2022/09/09 のログ
ご案内:「青垣山」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
暦のうえでは九月だが、まだ樹林は青々とした葉を戴いている。
女が踏みしめる土に紅葉の絨毯が敷かれるまでにはまだかかりそうだ。

青垣山。
深く、未だ謎を多く残す峰にかけられた、枝の屋根の下に女はいた。
はずんだ足取りで切り株や突き出た枝を避け、踏み、跳んで。

「フフフフ、まるで宝の山じゃないか!
 まだこんな森が残ってるなんて。 拾い物するならココだね!」

鼻歌混じりに体を踊らせて、みずみずしくそびえ立つ大木の幹に手をふれた。
手袋越しではあるが、有り余る生命力が伝わってくる。
目を瞑ればよりありありと、大地の息吹が、鼓動がとりわけ下腹を――揺さぶるのだ。

「いい空気。
 島外じゃ、今はなかなか吸えないよね。
 なによりも、この地球の香りがする――やっぱりココしかなかったんだよな」

両腕をひろげて、天を仰ぐ。
深呼吸。
ランダムな網目に覗く空に、鳥がいななきながら飛び去っていくのが見えた。

ノーフェイス >  
「ここはあんまり人も立ち入ってないようだし――」

未開拓地区、という分類がある。
当然、全くの謎・未調査というわけでもないのだろうけども、好奇心からの立ち入りは推奨されていないように感じた。

「何人か埋められてそうだね」

不謹慎な冗談を、誰が聞きとがめるのだろう。
女はさて、と襟を正すようにして、周囲にそびえる樹の一本一本を品定めしだした。
しげしげと眺めては、両腕でぺたぺたと幹を触れたり、
たまには背を預けて休んだりもして。

その視線の先には、ずいぶん大量に持ち込んだ荷物の数々が、
レジャーシートの上に載せられていた。
テントもある。ここで休む、というのも視野に入れた装備群である。

ノーフェイス > 「……キミがいいな。 うん、キミがいい」

しばらくそう過ごした時、寄りかかっていた樹を掌でタップしてから、背を幹から剥がして歩き出す。
バッグのジップを引き下ろすと、重量感のある器具を取り出した。

それを手に引き返し、改めてその樹と向かい合う。

構えはさながらバッターボックスで投球を迎え撃つ、四番打者のそれだ。

「せ――――のッッ!!」

裂帛の気合が、澄んだ声音で爆ぜた。
鋭く振り抜かれた手斧が、ガツン、と幹を穿った。
良い角度で入り込んだ手応えを感じると、引き抜いて、更に二打席目を打ち込む。
鈍く堅い音が断続的に響き、木くずが晩夏の風に舞った。

ノーフェイス >  
がん、がん、がん、がん。

幾度も幾度も、樹を切り倒そうとする音ののち、
チェーンソーの唸りが、森閑を掻き乱し続けた。


「天高く幹を伸ばすならっ、地中深くまで根を張らねばって言ってたのは、
 いつのどこの誰だったっけっ? 随分昔のことな気がするなぁ――!」


陽が沈む頃には、そこにあったのは見事な切り株ひとつ。
切り倒された大木がいずこかに持ち去られたかは定かではない。

ご案内:「青垣山」からノーフェイスさんが去りました。