2020/10/17 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」にレオさんが現れました。
ご案内:「青垣山 廃神社」に神樹椎苗さんが現れました。
■レオ >
休日。
授業がなく、風紀委員としての仕事も非番な今日は、体の勘を取り戻すのも兼ねて1日鍛錬に集中する事にした。
体を動かす、というのもあるし、精神を落ち着かせる、というのも鍛錬だ。
根を詰めすぎるなとはよく言われるけれど、1日も無駄にはしたくはない。
何より、こうしている方が逆に、心が落ち着くところもあった。
頭がすっきりと冴える。
”何かをやっている”という事が、安心につながる。
…訓練室でやらないのは、公の場であまり自分の業を見せる訳にもいかないという理由もあったが、単純にここの空気が好きだからというのもある。
人のいる場所より…こういう誰もこない場所の方が、太刀筋の細かい修正には向いてる気がした。
体の慣らしから始め、少しの休憩を取り、剣で一連の型を通しで振るい、休憩を取る。
そのあとは、事前に持ってきたもう一本……刀での型の鍛錬だ。
別の武器を使い比べて、どう違うのか、それがどう動きに差を生むのかの精査をしていく。
それが今日一日でやろうと思っていたものだった。
「―――――ふぅ」
汗で濡れるので、服は肌着のタンクトップ1着。
上着と、水分補給用のスポーツドリンクを置いてある木の切り株の方へと歩いていく。
そろそろ昼か……
「あ、お昼ごはん持ってくるの忘れてたな…」
■神樹椎苗 >
青年に朝食を振舞った後、鍛錬に向かう青年を見送り子猫の世話をして。
昼時になるのに合わせて部屋を出た。
子猫は寮長が快く預かってくれるのでありがたい。
まあ、椎苗が青年の部屋に通っている事に関しては、怪訝そうな顔をされてはいるが。
ネコマニャントートの中にはネコマニャンのお弁当箱と、プロテインを混ぜ込んだ特製栄養補助ドリンク(たんぱく質ビタミン各種アミノ酸が完璧なバランスだが味の保証はない)だ。
青年の居場所は携帯端末の位置情報を盗んでいるので、完全に把握できている。
青垣山と言う場所が少しばかり安全ではないが。
それでも比較的安全なルートで行ける場所だ。
「さて、このあたりですが」
廃神社の境内が近づく。
すると、耳に風を切る音が聞こえてくる。
そっと様子をのぞき込めば、剣を振る青年の姿。
椎苗が赤剣に振り回されるのと違い、手足の延長のように意識をいきわたらせた動き。
それにはある種、芸術めいた美しさがあった。
「――お疲れ様ですよ」
青年が動きを止めたのを見ると、ちょっとだけ早足で切り株に向かう。
■レオ >
「あれ……」
振り返れば、朝に会ったばかりの少女がいた。
今日は1日部屋を空けるとは伝えていたが、場所は伝えていなかったので意外だった。
「ありがとうございます。…あれ、お昼ごはん持ってきてくれたんですか?
すみません、態々……」
そう言いながら、持ってきたタオルで汗を拭く。
もう随分と寒くなってきて、動けば体が火照るとはいえ汗をかいたままではすぐに熱を奪って肌寒くなる。
何より、目の前の少女に『くせーですね』なんて言われたくないし。
「少し…休憩しましょっか。
椎苗さんも一緒に食べませんか?
一緒に食べた方が、美味しく感じますし」
■神樹椎苗 >
「朝に渡すつもりだったのを、忘れてましたからね。
しいとしたことがうっかりしてました」
と、バッグからお弁当箱と、謎ドリンクの入ったドリンクボトルを順番に渡す。
そして、自分の分と言うようにそこそこ大きなカップに入ったプリンと、生クリームのチューブ。
「お前はいつもそう言いますからね。
しいの分もちゃんと持ってきましたよ」
そうして、青年が腰を下ろすならその隣に座るだろう。
■レオ >
「あはは…」
確かに、いつもそうやって誘ってる気がする。
一緒に何かを食べると、一緒の時を過ごしてる…というような気がして。
だからか『いらない』と言われても、つい誘ってしまう。
隣の切り株に腰を置いて、渡されたお弁当箱を開ける。
今日はどんなご飯だろうか。
手が不自由なのに、彼女は本当に器用に料理を作る。
それを見るのも、出来た料理を見るのも、なんだか心が温かくなる気がした。
「いつからいらっしゃったんですか?
