2020/09/01 のログ
ご案内:「常世島環状道路:一般道」に川添 春香さんが現れました。
■川添 春香 >
この時代に来て、数日が過ぎた。
どうにもわからないことばかりだけど、異邦人…ということになって。
私はここ、常世島にいる。
不調が続いていた携帯デバイスを弄っていると、偶然というかなんというか。
なんとデータベースに繋がって。
「この年の9月1日ッ!!」
私は一般道の脇の山道を走っている。
あるバスを追いかけて。
「あのバスは暴走、謎の事故を起こして大勢の人が死ぬ!!」
走る。走る。走る。
惨劇を止めるために。
■川添 春香 >
見えた。運転席。
運転手はぐったりしている。
どうやら、病気……らしい。
それでアクセルに彼の足が乗ったままで暴走したのが、事故の真実ッ!!
バスの乗客は暴走するバスの中で為す術もない。
このままだと21名が死亡する!!
バスの前に全力疾走、異能の力を全開にしながら先回り。
髪の毛を伸ばして幾重にも糸の結界を展開する。
これでも止まるかどうかわからない。
だから、私はこうする。
バスの前で両手を広げた。
絶対に止める!!
■川添 春香 >
後方には、崖。
未来のデータベースに寄れば、この先に慰霊碑が立つ。
ここにバスが突っ込んで転落、大勢が死傷するから。
仮に止めたら、惨劇を止められたら。
バタフライエフェクトで自分が消える……かも。
それでも、パパなら!! パパだったら!!
「絶対に止めるって、言うもの!!」
糸の結界で幾分かスピードが落ちながら。
バスは私に───崖に向かって突っ込んでくる。
強い衝撃が全身を走る。
バラバラに、なっちゃう……体が………
ご案内:「常世島環状道路:一般道」に龍宮 鋼さんが現れました。
■龍宮 鋼 >
大型バイクで山道を流していれば、バスとすれ違う。
その後ろをなんか女子生徒が走っていた。
バスに乗り遅れたのか、なんて呑気に考えながら走っていたら、なにやら後ろから大きな音。
バイクを止めて振り向けば、崖に向かって猛スピードでバスが突っ込んでいる。
「――オイオイオイマジで言ってんのか」
バイクを反転させ、そちらへ走る。
あの少女の姿はない。
恐らくバスの向こう側で止めようとしているのだろう。
追いかけていたのは止めるためだったか。
「どいつもこいつも、ヒーローしたがるヤツばっかだ、な!」
バイクを横滑りさせてバスに近付き、その横っ腹を蹴りつける。
同時にバスの速度を奪い、その速度を下向きに変え、バイクへ流す。
とんでもない音がしてバイクがぺしゃんこにブッ潰れ、代わりにバスは速度を失うだろう。
■川添 春香 >
「!!」
何かが起こった。バスの速度が落ちた。
靴裏を擦るように後方に引きずられていたけど、今なら。
「止まれええええええええええええぇぇ!!!」
異能、狂悪鬼(ルナティック・トロウル)を全開。
あと少し。あと少しで、止まる!!
あと少しでぇ!!
何かが焦げる匂い。
確かに、バスは止まった。
その場に崩れ落ちるように蹲った。
運転手さんは……まだ意識がない。
どうやら、突然死しているみたい。
バスを止めるのを手伝ってくれた人は……
フラフラと立ち上がって。
■龍宮 鋼 >
「あーあー、買ったばっかだったのによぉ……」
咄嗟の事だったので速度を逃がす先がバイクしかなかった。
しゃがんで無惨にブッ潰れたバイクだったものを悲しそうに眺めながら煙草を取り出し火を付けて。
「正義の味方ごっこたァご機嫌だなぁ」
そのまま近付いてくる彼女の方を見もせずに、煙を吐き出しながら。
■川添 春香 >
「あの……ありがとうございます」
額から伝う血を指で拭って。
銀髪の女性に話しかける。
「私一人じゃ止められなかったかも知れないから……」
「あ、バイクっ! バイク……ごめんなさい、ぺしゃんこに…」
オロオロしながらスクラップになったバイクを前に狼狽える。
■龍宮 鋼 >
「あァ、別に。また買やぁいい」
金ならあるのだ。
そもそもこれまでにも何度もスクラップにしているし。
バイク好きが聞いたら卒倒しそうな事実。
「止められなかった、ねェ」
煙を吐き出して。
ぐりぐりと地面でタバコの火を消し、立ち上がる。
そこで初めて彼女の方を見た。
「――んで、止められなかったらどうするつもりだったんだテメェはよ」
■川添 春香 >
「そ、そうなんですか!?」
お金持ちの人だ……お嬢様だったりするんだろうか。
パパも昔、派手なバイクとか車とか乗ってたらしいけど。
特別、うちはお金持ちではない。普通なわけで。
立ち上がった彼女の瞳が私を射る。
赤い、爬虫類の瞳。縦に裂けた瞳孔。
