ダッシュ。
斬鬼丸の元へ駆けてくる。
凄まじい速度で。

水無月 斬鬼丸 > …なんかすでにこっちみてる。
気づいていた?
いや、さっきの歌のこともある。
はじめから知っていたのかも知れない。

「あ…シュシュ…」

言い終わる前に少女は動いていた。
ってか速っ!
笑顔の少女の突進はこちらが目を背ける夜も素早い。

「ぐふっ!?」

全力ダッシュの全力タックル。
両手を広げた少女のそれを喰らえば見事に吹っ飛ぶ。

シュシュクル >  
「やった、シュシュクルさき、こっちきた!
 シュシュクル、かち~!」

何だか勝ち誇っている。
が、予想以上に吹っ飛んだ斬鬼丸を見れば、
慌ててタタタ、と駆け寄っていく。


「ざんきまる~っ!? だいじょうぶ!?
 すまない、シュシュクル、ざんきまるみつけて、
 うれしくて……」

吹っ飛んだ斬鬼丸の視界に、ずいと覗き込んでくる
少女の顔が映る。距離的に、目と鼻の先である。

水無月 斬鬼丸 > 「……あ、はは…」

なんか笑えた。
なにやってんだ。
っていうか、かちってなにが?
色々と頭の中が混乱している。
目を開ければ…少女の顔が近い。

「だいじょう…うおっ!?」

めちゃくちゃ近い。
目と鼻の先っていうか、目しか見えない。

シュシュクル >  
「どした~? ざんきまる、なにしてた~?
 げんきない~? しょぼしょぼ~?
 シュシュクル、しんぱいなって、こっちきた~」

どうやら、ただ嬉しいから来た、という訳でもなかったらしい。
そこまで口にして、シュシュクルは一旦顔を離すと、
珍しく、真面目に心配そうな表情を向ける。

「あー……はらへった? くいもの、とってくる?」

空腹の為に難しい顔をしていたと思ったのだろう。
シュシュクルは、ぱっと閃いたように目を輝かせて、
視界の端で小首を傾げてみせる。

水無月 斬鬼丸 > 「えーっと…なにって…
なんだろ…修行?
あ、うん。大丈夫、大丈夫だから」

異能はもともと制御自体はしていた。
視線のあれもなんとかなるだろう。おそらく。
心配そうなシュシュクルの頭を撫でる。
その表情があまりにも似合わないもんだから。

「…あー…たしかに、はらはへってるかも」

くうくうとさっきから腹が鳴っていたっけ。
不安はあるものの、そこは正直に答えて。

シュシュクル >  
「しゅぎょー!?
 ざんきまる、つよくなるをがんばる!?
 ざんきまる、えらい~!」

聞けば、ぱちぱちと小さな手を叩くシュシュクル。
どうやら彼女の世界でも、手を叩くという行為は
称賛を表しているようであった。

「わかった! ざんきまる、まて! 
 げんきでるものいっぱい、とってくる!」

その言葉を聞けば、よし来たと言わんばかりに勢いよく
立ち上がり、木々の向こうへと消えていった……。

水無月 斬鬼丸 > 「えらい…えらいかぁ…
えらい、のかなぁ…」

鍛錬やら勉強やら
まぁ、それらを行うということは
一般的にはえらいんだろう。

「え、ちょ、店とか家から撮ってきちゃ駄目だから!!」

思い立つと行動が早い。
勢いよく消えていったその先に声をかけると
ようやく起き上がって、その場に腰を落ち着けた。

シュシュクル >  
さて、待つこと数分。
元気よく聞こえてきたのは、再びの勝ち誇った声だ。

「とってきたーー!!」

シュシュクルは大きな葉っぱを頭上に抱えて、
たったかと駆けてくる。
そうして斬鬼丸の目の前にそれを置けば、
満面の笑みを浮かべる。

さて、そこに並んでいるのは3つの実だ。

紫色の中身が少し覗いている、艶のある赤色の丸っこい実。
緑色で、触手を思わせるような髭が無数に生えた実。
そして、ピンクと青の二色に分かれたカラフルな実。

「ざんきまる、どれくう?
 ざんきまる、さき、えらぶー!」

元気いっぱいに腕を挙げて、シュシュクルは問いかけてくる!

