2021/10/11 のログ
五百森 伽怜 >  
女の言葉に、少女は眉を顰める。鎌をかけられた? 否。
そんな訳はない。確かに女はこちらを指して言葉を投げて寄越したのだ。
『境目の子』などという言葉は、あまりにも具体的に過ぎる。
自意識が過剰に働いているだけ、とでも言うのだろうか。

「それにしては、こっちに呼びかけてくるかのようだったッスよ」

じり、と一歩。右足を後ろに下げつつも、対話の姿勢は見せる。
そこへ続く推理をするかのような言葉。
まるで間近に歩み寄られているかのような話術に、左足も一歩退く。

「……ちょっとお姉さんの『雰囲気』が凄かったから、邪魔しちゃいけないと思って
 静かに見ていただけッスよ。別に、お姉さんの写真は撮ってないッスよ……?」

前者は半分虚偽だ。シャッターチャンスを待ちつつ、
彼女の持つ雰囲気に気圧されていたのは確かではある。
後者は真実だ。シャッターチャンスを待っていただけで、
彼女の写真は未だ撮っていない。

ここまで口にして、ふと少女は思考を走らせる。
下手な言葉を並べたところで、恐らく目の前の相手に対しては無意味だろう、と。
ならば。

「ちょっと、面白い写真が撮れたらと思って色々歩き回っていただけッス……
 邪魔したなら悪かったッス。帰らせていただくッス……!」

あわわ、と。内心の焦りが顔に出てしまっている。
特大ネタ、などと言っている空気ではなさそうだ、と。
更に一歩ずつ、足を後退させる。

シャンティ・シン > 「そう、ねぇ……呼び、かけ、ては……いた、わぁ…… で、もぉ……それ、は……ふふ。この、世……なら、ざる……御霊、たち…… だって……ねぇ…… ここ……いか、にも……『それ』っぽ、い……とこ、ろ……で、しょう?」

首を巡らせて、朽ち果てた周りの様子を伺うような仕草を取る。確かに、周りには裏寂れた荒れ果てた神社の跡がある。『出る』と言われれば、納得できてしまいそうなほどに……それらしい雰囲気がある。



「……ふふ。じゃ、あ……貴女、も……そう、いう…… 『あっち』の……子、かし、ら……? 此処、は……常世、の……島、だし……そう、いう、のも……有り、得る……か、も……しれ、な、い……わ、ねぇ…… 幽霊? 妖怪? それ、とも……悪魔……?」


探るように言葉をかけながら、笑う。それは、見透かすようでもあり、ただの純粋な質問のようでも有り――


「あぁ……別、に…… 私、は……ただ、此処……に、いる……だけ、だ、もの……邪魔、なん、て……ねぇ? 気に、しなくて、いい、わぁ……そう……それに、して、も……面白い、写真……を……ね、ぇ」


人差し指を唇に当てて、考えるような仕草をする。小さな吐息が静かな空間に漏れる。



「あぁ……新聞、とか……その、類……か、しらぁ……? そう、いえ、ば……そん、な……もの、も……ある、わよ、ねぇ……書いて、る……人、とか……考え、た……こと、なかった、けれ、どぉ……」


小首を可愛らしくかしげてみせた

五百森 伽怜 >  
(い、一応話は通じるみたいっスね……)

特異な口調、そして偽装を見破られたことから警戒をしていたが、
過ぎたものだったのだろうか。
そんな風に思いながら、退ける足を少しばかり戻した。
ふぅ、と一つ息を吐いて。
口調も少し明るめを意識したものとなる。
無論そんな意識をしている時点で、少しばかり不自然ではあるが。

「……最近噂になってる幽霊騒動ッスね。
 確かに、出てもおかしくない場所ッス。
 ……お姉さん、まさか幽霊じゃないッスよね?」

正直、その線を結構疑っていたところである。
鹿撃ち帽をちょいちょいと直しながら、冗談っぽく笑ってそんな問いかけをし。

「『あっち』……ってのはよく分からないッスけど。
 幽霊でも妖怪でもないッスよ。まぁ、悪魔ってのは近いかもしれないッスけど……」

喋りすぎたな、と。
ここまで口にしたところで少女はきゅっと唇を結ぶ。
視線は、女の方へ真正面から向けることはしない。
自らが持つ魅了の瞳のこともあるが――ただでさえ。
何か見透かされているような感覚を覚えているのに、あの目を捉えてしまったら……。
もっと奥深くまで覗き込まれるのではないかと、
そんな恐怖が無意識の内に芽生えていたからである。

「……ま、まぁそんなとこッス」

そこははぐらかすように、しれっと口にする。

シャンティ・シン > 「ん……そう、ねぇ…… 案外……幽霊……か、も……しれ、ない、わ、よぉ……?」

くすり、と……今度こそ、顔を、身体を少女の方に向けて笑う。長い銀髪を揺らした褐色肌の美人。やや虚ろに見える目は何処か焦点が合わず、視線を外すまでもなく視線が合わないようにも見える