ちょっと集中してて、気づかなかったですけれど」
”死の気配”というセンサーがあるせいか、集中していると害意のないものに対しては若干、意識の向きがおろそかになる自覚はあった。
悪い癖だと師匠にも散々言われた事があるけど、どうにもその癖は抜け切りはしなかった。
お陰様で、常世島に来て早々財布を盗まれるなんて事もあったから、本当に気をつけないととは思っているのだけども。
■神樹椎苗 >
「そんなに前でもねーですよ。
お前が剣を振ってるのは見ましたが」
青年の隣で、太ももの間で器用に支えたプリンの上に生クリームをたっぷり載せる。
「それにしても、ちゃんと訓練を積んだ人間の技は綺麗なもんですね。
しいが剣に振り回されるのとは大違いです」
生クリームとプリンが1:1くらいになるようにスプーンですくいつつ。
横目では青年の様子をしっかり観察して。
■レオ >
相変わらず、とんでもなく甘そうだ。
胃もたれとかしないのかな?とちょっと思ったけれど…それは言わないでおこう。
「あはは…殆ど生まれてからずっとやってきたようなものですからね。
師匠に会ったのは5,6年くらい前でしたけど……その前から何だかんだ、同じような事ばかりしてたので。
多少は身についてる…って事なのかな」
師匠から言わせれば、まだまだひよっこと言われるだろうけど。
それくらいの自己評価は出来る。
生まれてから殆ど毎日、武器は持ち続けてきたのだから。
そう思いながら、お弁当を食べていく。
冷めていても変わらず、美味しい。
この人の作ったものだと思うと、猶更。
「…でも剣の方はまだまだですね。
刀と勝手が違って……まだ全然、思ったような動きが出来てないです」
■神樹椎苗 >
自分の作ったモノを美味しそうに食べて貰える。
その様子を見るのは、料理をするようになってからひそかな楽しみの一つ。
特に、この青年は明るい表情をする事が少ないから、余計にだ。
「ん、それだけ続けてるなら納得ですね。
しいは、ダガーナイフと、でかい剣くらいしか使った事ねーですが。
刀と剣ってのは、そんなに違うもんなんですか」
椎苗にはその手の技術は、ほとんど身についていない。
ダガーナイフも九割が自殺用にしか使っていなかった。
赤い大剣に至っては、接触すれば殺せるために技も何もあったものじゃない。
■レオ >
「大きい剣…持てるんですか?
と、そうですね‥‥‥僕の教わったものが特殊なのもあるかもしれないですけど、感覚としては大分。
例えば、形状ですね。
両刃だと峰…刀の背の部分がないので、そこを使うものは全部使えませんし。
反りがない分、振った時の風の抵抗も剣のが大きいし。
切れ味も違いますね……
逆に剣のが強度があって、多少無茶な扱いしてもある程度もってくれます。
受けれる範囲が大きいっていうのも剣の利点かな……どっちの刃でも切る事ができますし。
持ち手も全然違います。
刀は楕円状で、剣は円形なので、握った時の感覚とか……刃の向きを変えるときに結構違いを感じたりとかは。
そういう違いが結構、ありますね。」
横に置いてあった二振りの刃物を見比べながら、そう話す。
こういう感覚は長年同じ獲物を使い続けて来たからこそのものかもしれない。
■神樹椎苗 >
「もって振り回すだけなら、そう難しい訳じゃねーですからね。
一応、簡単な身体強化魔術なら使えますし」
まあそれを使わなければ持ち上げる事もままならないのだが。
その上、『赤剣』は持っているだけで凄まじい飢餓感に襲われる。
強化を使ったうえで、椎苗には適当に振り回すくらいしかできていない。
「なるほど、形が違えばそれだけ変わってくるのですね。
――でも、なんでまた苦手なもんをわざわざ使ってるのですか」
そう、素朴な疑問を投げかけた。
■レオ >
「成程……、……剣を使う理由、ですか?
