2020/09/05 のログ
ご案内:「常世島環状道路:高速道路」にオダ・エルネストさんが現れました。
■オダ・エルネスト >
唸る機関、
路面から車体に伝わるフィーリングだけがこれまでにあった全てを伝えてくれる。
たった一つの目的のために人生を棒振ろうとする男たちの人生がこの走りにはあるのだと教えてくれる。
世界は残酷で、人生は何処までも効率的な賽の目を要求する。
ハンドル越しに聞こえてくる―――
入学したばかりの頃も そして留年を繰り返して四年を過ぎた今でも
オレはずっととびきりの時を過ごしている。
昔の友人には成功してでかい工業系部活動の部長もいるし、
この部活業界からすっかり足を洗ったヤツもいる。
自前の部活動はツブしたし……
家族も去っていった……
でもオレが一番幸せだッ!!
そんな熱意が込められた……作りての魂が注がれたこの魔物――N.E.X.T.は環状高速道路の実習地区を越えていく。
■オダ・エルネスト > ――研究のために恋人を捨てた。
一度は彼女を大切にするとさえ、考え直しもした。
それでも、自分の中に燻る情熱に嘘をつけなかった。
愛よりも熱いと盲信してしまう男が居た。
隣を歩いてもいいと言ってくれた人より、
出会って知ってしまった時から、
悪魔に魅入られていたんだ。
愚か者と指を刺されてても譲れない、そんな愛よりも狂おしい想いにより組み上げられた。
危険行為とわかりながら……否、危険行為と知っているからこそ、この挑戦は下手な麻薬よりもよく効くのだと男は嘲笑う。
■オダ・エルネスト > ―――狂っている。
彼らを見て……自分も狂い始めている。
その"自覚"があると笑いながら男は笑った。
誰よりも効率、数字を信じた男が、最後に自分を染めたのが非効率で愚かな男たちへの協力であった。
狂っている―――そんな彼らを理解できた自分もまた狂っている。
この次世代魔導融合機関自動車Lancer-N.E.X.T.はそんな男たちの人生によって走っている。
組み上げられた機関は、精密なくせに理屈だけではない。
仕立て上げられたボディは、愛すら感じるような情熱によって組まれている。
予測不能のような魔物を制御する数式は、解析しても理解に苦しむような不明箇所がある――ソレがなければこの魔物は走れないと知っている。
それが、この乗り手にすら伝わってくるようだった。
『聞こえるか《第六天》』
青年はヘッドセットから聞こえた声に軽く応える。
『今回もフェーズ1の安定起動と走行が目標だ』
「了解だ。 最大速度、記録更新してやるさ」
そんな彼らの熱意を知って、私もまた魅せられている―――その輝きに。
■オダ・エルネスト >
魔力供給回路が連結、
制御数式が目まぐるしく移り変わる。
ガンメタリックのボディに赤く輝く線が奔る――、
機関同調開始、
車体後方に仕掛けられた気流拡散用の部品が駆動する。
超々高速域で車体が路面から離れ始めるのを防ぐために空力部品が僅かに駆動する。
ダウンフォース、あまりの速度で飛び、分解されそうになる車体を路面に押さえつける負の揚力を発生させる。
それでも時速四〇〇キロにもなれば、タイヤから感じるフィーリングなどないに等しくなっていく。
しかし、逆にその感覚こそが"麻薬"と成り得る。
これにビビるようなら、この世界からは身を引くべきだ。
走り続ける者 と 降りる者。
「私は―――疾走る」
アクセルを深く踏めば、組み込まれた回路機関制御機構のすべてが噛み合い
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
獣が咆哮する。
ご案内:「常世島環状道路:高速道路」にアルヴィナ・コトフさんが現れました。
■アルヴィナ・コトフ >
「わっ……とってもすごい音がするのね!?
こんにちわ、素敵に冒しな貴方。
この動く箱はなぁに?」
アクセルを踏み込んだ瞬間に、運転席の間隣が不気味に歪む。
瞬きの間に、歪みの代わりの間に現れたのは白い髪の、黒いドレスを着た少女であった。
密室の筈のそこに現れた少女は、余りにもその場所に似つかわしくない。
興味深げにその操縦者を覗き込んでいる。
エンジンが生み出すその悲鳴の様な音に、少女は思わず耳を塞いでいた。
■オダ・エルネスト >
「―――……」
どうやら、私もまた狂気に堕ちているようだ。
人はあまりの――死すら感じるような速度域に入れば、生存本能が刺激され超人的な能力を発揮する。
そういう話を聞いたことが在る。
またはこの魔物が生み出した幻狂か。
またはこの世界を疾走ると選んだ私に対する挑戦か。
どちらにせよ、挑むことこそ我が輝きだと、空白は一瞬。
正気に還されかけた、だが、正気に還るのは、また今度。
今は、
「これは、自動車だ。
まだまだ生まれたばかりの赤子のような魔物さ」
アクセルに置いた足を上げることはしない。
■アルヴィナ・コトフ > 「そう、この子は自動車っていうのね!