「ふふ……そう……そう、なの……ねぇ……ふふ。いい、わ……大して、面白、く……ない、と……思う、けれ、どぉ…… オハナシ、でも……して、いく……? あぁ……でも、そう、ねぇ…… 写真、は……NG、で…… 私…… あま、り……好き、じゃ……ない、から……ね?」


両手の人差し指を組み合わせて、小さなバツ印を作ってみせる。


「……ま、あ……こん、な……ところ、で……誰、か……に、会え、ば……びっく、り……する、わ、よ……ね、ぇ……?」


小さく、こくこくと首を縦に振り……共感を示すような態度をとる。とんだパパラッチではあるけれど、これはこれで刺激になりそうな出会いである。さて、この娘をどうしようか……などと、心は踊る。

五百森 伽怜 >  
顔がこちらを向けば反射的に、一瞬視線を向けてしまう。
視界の端で捉えていた声や仕草の雰囲気に合う、美しい女性に思えた。
少しばかり、その瞳は虚の色で染まっているように見えたが。

すぐに思い直し、少女は視線を外す。

「写真はNGなんスね、分かったッスよ」

視界に映るバツ印。
それで、また少しばかり少女の緊張が解けた。
明らかに異界か何かの存在ではないかと疑っていたが、
何となくそのジェスチャーだけでも親近感を覚えたからである。

「まぁ、そうッスね。廃神社ッスから、
まさか人が居るとは思わなかったッス……変に驚いたりして申し訳なかったッス……」

共感の言葉に、ほっと一息をついて頷く少女。
もしかしたら、信じてもいいのかもしれないな、と思い始める。
元より、人を疑うのは好きではない。
先程までは、あまりの雰囲気に気圧されてしまって取り乱してはいたが。

「そ、そうだっ! せっかくだからぷち取材するッスよ!
 あたし、五百森っていうッス。お姉さんは何て名前ッス?」

シャンティ・シン > 「ふふ……」


怯えていた少女が、少しずつ慣れてきた様子が伝わってくる。もう少しからかってみてもいいかもしれないが、せっかく慣れてきたところで脅してもあまり良くないだろう、と思い直す。で、あれば……いつもの流儀もなしでいこう。何しろ、別に声に出さずとも読めるものは読める。ただ、少しだけ……筋が読みにくくなるだけだ。特に、栞をはさみながらだと――

そこまで思考して、いけないな、と思う。それこそ少女を警戒させてしまう。


「謝る、こと、は……ない、わ、よぉ……? それ、とも、ぉ…… 私、幽霊、とか、に……見えた、かし、らぁ……?」


謝罪に対して、くすくすとからかうように笑い


「……私、は……ブータナ……と、いうのは……冗談……で、ぇ……」


幽霊、を指すその語の意味がわかるかは不明だが――それは些細なことで、聞き流されてもよい。ただ、口にしたという事実だけで十分意味はある。


「私、は……シャンティ・シン……シャンティ、で……いい、わぁ……? 取材……なら、受けて、も……いい、けれ、どぉ……ふふ、なに、きかれ、ちゃ、うの……かし、ら、ねぇ?」

五百森 伽怜 >  
「いや、なんというかこう、雰囲気が普通じゃなかったッス……
 その、神秘的っていうか、この世のものじゃないみたいな……」

神秘的というには嫌な気配もするし、
邪悪なそれというには良い気配もする。
その言い表し難い感覚、言葉にして伝えようとすると、
なかなか難しいものである。少女は口にしつつ、こつんと自分の側頭部を叩いた。

(ブータナ?)

五百森と名乗った少女はそこまで博識ではない。
新聞記事など書いているが、
オカルトネタを追いかけてきた訳でもなく。
その知識の深さと幅は、どこにでも居る15歳のそれである。


「シャンティさんッスね!」

名前を聞くことで、また僅かに安堵の念が湧き起こる。
名前には大きな力がある。
名前を認識するだけで、
『名前のない女』と相対するよりもずっと、身近に感じられる。
それが偽りかどうか、といった話はまた別問題なのである。
そんなことは、五百森の意識には上がっていないのであるが。

さて、取材ということで聞きたいことは色々あるのだが、
慎重に話題を選ばねばならない。
そう感じるほどには、まだ緊張と警戒の念が渦巻いているのである。
しかし、少しばかり気が緩められているのもあり、
今の五百森の内では好奇心が勝ったようだ。