水無月 斬鬼丸 > 「え」

なにこれ。
見た目どうみたってやばい果物を持ってきたシュシュクル。
いや、本当に果物なのか?
なんかどっかのモンスター育てるゲームで見たことあるぞ、このシーン。

そのゲームでもなんか
どれか一個選ばされたような気がする。
まさかこんなところでそれを追体験させられるとは思わなかった。

悩む、大いに悩む…

えぇ、どれもヤバそうなんだけど…

「……これ…」

ピンクと青の二色に分かれたカラフルな実を手にとった。

シュシュクル >  
「ざんきまる、なやむ! わかる!
 ぜんぶうまそう、なやむー!」

悩む彼を見て、シュシュクルは心底嬉しそうに
そう口にする。
そうして、ピンクと青の二色に分かれた実を
斬鬼丸が手にとれば、大喜びで立ち上がり、万歳の
ポーズをとる。

「シュシュクル、それすきー!
 ザッバミボロロ、にてるー!
 あんまー! で、うんまー!」

ザッバミボロロ。おそらく、彼女が元いた世界に
あった果実なのだろう。





さて、もし口にしてしまうのであれば、
斬鬼丸は想像を絶する甘さを体験することとなるだろう。
激甘を超えた絶甘、という言葉がこの世に存在するのであれば、
これほどその言葉が似合う果実は他になかろう。
舌触りは、悪くない。悪くないのだが。

水無月 斬鬼丸 > 「…あ、うん、はい…」

うまそうらしい。
シュシュクルにとってはこれらが。
そして手にとった果実。
これどうやって食うんだ?
ザッバ…なんて?
ともあれ、シュシュクルも好物らしい。
ならば食べても問題は……
ないか?
この子はサメ食うような子だぞ?

いや、しかし…
異能で実を切り分け一口。

「ぁっ!?」

あんまっ!?なんだこれ。甘すぎて舌が麻痺してる。
というか歯茎が溶けてんのかって言わんばかりに歯が浮いた感じ…
むしろ歯根が痛い。
そのレベルで甘い。過剰な甘さに一瞬意識が飛びかけて
言葉が出ない。

シュシュクル >  
「うまいかー!? あんまー、でうんまー?」

口にした斬鬼丸の顔を覗き込み、目をきらきらと
輝かせるシュシュクル。

「ざんきまる、げんきない。
 シュシュクル、かなしい。
 ざんきまる、げんきだす。
 シュシュクル、うれしい。
 
 げんき、でた?」

にこにこ笑顔で口にするシュシュクル。
彼女にとって、この甘さは美味しいものらしかった。
そして確かに、一口食べただけでかなりのエネルギーが身体に
叩き込まれることだろう。

水無月 斬鬼丸 > 「ぁぃ……」

舌が感覚を失っている。
強すぎる甘みは毒にもなる。
インドのお菓子あたりもくっそ甘いらしい。
甘すぎて頭痛がしてきた。
とはいえ、残すわけにも行かない。
彼女は善意で、自分が美味しいと思うものを自分に持ってきてくれたのだから
もう一口、もう一口…
一口かじるごとに意識が飛びそうになるが、耐える。

「げんきある、げんきでたよ
ありがと、シュシュクル…
うん、おれ、げんき」

腹は一瞬で膨れたというか、カロリー過剰というか。
活力そのものはギュンギュンでてきた。
それはそれとして、舌が麻痺してるせいで
言葉はややたどたどしい。
むしろシュシュクルに寄ってる。

シュシュクル >  
「よかった! ざんきまる、げんき!
 シュシュクル、うれしい!」

耳をぴょこぴょこさせ、小さな身体をぴょんぴょんと
跳ねさせながら、全力で喜びを表すシュシュクル。

「ざんきまる、ありがとー!
 いつもシュシュクル、ざんきまる、あえてうれしい」

彼が未だ悩みを抱えていることを知ってか、知らずか。
いや、何も知らない。知らないのだろう。
しかしここに来て彼女は、普段から彼に対して
抱いている想いを伝え始めた。