……
義理立て、みたいなものです。」
少し考えて、刀の方を見た。
「……僕が師匠に刀の使い方を教わったのは、前いた組織に入れてもらう為……そこで振るう為だったので。
自分の勝手でそこを抜けてしまいましたから、自分の勝手で振るのは…違うかなって。
今後、刀で何かを斬る時は……誰かに願われた時だけです。
鍛錬は…続けますけどね」
鈍っちゃいますから、と少し苦笑した。
「だから、あぁ…そうですね。
必要な時は願ってください。『刀を使って』って。
そうしたら、使いますから」
■神樹椎苗 >
「拘り、ってやつですね。
とはいえ必要な時、と言われても困りますね」
うーん、と首を傾げる。
特別、青年になにか荒事を頼むつもりもない。
「そうですね。
それなら、お前が力を必要とするときは迷わず使ってほしいです。
不慣れなモノを使って不必要な怪我をされるのは、あまり気分のいいもんじゃねーですから」
青年の口ぶりからすれば、きっと足を怪我した時も剣を使っていたのだろう。
ああいった怪我――もっと言えば、命を失うリスクを減らせるのなら。
拘りだとか義理立てだとか、そんなものは後に回してほしい。
「ただでさえ残り少ない時間を、それ以上縮める必要なんてねーでしょう」
と、ぽつりと付け加え。
■レオ >
「……すみません」
怪我の時の事を思い出した。
実際……刀なら別の結果になってたかもしれないのは、事実で。
それで彼女に心配をかけたのかもしれない。
彼女は、そんな様子を素振りも見せなかったが。
「……刀も持ち歩く事に、しますね。
…でも、うーん……ある意味刀は”殺し”のスイッチみたいな所もあるので。
あぁ、今風紀委員の先輩と、特訓してるんですよ?
殺しまでしない鎮圧方法っていうの……
…だから、大丈夫ですよ。
ちゃんと強くなりますから。」
そっと、微笑んだ。
自分の筋も、彼女の願いも…‥まだ、どっちも捨てるのは出来ないから。
そう言いながら、食事を続ける。
「……そういえば、何時も椎苗さんのご飯は綺麗に盛り付けますよね。
写真に撮っておきたいくらい……あ」
全く別の話を、思い出した。
■神樹椎苗 >
「ん、しっかり強くなってください。
自分も仲間も、敵の命も、守れるように」
青年はずっと殺してきたという。
なればこそ、命を奪うのではなく、命を守れるように。
そんな力を身に着けてほしい、そう思う。
「こういうのは、盛り付けが大事ですからね。
美味しそうに見える見せ方、っていうのがちゃんとありますから?」
あ、とこぼした青年に首を傾げる。
何かあったのだろうか。
不思議そうに思いながら、手製の特製謎ドリンクを差し出した。
■レオ >
「‥‥‥‥…」
ドリンクを受け取りつつ、少しだけじと…っとした目で彼女を見る。
あれの事は、聞いておかないと。
心を鬼にしなくちゃ。
流石に少し、ちゃんと怒らないと。
息を吸って、吐いて…そうしてから、切り出す。
「…椎苗さん。
僕の携帯、弄りましたね?」
■神樹椎苗 >
「――――」
なにかと思って聞いてみれば。
なるほど、そのことだったのか、と納得。
「ちょっとだけ」
悪戯が見つかった子供の用に、つい、と視線を逸らす。
言い訳を探すように、左手のスプーンが宙を掻く。
「――年頃の男は、ああいうのを喜ぶらしいじゃねーですか」
悪意があったわけではない、が。
ちょっとした悪戯のつもりではあった。
■レオ >
じと。
「…あやうく僕が現行犯逮捕されるところでしたよ」
じと。
だって、年齢が年齢だから。
色々な意味で、拙い。
真剣に相手の事を考えてるつもりだけど、世間の目はどうにもならないのだ。
「見られたのが沙羅先輩だったからよかったものを…いや、全然良くないし、むしろ最悪の部類なんですが……
兎も角、人の携帯に勝手に写真入れないでください……
びっくりしますから……
それと沙羅先輩に、出来れば口裏合わせてくださいね……
凄い目で見られたんですから……」
はぁ、とため息をつく。
つい、悪戯心で、みたいなものなのは重々承知で。
そういう所は年齢相応なんだなと微笑ましくも思うけども。
それはそれ、これはこれ。
■神樹椎苗 >
「ふむ、娘に見つかりましたか」
それは少し、悪い事をした気持ちになる。
スプーンを咥えながら、意識を拡張してネットワークに繋げる。
