2021/01/27 のログ
【虚無】 >  
 その様子を見てもう一度目元だけだが確かに笑ったとわかる表情を浮かべる。
 相手は、そして相手の部下もそうだ。悪を恨むというよりは仕事として行っているという印象が強い。故に利益を示せば仲間になるかもしれない。そう思っていたのだ。なるかはこれからだが。

「ああ、困りごとだらけだ。といってもお前もよく知っての事だ……今落第街は問題が多すぎる。新規の組織が急速に拡大し、それを理由に風紀委員が介入。前の風紀委員の一件もあって火薬庫のような状態だというのに……どっかのバカが風紀委員を単体で襲撃するという特大の火を投げこんだ」

 今のあの町の状態を端的に表せばまさにこんな状態だ。
 もう戦争まで秒読みといっても過言ではないだろう。というより風紀委員が全力で介入をすると決定すれば途端に戦争の火ぶたは切って落ちる段階である。
 まぁそれそのものは前からそうだと言ってしまえばその通りなのかもしれないが。

「俺の目的はあの街の秩序。言ってしまえば……今のような状態になる前のあの町に戻したいだけだ。だが、それにはあまりにも手も情報も足りない。火を投げこんだバカを何とかしたいが。名前も、性別も、そもそも襲われた風紀委員もその理由も全てがわからない……流石に途方に暮れていてな」

 本当に嫌気がさすと溜息を吐き出す。
 その様子はいつも敵として見ていた彼の姿からは一転。かなり人間らしい雰囲気に見えるかもしれない。

「……なぁ鉄火の支配者。お前ならばこういう状況。どう解決する? 俺としては外部組織……それこそ火ぶたを握っている風紀委員と協力する位しか手の打ちようがないと考えている」

 と何かを図るような。何かを探るような。同時に何かを訴えるような。そんな目を投げる。
 ビジネスなどもたしなんでいるのなら……交渉の目だとも見えるかもしれない。

神代理央 >  
男の言葉を、静かに聞き入る。
茶々を入れたり、小馬鹿にする事も無い。
かつて、刃を交えた者同士としては奇妙な程に――男の言葉に、じっと耳を傾けていた。

「……成程。言わんとする事は理解出来た。
貴様は"落第街の秩序"を保ちたい。だから、火種となっている諸々の問題も何とかしたい。その為ならば、風紀委員と一時的に手を結ぶ事も吝かでは無い、ということか」

此れは言わば、確認事項。
此方が理解した相手の言葉が、本当に相手の真意に沿っているものかどうか。
誤った認識の儘では"ビジネス"は進まない。

「どう解決するか。私ならどうするか。
…それを尋ねる前に、貴様は私に告げねばなるまい?
その名を。あるならば、所属する組織を。落第街の秩序を保とうとする、目的を。
私の手札は常に開いている。であれば貴様も、同じ土俵に立って貰わねば『交渉』のしようもあるまい?
それとも、名無しの権兵衛と交渉しろと私に言うつもりかね」

愉快そうに笑いながら、彼の質問に言葉を返す。
此方と交渉したいのなら。情報を共有したいのなら。共に"利益"を得たいと考えているのなら。
晒すべき情報は晒したまえ、と言わんばかりに、笑ってみせるのだろう。

【虚無】 >  
 相手の認識。それで相違ないとうなずく。それから少しだけ迷うように考える。

「……目的は、あの街に住むしかない者を守る為。それだけだ。裏を知っているお前ならばそういう存在がいる事は承知しているだろう。悪人というわけではなくともなんらかの事情で表に出られない存在がいることを」

 生まれた場所かもしれない。やむ負えない理由で背負った罪かもしれないだがそういった相手はたしかにいるだろうと。
 そして、静かに口を開く。

「……裏切りの黒【ネロ・ディ・トラディメント】。あの街では噂や眉唾物の笑い話で通っている集団。その一人が俺だ。名前は……虚無【ヴァニタス】。そう通している」
 
 その組織をそして自らの名を明かす。彼は敵であるがゆえに……信頼が出来る相手だから。
 組織の名前に関しては聞いたことあるかもしれない。ないかもしれない。いくつかの冗談の中に漂う組織の名前だろう。

「さて、俺の情報はここまでだ……次はそっちが求めるものを言ってもらう。お前の言葉を使うわけではないが。お互いに”利益”が出ないと交渉にはならない。このままでは俺だけがもらってばかりだ」

