2022/01/04 のログ
鞘師華奈 > おそらく薫に間違いは無い。――けれど、何処か微妙な違和感を感じ取った。
…理由は直ぐに分かった。先程から彼女は全く微動だにしていなかったのだ。
そこだけ、周囲の喧騒から切り取られたかのように、まるで空虚を形にしたような…

それでも、こちらが彼女に声を掛け――る、よりも一瞬早く彼女が顔を上げた。
人形のように微動だにしなかった、先程のあの奇妙な空虚さが霧散していく。
丁度、お互いの視線が合うタイミングで先の呼び掛けが重なりつつ。

「…ん、先日ぶり。…って、あぁ…そういえば時刻表確認してなかったかも。
まぁ、そんな長くは待たないだろうからノンビリと待つ事にするさ。」

こちらに気付けば、互いに挨拶と言葉を交わしつつ。
いそいそ近寄ってくる姿はちょっと子犬を連想させるものがあったけれど。

――陶器のように白い顔色。もしかしてずっと先程のようにホームの片隅で佇んでいたのか?
何より…その、死人を思わせる白さが。”自分と重なって”僅かに複雑な思いを抱く。
けれど、緩やかにこちらからも歩み寄って彼女と並びながら、一度電光掲示板で次の列車の行き先と時刻を確認しつつ。

「――薫も帰りかい?私はやっと休暇が取れたから電車であちこち適当に巡ってたんだけど。」

軽い世間話を投げ掛けつつ、何時もの癖で懐から煙草を取り出し…ホームと気付いて戻した。
女の服装は、コート姿は先日のロビーの時と変わらないが、それ以外は私服姿。
飾り気はなくシンプルで、男性的なコーディネートは彼女の服装の好みを端的に示している。

黛 薫 >  
「そっすね、男子寮女子寮よりか人少なぃとはいえ、
 寮から通学する人ってやっぱ多ぃから。堅磐寮を
 経由する電車ってけっこーたくさん出てるっぽぃ」

電光掲示板に表示された直近の便に堅磐寮行きは
まだ見つからないが、それはこの駅を通る電車が
多いだけ。2〜3本も通過すれば、次に乗るべき
電車の時刻は表示されるはず。

それまで待たなければ発射時刻が分からないのは
不便でもあるが、たまたま知り合いと出会えたのは
電車の往来が多いこの駅だったから。それを思えば
安い代償と言えるだろう。

逆に言えば、それだけの頻度で帰りの電車が
停車する駅で肌が白くなるまで待ち続けていた
黛薫の行動の異常性が際立つことにもなるが。

「ん、あーしも今帰り。復学と社会復帰の為の
 訓練?練習?で、教室棟まで行ってきたトコ。
 華奈もちょっと遅めの正月休み取れたよーで
 何より。電車乗んの、好きなの?」

口調こそさっぱりしているが、今日は精神状態を
気遣われて復学訓練を中断してもらってしまって、
実は内心ブルー。出会った相手が違反学生という
身分を知っている貴女だったのは幸いと言える。

鞘師華奈 > 「まぁ、確かにね…異邦人街から通ってくる人も居るって話だから。
そういう人達にとっても、この鉄道と…後はバスとかもそうか。欠かせない移動手段だろうし。」

会話をしながらちらりと見上げた電光掲示板の表示。
目的地である寮の最寄り駅への電車は今直ぐには矢張り来ないらしい。
だが、それなりに本数は多いのは確か。数本待つくらいなら寒空でも然程問題は無い。
それに、先日知り合ったばかりとはいえ同寮の初の知人に遭遇出来たのは僥倖だ。

――そして、矢張り首を擡げる違和感。彼女は先程微動だにしていなかった。
そして、その顔の白さから相応に長い時間、先程のように佇んでいた事になる。
勿論、女はまだ彼女の事を殆ど知らない。だからその内情を察するのは厳しいが…。

「…あぁ、薫は復学支援対象者だったっけ。確かそういう人達の為のカリキュラムもあった筈だし。
…いや、私は普段はあまり電車は使わないかな。どちらかというとバスとかの方が多いかも。
だから、いい機会だしちょっと電車を乗り継いで島のあちこちを当ても無く巡ってた。」

彼女の言葉に、成程と相変わらず静かな面持ちでゆっくりと頷いて。
煙草が吸えないとどうにも口寂しいが、そこはまぁ我慢する事にしよう。
そして、世間話の延長のような…何の気負いも無い自然体で静かに口を開く。

