2020/09/10 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」にアーテルさんが現れました。
アーテル > 廃神社に向かって、砂を擦る音がざりざりと響く。
長い赤髪がやけに目立つ、和装の男。

「最近こっちに戻ってきてなかったしなあ。」

猫の姿で捕らえられ、幾日経ったことだろう。
自由は与えられていたが、あまり長いこと部屋を空けると仮宿主が目に見えてしょぼくれるものだから、
これでも一宿一飯の恩は感じるもので、明らかに凹んでるときはそれとなしに慰めにいくこともあったのだ。
そんなわけで週に何度かお邪魔して、やめろと言うのに風呂に入れられ、死んだ目をしながら毛並みを吸われたりしていた。
…今日はそんな目に遭う日ではないと、元々自分が根城にしていた辺りにやってきたわけで。

「……あいっかわらずぼろっちくてしょーがないけどもー。」

賑やかな方は、どうにも苦手だ。
ニンゲンを観察するのは好きだが、出入りが多くて煩いのは参ってしまう。

「やっぱのんびり過ごすのは静かな方がいいなー、うん。」

眼前に広がる廃神社の境内。
退廃的な雰囲気が広がり空気が淀んだ場所であっても、それが変わらないことを安心するように頷いていた。

アーテル > 「ふっふーん、ふふんふんふふーんっ」

鼻息高らかに、機嫌よさそうに、男は境内を往く。
目指す先は、古びた本堂に入るための階段。
腰を下ろす先を探していたのか、目についたそこに迷わず向かっていた。

「いやーっ、あいつが帰ってぇくるたぁなー。」

意外そうに、でもどこか楽しそうに。

「俺が来て見たときにゃ、既にボロボロだったからなあー。
 ロクに話も聞けず、お願いごとだけ引き継いだってぇワケだったがー……」

誰にそれをいう訳でもなく、男は独り言ちる。
虚空に向けて、言いたくなってしまったのだろう。
それ程に、楽しいと思えることを。

「……それでも、あいつは寂しさに勝てずに帰ってきた。
 やー、ニンゲンってなぁ一度覚えた幸せを手放すことを苦に感じるたぁ思ってたがー。
 あいつも例外じゃあなかったってぇわけだなあー。」

本堂の縁側に腰を下ろす。
後ろ手に突いて、空を仰げば、雲の隙間に紛れて星が僅かに覗けるようだ。

「………俺の貸したあの服も、結構使ってるみたいだしなぁ。
 くく、未練がましいっちゃあありゃしねえ。」

アーテル > ニンゲンは、好きだ。
万人が万人、同一の存在はない。
…あればそれは、別の何かに過ぎない。

「……あいつもきっと、ニンゲンらしくなってきたってーことなんだろうなあ。」

ニンゲンは孤独には勝てない。
孤独に浸った気になったとしても、いずれ破綻する。
…思い浮かべている、人物のように。

アーテル > 「そうやってどんどんニンゲンらしくなってくれりゃあ……
 きっと、もっとからかい甲斐のあるやつになるなぁ……」

口端を僅か歪ませ、ほくそ笑む。
まるで、化け物が獲物を見つけたときのように、
およそ、人間のそれには思えないそれだった。

「ま、ここは他にも色んな奴がいるだろーし。
 しばらく退屈せずに済むのはいいことさ、うん。」

アーテル > 「…………ふー……。」

楽しい気分もようやっと落ち着きを見せてくる。
そのまま後ろ手のつっかえを外して、寝そべってしまいそうなくらいに。
今日はここで寝てしまおうか、そんな気さえしていた。

「………流石にここにゃあ誰もこねーだろ、うん。」

人気のない廃神社の中、男が一人本堂の縁側でくつろいでいた。

アーテル > 「くあぁぁ……っ……」

大きく、大きく欠伸をした。
誰もいないと信頼してるからか、遠慮がない。
そのまま後ろ手を外して、仰向けに寝そべった。

「………ふー。
 楽しみが増えるってぇのはいいことだなぁ……」

あくまで自分は傍観者。
盤上で足掻き、もがいて、それでも諦めずに果敢に立ち向かう。
そんなニンゲンを見るのも、好きだった。
自分が何かしなくとも、そういう物語を見せてくれるなら、それでいい。
…旧友レナードが戻ってきたのも、きっとそういうことだろうと思うと、彼は今後の展開に期待せずにはいられなかった。

「……寝るかー………」

これからいったいどうなるのやら、展開を楽しみにしながら、獣は惰眠を貪ることにした―――

ご案内:「青垣山 廃神社」からアーテルさんが去りました。