自分の端末アドレスを利用して、『写真はしいが自分から渡したものです』とメッセージを送った。
「ん、娘にはちゃんと言っておきます。
盗み撮りとか隠し撮りとか、そういうのではねーですからね」
ちょっと視線を伏せて。
それから青年の顔を窺うように上目遣いで見る。
「すまなかったです。
今度は、ちゃんと言ってから仕込みますね」
まだ何かやるつもりのようだった。
■レオ >
「普通に仕込まないでください……
まぁ、はい……お願いしますね、沙羅先輩には…
正直今の沙羅先輩にはその…まだ色々と椎苗さんの事話せる状況でもないので……」
そろそろ退院するとは言っていたけど、精神的に参って入院までしてるんだから。
そこに追い打ちのように報告は出来ないし。
出来るだけ心労はかけたくない。いや…既にかけてる気はするけども。
「ふぅ……」
そういいながらご飯を食べきり、ドリンクを少しずつ飲み出した。
■神樹椎苗 >
「わかってます。
まあでも、ここからは娘が自分自身で歩いていくしかねーですからね。
やっと人並みの経験をした、とも言えますし」
自分は、これまでと変わらず、帰りを迎えて、世話を焼いて、送り出すだけだ。
それ以上のお節介は、椎苗がやらずとも誰かがするだろう。
もちろん、娘の方から相談されたり助けを求められれば話は別だが。
「――それ、味はかなりのもんですが、大丈夫ですか」
飲みだしたドリンクを見て、顔色を窺う。
栄養素だけを考えたモノだけに、味が大変な事になっているのは確認済みだった。
なんて聞きながら、青年の肩に手を伸ばす。
そこには、治癒したものの残っている傷跡。
それを指先でなぞって、細いわりに筋肉質な体に触れる。
「介助してるときも思いましたが――お前も結構、傷が多いですね。
ちゃんと治ってはいるみたいですが」
ぺたぺたと、遠慮なく腕を触って、ところどころにある薄い傷跡には指を添わせてみる。
■レオ >
「そうですね…え?味ですか?
まぁ確かに、独特ですけれど‥‥‥でも全然飲めますよ?
…ん」
味覚がないという訳ではないけれど、味がどうであれ摂取して大丈夫なものなら大体摂取できるように育ってしまった。
これもまた、自分の死の危険を勝手に察知してしまう体質の副作用みたいなもの。
「あぁ……
ずっと戦ってきましたから。
それに…治療、あんまり効かないですからね。魔力の影響で。
治りはしますから、ただの跡ですよ。
傷の後遺症も、あんまりないですし。」
そう言いながら、触れられる。
自分のは、治るからいい。
なにより、戦って出来た傷が大半だから。
痛くはあっても、辛い事はそんなにない。
…むしろ。
「……椎苗さんの傷は、どうして?」
そっちの方が、気になった。
まだ全部、知る資格があるかはわからなかったけど。
一つ一つ、少しずつなら…と。
■神樹椎苗 >
「そうですか?
まあ、お前が飲めるなら別にいいですが」
正直、自分ではあまり味見もしたくないタイプの味わいだった。
「ああ――お前も傷の治りがよくないんでしたっけ。
しいと違って、薬も術や異能も効かない訳じゃなさそうですが」
自分の方は、と聞かれると。
自然と少なからず、苦々しい顔になってしまう。
「しいのは、そうですね――古傷です。
しいがこの島に連れてこられて、『道具』ですらなかった頃の――」
きゅ、っと。
しらず青年の腕を掴んでいる。
もう随分とマシにはなったが、それでも思い出すだけで体が震えそうだった。
■レオ >
「―――――」
道具ですら、なかった頃の。
その言葉を発する声は、顔は。
今までにみたことがない程、弱弱しくて。
あぁ…
この人でも、こんな顔をするんだ。
肩を引き寄せ、抱きしめていた。
不安をかき消そうと……
大丈夫だと、言うように。
「……無理して話さなくても、いいですよ。
今は違うんですから」
今は違う。
この先だって、良くなっていく。
良く…していくから。
だから、安心して欲しい。
そんな顔を二度としないで済むように、してみせるから。
■神樹椎苗 >
引き寄せられれば、その細身であっても引き締まった体に自然と体重を預ける。
最近はこうして、青年に自分の身体を預けるのが落ち着くようになっていた。
「ん、無理と言うほど――いえ、まだそう、ですね。