「―――それで、何かあった?別に無理に聞きたい訳じゃないし、私の早とちりか勘違いかもしれないけど。
…その顔の白さといい、結構長い時間君はここに居たんじゃないかな、と。
女の子なんだし、あまり体を冷やすのは良くないと思うよ?」

婉曲な言い回しはあまり好みじゃないし、かといって気になるのは確か。
けれど、好奇心や興味で不躾に聞くのも彼女に失礼だろう、と考えた結果。
ごくごく自然体に、必要以上の気は回し過ぎずに。
指摘、というよりも単純に雑談の延長のような調子で彼女に尋ねる。

黛 薫 >  
「あぁ、電車使わなぃから逆に、ってコトか。
 イィな、そーゆーの。何か楽しそーかも?」

飾り気のないシンプルな私服は寮のロビーで
聞いた好みに合致する。一度取り出そうとして
しまいなおした煙草も未だ知らない彼女の好みが
垣間見えたようでなかなか悪くない気分。

半ば無意識だったとはいえ望んで真冬の空気に
当たった後だから、反動で人の温もりが恋しく
思えたのかもしれない。

とはいえ結果として側から見て分かるほどに
身体を冷やし、折角出会った知り合いに多少
気を揉ませてしまったと気付くと、気まずい
表情を見せた。

「えぁー……顔に出てました?いぁ、その、はぃ。
 復学訓練、今日は少し、思ぅよーにいかなくて。
 戒め、っつーと違ぅかもだけぉ。真っ直ぐ帰る
 気になれなくて、ちょっとぼーっとしてて。

 ……あーし、寒ぃのも、人が多ぃのもキライで。
 だからキライな場所にいた……って、言ったら
 ヘンだと思ぃます?」

鞘師華奈 > 「…うん、恥ずかしい話だけど今まであまり鉄道の方は利用した事がなくてね。
まぁ、折角の休みだからって事で。……実はいざ休みとなると時間を持て余してただけっていうね…。」

少しだけおどけたように肩を竦めて見せて苦笑い。
実際、休みを取って溜まっていた家事や雑事を片付けられたはいいが…。
矢張り、休日の過ごし方というものが3年もこちら側に居ながら上手く出来ていない節はある。

彼女が気まずい表情を見せれば、そちらを一瞥はするもそこに負の感情は無い。
ただ、あまりそこは突っ込むべきではなかっただろうか、という一抹の後悔はある。
外見や普段の態度で誤解される事も多いが、別にクールでも何でもないのだ。
不安になる事もあれば後悔もする。あぁすれば良かった、なんて事は枚挙に暇が無い。

ただ、薫が口にした言葉に再びそちらに赤い双眸を向けた。変わらず静かな面持ちのまま。

「――いいや?大多数の意見は分からないけど、少なくとも私は別に変とは思わないかな…。
…人間って、複雑だからさ…気持ちに反した行動を取る事もあるさ。
それに、何と言うか…そうだね…別に理由が無くても何故だかこうしたくなる、とか。
…理屈や感情だけじゃない、そういう行動は誰しもあるんじゃないかな。」

と、そこまで口にしてから淡い苦笑を浮かべる。それは彼女に向けたものではなく…自分自身に。

「…なんて、偉そうに悪いね。薫とはまだ先日知り合ったばかりなのにさ。
親近感――と、いうのは馴れ馴れしいか。まぁ、何かちょっと似た所を少し感じたから。」

死人のような様子、空虚さ、そして――…

「…まぁ、重ねて言うけど私は別にそれを変だとは思わないって事さ。」

黛 薫 >  
「……いぁ、分かってイィのか分かんねーけぉ、
 ぶっちゃけ、あーしもそーゆーキモチ分かる。

 あーしも違反学生として落第街にいたときは
 表の街で平和に楽しぃコトしたぃってずっと
 思ってたのに、いざ商店街とか常世渋谷まで
 遊びに行くとキラキラしたお店の圧に負けて
 何も出来ずに帰ってきたりとか……」

