2022/08/12 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」に蘇芳那由他さんが現れました。
蘇芳那由他 > 【青垣山】と呼ばれる不思議な山があると、この島での生活にある程度慣れて来た頃に小耳に挟んだ話。
ふと、それを思い出したら後は思いつくままに動き行動するのみである。
流石に学生服ではないものの、かなりラフで地味な軽装に靴だけは登山用の靴を履いて。
小型のリュックに、タオルや水筒、軽食を詰め込んで登山と相成った…勿論山は素人だけど。

目的地は廃神社――既に朽ち果てた神社のようだが、そこまでの道程は素人でも何とかなりそうで。
特に深い目的も考えも無い。何となく行ってみようと…面白みの無い衝動に突き動かされて。

「…とはいえ、山登りはやっぱり初心者には中々辛い…かな…。」

体力や持久力は平凡、より多少上程度。廃神社らしき場所に辿り着く頃には、多少息も乱しており。
『刀』は、先日に出会った幽世の残火たる女性に預けているので、今はリュック以外は身軽なものだ。

「……それで、ここが廃神社……肝試しとかに使われそう…っていうのは罰当たりかな…。」

少年が抱いた最初の感想がそれだ。感情の一部が欠落している故というのもあるが。
神社特有の空気も廃れた故に薄まっていて、代わりに漂う寂寥感も――少年は何の感慨も抱かない。
そもそも、今の少年に何かに心を揺さぶられる、というものが無い…それを悲しいと思う事すら出来ない。

蘇芳那由他 > 少し小休止したい所だが、まぁ折角だし少し神社の敷地を探検してみるかと歩き回る。
人の手入れが無くなって相応に年月が経過しているのか、何処もかしこも荒れ放題だ。
正直、神社仏閣に関しては知識は最低限あっても詳しくは知らないがこの荒れ様は何というか…。

「……この神社はもう『死んでいる』って事になるのかな。」

神性みたいなものを感じ取る力なんて彼には無いが、ここが本来の神社としての力を喪っているのは何となく察して。
足元だけには気をつけながら、ぐるりと本殿の周囲を一周するように歩き回る。
比較的山頂に近い開けた一角に作られているからか、荒れ放題ではあるが視界は思ったより悪くは無い。

一周して元の場所に戻ってくれば、そこから改めて廃神社の全景を見渡す。
朽ち果てた場所、喪われた神性、信仰が届かぬ忘却の彼方。

「…少し似ている…って、いうのは流石にエゴが過ぎるし、神社に失礼かな。」

喪失者――過去も、記憶も、力も、感情の一部すら彼方に無くした少年に。
それに、親近感…と、までは行かないけれど微かに感じるものは無くもない、が。

蘇芳那由他 > これも聞いた話ではあるが、この青垣山そのものが一種の『異界』となっているらしい。
どうやら、先日自分が迷い込んだらしいあの【裏常世渋谷】と似て非なるもの。

「…この島って、もしかして異界が割りとあちこちにあるのかな…。」

何せ、過去の記憶がすっ飛んでいるから…【大変容】の知識すらほぼ無かったくらいだ。
手近な場所にリュックを下ろしてその傍らに腰を下ろせば、リュックからタオルを取り出して軽く汗を拭く。
それから、水筒も取り出して中身の麦茶を割りと豪快に煽るように飲んで一息。思ったより喉が渇いていた。

「……けど、こうして見ていても異界といったイメージがあまり沸かないんだけど…。」

それは、おそらく少年が極端に危機感や周囲の変化に鈍いからであろう。
どんな場所に迷い込んでもおかしくはなく、そしてどんな場所でもこの平静さは変わらない。
人として、頭の螺子が数本吹き飛んでいると思われても仕方なく、事実そうだろう。

ふと、茫洋とした表情と視線を向けた先。未開拓地と呼ばれる地域や馴染みのある学生居住区がここから良く見えた。

「…普通に景色は凄いんだよなぁ…人気も無いし、一人になりたい人とかには穴場なのかもしれない。」

蘇芳那由他 > ついでに、小腹も減ったので、小さな包みを続いてリュックから取り出して広げる。
中身は更にラップで包まれたサンドイッチ…型崩れしているけど、まぁ仕方ない。
一応、自分で作った物だ。本格的な料理はさっぱりだが、このくらいは流石に作れる。

そのまま、サンドイッチを齧りながら茫洋とした表情で景色を眺める。
場所が廃神社、というのが少々…いや、かなり異質だろうがそういうのは疎い少年だ。
お陰で、良くも悪くも自然体で寛ぎながらサンドイッチを食べつつ合間に麦茶で喉を潤しており。

「んぐ…ちょっと味付け失敗したかも…もうちょっと薄味の方が良かったかな…。」

呟きながらも、無心で食べ続けていれば程なく綺麗にサンドイッチは完食する。
水筒の中身も、矢張り喉が渇いていたのか半分程度はこの神社に来てから中身を減らしており。

「…廃神社には足を運べたし、景色も眺めたし、軽食も済んだし…。」

もう少し、寛いでから大人しく下山する事にしようか。異界と化した山でも少年にとっては『ただの山』だ。