2020/06/13 のログ
北条 御影 > 人込みをかき分け、駅前の広場を抜けて裏道へ。
振り返らずに歩き続けて、ようやく立ち止まる。

振り返ってみれば、当然のことながら追いかけてくる姿もない。
それで良い。それだからこそ、良い。

「―いただきます」

カバンにしまっておいたカフェラテを取り出し、タブを開ければ、じっとりとした裏道の静寂の中、
ぷし、と気の抜ける音が漏れ、響く。

缶を傾けて一口、二口。

「―うぇ、あっま」

口の中に広がる暴力的な甘味に思わず舌を出す。
ただ、それでも奢って貰ったのだから全部飲まなければ流石に失礼だ。
ぐ、と思い切って一息にカフェラテを飲み干して―

「ごちそうさまでした。」

律義にそう言って、喫煙所の方角へ頭を下げた。


本当はカフェラテ何て好きでも何でもないし、自分が好きなのはブラックだ。
それでも、彼が毎回「これが好きだったよな」と言うものだから―

「これもまた、お決まりです。」

口の中に残る甘ったるさも、彼を騙してしまったことへのせめてもの罪滅ぼしとして受け入れよう。
どうせ彼は5分後には、私のことは忘れてしまうのだから。

こうして甘いカフェラテで渋い顔をするところまでが、彼との恒例行事。
自分以外誰も知らないルーティーンを繰り返し、疑似的な友人関係を満喫する虚しさが齎す苦い思いは、
これぐらい甘いカフェラテでないと隠しきれないから。

彼女はまた、カフェラテを飲むのだろう。

ご案内:「交通機関」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「交通機関」から北条 御影さんが去りました。