遠い目で休み下手、遊び下手への共感を語る。
染み付いた習慣は案外抜けにくいのかもしれない。

「……そか。そー言ってもらえるとありがたぃかも。
 あーしって、自分のキモチに振り回されがちでさ。

 何でこんなコトしたんだろとか、自分でも思うし。
 共感つーか、理解してもらぃたくて言ったコトを
 いざ分かってもらぇると反発したり。理解される
 ハズがなぃって思った言葉が予想通り届かなくて
 勝手に凹んだり。

 だから、馴れ馴れしぃくらぃ踏み込まれた方が
 もしかしたらあーしは楽なのかも。って、今回
 たまたまそっちが合致しただけかもですけぉ。

 うん、でも多分会ったばっかりでよく知らなぃ
 相手にそっとしてもらっても、印象は薄くなる
 ばっかりだから。こーして距離詰められた方が
 イィ、と思ぅ。そーゆー、フツーの学生?的な
 生活、ずっとしてみたかったし」

事実『同じ寮に暮らして同じ学園に通う知り合い』
という、いかにも『ごく普通の学生らしい』関係に
浮かれて口が軽くなっている自覚はある。

「……似てんのかなぁ、あーしたち。
 あーしから見ると華奈の方が立派に見えっけぉ」

貴女を見上げる瞳、右眼は蒼で左眼はプリズムに
似た質感。死人じみた白い肌を考慮から外しても
どこか空虚な欠けた雰囲気は感じられる。

鞘師華奈 > 「…ああ、うん。少し…いや、かなり分かる気がするなぁ。
私は3年前にこっちに来たから、薫より多少慣れてはいるとは思うけど…。
元々、派手な服装だったり喧騒があまり好きじゃなかったからね…。」

ファッションに無頓着で、周りの交流もあまり無くて。
『友達』が手の届かない所に去って、もう会えるかどうか分からなくなって。
それまでは、ずっと3年もの間、平和のぬるま湯に浸かって怠惰に逃げていたけれど。
…少なくとも、無駄にした時間の分、前向きに、前へ進もうと今は決めていて。

(…歩みは遅いし、きっとまだまだ前途多難だけど)

だから、薫にも乗り越えたり折り合いを付けたり、彼女自身が答えを見つけなければいけない事も多々あるだろうけれど。
――私は、彼女の『物語』がせめて自分が納得が行くものになるよう密かに思う。

「…うん…そうか。私は…まぁ、その…こういう事を言うのもアレだけど。
…割と疑心が強いというか、初対面とかよく知りもしない相手は常に何かしら疑っててさ。
…こう、相手を信用…信頼?しきれないというか。悪癖だとは思うんだけどね。
これは、別に二級学生時代のあれこれって訳じゃなくて割と子供の頃からなんだけど…。」

と、そこまで話してから僅かに沈黙。軽く己の頭を掻く仕草はちょっと男性的。

「…ごめん、何か私も変なこと口にしてるかも。
…でも、3年も怠惰にしていた私が言えた事じゃないけど。
普通の学生らしい当たり前のあれこれに憧れたり、それをしたいと思うのは良い事さ。」

彼女は彼女なりに思って悩んで足掻いてこちら側の生活に慣れようとしている。
それは、まだ二度しか面識が無い自分でも感じるものがあったから…。
あまり、自分と彼女を重ねてはいけない。彼女は彼女で私は私だ。
それでも、理屈や感情だけで割り切れないのが人というものなのだから。

「……私は立派じゃないよ。3年間も無駄にしてきたからね。
だから、こちらの生活に慣れてはいるだろうけど、薫と実はそんなに違わないんだよね。」

見上げてくる視線。右目の蒼と左目の…プリズムみたいに綺麗な色彩。
対する女の視線は矢張り赤くて。それでも、彼女とは似て非なる空虚を垣間見せながら。

その視線に悪意は無く、単純な善意も無い。かといって、完全に無という訳でもなく。
ただ、静かに自然体で…空虚を抱えていても、下手に逸らしはせずに。

――貴女を見つめ返すだろう。私は私なりに今こうして君と向き合っていると告げるように。

黛 薫 >  
「コッチ、ってのは後ろ暗ぃトコが無ぃ街の話?
 3年前だと丁度あーしが入学した頃だから……
 落第街に身を落とした期間を思ぇば、やっぱし
 華奈の方が先輩になんだな」

じぃ、っと向き合う貴女の赤い瞳を見つめ返し、
ふっと表情を緩めて視線を逸らした。どちらかが
逸らさなければずっとこうして向き合っていそう。
そんな感覚、向き合って自分を見てもらえている
信頼があった。

「イィんじゃねーの、簡単に信用出来なくたって。
 そりゃ他人を疑い過ぎて何もかもを拒否ったら
 息苦しぃかもだけぉ。逆に無条件で唯々諾々と
 何でも信用してたら騙されやすくなるし?