思い出すとどうしても」
そのまま、すがるように青年の胸へ。
青年の、少し早くなる鼓動の音が心地いい。
「――しいは、実験動物でした。
様々な投薬、解剖、兵器の試射、異能や魔術の効果測定。
この身体に残っているのは、全部がその、痕跡です」
目を閉じて、青年の鼓動に耳を傾けながら。
息苦しさを感じるのは、きっと自分の呼吸が乱れているからだろう。
青年を掴む手に力が入り、震える。
「いつからか、薬や異能、魔術、そう言ったものの治療が効かなくなりました。
きっと試された薬や異能のなにかに、そう言った影響を与えるものがあったのでしょう。
自然治癒力も、人間に比べれば遥かに衰えています」
だから、いつまでたっても傷は治らない。
深い傷口は、塞がったと思えばすぐに開く。
その関係で傷跡を消すような手術も受けられない。
少なからず、繋がった神格達の影響もあるのか、病にこそ無縁と言っていいが。
それでも体は徹底的に変性してしまっていた。
■レオ >
「―――――」
話を聞きながら、ぽん…ぽんと、背中を軽く叩く。
同じように、彼女にしてもらった気がするから。
自分が安心できたように、彼女にも…安心してほしかったから。
――――実験動物。
その言葉に、酷く気持ちが沈むのを感じた。
不死は…特異な体質の持ち主は、得てして、目をつけられる。
色々な…悪意を持った者たちに。
それが一つである保証なんて、何処にもない。
恐怖、迫害、利用、信仰……
”特別”だから。
”他に類を見ない”から。
”特異性を持たない人間”は、それがどんなものであれ……彼らを”自分とは違うもの”として扱う。
…そんな事、ないのに。
「……治る見込みは?」
分かってる。
聞かなくても…分かってる。
でも、聞かずにはいられなかった。
大事な人の事だから。
■神樹椎苗 >
治る見込み。
青年の言葉に、椎苗は静かに首を振る。
「無い、わけではないです。
それこそ傷口に負担を掛けないように安静にして、長い時間を掛ければ。
そうすれば、数年もすれば傷口が塞がるくらいはするでしょう」
しかし、そうなればベッドの上から離れる事は出来なくなる。
そうして数年かけても、完治までは遠い。
たとえ傷は治っても、傷痕が消える事はけしてないだろう。
「まあ、だからですね。
しいの身体は、酷く醜いモノになっています。
まともな場所の方が少ないくらいでしょうね」
■レオ >
「………」
ぎゅっと、彼女を優しく抱きしめて。
醜いという彼女を、包み込んで。
互いの心音を感じる。
「そんな事、ないです。
醜くなんて……いや、醜くてもいいです。
そんな事より、ずっと……椎苗さんは、素敵だから。
醜くても、治らなくても……どんな姿でも、好きですから……」
だから……
だから、大丈夫。
大丈夫だと……
「…それに。
僕の身だって……綺麗じゃないですから。
お互い様…ですよ」
■神樹椎苗 >
お互い様だと、青年は言う。
その言葉に顔を上げて、青年を見上げた。
そのまま、そっとその胸を押して身体を離す。
そして黙って、自分の首元に触れると、ケープがはらりと落ちる。
その下のワンピースのボタンを、上から外していけば、ワンピースもすとんと落ちるだろう。
肌着一枚になれば、肩紐をずらすとするりと布地は落ちた。
「お前の傷には、ちゃんと意味があります。
しいとは、違います」
哀し気に微笑みながら、首から胸、腹部と覆う包帯の留め具を外す。
するすると緩んで、包帯が外れれば、その下にあるのは透明なフィルムの下にある無数の、大きな傷跡。
首にはまるでノコギリでも引いたかのような、崩れて塞がり切らない傷。
左肩から胸の中心にかけては、焼けただれたような皮膚が膿んでいる。
そして右胸の方には、うっすらと血がにじみ出ている、刃傷。
左わき腹は胸にかけてケロイド状になった皮膚。
右腹からへそに掛けて、色が青黒く変色した皮膚。
他にも胸部を中心に、至る所に注射痕が残っている。
背中を見れば、数多の銃創に、溶けた皮膚にむき出しの肉。
何度も打ち据えられたかのような打撲痕に、幾つもの細く裂けた皮膚は鞭で打たれたモノとわかるだろう。
「――これが、しいです。
お前は、こんなモノとは、違いますよ」
その小さな身体には、椎苗が言った通り。