「シュシュクル、ざんきまるいっしょ、
 それ、とてもうれしい。
 それだけ、で、シュシュクルうれしい。
 げんき、なる!」

自らも触手の生えた果実を手に取ると、ぱくりと一口。
ひゅっと口をすぼめて、ぎゅっと目を閉じて、酸っぱさに
震えるような顔をする。すぱうまー、などと口にしつつ。

「また、あそぶ!
 いつでも、あそぶ!
 シュシュクル、いつでもまってる!
 ざんきまる、シュシュクルの、いばしょ!
 だいすき~!」

尻尾をぶんぶんと振りながら、身体の全てを使って、目の前の相手への
好意を包み隠さず伝えるのだった。

水無月 斬鬼丸 > 結果はどうあれ、少女は自分のために
山野を駆けてくれたのだ
たしかに甘すぎるきらいはあったが
それはそれとして、少女の好意は嬉しかった。

「ん?ああ…えっと、ありがとう
こっちこそ」

少女の言葉に首を傾げる。
いつも猪突猛進で世間知らず
振り回して振り回し続けて嵐のように去っていく少女
あえて嬉しいと、言ってくれる少女。
なんだか、優しい気持ちになった。

「そっか。だったら、その…
俺も、うれしいな。
その、あれだ…シュシュクルとはトモダチ…だもんなぁ…」

触手のやつは酸っぱいやつだったのか。
シュシュクルがあんな顔するほど酸っぱいのだ。
自分が食ったら酸で口内がただれていたに違いない。
それはそれとして、少女にもらった実をもう一口…
そして、少女にも分けるように差し出して。

「うん、そうだな。
えーと、笛?また今度吹くよ」

居場所。彼女の居場所か。
沙羅ちゃんもそれが欲しかったのかな。
まぁ、居場所になれてなかったからこその言葉だったんだろうが…。

「居場所かぁ…居場所になれたらいいなぁ…」

なんか、泣けてきた。

シュシュクル >  
「ともだち~! でも、シュシュクル、かぞく!
 おもってる! だから、いばしょ~!」

シュシュクルは笑顔を斬鬼丸の前で振りまいていたシュシュクル。
しかし、その声は続く言葉と共にトーンを落としていく。

「シュシュクル、みな、はぐれた。
 とーちゃん、かーちゃん、シュシュクルのいばしょ……
 なくなった。かなしい。
 そば、いてほしかった。いなくなった。
 かぞく、たよりなる。いっしょ、げんきなる。
 いない、げんきならない……おもった」

シュシュクルは、尻尾を悲しそうに揺らす。
顔も俯いて、悲しそうだ。 

 「いま! ざんきまる、そば、いる!
  シュシュクル、うれしい! だから、うれしい!
  ふえ、ふく! いつでも、ふく!
  シュシュクル、はしってく!
  ざんきまる、すき……だから!」

友達で、家族のような存在。
ただただあたたかな、居場所。
間違いなく斬鬼丸は、
シュシュクルにとっての、居場所だった。
だから、シュシュクルは精一杯それを、伝えたのだ。
言葉が足りないのは彼女も分かっている。
だから、全身で伝える。一生懸命、伝える。

最後の果実は……とても、爽やかな甘さを持った実だった。

「……ざんきまる、どした? いたい?」

斬鬼丸が涙を流せば、シュシュクルは心配そうに
駆け寄る。

水無月 斬鬼丸 > いつも元気だったシュシュクル。
初めてあったときもサメを捕まえてきて…
食べるように促されたっけ。

はじめから破天荒でひたすら元気な暴走少女だと思っていた。
だが、それは違った。
彼女だって異邦人なのだ。
望まずこちらに放り出されて、ひとり取り残された者だったのだ。

