2022/04/15 のログ
ご案内:「路面バス/停留所」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
さあさあと雨が降っている。

服が濡れれば気持ち良くはないし、身体を冷やすと
体調を崩しがち。雨の日なんて何も良いことはない。
つい最近まで、そんな風に考えていたけれど。

(みんな、下向いて歩ぃてんのな)

身体を丸めて傘の中に納めるため。濡れて滑る
足元を注視するため。正面を向くと傘に遮られて
視界が悪いから。悪天候に晒された憂鬱の所為で
気付かないうちに下を向いているから。

理由は人それぞれだろうけれど、晴天の下より
雨の日の方が人の『視線』を気にせずに済む。
そんな当たり前の気付きを得たのも、悪天候の
実害に悩まされずに済むようになってから。

黛 薫 >  
濡れた前髪が顔に張り付き、普段にもまして陰気な
雰囲気を纏った少女。路面バス停留所に設置された
屋根の下から物憂げに空を見上げている。

雨のお陰で杖先を滑らせ、転んだ拍子に伝線した
ストッキング。松葉杖のお陰で傘を差せなくて
ずぶ濡れになった上着。透けが目立つ白シャツ。

もっと最悪な気分になると思っていたのに、
不思議と心が凪いでいる。見られずに済む、
たったそれだけのことで。

(イィんだか、悪ぃんだか)

帰りのバスが来る時間帯は把握している。

でも、それを待つために今の時刻を確認する
気分にならなかった。いつまでも雨の中で
待っていて良いような、そんな気分。

黛 薫 >  
今朝の日差しは春の日和には暑すぎたはずなのに、
通り雨が降ればまるで冬に戻ったかのような寒さ。

雨靄に包まれた街並みをぼぅっと眺めている。

予定外のタイミングで雨に振られたと思しき
学生が鞄を上着に包んで庇いながら走っていく。
スーツ姿の学生がやや小さめの折りたたみ傘の中、
肩を濡らしながら早足で委員会街に向かっている。
買ったばかりらしいビニール傘を差す男子生徒は
既に傘の意味がないほどに濡れそぼっていた。
雨にも負けず、横一列に並んで歩道を歩く子供の
集団は、互いに声を届けるためか大声で笑って。
身の丈に合わない真っ黒な紳士用の傘を差した
女の子は傘に隠れて姿も曖昧。

「んん……」

雨粒に溶けた汚れが目に入ったかもしれない。
痛む左目を軽くこすってため息を漏らす。

ご案内:「路面バス/停留所」に八坂 良彦さんが現れました。
八坂 良彦 > 雨の中、たったったった、パシャパシャと。同じリズムでの足音がすこし遠くから聞こえ、近づいてくる。
その音が、少し手前で小さくなり、普通の足音に変わって。

「見覚えがと思ったら、黛じゃないか、此処で合う時毎度雨な気がするけど…一応聞くけど、バス待ちか?」

以前会った小柄な風紀委員、今日は腕章もしていないので風紀委員としては休みなのか。
相変わらず雨の中で、雨を弾く風を纏って傘もささずに動いている様子。
そうして、声を掛けてから、少女の様子をきちんと確認したのか。

「って、びしょ濡れじゃないか、使ってないタオルとかあるけど、使うか?」

濡れて透けた体を見ない様になのか、少女の顔をじっと見ていってくる。
訪ねながら、少年はリュックサックを背中から体の前にうごかして、中に手を突っ込み。
ごそごそと、白いタオルを手に取って、ちらりと見せて。

黛 薫 >  
「えぁ、どーも。八坂さっ、く……さん?」

足音で気付いたのか、少女の反応は早かった。
察しの良さだけを見ればスマートだったのに、
敬称で悩んだお陰で色々と台無し。

「あー、多分晴れの日だとバス停までスムーズに
 着ぃちまぅからっすね。そーゆー日はもちっと
 早ぃバスに乗って帰ってんで、遅れた日ばっか
 ロードワークの時間とカチ合ぅのかも?」

脇に置いた松葉杖の持ち手を軽く叩きつつ考える。
前回は車椅子だったから、快方に向かっている証
……なのだが、雨の日の取り回しは大きく劣る。

フード付きパーカーに長い前髪という完全防備から
想像出来るように、他者に見られるのは苦手な様子。
視線を注がれただけでもややぎくしゃくしていたが、
意図に気付くと慌ててタオルを受け取った。