傷のない場所の方が少なく、そのどれもが未だ治らないまま。
それはまともな感性であれば、どうしたって憐憫を通り越して嫌悪を抱いてしまうようなありさまだった。
■レオ >
目を、見開く。
その姿は、どうしようもなく悲痛で。
どうしようもなく、理不尽で。
総てが憎らしくなる程、胸が締め付けられた。
「…、……」
目は、逸らさなかった。
逸らしたいほどの傷だった。
けど、逸らしちゃいけないって…どこかで思っていた。
それは、文字通り刻み付けられた彼女の人生。
時すらも置き去りにして残った、跡にすらならない、現在進行形の、苦しみ。
彼女が体を震わせた理由が分かった。
いや……本当は、最初の時から。
”死ねない”と知った時から、分かってたんだ。
それから目を逸らしていたのは、僕の方だ。
だから……もう逸らしちゃいけない。
「……体に、触れてもいいですか」
泣きたい程に、その傷の意味が分かってしまうから、涙だけは堪えた。
彼女の方が泣きたいんだ。
僕は、泣けない。
泣くなら一緒にだ。
■神樹椎苗 >
椎苗はもう答えなかった。
けれど、なにをされても抵抗はしないだろう。
泣き出しそうな表情で、自嘲するような笑みを浮かべたまま。
しかし、青年の手がむき出しの身体に触れれば、恐れるように小さく震える。
傷を保護するフィルムは相当に良いモノを使っているのだろう。
ズレる様子もなく、人肌にとても近い手触りだ。
■レオ >
「……」
肌に、触れる。
傷に…触れる。
「…痛かったら、ごめんなさい」
その言葉とは裏腹に、触れる指先は優しく。
その歪さを…指先で噛み締めるように、触れる。
すぅ…と、指でなぞり……
肩をもう一度、引き寄せる。
「……泣いてください。
一緒に泣きますから……
だから……堪えないでください。
いいですから……
その必要なんて、ないですから……
だから……っ」
声が上ずった。
ここにある彼女を、受け入れたかった。
それを拒絶されても。
彼女の全部を、肯定したかった。
「……くが」
「僕が……守りますから。
絶対に……
もう、傷つけさせませんから。
だから…、………だから……
一緒にいてください。
求めたいと……
助けてほしいと……
そう思った時は…‥
”願って”ください……
僕にだけでもいいですから……
かならず、その願いを叶えますから‥‥…」
”我儘”を。
”我儘”を、何度も、口にした。
■神樹椎苗 >
引き寄せられれば、そのまま青年の腕の中に納まるだろう。
傷に触れても椎苗は痛がるような素振りも見せない。
ただ、何かに怯えるように押し黙って震えるだけだ。
腕に抱かれて、けれど椎苗は泣かなかった。
ただ、苦し気に息を、長く、重たく吐き出して。
左手で、青年の胸に触れる。
「ぁ――」
何かを言おうとしたが、上手く言葉にならない。
だから青年に答える代わりに、その体に全部を、体も傷も預けるように。
少しでも多く青年と触れ合えるように、体を寄せた。
■レオ >
「……………」
抱きしめて。
その存在を愛して。
触れて…触れて、触れて。
「――――――」
その温もりと、胸の中で震える彼女の体を、全身で受け止めて。
あぁ……
きっと僕は、ずっと前から。
”こうしたかった”んだ。
一つ……心の中の壊れた破片の中から。
”なにか”が、拾い上げられた。
そんな気が…した。
「……僕は守りますから」
一つ、決めた事。
僕は…そうだ、そうだった。
仕方ないなんて思いたくなかったんだ。
しなきゃいけないなんて思いたくなかったんだ。
”こっち”を選びたかったんだ。
”好きな人”を、選びたかったんだ、僕は。
■神樹椎苗 >
青年の決意を、椎苗は肯定も否定もしない。
椎苗の傷を見て、目を背けず、離れず、その上で青年が決めた事。
椎苗はただ、それを受け入れるだけだ。
ただ、青年がこうして抱きしめてくれている事。
『絶対』なんてなくとも、その想いを言葉にしてくれる事。
それに、確かな嬉しさを感じてしまった。
「お前は、ばかです」
腕の中で静かに体を起こす。
青年の顔を見上げて、そのまま、ゆっくり顔を近づける。
青年が何を想うよりも、少しだけ早く。
そっと、唇が重ねられるだろう。
■レオ >
「―――――、―――――――――……」
彼女の顔が近づいて…それの意味すら考える間もなく、唇が、重なる。
