2020/07/14 のログ
アージェント・ルーフ > 「ふぅ…えぇと…次の時間は…」

まだ息も上がっているが、これから目的地に向かうのに徒歩か次のバスかの決断を早く付けるべく、未だにふらふらとした足取りで時刻表のもとへ向かう。

「後…15分かぁ…」

15分位のロスであればまだ間に合う、と確信し、先ほどまで人が座っていたであろう椅子にどっと腰掛ける。

ふと、ちょっとした探偵の姿をした少女を傍目に挟む、彼女もまた乗り遅れたのだろうか?とも思いながら、

「次は15分後…らしいですよぉ」

と、まだ息が上がった声を彼女に掛ける。

227番 > 声をかけられて、はっとする。
じろじろと見てしまっていた。怒られても文句を言えない。
しかし、掛けられた言葉は。

「……じゅうごふんご?」

……時間の単位だったっけ?どれくらいだろう……?
とにかく、自分はバスには乗らない。
何処に行くかも知らないし、下手したら、というか間違いなく帰れなくなる。

「わたし、バス?、ちがう」

たどたどしい、気弱そうな少女の声の返事が返ってくるだろう。

アージェント・ルーフ > 「おっと…違ったかぁ」

どうやら、バス待ちとは違ったようで。また、他人が苦手なのかちょっとか弱い声で返答が来たため、何時もの口調の様に、間延びした声で遠回しに安心させるように話す。

さて、肝心の目的であるが、ちょっとしたマジックショーに呼ばれており、練習も兼ね会場に数十分前に着く予定であった。
が、その予定も非情なバスにより崩されてしまった。それにより向こうでの練習は不可、よって

(えっと…今日のルーティンは…)

ポケットからトランプを取り出し、急遽この机もない所で本日のルーティンの確認をする事にした。

227番 > 「うん」

しかし227はバス停からまだ動くつもりはない。
今日も歩き回っているので、今は休憩なのだ。

「……?」

なにやらカードを取り出したのが目に入り、
それを不思議そうにじっと……ではなく、ちらちらと見る。
少女はトランプもよく知らない。
小さな堅めの紙を全部"カード"と呼ぶことだけを知っている。

アージェント・ルーフ > こちらの様子を見る彼女のことなどつゆ知らず、必死にルーティンを組み上げていく。

(最初は…スイッチかなぁ)

技法の名を心で復唱しながら、見物客がいない想定で何時もより手早くカードを弾く。取り出したるは二枚のカード、二枚とも何も関連性のないカードである。
二枚をカードデックの一番上に伏せ、手癖の指パッチンを行う。
上に乗せられたカードを相手に見られないような角度ですり替え、もう一度表を向ける。

(んでもって、ジョーカー二枚になるっと)

関連性のない二枚が伏せられ、表を向けられる。この動作だけで二枚のカードがジョーカーと入れ替わるという動作を急ぎながらも手に馴染ませる様に確認する。

227番 > 目まぐるしく動くカードに気を取られる。
少女は獣化の性質上、動くものが気になってしまう。
飛びついたりはしないものの、ちらちらとしていた視線は、……ガン見になっていた。

そうしていると、指パッチンにびっくりして少しだけ跳び上がった。
おかげで、種はしっかりと見逃した。

「……??」

もう一度カードを見ると…絵柄が差し替わっている。
何が起きたのだろう。魔術というもの……ではなさそうだ。
少女の視線はカードに注がれている。

アージェント・ルーフ > (こっからは相手のカードを当てて、デックの色を変えてからの…ん?)

マジシャンたるもの相手に視線に敏感でなくてはならない。故に目の前の少女の視線に気づき、

「ん、どうかしたのかなぁ?」

まだ年端もいってない様から迷子の線も考える。ボクは眼前の彼女に微笑みながらも優しく聞く。

227番 > 「……カード、変わった」

どうしたのかと問われれば、正直に気になっているものを話す。
トランプという概念さえ知らない少女は、もちろんマジックなど知る由もない。

首を傾げ、まんまるな瞳が興味津々にあなたを見る。
昼の明かりに照らされた青い瞳は瞳孔が細い。それは猫の目のように。

アージェント・ルーフ > 「あぁ、マジックの事ね~」

成程、確かに公衆の面前でカードを弄っていれば誰かしら注目するはずである。雰囲気から見るになかなかに目敏そうな気を発しているが…

「興味あるようなら見せてあげようか?ボク、こう見えてマジシャンなんだよ~」

無観客よりも一名の客である。カードを扇状に開きながら彼女に問いかける。

227番 > 「まじっく?」

聞き慣れない言葉。
新しいことが知れる、それだけですごく嬉しくて、頷こうとして……

「……気になる、けど、じかん、大丈夫?」

十五分と言っていた。それがどれくらいなのか、よくわからない。
少女はまだ、時間の数え方は身についていない。
大丈夫、と返されれば、「見たい」と答えるだろう。

アージェント・ルーフ > 「時間ならまだ余裕あるからね、大丈夫だよ~」

先刻まで全力疾走していた者の言うセリフではないが、事実時間は15分の延長を食らい、残り10分になろうとしていた。

「それじゃあ、見せてあげるからおいで~」

カードを持っていない方の手で手招きし、彼女を手前の方へ呼び寄せる。

(…ん?)