「止められなくても、止めます」
即答した。そうとしか言いようがない。
「それでも止まらなかったら、命懸けで止めます」
「惨劇なんか………」
ふと、バスの中が騒がしくなった。
救急車だ、風紀だ、とにかく呼べと。
色んな人が声を張り上げている。
それでも、多分。なんとなくだけど。
運転手の人は助からない。そんな気がした。
「……惨劇なんか、起こっていいはずないです」
■龍宮 鋼 >
「ッハ、ご立派なこった」
惨劇なんて起こっていいはずがない。
確かにそうだ。
惨劇は起こらない方が良いに決まっている。
「で、自分が出来ること出来ないことの判断も出来ずにトラブルに首突っ込んだ挙句、バスは止められず崖から落ちて、自分はバスの乗客もろとも死にました。でも何もやらないよりやった方がいいのでメデタシメデタシ、ってか?」
目を薄めて、不機嫌な表情のまま彼女を睨みつける。
「死体はぐちゃぐちゃ、身元もわかんねーけど多分コイツがバスを止めようとしてくれたんでしょう。自己犠牲のなんていい話なんでしょう。あァ感動的な良い話だ」
両手を広げて大げさな語り口で。
心底彼女を、彼女のやったことを馬鹿にした表情。
■川添 春香 >
「でも、止まりました」
また額を流れてきた血を拭って笑う。
「あなたは来てくれました」
再生能力で血が止まったのを確認してハンカチで頭を拭う。
血でドロドロかも。ちゃんと洗わないと。
「私は止めました」
「惨劇の未来はちゃんと変わりました」
「───感動的で良い話でしょう?」
風紀の緊急車両が。
遠くからこちらに近づくように響いてくる。
「私は川添春香、あなたの名前を聞いていいですか?」
■龍宮 鋼 >
「結果的に、だろうがよ」
ポケットに手を突っ込み、彼女の顔を睨みつけて。
あァ、イライラする。
「たまたま俺が走ってなかったらどうする。無駄死にだぞテメェ」
彼女を視線だけで殺そうと言う様な。
彼女の行動のすべてに腹が立つ。
「そもそも、こうしてる瞬間にもどっかでなんか起こってんだよ。落第街で誰かが死んで、交通事故で誰かが死んで、病気で誰かが死んでんだ」
彼女のように見えた事故を止めるのは良い。
だが助けられなかったヤツはどう思うのか。
何故こっちを助けてあっちは助けないのか。
こっちは助けられたからいい、などと言う自分勝手な理屈を許せると思うのか。
「テメェが助けたのはこいつらじゃねぇんだよ。こいつらを助けたかったテメェ自身だ」
■川添 春香 >
「そうですね、私は神様ではないので」
あはは、と笑って髪に触る。
騒ぎの中心は、どうやらここらしい。
「一切衆生を漏れなく救うことはできませんね」
「でも……」
ふ、と微笑んで。夜風に長い髪が揺れる。
蒼い月が私達を見下ろしていた。
「やらずに後悔して、自分という存在が死ぬよりは良いでしょう」
「人間、いつだってそうなんです」
「良いことを、良いと言ってやっていくしかない」
ハンカチを仕舞って。
体の筋繊維もいくらか回復してきたみたい。
「パパの受け売りですけどね?」
■龍宮 鋼 >
「――どいつもこいつも」
チッと舌打ち。
「そんなに言うなら、助けろよ。助けようとすんならちゃんと助けろよテメェ」
人差し指を彼女の胸の真ん中に突き付ける。
彼女のその信念に楔を打ち付けるように。
「やるだけやりました、助けようと努力しましたなんて言い訳は許さねぇぞ。それを誰が許したって俺が許さねぇ」
それだけ言うなら必ず助けろと。
そうすると言うのなら、そうでもしなきゃ――
■川添 春香 >
「あなたは……」
表情をくしゃりと歪めて。目を細めた。
夜風がその瞬間だけ、止まって。
否応なく、二人の間で交わされる言葉が鮮やかになってしまって。
「確証があるものしか、受け入れられないのですね…」
自己犠牲を嫌う。
ちゃんと助けろ。
言い訳は許さない。
苛烈な言葉の裏側にあるもの。
それは傷ついてきた者の言葉。
言葉が鋭利であればあるほど。それをはっきりと感じられる。
「さっき言った通り、私は神様ではありません……」
「あなたはどこでその鋼鉄を心に宿したのですか?」
■龍宮 鋼 >
「あ?」
不審な顔。
何をコイツはわかったようなことを、
「――別に、良くある話だ。助けてくれっつっても誰も助けてくれなかった、そう言うよくある話だよ」
まぁ、良いか。
ガリガリと頭を掻きながら。
別に詳しく語るような楽しい話でもない。
「俺のことなんてどうでもいいよ。テメェがカミサマかどうかなんて知ったこっちゃねぇ。セキニンの話だセキニン」
彼女がそれを出来るのか出来ないのか。
それをわかってやっているのかどうか。
それだけの話。