前の時とは違う。
彼女からの……口付け。
一瞬驚いたように目を開いて、でも…すぐに、その感触を確かめるように、自分からも重ねる。
間違ってていい。
僕はそれを選んだ。
前よりも随分と長く……唇を重ね合わせていた気がする。
永遠にすら、思えた。
それほど……長かった。
「――――、…っぷぁ…っ
……
……そうですね、でも……
…ばかで、いいかなって」
まだ、目の前にいる彼女に…そういって、微笑んだ。
■神樹椎苗 >
時間にすれば僅かの間だっただろう。
けれど、それはとても長く感じられた。
唇が離れるとき、名残惜しく感じてしまったのは、きっともう少し青年を感じていたかったからだ。
ほんの少し感謝を伝えるためのつもりだった口づけは、思ったよりも気持ちがよく。
もう一度、と思っている自分に眉を顰めつつ。
椎苗の強張っていた表情は、いつの間にか和らいでいた。
「――ほんとに、救いようがないロリコンですね」
そんなロリコンの青年に、心を許している自分もまた、多分にバカなのだろうけれど、と。
このまま抱かれていたいと思う気持ちを抑えて、体を離す。
そして落ちた包帯を拾い、青年に突き出す。
「ほら、手伝うのです。
包帯を巻くのも、服を着るのも、一人でやるのは手間なのですよ。
ロリコンには、嬉しいご褒美なんじゃねーですか?」
と、少し意地悪く笑みを浮かべて。
■レオ >
「――――救われてるんですよ、貴方に」
救いようがない…なんて言われても。
そりゃあ間違ってるかもしれないけど。
だとしても僕にとっては、彼女が自分を救ってくれてる。
だから……どっちでもいいんだ。
だから、微笑んでそう返した。
「ロリコンじゃなくて、貴方が好きなだけですから。
だから……確かに、貴方の手助けできるなら、なんだって嬉しいのかもな……」
悪戯っぽい笑みにも、苦笑で返して。
彼女の衣服を、包帯を、付けなおすのを手伝うだろう……
「……あぁ、そうだ。
腹ごなしも済んだから……服を着直したら、少しちゃんと…僕の型、見ませんか?
面白いかは分からないけど、頑張って舞いますから。
…僕の技、元は神楽の側面もあったんですよ」
■神樹椎苗 >
「まったく、ばかにつける薬ってのが欲しいもんです」
所謂、不治の病だ。
手伝われながら、少し冷えた身体を温めるように青年に体を寄せる。
ワンピースに袖を通して、青年の言葉には頷いた。
「邪魔にならないなら、少し興味はありますね。
ふふん、これでもかつては神の端くれでしたから。
しっかり奉納するといいのですよ」
ボタンを器用に留めて、ケープを羽織り。
わざとふんぞり返って見せながら、仰々しく座りなおした。
■レオ >
「ははは…
…じゃあ、見てってください」
服を着させ、少しだけ互いの熱で暖を取りながら…
頃合いを感じれば刀を手に取り、腰のベルトに差す。
そして少し開けた場所に、正座をし……
「――――始めますね」
一礼をして…剣舞を、始める。
■レオ >
―――――それは、やもすれば曲芸ともとれる程、緻密な動きで行われた。
流れるような抜刀からの、立ち上がりと共に振るわれた…動作の継ぎ目を感じさせない切り上げからの切り下ろし。
呼吸を置くように動作が止まり、指の動作だけで切っ先を自身の方へと向ければ……
峰―――刀の背を使い首の後ろへと刃を転がすようにして、持っていた手をは逆の手へと持ち手を変える。
回転の勢いを止めぬまま、横に一薙ぎ。
落ち葉が風で舞い上がり、時間差で空中で一本…横一線に裂ける。
そのまま止まらず、振りの流れに沿いながら体を捻り、刀を再び首の後ろを転がすように、持ち手を切り替える。
一歩間違えば自分の肌を切り裂きかねない動き。
しかしそれらの動作に、そんな危うさは微塵も感じさせない。
体を縦横無尽に行き来する刀が…まるで一つの龍が如く、鼓動すらも感じさせるやもしれない。
それを操る青年は……刀と一身というにはあまりにも、その刃を奉るかのように。
刀を振るうのではなく…”刀が、振るいたいと願う道へと案内する”かのように。
その身と一振りの刀は、舞うだろう。
まるで鋼に宿った魂と、群舞するように――――――
■神樹椎苗 >
椎苗は武術はもちろん、芸術にも造詣は深くない。
だからそれが高い技術によって成り立っているのはわかっても、具体的どれだけすごいのかはわからない。