 どっちに偏ったって損はあるんだ。信用すんの
 苦手ってコトは、信用する人が陥りがちな損は
 回避しやすぃっつーコトだろーよ。

 それに、復学訓練中とはいえ華奈と話してる
 あーしは違反学生ですし?1回話しただけで
 無警戒になってたらそれはそれでイィのか?
 って問ぃ詰めてたかもだ」

疑心に駆られ、自分に信を置いてくれた人の
言葉をなかなか受け入れられなかった時期を
思い出す。無駄にしてしまった時間を卑下する
言葉も含め、似たところを感じたという貴女の
言葉に遅ればせながら納得した。

「でも、そっか。正規の学生に上がれた華奈でも
 そーやって考ぇ込むんだな。ちょっと安心した
 ……いぁ、それはそれで失礼か」

秘めたる空虚、悪意は無けれど無責任で軽々しい
善意もない『視線』。目は口ほどに物を言うが、
言動で煙に巻かない華奈のような人は、視線から
読める感情と言動が一致しない相手よりもよほど
信用出来ようというものだ。

「同寮のよしみで一緒に慣れていけたらイィかも、
 なんてな。んでも、一歩華奈が先行ってんのは
 確かだし。あーしが追っかけてく形になんのか。
 色々教ぇてもらぅコトになるかも?ふひ」

無自覚ながら、やや下手な笑い声はどこぞの
誰かに影響されていて。会話が一区切りした
丁度良いタイミングで堅磐寮経由の電車が
前の駅を発車したとのアナウンス。

鞘師華奈 > 「んー…10歳から15歳まで5年間あっち側だったよ。…で、今は18だからこっち来て3年。
先輩…かぁ。経歴的にはそうなるのかもしれないけど、別に先輩ぶるつもりもないしなぁ。」

年齢も学年も実際こちらが上なのだが、それを奢る事も傘に着る事も無い。
そもそも、そんな事は気にしない無頓着な気質だ。無論、目上への礼儀作法は最低限心得てはいるが。

…しかし、ついつい見つめあってしまった。
彼女から視線を逸らしてくれたのは幸いだったかもしれない。
下手をすれば、本当に――それこそ、目的の電車が来るまで見つめ合っていたかもしれない。
それは流石に無いとしても、そう錯覚しそうな不思議な『間』があった気がして。

「――そうだね。正直、私はまだ知り合ったばかりの君への疑心はあるし、薫も私を掴めて無いだろうし。
…ただ、君の経歴とか立場とかそれはそれとして。
同じ寮で少し似たところもある薫とは、何時か友達くらいにはなれたら、とは思ってる。」

そう、まだ知り合って日も浅ければ互いの事も…多少分かったけれどまだまだだ。
同じ寮で同じ正規学生――彼女は復学支援対象だが――会う機会も意外と多くなるかもしれない。
これからの事なんて分かりはしないが、交流は深めていければと思うのは素直な疑心抜きの気持ちだ。

だから、薫の続く言葉に僅かに目を瞬きさせてから小さく笑った。控えめではあるが。

「そりゃあね…私だって人間なんだから思い悩んだりは普通にするさ。
それに、正規学生になってもなれなくても人生は生きてる限り途切れないんだ。
…むしろ、これからも思い悩む事はお互い多いんじゃないかな?
だから、そういう事も含めて君と私は対等で上も下も無いって事さ。」

向き合うならば、可能な限り同じ目線で貴女と話そう。
上でも下でもなく、出来うる限り同じ高さの視点で。
だから――…

「追い掛けて貰えるなら光栄だけど、急ぎ足は駄目だよ薫。
それに、私は別にせっかちじゃないから…さっさと早足で先に進む事もしないさ。」

前へ進む事は決めたから止めないし諦めない。
だけど、その歩みは静かにゆっくりと。
勿論、自分が教えられる事があれば喜んで教えよう。

「…とはいえ、私が教えられる事はあまり無い気もするんだけどね。」

と、苦笑気味に肩を竦めるちょっとネガティブな所は中々抜けきらぬもの。
自己肯定というか自己評価がちょっと低いのは今も昔も中々変えられない。
そもそも、自分なぞより周りの方が薫に色々と教えられると思うから。