赤子、魔物? じゃぁ、お名前があるのかしら。」
本来であれば、恐ろしいほどの速度によって発せられるGによって壁に押し付けられるはずの少女は。
だだその空間にふわふわと漂っている。
確かに、それは一見すれば幻のようにも見えるのだろう。
しかし幻にしてはその声ははっきりと聞こえ、計器などを覗いているすがたもはっきりと映し出され。
困ったことにサイドミラーにもその姿は確認出来る事だろう。
「冒しな貴方、とっても楽しそう。
私も混ぜてもらってもいいかしら?」
まるで茶会に飛び込んできたかのように、ふわりと空きスペースに腰を下ろした。
その速度にも、響く咆哮にも、怯えぬ少女は、同じように狂っているのだろうか。
■オダ・エルネスト >
『――《第六天》、どうした?』
ヘッドセットから聞こえて来るのは困惑気味の声。
「なんでもないさ」
そう返答してマイクをミュートにする。
計器に異常数値はない。
「こいつはLancer-N.E.X.T.
ネクストと私達は呼んでいるよ」
路面から僅かな振動、道路の継ぎ目で揺れたのだと理解する。
超高速区域突入――右手には未開拓地域、左をみれば学園地区が見える。
「私はオダ。 オダ・エルネストだ。
ようこそ、狂気なりしお嬢さん」
ちらりと横をみれば、改めてその容姿を視認する。
どうやら、幻覚ではない。
独り言ではない、ヨシ。
■アルヴィナ・コトフ > 「らんさーねくすと、そう、この子はネクストっていうのね。
よろしくねネクスト。」
子供を撫でる様に、車体の内側をゆっくり、掌で滑らせている。
無機物も有機物も関係なく、愛情を注ぎ込むように。
「初めまして、オダ・エルネスト。
えーっと、エル、でいいのかしら? 人には愛称というのがあるのよね?
わたしは、アルヴィナ。 アルヴィナ・コトフ。
微睡の淵から覗いて居たら、楽しそうな声が聞こえてきたの。」
それは果たしてオダの発したものか、ヘッドセットからの音声だったのか。
其れとも全く別のものなのか。
「まぁ、まぁまぁ!」
外を眺めては、また一段と楽しそうに。
「此方の地が流れていくわ?
ねぇねぇ冒しな貴方、この子はとってもすごいのね!
まるで星を置き去りにしている様!」
外の景色は次々と流れて見える風景も移り変わる。
少女は其れに目を輝かせて、その『光景』に魅了されていた。
振り返る様にオダを覘く瞳は、吸い込まれるような深い海を想像させるのだろうか。
しかし、その両眼はともすれば猫の様に光り輝いている。
■オダ・エルネスト > 語る言葉は子供ソレ。
妖精のような存在に思える。
「愛称、いいね。
私のことは呼びたいように呼んでくれアルヴィー」
夜景はは確かに星の輝きにも似て、
またこのネクストも赤く輝く小さな流れ星とも言える。
「このネクストは、一つの世界を人々に魅せるために生み出されたんだ。
この道の上で、誰かに存在を認めさせるために」
こがね色を臨く穏やかにも見える翠色。
しかし、揺れる翠色は魔力の色。
異形なりし翠の火。
近くの街灯はまるで流れるように次々背後へと消えていく。
――時速は四五〇キロへと到達しようとしている。
理論値ギリギリ、一瞬の操作を誤れない領域へと突入している。
■アルヴィナ・コトフ > 「アルヴィー? それが私の愛称なのね!