「……その、ありがと、です。あとごめんなさぃ。
 そこまで気ぃ回ってなくて、見苦しかったかも」

最初に出会った相手が気を回してくれたのは
彼女にとって幸いだった。薄手の白シャツに
安物のインナーの組み合わせは、雨に濡れて
完全に役割を放棄している。キャミソールの
下の胸当てどころか肌の色、薄く肋が浮いた
身体のラインまでくっきりと。

八坂 良彦 > 「呼び捨てでも俺の方は気にしないから、適当に呼んでくれて良いんだけどな」

一瞬詰まった少女の言葉に少し苦笑を浮かべて、言いながら。
続く言葉に、あぁ、とうなずいて。

「なるほど、その可能性は高いな、天候のせいで普段と動く時間とかが変わるからか」

少年自身は、ある程度の雨は気にもせず動くので、そこら辺の実感が薄かったらしく。
今更ながらに、納得を得ている様子。

「見苦しいとかはないけど、一応男だから、視線のやり場に困るんだわ。
かといって、かおじーーと見てると誰だって落ち着かないし。
他所見ながら話すのは、相手に失礼だしな」

大き目のタオル受け取って貰って、ある程度かくれると安堵したように、一度大きく息を吐いて。
視線が、松葉杖や、脚の方を確認するように動き。

「車椅子じゃなくなったんだな、一瞬見た時驚いた。
まぁ、近づいてびしょ濡れな事に、さらに驚いたんだけどな」

足音が弱まった段階で、少女の事には気づいていたらしい。
そういって一言、おめでとうと、少女へ告げる。

黛 薫 >  
「あーしの方が落ち着かねーんすよ」

年頃が近く(だと思っている)、尚且つそれなりに
敬意を払うべきと思えるような異性と話す機会が
なかったから。言葉にするとそれだけの事情だが、
説明は容易でない。

普通に学園生活を送っていれば同年代の異性と
話す機会などいくらでもあったはずなのだが、
不登校から違反学生にまで身を落としたお陰で
機会に恵まれなかった、なんて口にはしづらい。
相手が風紀委員だと知っていればなおさら。

「……そー、なんすよね。つっても雨降りの日は
 まだ車椅子に頼った方がよかったっぽぃすけぉ。
 松葉杖突いてっと、傘差せねーでやんの」

ありがとーござぃます、と礼を返しつつぼやく。
濡れた服の話題を打ち切ったのは意図的だろう。
パーカーの前面ファスナーを閉め、もぞもぞと
内側で水気を拭き取っている。

八坂 良彦 > 「まぁ、押し付ける事でもないし、其処も含めて自由にしてくれ」

落ち着かないと言われれば、うん、と軽く頷いて、自由で良いと。
そうしながら、少し考えた後で。

「折角拭いてるのにそれ以上濡れられるのもなんだし、少し範囲広げて弾くからな。
どうせ、帰るだけだし、バス来るまでそんな掛からないだろうし」

少女の感情に気づいた様子は無く、宣言をして、風で雨を弾く範囲を広げて少女を含める。
そうして、バス待ちに付き合うといって、少し空を見上げて。

「しかし、今朝晴れてたのに、いきなり降って来たな。
周り見ても傘さしてない人結構いるし」

空から降る雨が、風の薄い膜に弾かれるさまを見ながら、それほど大きく無い声で呟いて。
周りに落ちる雨の音と、風が弾く音が微妙に違うので、その中にいる人間には、思たよりも色々な音が聞こえて。
音楽などを楽しめるタイプの人間なら、何か思いついたかもしれない。
当然のように、少年はそういった事は全く考えに泣く、ただ雨が落ちるのを見つめるだけなのだが。

黛 薫 >  
風の天幕が雨粒を吹き散らしていく。

待合所の屋根さえあればこれ以上濡れるまいと
甘く考えていたが、屋根があっても路面で跳ねる
水滴は防ぎにくいのだと遮られて初めて気付いた。
既に雨に降られた後で濡れる感触に鈍感になって
いたのも気付けなかった一因か。

「いちお、午後から降るかもって天気予報では
 言ってたんすけぉ。朝めっちゃ晴れてたから
 油断した人多かったのかもっすね」

きちんと天気予報をチェックしているのに濡れ鼠。
恐らく鞄の中には折り畳み傘もあったのだろう。
車椅子から移行したばかりの松葉杖での生活に
慣れていなかったのが敗因と見える。

「そいや、天気予報つぃでに今年の天候が花見に
 向ぃてねーとか、そんな話が出てたよーな」

ただでさえ気温が乱高下していたのに、雨まで
降るものだから咲いてもすぐ散ってしまうかも、
という懸念。人工島とはいえそれなりの広さを
誇る常世島だから、場所さえ選べば満開の桜も
見られるのかもしれないが。