2019/02/02 のログ
ご案内:「蓬莱オンライン」にアリス(HN:ルイス)さんが現れました。
■アリス(HN:ルイス) >
私、アリス・アンダーソン!
去年の四月から常世学園に通っている一年生!
今は進級を控えた大事な時期……
勉強もあるし、新作ゲームもいいけど今日はそう。
蓬莱オンライン内新作スポット『アビスタワー』完成の日。
そのファーストダンジョンアタック記念パーティが行われる会場に来ている。
私はスペクトラルギアという意識ごと没入するタイプのVR装置をつけて入っている。
というにも、今回のダンジョンはスペクトラルギア使用者限定らしい。
変なの。
でもそれだけの興奮と経験と没入感とアイテムと…色々得られるならいいか!
私のアバターは金髪碧眼、ただしスタイルの良い大人の女性に設定してある。
将来は楓先輩みたいな素敵なレディーになりたい。
職業はエンシェントウィッチ、古代言語魔法を使う魔女。
■アリス(HN:ルイス) >
アビスタワー前の広場にはたくさんの蓬莱オンラインプレイヤーが集まっている。
みんなこの大型アップデートを楽しみにしていたんだね。
しばらく歓談していると、広場奥のステージに眼鏡をかけた男性アバターが現れる。
アビスタワーを作った天才ゲームマスター、佐藤冬彦。
そのアバターもいつか雑誌で見た本人そっくりに作られている。
『今回、集まってくれた皆さんには……ある経験をしてもらおう』
彼が最初にその言葉を発すると同時に、周囲が騒がしくなる。
ふと、気がつくと。
自分の姿がリアルの……アリス・アンダーソンそのもののアバターに変化していることに気づく。
わ、私が縮んでるー!? なんでぇ!?
『死を間近に感じ、今まで漫然と過ごしていた命を自分そのものとするための儀式だよ』
それでも喋るのを止めない佐藤冬彦に、次第に会場が騒然としていく。
『君たちは……もうログアウトはできない。そして、ゲームの中で死んだらリアルの肉体も死ぬ』
『ゲームのライフと連動してスペクトラルギアで脳を焼くプログラムを組んである』
■アリス(HN:ルイス) >
「ど、どういうこと!?」
慌ててメニューを開いてログアウトボタンを探すが、そこにはボタンが存在しなかった。
こんなことが可能なのだろうか。
いや、信じるしかない。ここが彼の仕組んだデスゲームだということを。
ブーイングが会場に響き渡る。
壇上に上がろうとする人さえいる。
そこに。
ステージにガトリングトラップの銃座が生成され、脅しのためか空中に何十発か弾丸が撃たれた。
今度こそ会場はパニックに変わる。
悲鳴と、怒号と、混乱と。
私はただ、周囲を見渡すことしかできなかった。
『全ては……死を想うことから始まる』
『時に助け合い、時に殺し合い、アビスタワーの最上階を目指せ』
『誰か一人でも最上階……100階に到達したら、全員が解放される』
混沌の真っ只中の広場の中で、アバターのまま歯を食いしばり、悪魔のゲームマスターを睨んだ。
「佐藤冬彦……アンタ…!」
■アリス(HN:ルイス) >
そこに。
突然、野太い叫び声が響いた。
『デストラップがなんぼのもんじゃア!!』
屈強な体格の男性たちが壇上に三人揃って突撃していく。
死ぬ気!?
ガトリングトラップのダメージは全弾命中で8000後半だよ!?
『男一代、仲間のために血路開くんも花道ィ!!』
死地にライフと防御力任せに突撃していく彼ら。
漢だ……
前列が全滅するまで前進すると、その後ろから走っていた屈強な大男が刀剣を抜く。
『覇王降魔斬!!』
味方を盾にして突撃したの!?
でも、ガトリングトラップは近づけば耐久力はそこまで高くない!
一気呵成にステージのトラップは全滅!