えぇ、えぇ! わかったわエル!」
自分に付いたその名を喜びながら、目の前の人の名を呼んだ。
「存在を、認めさせる? 世界を魅せるため。
ふふ、それなら私はこの子と貴方に魅せられているということなのね!」
揺れる翠にほほ笑みを映し、少女はひらりと車内で舞って見せる。
流れる街灯を、街並みを、ナルで星空のステージにするように、黒いドレスをひらめかせ、くるくると回る様に。
まさに、夜空に踊る妖精の様に、彼の隣で。
■オダ・エルネスト >
「なかなかどうして君もよく分かっている」
運転に集中しつつも思わず、隣の少女の言葉に笑みを浮かべる。
――魅せられている。
その言葉は、このネクストに対して最高の賛辞だ。
生まれてきた意味を与えられたに等しい。
だから、行こう限界を超える。
「それを理解出来る君も、恐らく魅せる者になれる。
だから、その理解への返礼として私達が今魅せれる奥の手を魅せよう――これが、ネクストの閃光」
PHASE・2。
車体装甲を疾走る赤い魔力の輝きから粒子が漏れ始める。
カチリ、カチリと組変わっていく。
グンッと速度が―――早くなるという領域を超越する。
ずっと先に見えていた場所へと急に自動車が跳躍したように移動した。
距離を『殺した』かのような 点から点へと移動した ような移動。
物理法則を無視したような一瞬のキラメキ、通った道を振り返ればタイヤ痕が数百メートルに渡って惹かれており、軽く火すら上げている。
周囲の景色は唐突に見える角度が変わったように見えることだろう。
瞳が良ければ認識出来ただろう、一瞬だけ車体が真っ赤に染まり単純な『超加速』しただけという事実に。
「ネクストに込められた夢の輝きだ」
計器の一つがレッドサインを出していた。
■アルヴィナ・コトフ > 「魅せる、者?」
アルヴィナは観測者であって、誰かにその存在を魅せようという思考すら存在しなかった。
ただそこに在って、彷徨の海に居る彼の元へ夢を届ける代理人。
故に、己はそうあるべきだと認識していた。
けれど、そうではない道もあるのだと。
「ネクスト……?」
車体から赤い粒子が漏れ出していく。
まるで流星の様に、焔を上げてスピードという世界を文字通り『超えて』行く。
私達は今、紅い流星になった。
"ネクスト"、次の次元へ超えて行く。
「そう、貴方飛べるのね。 もっともっと、飛びたいのね。」
純粋な速さによって、その領域へ。
跳び越えるというその偉業に、この微睡の海の落とし子に祝福を。
景色を、世界を追い抜いた子供に、優しく触れる。
軋みを上げる、熱を帯びる、火を上げそうになる車体を優しく白い何かが包み込む。
それはアルヴィナの掌から、触れる車体に伸びる魔力の光。
疲労した金属に、浪費した魔力に、悲鳴を上げる『子供』に呪いをかける。
「いたいのいたいの飛んでいけ。」
ハザードランプは消えない。
ただ、崩壊を止めているに過ぎない。
つなぎ目を支え、焔を消し去り、形を整えているだけ。
傷は傷のままに、現状を維持する。
空間を固定する。
膨大な魔力が、ネクストをつつみ込む。
紅い流星は、白い流星に輝きを変える。
■オダ・エルネスト >
少女から発せられる力に背筋が震えた。
静かに、膨大。
計器伝える急激な高まり、
それは足りていなかった領域に足をかけそうに成るくらいのものだ。
心臓の鼓動のように、ネクストの機関/心臓の鼓動が脈打つ。
「そうだ――、
誰しもが世界を持っている、私とネクストの世界に君が興味を持ったように」
「私も君に魅せられ始めた――興味をいだき始めた」
このままでは機関排熱が追いつかずいつ火を吹くか分からなかったの機関が、
そのギリギリの領域で踏みとどまる。
それが、少女に祈りによるものだと青年は気づいて、微笑う。
赤い魔力は白く奔り変わっていた。
「このまま走り続けるのも面白いが」
彼のヘッドセットからなにか人の声がしている。
「すまないが、仕事でもあってな。 もう少しで今日は終わりになりそうだ」
応答を返せとかそう言った声がヘッドセットから漏れている。
それを無視して、青年は今を楽しんでいた。
自分たちに興味を抱いてくれた少女に、また興味を抱いたところではあったが
いつの間にか、最高速区域もその終端が見えてきた。
■アルヴィナ・コトフ > 「そう……もう終わってしまうのね。」
この祈りは、この子が走り続ける、それを終えるまでの幻にすぎない。
この先へ、さらなる旅路への道は彼らが共に見るべきものだ。
アルヴィナはただ、子供の痛みをそっと包み込んだだけに過ぎない。
その先へ導くのは、アルヴィナがするべきことではない。
「残念ね。 えぇ、とても残念。
でも、そう。 この微睡には続きがあるのだもの。
きっと、また。」
また、その輝きを見せてほしいと暗に告げる。
「エル、ネクスト、また、次の微睡で会いましょう?
あなた達に祝福を。」
ふわりと浮かび上がって、少女は車内からゆらめくように姿を消す。
「私は、何時だって微睡から見ているわ。」
優しい、純白の輝きだけを残して、妖精はその場から姿を消した。
彼女が此処に居たことを知るのは、二人の落とし子だけ。
微睡の中で、優し気にほほ笑みながらその次のを、"ネクスト"を夢に見る。
ご案内:「常世島環状道路:高速道路」からアルヴィナ・コトフさんが去りました。
■オダ・エルネスト >
「終わらないことは、ない。
終わらないことは、どうしても輝いて見えにくいからね」
少女が消えて、夜も終わりを迎える。
地平の向こうから太陽が顔を見せ始める。
「また会おう、アルヴィー」
またこの道の上か学園の何処かかは予測できないが、また何処かで会える縁はある気がした。
『――おい《第六天》!なにがあった?!』
切迫したような声をいつまでも無視するのも申し訳なく成りつつ、
自分の我儘を優先してしまった。
私は、我慢弱い。
「すまない、少し楽しんでしまった――問題はない、これから帰投する」
アクセルに置いた足を少し上げて、夜が明け切る前に地下へと消えていく。
ご案内:「常世島環状道路:高速道路」からオダ・エルネストさんが去りました。