2022/01/27 のログ
ご案内:「路面バス/停留所」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
しとしと雨が降っている。
帰りのバスを待つ少女の服は濡れていた。

「……こーゆーの、以外と難しぃのな?」

車椅子の少女、黛薫は独り言を呟く。

学園で借りたビニール傘は、今となっては珍しい
ボタンの付いていないタイプ。正直やや不便だが
細かい動作のリハビリになると思えば一長一短か。

「あ痛って」

傘を閉じようとしてうっかり親指の皮を挟み込み、
血が出ていないのを確認してから雨粒で冷やした。

黛 薫 >  
黛薫が『難しい』と口にしたのは傘の開閉ではない。
運動機能の多くを喪失している上に薬物中毒で手が
震えがちな彼女にとって、傘の開閉が難しいことは
体験する前から分かっていたし。

『難しい』と口にしたのは体験するまで難しさが
分からなかった行動。つまり片手で傘を差しつつ
もう片手で車椅子の操作をする行為について。

身体が自由に動けば意図する必要すらない簡単な
動作だが、魔術で身体を動かす場合は勝手が違う。
例えるなら両手でペンを持ち、片手で丸を描きつつ
逆の手で星形を描いているような感覚と言うべきか。

車椅子の操作は指先を動かすだけなのに、そちらに
意識を割くと傘がぐらぐらと不安定に揺れてしまう。
逆に傘をしっかり固定しておくと、車椅子の操作に
意識が向けられず、方向転換が出来ない。

黛 薫 >  
結果、黛薫は常世学園前のバス停からひとつ離れた
バス停に辿り着くまでに少し服と髪を濡らす羽目に
なってしまったのだった。車椅子に座っている分
直立した人より傘の下に収めるべき面積が多いのも
失敗の要因だったかもしれない。

「さーむ……」

霙に変わりつつある雨粒を見上げながら呟く。

こんなことなら素直に常世学園前のバス停を
利用すれば良かった、という気持ちが半分と、
もしもそうしていたら雨の日特有の難しさに
気付かなかったのかも、という気持ちが半分。

布製のため、濡れたら中身まで被害を受ける
紺色のショルダーバッグ。濡らさないために
巻いておいたマフラーを首に巻き直そうとして、
絶妙に温かくなさそうな湿り気を感じて諦めた。

黛 薫 >  
黛薫は違反学生だが、更生の余地ありと見做され
復学支援対象になっている。今日も復学訓練の為
試験登校を行なったが、教室棟では軽めの面談が
執り行われただけで早々に帰される運びとなった。

というのも彼女は過去何度も復学に失敗しており、
好条件が揃った今回こそは失敗しないように、と
慎重を期したスケジュールが組まれているため。

今の時期は新学期が始まった直後で学生の数も多く、
他者の視線に深いトラウマを抱く黛薫が過ごすには
厳しいものがあるだろうという判断だった。

実際、常世学園前のバス停にはそれなりの人数が
集まっていたし、わざわざ1つ遠くのバス停まで
移動してきたのも『視線』を嫌ってのことだった。

面談だけで帰されてしまうと『何もしていない』
ような気がして焦ってしまうから、何かひとつ
普段やっていないタスクをこなしておきたかった
という腹積りもあるにはある。

ご案内:「路面バス/停留所」に八坂 良彦さんが現れました。
八坂 良彦 > 雨の中、たったったった、パシャパシャと。同じリズムでの足音がすこし遠くから聞こえ、近づいてくる。
音の方向には、小柄な少年、寮で見た事のある顔で、制服に風紀の腕章をつけている恰好を見た事もあるだろうか。
いまは、ジャージ姿で、雨を気にした様子もなく、ランニングをしているように見える。

よく見れば、少年の体に近づく雨が、外へ弾かれている、どうやら何らかの異能か魔術の結果なのだろう。

「ん…何しているんだ、雨の中で…んぁ、寮で見た気がするな、その車いす…結構濡れてるみたいだけど、大丈夫か?」

車いすに気づいたのか、近づいてきて声を掛ける。
座っている少女と視線はあまり変わらない高さだろうか。

黛 薫 >  
バスの待合所に入ろうとした矢先、視線を感じた。
丁度貴方が声をかけるタイミングと、雨に濡れた
少女が振り返るタイミングが重なる。

「何って、フツーにバス待ちしよーとしてた
 トコですけぉ。濡れてんのは仕方ねーです、
 雨ん中歩ぃて……いぁ、歩ぃてはねーな?
 ともかく、雨ん中移動してきましたんで」