それでも、その動きに乱れがなく、あらかじめそう決まっていたかのように自然な所作は美しい。
その洗練された『舞』は、間違いなく神聖さを伴っている。
すでに零落した身であっても、その奉納には、魅了された。
目が離せず、その姿に視線が吸い込まれる。
――斬られたい。
そんな思いが浮かんでは、我に返る。
呼吸すら忘れて見入るうちに、その『舞』は終わっている。
しかし、その余韻から現世に立ち戻るには、少しばかり時間が必要なほどだった。
■レオ >
「――――――――――」
舞いを終えるとともに、時が動き始めたかのように汗が噴き出す。
時間にして数分に満たないであろう時。
それでも、総てを出し切ったのように……体が重く感じる。
心臓が爆ぜるかと思うほどに躍動する。
体の熱が湯気を出す。
指先に、汗が伝い落ちる。
「……これが、本来の僕の刀術…弧眼流の型です。
――――どうでしたか?」
刀を納め、振り向いて微笑む。
その姿は、先ほどの舞いの時とは打って変わって……穏やかで柔らかい。
■神樹椎苗 >
舞が終わっても、椎苗は呆然自失としていた。
ぽけーっと青年が舞っていた場所から、視線が離れない。
声を掛けられても、反応を示さないほどに。
■レオ >
「――――椎苗さん?」
どうしたんだろう、と駆け寄って。
目の前に手を持ってきて、少し振る。
集中して見てくれてた……のだろうという事は、分かるけど……
■神樹椎苗 >
「――え、あ」
手を翳されて、ようやく我に返った。
それでもまだ、どこか夢心地のようで、ぼんやりとしている。
「ああ、ええ、素晴らしい舞でした」
そんな返答も、やはり上の空のようだ。
■レオ >
「…大丈夫ですか?」
上の空の彼女を見て、少し心配そうに顔を覗く。
集中していたから、気づかないうちに彼女に何かあったのだろうか…?
とはいえ、他の誰の気配もないし、ましてや何かされた様子でもない。
「……疲れちゃった、んですかね。
…そろそろ戻りましょっか。
マシュマロも待っていますから。」
……何かあったなら、知りたいけれども。
でも、色々な事を一気に聞いたら、彼女だって疲れてしまうだろう。
辛い事を、思い出したばかりだし。
「はい、どうぞ」
そう言って、荷物をまとめて、彼女の前でしゃがんで背中を差し出すように向ける。
おんぶしますよ…という事らしい。
■神樹椎苗 >
「大丈夫、ですが」
何があったというわけではない。
ただ、中途半端に神性に近しい存在であるため、椎苗のために『奉納』された舞の気配。
それに込められた魂に、『あてられた』だけだ。
「いえ、ただ――そう、見惚れてた、みたいです」
それを言語化するのなら、そうなるのだろう。
戻ろうという青年に頷いて、ふわふわと浮ついた心地のまま立ち上がる。
手に持とうとしたバッグがない。
いつの間にか、青年が荷物をまとめていて、背中を向けていた。
「別に自分で――いえ、じゃあ、頼みます」
立ち上がって動き出そうとしたら、足元がおぼつかない。
経験はないが、酔うというのはこういう状態になるのだろうか、と。
青年の背中から手を回す。
■レオ >
「見惚れてた……か」
本当なら、とても嬉しいけど。
でもちょっとだけ、何かうすら寒いものも感じた。
それが秋風のせいなのか、それとも別の何かなのかは…分からないけど。
「それじゃ、行きましょっか。
もしも疲れが抜けないみたいなら、残った時間は家でゆっくりしましょう。
…沙羅先輩も、まだ帰ってきてないんでしょう?
なら…今日一日くらい、ね」
一つ、何かが”変わった”からか。
今まで言えなかったような事が、口から出る。
”我儘”を口にするのが……随分、難しくなくなった気がした。
■神樹椎苗 >
「――ん、そうですね。
お前とのんびりするのも、嫌いじゃねーですから」
背中から、肩に頭を預けて。
心地のいい体温に触れながら、最寄りの駅まで背中の上で舟をこぐのだろう。
未だ、好いた惚れたはわからないが、この時間を確かに好ましいものに感じながら。
ご案内:「青垣山 廃神社」からレオさんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から神樹椎苗さんが去りました。