壇上の佐藤冬彦が鼻白んでいる。
うん。私もこの光景は引く。
■アリス(HN:ルイス) >
佐藤冬彦は舌打ちをすると、ステージの後ろの帳を突き抜けて後方に走っていく。
「犯人が逃げたわ!」
さっきの刀を抜いた屈強な男を先頭に、ゲームマスターを追いかけていく。
その先にあるのは、アビスタワー。
きっと佐藤冬彦はあそこに逃げ込むつもりなんだ!
彼が何かのボタンを操作すると、目の前の床が崩れていく。
「な、なに!?」
すると、眼下には広大なダンジョンが広がっていた。
くっ、用意周到な犯人ね!
ダンジョンの構造自体は上から丸見えだけど、
罠やモンスターをイチイチ相手にしていたら犯人に逃げられる!
『このフロアでは飛行スキルは使えない。私に追いつこうなどとは思わないことだ』
向こう岸に見えるゲームマスターの勝ち誇った顔がムカつく!
■アリス(HN:ルイス) >
眼下の迷路を通ってアビスタワーに通じる階段を上る。
それだけなんだけど、ジャンプ程度では超えられない穴を隔てて
すぐ向こうにいる犯人に逃げられるのが腹立つ。
『この程度の穴がなんぼのもんじゃア!!』
さっき戦っていた屈強な男たちが何人も重なるように肩車をしている。
しかもその数、数え切れないほどに!!
「むぅ……幾万橋…」
聞いたことがある!
超えられないものとして設定されている崖を登るために、
古来のMMO戦士は互いのキャラで橋を作ったと!!
『ド根性ォォォォォォォォォォッ!!!』
その人間タワーが前方に倒れると、そこには文字通り屈強な男たちの橋がかかった。
『バ、バカな!?』
あ、今の佐藤冬彦の言葉です。
私も同感だけど……
お、漢だ………この人たち、死ぬのが怖くないの!?
■アリス(HN:ルイス) >
その人間でできた橋を駆け抜ける一つの影。
さっき、肉壁でガトリングを越えていった背の高い筋肉ムキムキ男だった。
『龍太郎!! お前の剣で奴を討て!!』
橋になっている男の一人が叫ぶ。
お知り合いですか。そうですか。
『なんて奴らだ、これがデスゲームだってわかってるのか!?』
なおも逃げようとする佐藤冬彦に稲妻の如く駆け寄る龍太郎と呼ばれた男。
『男の生き様はいつだって命懸けじゃあああああああああぁぁ!!』
そう叫ぶと、タワーに逃げ込もうとする佐藤冬彦を刀剣でばっさりと切り裂いた。
倒れこむゲームマスター。
『奥義……雷神悪滅剣』
そう呟くと龍太郎は剣を鞘に収めた。
え、終わり!?
■アリス(HN:ルイス) >
倒れ込んだ佐藤冬彦に、中国風の男が近づいていく。
『佐藤冬彦、気絶確認』
呆気にとられる一般プレイヤーたちを尻目に、
なんか違う世界から来たようなマッチョマンたちは爽やかな笑顔を浮かべた。
『これからどうするかのう、龍』
『決まってるだろ……あのアビスタワーってのもこのままの勢いで制覇してやるのさ』
『おお!!』
気迫。彼らはどこかの学校の校歌を歌いながらGM不在のアビスタワーに乗り込んでいった。
「あの……あの…」
彼らの背中には届かない。
でも。でも。
全員、元の少女アバターの服装から着替えたら?
そう言えなかったことを深く恥じた。
ムッキムキの女装メンたちはアビスタワーに入っていく。
「あ、そろそろご飯の時間だわ」
佐藤冬彦が倒されて出現したログアウトボタンを押し、私は現実世界に帰っていった。
教訓。
デスゲームに呼ぶ人は吟味しよう。
ご案内:「蓬莱オンライン」からアリス(HN:ルイス)さんが去りました。