バス停で他の用事があるのか、と捻くれた見方を
しそうになったが、傘を差していたのにそこそこ
濡れている自分の方が変だと言われればその通り。

「……寮で見たってコトは、堅磐寮にお住まぃで?」

あまり近所に目を配っていない黛薫の側からは
相手が同じ寮住まいだと判断出来なかったが……
いつだったか、風紀の腕章を付けていた少年を
見たのは覚えている。

周囲の風紀委員と比してやけに背が低かったので
印象に残っていた、とは流石に失礼が過ぎるので
言わなかった。

復学申請中とはいえ、一応違反学生の身分。
反射的に警戒の態度を取りそうになり、改める。

八坂 良彦 > 「あぁ、そりゃそうだな、すまん。
いや、手前に常世のバスもあったし、こっちで人見るのあんまないからな、気になった」

素直に指摘に頭を下げて、本人の中で疑問に思ったことまで素直に聞いてくる。
幼いというより単純な思考なのだろうというのは、判りやすく顔に出ている疑問で判るだろうか。

「そうそう堅磐寮に住まわせて貰ってる、調理場とか偶に借りて色々してるし。
んぁー、風少し範囲広げて、そん中に入れていいか、この距離なら濡れない様に出来るけど」

もう一度頷いて、あそこの調理場使いやすいしなと微笑み。
異能の範囲に入るという事に、忌避感がある相手もいるだろうと、一度聞いてくる。

黛 薫 >  
「ま、そりゃそっすね。下校なら常世学園前の
 バス停使やイィワケですし。あーしは待合所が
 混んでんの嫌だったからコッチ来ただけっす。
 それで濡れてりゃ世話ねーですが」

軽く肩を竦める。事実として半端に学園から離れた
この停留所の利用者は多くないし、霙混じりの雨が
混じっている今日はなおさら。

「別にいっすよ。ここまで来たら待合所の屋根に
 頼ればイィんで。あーたは傘も差してねーのに
 濡れてねーんだなと思ったら、風の異能か」

未だ風紀委員に対する苦手意識は抜けきらず、
しかし『視線』を読むまでもなく表情で分かる
素直な感情、思考の発露に毒気を抜かれたため
喧嘩腰にならずに済んだ。

八坂 良彦 > 「なるほどな、確かにこの時間混んでるしな、人込みが嫌ならこっち来るのか」

疑問に答えを得て、大きく頷きを返し。
とはいえ、かなり濡れている相手を放置できるほど、冷たい性格でもない訳で。

「そうか?…ん、まぁあんま隠してないし、そんな感じだ。
だから、濡れた相手を乾かすなんてのは難しくてなぁ…乾かせても着たままだと思い切り冷えるし」

大丈夫という答えに、了解と軽く頷き。
風を強くすれば乾く可能性はあるが、本人の知識ではなく経験的な問題で。
濡れた相手に風を叩きつければ冷えるという事は、判っていたようで。

黛 薫 >  
「そそ、天気のイィ日ならおんなじコト考ぇて
 ココまで歩ぃてくる人も珍しかねーですけぉ」

つまり、濡れることより人混みの方を嫌って
わざわざ不自由な身体で停留所ひとつ分の距離
移動してきた彼女は変わり者に分類される。

「風の異能と別に熱を操作する手段でもありゃ
 ドライヤー要らずだったかもな?少しばかり
 工夫したら、あーしが熱の方用意出来なくも
 ねーのかもだけぉ。そこまですんなら帰って
 シャワー浴びた方が楽っぽぃよな」

指先で軽く空中に記号を描くと、ごく短い時間
小さな火の玉が指先に浮かんだ。服を乾かすには
物足りない熱量だが、用意すること自体は可能。

「ま、こんだけじゃドライヤー代わりにゃ
 なんねーですし?調理場で使うにしたって
 火力が足んな……あー、いぁ。寮のキッチン
 IHだっけ?使わねーから覚えてねーや」

同じ寮住まいなのに未だにピンと来ていないのは
彼女が貴方と異なり調理場を利用していないのも
理由のひとつかもしれない。

八坂 良彦 > 「そういや、天気良い日はこっちも人結構いるなぁ」

言われてみれば晴れた日のランニングでは見た記憶もある、ただある意味で関係ない事なので気にしていなかったのだろう。
そもそも雨の中でもランニングするような少年、移動もほぼランニングという念の入用。