 それはフェアじゃないだろうと相手に目線を向けた。
 今度はそっちが求める物を言ってみろと。

神代理央 >  
「……そういう存在を承知はしている。把握はしている。
しかし、そやつらの保護は私の仕事ではない。
"表"で暮らしたい。落第街から抜け出したい、と思う者達への保護は我々の仕事だが、好き好んであそこに住む者達など、我々の知った事では無い。
各委員会に保護も求めず、あそこで暮らしている者など私から見れば保護に値せぬ存在故な」

フン、と吐き出す吐息。
あの場所でしか生きられない…というのは、それを選んだ者達の責任でしかない。
あの街から抜け出せない、と誰かに命じられた訳でも、そういう決まりがある訳でも無い。
自分の意志で住まう者達を守る必要などない、と切り捨てた。
とはいえ、その言葉の主語は『風紀委員会』ではなく『私』或いは『我々』。つまり、所詮は個人の意見に過ぎないがその意見に共感する勢力が風紀委員会に存在することも…暗に伝えるのだろうか。

「……裏切りの黒。噂に聞いた事はあるが…成程、実在していたのか。落第街の自治と秩序を守る、だったかな。その性質上、明確に風紀委員会と敵対している訳では無い筈だが。
虚無……ヴァニタス、か。覚えておこう」

流石に、此の場でデータベースを検索したりだの、他の委員に通信を繋げるなどといった野暮なことはしない。
彼が告げた情報に短く答えるのは…少なくとも此の場においては、その情報に余計な詮索をしない事を伝える様なものだろうか。

「……此方が求めるもの、か。直近で言えば、先日風紀委員を襲撃した犯人を特定すること。
長期的に言えば、違反部活の撲滅ではあるが…まあそれは、今の議題に相応しくない」

「私の特務広報部を含めた、風紀委員を襲撃する者達の情報。
今私が求めているのは、それだけだ」

【虚無】 >  
「好き好んで住んでいるものなどいないさ。だがあそこ以上に表に出ることを恐れている者は大勢にいる……それこそ生き方を知らないが故に表に出れば体制に飼われる犬になるしかないと理解している。だとかな」

 こちらとしてもそれは許容できない話ではあった。
 たしかに出ようとしないというのは事実。出ようと思えば出られるのも事実だろう。だがそれには表が受けていた様々な”当たり前”があって初めて成り立つ。それが無ければただ支援という名の元に飼われるだけだろう。

「ああ、風紀とは敵対していない。むしろ協力関係になってもおかしくない相手だ……どこかの誰かのように、過剰なまでの暴力で街で暮らしているだけの人間に被害が及ぶなら話は別だがな」

 と少しだけ相手を軽くにらむような眼で見た後に。目を閉じる。
 そして相手が求める物を聞けば。息を吐き出す。

「……求める物は同じか。だが、そうだな……だったらここからが交渉だ。現状お前の望む情報に関して俺が出せるものは何一つない。だが……お前が情報を手に入れるサポートは行える」

 と指を2本立てる。
 それをまずひとつ折る。

「まずひとつ。お前たちが行う攻撃のサポートだ……お前が俺にどこの組織を攻撃するかの情報を渡せば事前にその周りにいる一般人などの避難誘導を行っておいてやる。つまり違反組織に対して安全に奇襲が出来るようになる……相手組織の情報は望むな。俺たちからしても全組織が滅ぶのはデメリットが多すぎる。あくまで一般人の被害を減らすだけだ」

 つまり一般人にも被害が出る広報課の攻撃を事前に察知したのでその周りにいる一般人は逃がしました。という状態を作るという話。
 詭弁といってしまえば詭弁。だが組織の理念にギリギリ反しないラインである。
 そしてもう一本指を折る。

「もう一つはルートに関してはいくつか教えてやる。裏の人間しか知らない道はいくつもある。最初の出会いの時に教えたような道だ」

 最初の出会いの時に交わした会話。それを例に出してあれに近い協力ならしてやれると告げる。
 そして折った指を1本伸ばす。

「俺がその見返りとして臨むのは……風紀委員への襲撃者。それに関する完全な共有を行いたい。この組織に対する攻撃に関しては一つ目の取引の例外。つまり場合によっては……攻撃の戦列に俺も加わろう」

 こちらに利は確かにあるが相手側にはデメリットはほぼないアイデアを出す。
 最も相手側はバレれば今の地位を追いやられるのは必須だろうが。

神代理央 >  
「恐れるのも自由。あそこに住むのも自由。それ自体を咎める事はせぬさ。
ただ、あそこに住むということは、決して公的に守られぬ存在だということ。我々の様な風紀委員の活動に巻き込まれて命を落とそうが怪我をしようが、それは何処までも自己責任でしかないということ。それは理解してもらいたいものだがな。
あそこの連中は『書類上存在しない』のだ。それを、努々忘れぬことだ」

