2020/11/15 のログ
ご案内:「青垣山」にアーテルさんが現れました。
■アーテル > 「くぁ………」
黒き獣が大きな欠伸を一つ漏らす。
それが憚られない程に、周りに人気も気配もない。
とっぷりと宵の更けた山の中、月明り差し込む開けた草原であっても、
知性が意図もなく近づくことはないと知って、人から外れたその巨躯は独りの時間を堪能していた。
秋は終わり、冬が始まる。
この躯体を覆う毛並みも、夏と比べてより暖かみのある容量を蓄えて。
そんな姿だからか、時折吹き抜ける寒風にも凍える恐れもない。
とはいえ一層暖かさに飢える今日この頃だもんで、草原のど真ん中で獣らしく丸くなっていたところだ。
■アーテル > 「…………。」
ふと、月を見上げた。
眠りを妨げられない程度の柔らかな明りに照らされながら、想いに耽る。
「……あいつは結局帰ってきた。
俺ってばてっきり戻ってこないもんかと思ってたがー………
それなら、俺はここに残る理由はどこにもねぇ。」
自分とすれ違う様にこの世界から出ていった、旧友。
しかし、少し時間が経った頃に彼は戻ってきた。
それから何度か彼と会ってはいるが、その頃感じた印象から、もう出ていくことはないだろう。
直接それを聞けたわけではないが、この世界に留まる理由ができていたような気さえする。
…自分とは、違うのだ。
「………さて、俺はどうするかねえ。」
■アーテル > ここに来たのは、まったくの偶然。
この偶然が幸か不幸か、旧友との入れ違いを齎して…
そのとき交わした約束、彼の代わりを為すことに僅かに義務感染みたものさえ抱いていた。
だが、そんな役割を為す必要は、彼の帰還で以て泡沫と化した。
「まぁ、元々俺は流浪の存在だしなあ。
ここに来たときは、てきとーに過ごして門から別の世界におさらばって筋書だったがー……」
ここに至って初志を持ち出すには、少し惜しい心地がする。
「……なんだかんだ、猫ってぇのはニンゲンと触れ合うのに適しているってーのがよくわかったし…」
獣は獣でも、人の生活に近しい生物の姿であれば、馴染むことは容易であった。
それに、コミュニケーションを図るために残した"喋ること"の特異性が思いのほか役に立った。
今では野宿の他に、二人の家をふらふらと行き来する…通い猫の構図も、悪い気はしていなかった。
そんな、この有象無象のひしめく世界で紡いだ縁を断ち切ることを渋る想いが、その一因を担っているのも事実だが。
「それに……………。
まだ、何か残っている気がするんだよな。」
これは、自分がはっきりと知覚していない部分。
だが、この予知めいた感覚が、自分がこの世界から去ることが尚早であると告げている。
■アーテル > 見上げるのをやめ、首を垂れる。
ふすんと一つ鼻を鳴らして、眼を細めた。
「……まぁ、なんだ。
それが何なのか分かるまで、過ごしてみてもいいか……―――」
幸い時間だけはたっぷりとある。
喉元に刺さった小骨が抜けないまま門を通り抜けてしまうくらいなら、
自分の奥底で何を渋ってここに残りたいと思っているのか、それを明かしてからでも遅くない。
獣はぼんやりと霞みがかりゆく意識の中で、自分に言い訳するようにそう呟いてから、
次第に重くなる瞼に委ねる様に、微睡みに沈んでいった。
ご案内:「青垣山」からアーテルさんが去りました。