――そんな会話をしていたら、アナウンスがホーム内に木霊する。
前の駅を発車したならもうそろそろ電車がホームに滑り込んでくる頃合だろう。

さて、と会話も一区切り付いた所で緩く息を漏らして。

「じゃあ、そろそろ電車も来そうだし――薫が良いなら寮まで一緒に戻るかい?」

と、彼女へと目線を向けながら。
女は未だに彼女の異能を知らない―ーけれど。
少なくとも、一緒に帰る時間くらいは周囲の視線に関しては”気が紛れる”…かもしれない。

黛 薫 >  
「5年、か」

それを思うと落第街で暮らして2〜3年の自分は
まだ恵まれていた方だったのだろう。実際は感覚が
麻痺しているだけで、女の子の落第街暮らしなど
恵まれているも何もなく碌な物ではないのだが。

「あーしも、同じ堅磐寮住まぃの華奈と友だちに
 なれたら嬉しぃと思ぃますよ。……ホントなら
 『もう友だちだと思ってた』とか?映画とかで
 ありそーなセリフ言ってみよーかな?なんて
 血迷ったりもしましたけぉ。

 あーしも信じたい知り合いたい友人になりたい
 って思ぃつつ心ん中では信用しきれなかったり、
 怖がってたりするかんな。お互ぃ様ってコト。

 上も下もなぃ対等な関係でスタート出来たんだ、
 友だちであれ何であれ、これからどーゆー関係に
 落ち着くかは、別にゆっくり知り合ってからでも
 構わねーでしょ。

 あーしはあーしでメンドーな性格してますし?
 友だちにまでこぎつける前に信用出来ねーって
 なったら見限ってくれても全然ヘーキっすよ」

貴女の言葉に滲む自己評価の低さ、ネガティブさ。
それは黛薫が別の人から指摘された悪癖でもあり。
『見限っても良い』との言葉にそれが表れている。

こんなところまで似ていなくても良いのにと内心
苦笑しつつ、わざとおどけた口調で会話が暗く
ならないように誤魔化した。

「ん、折角会えたんだから帰りも一緒に。
 旅は道連れ……はちょぃ違うか。合縁奇縁?」

貴女は黛薫の異能を知らないままに気が紛れる
選択をくれた。黛薫も貴女が寝顔を見られたく
ないという事実を知らずに、うっかりロビーで
うとうとしていた貴女が寝入る前に声をかけた。

奇縁というなら、そうして知らず知らずのうちに
互いを助けているのもまた奇縁。

知る由もない不思議な縁で繋がった2人を乗せて、
電車は堅磐寮へと発車していくのだった。

ご案内:「地区ごとの駅」から黛 薫さんが去りました。
鞘師華奈 > 5年という歳月は長くもあり短くもあり。

それでも、その歳月は決して良くはなくても無駄ではなかった事だけは確かで。

「…そうだったら光栄だけどね。
まぁ、そこは焦らずに今後に期待、という感じかな。」

お互い、性格や気質もあるだろうが抱えているものもまだ色々とあって。
一朝一夕で友達になれるほど単純でもないし、思い悩む事も少なく無いだろう。
それでも、何時か友達になれたら、と思う言葉に嘘偽りは無いのだから。

「そうだね――見限るかどうかはその時になってみないと分からないけど。
少なくとも、そうはならないように私なりに努力はするさ。
それに、きっと――多分だけど、私は君を見限る事は無いと思うな。」

それは具体的な根拠がある言葉では無かったけれど。
そんな気がしたから――だから、静かに口にするだろう。
お互い、どうやら似なくてもいい所までどうにも少々似てしまっているようだが。

「合縁奇縁、かなぁ。…うん、そうかもしれないね。
少なくとも、その縁を大事にしていきたいと思うよ。」

決して悪縁ではないのだから。根拠が無くともそう思う。
それがいずれ良縁と思えるようになる日が来るだろうか?

それはまだ今の段階では分かる筈も知る由も無く。
二人して連れ立って電車へと乗り込めば――今は同じ寮へと戻っていこうか。

ご案内:「地区ごとの駅」から鞘師華奈さんが去りました。