家族のことを話すシュシュクルの頭に手をおいて
優しく撫でる。
悲しい顔をみているのがつらい。

「そっ…か…
そう、かぁ…うん…
俺も、シュシュクル…のっ…こっちでの家族に…
なれているなら…うれしい、から
あ、、えっと…痛いわけじゃない!いたくない!
だけど!えっと…えうっ…ぐず…」

涙が止まらない。喉が震えてくる。
そうだ…家族…。
側にいられるように…側に帰ってこれるように…
心配させないように…安心できるように…
シュシュクルの居場所として…
沙羅の居場所として…
家族の居場所として…俺はいなければならないのだ。
強くなる。何の心配もいらないと言えるよう。
そして、いつでも帰ってこれる準備をして…
帰ってきたら、よくやったと、がんばったと…そう…

「シュ……シュクル…えらいな…
つよいな…がんばってる、な…
すごいよ…えらいよ…」

小さな少女の体を抱きしめた。

シュシュクル >  
「ざんきまる、しゅぎょーする、えらい。
 おす、つよい、とてもだいじ。
 おす、えもの、かる。だいじ。
 でも、それだけ、ちがう。
 つよくないでも、
 ぎゅっしてくれるざんきまる!
 シュシュクル、すき~……」

そこまで口にして、シュシュクルの目からは、
やっぱり涙が溢れてくる。
ぼろぼろと、どうしようもないほどに。
溜めてきたものが、零れて落ちて、草を濡らす。

「ありがと、ざんきまる……」


――だから。


「シュシュクル……すき……」


――どうか。


「ざんきまる」


――おねがい。


「げんき、なって……」

――シュシュクルも、元気になるから。

水無月 斬鬼丸 > 「あぁっ…うんっ…!
つよくも、なる…けど…っ…
ちゃんと、シュシュクルが…帰ってこれるように…
するから…元気だからっ…
げんき、だから…、いくらでも…ぎゅって、するから…」

言葉がうまくでない。
彼女の頬に涙の雫がいくつも落ちる。
小さな少女。
彼女がうちにためてきた悲しみ。

そんな彼女に心配をかけてしまった。
情けない。
自分の悩みはまだはれない。
これでいいのか?どうするべきなのか。
でも、それでも……

「俺が…帰る場所になるから…
いつでも、おいで?
笛の音がきこえなくても」

抱きしめたままにその背中を
幼子をあやすように叩いて。

シュシュクル >  
そうして、少しばかりの時が経ち、
二人が落ち着いた後。

再び、シュシュクルは笑顔を見せる。

「ありがと、ざんきまる!」

立ち上がれば耳をピンと立てるシュシュクル。
そうして、いつもと同じ笑顔を、満開の花の如く
咲き誇る笑顔を、斬鬼丸に見せるのだ。

「シュシュクル、いく!
 シュシュクル、もうだいじょうぶ!
 ざんきまる、もうだいじょうぶ?
 わからない……。
 でも、シュシュクル、おーえんする。
 ざんきまるつよくなるほしいなら、
 おーえんする」

いつでも、と。
ぐっと拳に力を込めて、
自分の胸をとーんと強く叩くシュシュクル。
すっかりいつもの調子だ。

「じゃ、ざんきまる、ばいばい!」

止める声がなければ、そのまま木々の向こうへと
去っていくことだろう。

水無月 斬鬼丸 > どれだけ過ぎたか。
よくわからない。
だが、それなりに時間は経っていたのか
涙は乾いているようだった。

顔を上げたシュシュクルはいつもの笑顔で
すっかり元気な様子だ。
つられてこちらも笑顔になってしまう。

「こっちこそ、ありがとう。
大丈夫…かどうかはわかんないけど…
少しだけ、楽になった。
応援も、心強いな。ありがとう」

全力で励まし、全力で応援してくれるシュシュクル。
その姿…まだ何も解決はしていないけれど
前を見る力をもらえる。
だから、行くといった少女を見送る自分は
こういうのだ。

「うん、また。
いってらっしゃい」

ご案内:「青垣山 廃神社」からシュシュクルさんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。