瞬間、彼女の胸元に付いている『227』と記されたタグが目についた。何かの番号だろうか?そんな事が頭に過るが、

(これは…使えるかもっ)

心の中で彼女の驚いてくれる顔を思い浮かべ、悪そうな笑みを浮かべながら、彼女に見えないようにある三枚のカードの位置を指で探る。

227番 > 「……それなら」

バスに間に合わないと待たないといけないので逆に余裕ができる。なるほど。
手招きに応え、近くに寄る。座ってと指示されれば、従うだろう。

「……?」

少女は相手の表情をよく見る。言葉のコミュニケーションが苦手だから、補おうと。
しかし、何かを企んでいる顔というのは全く読み取れなかった。
不思議そうに、青い瞳が見上げる。
ただ、その視線もすぐにカードに向くことになるのだろう。

アージェント・ルーフ > 手招きに応じてくれた彼女が横に座る。タネあってのマジックであり、横からの視線に弱いため、体の向きを変える。

「じゃあ早速、この中から三枚カードを選んでくれるかな?」

カードを扇形に開き、指差しでカードを選ぶようなジェスチャーをする。勿論、自分の隠し持つ三枚のカードを扇の影に隠しながら。

227番 > 身体の向きを変えてもらった。
真意はわからず、話しやすくするためかな、などと少女は思っている。

「さんまい?」

数字の数え方、1,2,3……少し考えて。

「これと、これと、これ」

恐る恐る、真似をするように指をさす。

アージェント・ルーフ > 「この三枚ね~、じゃあぱっと見でいいから少しだけ覚えてくれるかな?」

彼女に選んでもらった三枚のカードを引き出し、彼女の眼前に持っていく、手の影からカードを少しだけ見たが、JQKのどれかのカードが二枚程混ざっていたため覚え辛いだろうかと少し心配になる。

そんな心配をしながらもマジックの手筈を淡々と進める。恐らくカードを覚えるために視線は三枚のカードに向くはず。その間に死角となるであろうカードの束に、自分の隠し持つ三枚のカードを揃えて準備する。

227番 > 「覚える……」

絵札の文字の意味はよくわからないが、絵柄は覚えられる。
ダイヤ、スペード、クラブなど、その名称はわからないものの、
形は認識出来ている。

「おぼえた、大丈夫」

なお、しっかりと視線は3枚のカードに釘付けになっているようだ。

アージェント・ルーフ > 「ん、ありがと~」

選んでくれた三枚のカードを下ろし、手元に戻す。彼女は気づいていないだろうが、既にマジックの手筈は整っている。
手元に戻したカードを自分の準備したカードと瞬時にすり替えながら、

「じゃあ、ちょっと右手出してくれるかな?」

フィナーレは自分の手元で起こった方が面白いだろう。カードを手渡すべく右手を出す様お願いする。

227番 > 少女は何の疑いもない目で見ている。
しっかりと目は追っているのに、すり替えには気づかない。

「右手……」

どっちだっけ。合ってるかなと思いつつ、右手を出す。

アージェント・ルーフ > 指示通り出してくれた右手にボクが選んだカードを乗せ、

「じゃあ、そのカードにしっかり力を込めてからめくってごらん~」

映画の結末を見るような気持ちで微笑みながら言う。
ぐっと力を込めたそのカード達はきっと、
めくられた時に2,2,7の数字が描かれたカード達に変化しているだろう。

227番 > 「……力を込める?」

言葉通りに解釈するのはよくない。
カードを曲げてしまう。きっとこれはこの人のしごと道具だ。
よくわからないなりに力を込めてみて、めくると。

「あれ?」

自分の名前だ。絵に描いたように驚き、ただでさえ丸い目をさらに丸くする。
思わずカードを裏返してみるが、きっと何の変哲もない裏面だ。

「わたしの、名前……」

アージェント・ルーフ > 「これがマジックっていう奴だよ~、面白いでしょ!」

マジックが成功した喜びにより若干声の調子が上がり、笑みを浮かべる。
ただ、自分の名前であるという呟きに少しだけ疑念を持つが、常識外れでもある常世の世界である。あまり気にしない事にする。

しかし、楽しい時と言うのは予想より早く流れるのが相場である。奥の方から大きいエンジンを響かせながらバスが向かってくるのが見える。

「っと、もうそろそろ時間だね~。

ボクの名前はアージェント・ルーフ、マジシャンっていう職業で色んな所で仕事してるからよろしくね~」

彼女―227からカードを返してもらいながらバスに乗る準備を進め、手短に挨拶を済ませる。

そして、待ちわびていたバスに乗り込み、座席から微笑みながら手を振る。口パクにはなるだろうが『さよなら』とも口にする。
そうしてバスはドアを閉じ、目的地に向かって走っていくだろう…

ご案内:「路面バス停留所」からアージェント・ルーフさんが去りました。
227番 > 「まじっく……」

不思議な技術。なにか仕掛けがあるのだろうか?
考える間もあまりなく、相手の迎えがやってきた。

「あーじぇんと、……まじしゃん?」

知らない言葉がいっぱい出てくる。
覚えておこう、誰かに聞いてみよう。カードを返しながら、そう思う。

人はバスを待つがバスは人を待ってくれない。
素早く片付けを済ませて乗り込む姿に手を振る。

それから走り去っていくバスを、見えなくなるまで眺めていた。

……さて、休憩も終わりだ。今日もボトルの水が無くなるまで、頑張ろう。

227番 > 今日も少女は学生街を一人で歩いている。
ご案内:「路面バス停留所」から227番さんが去りました。