と言葉を返して紫煙を吐き出す。
半分程灰になった煙草から、燻った灰の塊が地面に零れ落ちた。

「さて、何の事やら分からぬな。
私は唯、違反部活とその温床足り得る地域を焼き払っているに過ぎぬ。文句があるなら、自発的に違反部活の情報を提供するくらいの気概が住民達にも欲しいものだがね」

此方を軽く睨む男に、小さく肩を竦めてみせる。
とはいえ、皮肉の応酬は此処迄。
此処からは、相手の"手札"を見せて貰う迄。

「……一つ目のサポートは話にならぬ。
攻撃目標の情報を事前に渡すというのは、此方にとって大きなデメリットだ。風紀委員会の情報保持の面でも、それを受ける事は出来ない。
そもそも、未だ貴様が信用に足り得る相手であるかどうか、私は判断を下していない。そんな相手に、此方の情報を常時渡すと思うのかね。
メリットも薄い。一般人の避難誘導と勧告は一応義務だから行っているだけだ。それが楽になるから、だからどうした…という程度のものでしかない」

「一つ目の条件は、貴様らに利があり過ぎる。貴様達は住民を救える。あわよくば、風紀委員会からの情報源として私を活用出来る。
それに対して私が得るメリットは『書類上存在しない住民の安全な避難誘導』では、話にならぬな」

小さく首を振る。
此れは、互いの組織の目的や大きさ故の齟齬、だろうか。
風紀委員会が違反部活に情報を提供するというのは、それが知られた時に相応の問題になり得る。
それに対するメリットは、普通の風紀委員ならまだしも特務広報部は過激派の筆頭である部署。
そもそも落第街の住民を『一般人』だと認識していない以上…この交渉は、成り立たない。

「……二つ目の条件は、まあ考慮に値しないでもない。
しかしその条件だけでは、此方は貴様の求める情報を渡す事は出来ない。
…商売は信用が第一だ。であるなら、先に行動で示してみたらどうかね?例えば…先ずは暫く、貴様個人は風紀委員会の為に前線に立つ、とかな」

二つ目の条件は、悪い話ではない。しかし、此方が切れる手札を開示するには、弱い。
それらを一つ一つ告げながら、此方から何を引き出そうとするのか…興味深げな視線を彼に向けるだろうか。

【虚無】 >  
「……まぁ、それに関してはその通りだとしか言えないな。だからこそ俺達のような存在がいるわけだ」

 そう、本来であれば守られない存在。踏みにじられ食い物にされるだけの存在。
 だからこそ守れる力として自分たちがいる。
 そして相手側の意見を聞く番。相手の言葉が言い終わるまで黙って聞いていて。相手に目線を向ける。

「前線に立つ、という事に関しては残念だが不可能だ……俺達はあくまで落第街にはびこる悪。風紀委員の敵だ」

 そう、そういうわけにはいかない。
 自身達は常に街の闇に位置していないといけないのだから。

「だが……そうだな、だがこれならできる。いくつかの組織の情報提供。それに関しての共同戦線。これならまだ可能だ」

 と、前に言った事と矛盾するような発言を述べる。
 地面に目線を落として。

「俺達はあくまで表向き狩れない悪を狩る……そうだな、例えばだが、風紀と繋がっていて、風紀が手が出せない悪党。といった輩が相手になる……例えば風紀委員にとって表向きは守るべき慈善団体の裏の顔。だとかな?」

 そもそも表向きでは慈善団体だとかそういった側面で悪とすらみなされていない存在。そういった物もいくつかある。だが今はまだ風紀の庇護対象であるがゆえにそれらに対して攻撃を”行えない”そういった手合いがいくつもあった。

「それらに関して……広報課が攻撃した。という事を告げてくれるのなら明日にでもその組織を攻撃しよう。信用の第一歩としてそれでどうだ? もちろんその組織の悪事の情報はそちらに送ってやる」

 と、そこまで言ってから立ち上がる。

「まぁ、表向きはお前たちの仲間だ、即座に攻撃したとなっても問題が起きるだろう……明日にでもここに通信機を仕込んでおく。もし乗るつもりになったならそれを回収しに来い。一週間は置いておく。それ以降は交渉決裂。と言うことにさせてもらう」

 ビリビリと足に紫電が走る。
 もう一度相対する青年を見て。

「……そろそろ良い時間だ。俺は退散させてもらう。いい返事を期待している鉄火の支配者……いや、神代理央」

 それを言い残し。甲高い音を残し姿を消すだろう。
 後日通信機を置く。回収されるか否かは別の話。

ご案内:「青垣山 廃神社」から【虚無】さんが去りました。
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