少し躊躇した後、手帳とペンを手に取りつつ問いかける。

「じゃあ2つ質問ッス!
 1つ目……さっきの歌ッスけど……一体何の歌ッスか?
 まつろわぬ~、とかこの世ならざる~、だとか……」

シャンティ・シン > 「ん……あぁ、そう……ねぇ……」


人差し指を唇に当てて、考える。総合すれば、この少女は自分が『儀式』を行っている時から此処にいて。そして、全てを把握していないまでも、一通りの様子は見ていた、ということになる。気配自体はわかっていても、こういった細かい機微までは流石に読み取りきれないので実に有用な情報だろう。

さて

それでは

彼女には消えてもらうべきだろうか


(それは、違うわねえ……)


本当に知られたくないことであれば、綿密に知られぬようにするのが一流の仕事。ばれて慌てて口封じ、などは三流の仕事だ。そもそも、誰かに直接手を下す、というのは流儀に反する。


「あら……それ、聞い、ちゃう、の……ねぇ……ふふ…… あれ……聞かれ、ちゃって、たの ね、ぇ……? 恥ず、か、しい……わ、ねぇ…… 誰、も……聞いて、ない、と……思って、た、の、にぃ……」


いたずらっぽく笑う。


「あれ、は……中身、の……通り…… 普通、じゃ、ない、モノ、への……メッセー、ジ…… この世、なら、ざる……モノ、へ……捧げ、る……詩…… 聞いて、しまった、の……ね、え?」

五百森 伽怜 >  
「……あの」

好奇心、猫を殺す。
相手の言動を受け、要らぬ油断を心に招いたがゆえに、最大のミスを犯した。
いつだって自分は首を突っ込みすぎる。悪い癖だ、と。

全力で逃げるのが正しかった。
見てみぬ振りをしていればよかった。
気を許して名前など告げずに、知らぬ存ぜぬを演じていれば良かった。

しかし、記者魂――好奇心が勝った。
そして何より。

「……何の目的があって、この世ならざるモノへメッセージを?」

その声は彼女の笑みとは対照的に恐怖で震えてはいたが、
瞳はまっすぐにシャンティの方を見据えていた。

シャンティ・シン > 「……ふふ、記者、の……血、とか……そう、いう、の……か、しら、ぁ……?」


震えを隠せず、しかしなおこの場に踏みとどまって言葉を紡ぐ少女。その恐怖とその勇気――それは、ひどくひどく……美味だ。それを摘み取るのは、ひどく残念に思える。



「目的。そう――ねぇ……貴女……自分、で……さっき、いった、わ、よ……ね、ぇ……『最近噂になってる幽霊騒動』……」


人差し指で少女を指し示す。それから、天に指を向け、くるくると回す。


「恐怖……信心……言霊…… そう、いう……モノ、が……あち、こち、に……たまり、たまって……いる、の、よ。もし……今……こん、な……廃れ、た……霊場、で……なに、か……した、ら……? 人、なら、ぬ……モノ、に……呼び、かけ、た、ら……? ふふ……」


くすくす、と笑う。邪悪なような無垢のような……捉えがたい笑い。その笑い声が、静かに、静かに……薄く、広く、遠く……小さく、大きく、こだまする。



「どう、なる……か……」


問いかけるように、その言葉は放たれた。

五百森 伽怜 >  
「本当にあの儀式に力があるとしたら……」

幽霊騒動。本当かどうかも分からない噂話ばかりだったが。
先の儀式の際に感じた『嫌な』感じは確かなものだ。
それは、五百森に流れる血の半分――人外の血を強く刺激するものだった。

「そんな力があるとしたら、島に災いを呼ぶだけッス……!」

彼女の声が反響する。

彼女の声だけではない。

周囲の空気も、いつの間にか変わっているように感じられた。

(――っ!?)

ぐわんぐわん、と頭を揺さぶられるような感覚。
同時に、自らの内にある、いつも覆い隠しているもの――
忌まわしい血が荒れ狂うのを感じる。
この場で起きた儀式、そこへ集ったモノ共への共鳴か、或いは常から抑えているものが、
ちょっとした弾みで限界を迎えたか。或いは、その双方の影響か。