「それな、熱か火でもつかえりゃ、いいんだけどな。
そりゃそうだ、手順をふやすなら一手で終わる方が楽だな」

火の玉に、おっ、と声を上げ、驚く。

「はは、そのサイズと時間じゃちとむりだな。
でも、魔術が使えるのは、凄いな」

火の玉のサイズ的に初歩の魔術なのだろうと思いながら、自分は全く使えないものを気楽に使う様に感心を覚える。

「IHと火のもあったんじゃなかったかな、使う人が選んでるきがしたけど」

おれは、直火が多いし、後はオーブンかねぁ、クッキーとかマフィンとかよく焼くしとは、ある意味で見た目や言葉使いとはかけ離れた感じに思えるだろう。

黛 薫 >  
「そー言われてパッと思ぃ浮かぶっつーコトは
 あーたのロードワークは日課になってんのな」

同時に、言われでもしない限りはわざわざ周囲に
目を配っていないことも分かる。此方も同じ寮で
暮らす相手を思い出せなかったからお互いさま。

「使ぇるだけありがたぃとはいえあーしはまだ
 自由に何でも出来るってワケじゃねーのよな。
 こゆとき、パッと最適な術式組んで使ぇりゃ
 カッコイィんだろけぉ。

 クッキーとか、まふぃ……あ?は無理でも
 肉くらぃなら頑張りゃ焼けんのかなぁ」

見た目に反して家庭的な話をする貴方と対照的に、
お菓子作りに興味を抱きそうなお年頃の女の子は
マフィンの名前すらうろ覚え。

会話の最中に垣間見える所作から、足だけでなく
身体全体が不自由らしく、それを鑑みれば刃物や
火を使う料理に縁がないのも頷けるか。

八坂 良彦 > 「おう、基本急ぎの案件でもなければ、足で大体の場所向かうしな」

急ぎの案件は風紀系の話であろう事は、少年が風紀委員であったことから連想は付く事で。

「最適な術式とかは、習得が大変そうだよなぁ。
ある程度でも使える時点で、凄いと思うぞ」

自由自在に魔術を使うのは、凄まじく大変だろうなと、想像しかできないと、苦笑。
まだということは、頑張っているのだろうし、それは普通にすごい事だと、素直に称賛する。

「ははは、そういう時は、調理場にいる人間にいえば、良いと思うぞ。
大体は料理とかを仕事にしてるか、趣味にしてるかだしな」

動きが不自由であろう事には気づくが、そこには言及せずに。

「そういえば、此処にいたって事は寮にもどるのか?
俺も帰りだし、手はいるか?」

ついでだし、手がいるなら貸すぞと、手をひらひらさせながら。

黛 薫 >  
「隣の芝生じゃねーけぉ、自分に出来ねーコト
 やってのけるヒトはすげーってなるよな……」

人工島であり本土と比べれば面積に限りがある
常世島だが、徒歩移動しようとすると相当広い。
だからこそ電車やバスといった公共交通機関が
発達しているのだし。

その上で『足で大体の場所に向かう』という発言。
ランニング中の足運びや小柄な身体に見合わない
引き締まった体躯もそれを裏付けており、素直に
尊敬の念を覚える。

きっと相手からすれば此方が使う魔術も
似たように見えているのだろう。

「おんなじ寮暮らしだからって知らなぃ相手に
 タカりに行くのはハードル高くねーですかね。
 知ってるヒトが料理してたらちょっとくらぃ
 下心持って声かけるかもしんねーですけぉ」

手を貸す、と言われれば貴方が走ってきた方向に
目をやって。方向からして今から帰るという言が
嘘でないと確認。ロードワークの途中だったのに
気を遣って帰る、なんてことがないように。

「んー……じゃ、お言葉に甘ぇて。
 あーしもイィ加減ご近所付き合ぃ?とか
 始めねーとなって思ってたトコですし。

 あーし『黛 薫(まゆずみ かおる)って言ぃます。
 あーたの名前も、お聞きしても?」

風紀委員に名乗るのは少しだけ勇気が要る。

違反を咎められたとき、素直に連行される場合が
多かった彼女は、逆に言い逃れする違反学生より
処分の回数が多く、悪い意味で名を知られがち。

緊張で流れた汗を誤魔化すようにシャツの襟元を
弄っている。汗とも雨粒ともつかない水滴が一粒
首を伝って胸元に消えていった。

八坂 良彦 > 「あぁ、それは同意、出来ない事してる人見るとすげーって思う」

異能でも魔術でもできない事をする人はそれだけで感心する。
ジャージの下はあまり目立たないのだが、脂肪などはほぼない、けれどなぜか腹筋がわれるような事にならない不思議でもある。

「あぁ、人によってはそうだよなぁ、俺は結構ずかずか行くけどさ。
ん、あぁ八坂、八坂 良彦(やさか よしひこ)だ、2年の風紀委員になる」

名乗り、それじゃ押してくなと、車いすの後ろに回ると握りを掴んで。

「近所付き合いな、縁が増えるのは良い事だし、良いと思うぞ。
まぁ追い円くらいしかできないけどな」

名前を聞いても、あまり気にした様子は無く、今何もしてない相手をどうこうするつもりもなさそうで。
車いすの後ろで、バスを待つ。

「ん、バス乗って帰るんだよな、俺押していってもいいけど座ってるだけで疲れるだろうし」

そう一応確認してくる。