身体が熱を覚え、思わず膝をつく。
抑え込む。息は荒く。
しかし、瞳だけはシャンティを見据えていた。

「まさか、それが……」

手をついて、息も絶え絶えにそれだけ口にする。
今にも飛びそうな意識を、何とか掴みながら。

シャンティ・シン > 「あら、あら……どう、した……の、かし、らぁ……?」

開けた空間に反響するはずもない笑い声が広がりこだまする。少なくとも……そう、聞こえるような、気がする。


「ホラー、は……嫌い? ふふ。それ、と……もぉ……悪魔、みたい……なん、て……言って、た、わ、ねぇ…… 刺激、され、ちゃ……った、ぁ……?」


畳み掛けるように言葉にして……座っていた石から立ち上がり、ゆっくりと膝をついた少女に近寄っていく。



「大丈夫……か、しらぁ……?」


覗き込むような、顔。その表情は、慈愛に満ちたような優しい笑顔にみたされていて――



「ほ、ら……しっか、り……息を、整え、て……?」


女が近づけば、少しだけ空気が緩んだような気がする。そこだけが空っぽに空いた空間のように。


「気の、持ち……よう、よぉ……? だって――」


くすり、と笑う


「本当、に……そん、な……力、ある、と……思う……?」


それは、甘く、優しい声音。
それは、安堵を運ぶ力。

そもそも――呼ばれたのは全ての超常。善きモノも悪きモノ、其処には漂っている。何を『引き寄せる』か、『引き寄せない』か。全ては、自分次第、である。

五百森 伽怜 >  
「人をからかうのが、お好きみたいッスねぇ……シャンティ、さん……」 

空気の緩みを得て、呼吸を整える。
自らを支える腕に力が入るのを感じ、姿勢は何とか保たれる。

安堵を促す声に、大きく息を吐いて、ようやく発作が落ち着いてきたのを
感じる五百森。

「……申し訳ないッス。ちょっと興奮して発作が起きたみたいッス。
 ……あたしには、淫魔の血が入ってるッスから。
 たまにあることッス。……そうッスね、気の持ちよう……」

暫しの沈黙を放った後、自虐をたっぷり込めた口調でそう語ると、
何とか立ち上がる。

気持ちが弱っていたのもあるのだろうか。
改めて自身を振り返り、そう考える。

「……もう1つの質問は、今度お会いした時にしておくッスよ。
 邪魔して悪かったッス」

胸の中に何か引っかかるものを感じはする。
それでも、この場は退いておくに越したことはあるまい。
五百森はそう考えた。

シャンティ・シン > 「あら、あら……そ、ぉ……? ふふ……そう、ねぇ……」

息を整える少女を見て、優しい笑顔を崩さぬまま、小さく、くすりと笑う。


「きっと……貴女……疲れ、て……いる、のよぉ…… それ、と……廃神社、だ、ものぉ……空気、どこと、なく……悪い、し……ね?」


小さなウィンクを送る。おどけたような仕草。


「取材、は……ふふ、また……今度、ね……残念、だけ、ど……仕方、ない、か、しらぁ……」


本当に残念そうに、口にする。まだまだ、話していてこの恐怖と不安を眺めるのも一興ではある、のだから。けれど、慌てることもない。鮮度も大事だけれど熟成も必要なことはある。


「あぁ……そう、そう……大変、そう、だ、し……困った、こと、あった、ら……なに、かの……縁、だし……相談、して、くれ、ても……いい、わ、よぉ……? 風紀、委員……に、も……知り合い、いる、し……ね」


くすくすと笑って優しく、心配そうな言葉をかけた

五百森 伽怜 >  
「……そうかもしれないッスね」

疲れているのは間違いない。薬も服用しているとはいえ、
この身に流れている血の半分は、いつも五百森を苦しめている。

「風紀委員に……そう、スか」

その言葉が引き金となったのか、五百森の顔が少し明るくなった。
やはり、彼女のことを疑いすぎていたのかもしれない。

あの儀式の力。本物のように思えたが――。
そこまで考えて、五百森は首を振った。

「分かったッス、何かあれば相談させて貰うッスよ。
 それじゃ、失礼するッス」

いずれにせよ、彼女のことを少し調べる必要はあるだろう。
そう考えながら、五百森はその場を去るべく、
立ち上がりスカートの砂を払う。

そうして何もなければ、そのまま去っていくことだろう。

シャンティ・シン > 「ふふ……可愛、い……わ、ねぇ……」


立ち去る姿を見て、くすくすと笑う。本当に楽しそうに。


「くるくると……気持ち、も……変わって……あ、は……」


そこで、ふと……考える。


「風紀、の……子、たち……よ、り……やっぱ、り……普通、の……子、の……方、が……刺激、は……ある、の、よ……ね、ぇ……難し、い……わ、ぁ……」


小さく首をかしげた。気持ちのゆらぎ、輝く心……そういったものは、強固な精神を持った相手には望むべくもない。だからといって、そればかりを摂取するのもどうか……まさに難しい問題だ。


「あぁ――それ、と……ふふ」


首を周りに巡らせる。


「みん、な……好き、に……して、いい……から、ね……さっき、も……いった、け、ど……ああ、でも……さっきの、子…五百森、ちゃん、は……いじめ、ちゃ……だ、ぁ……め、だか、ら……ね?」


その言葉に……周囲が小さくざわめいた――ような、気配があった。が、それもつかの間。そこにはもう、何もいなくなっていた

ご案内:「青垣山 廃神社」から五百森 伽怜さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」からシャンティ・シンさんが去りました。