2020/08/16 のログ
ご案内:「ほのぼの系アスレチックバトルロイヤル~Its a Beautiful world~」にcrow(天月九郎)さんが現れました。
crow(天月九郎) > 『まあつまりそういう感じで身体の使い方が大事ってことさ』
「なるほどなあ…ありがとうございます!」

ここはとあるVRゲームのロビー。
どうにもアバターとのマッチングがおかしいような気がして落ち着かずにいたところ、経験者のプレイヤーに声をかけられ。
これはアスレチック攻略がメインのゲームだからアバターの身体能力は固定であり、初めてだとそれが違和感として感じられるかもしれない。
そしてそういう初心者は見てすぐにわかるからと声をかけてくれたらしい。
やっぱりランキング制やスコア報酬がないゲームは気楽でいいな、皆優しいや、と。

『そうだ、最初のステージは一緒に行こうか?』
「え?いいんですか!はい、それじゃあお願いします!」

『ふふふ、何も判らずに終わってしまうときっとつまらないしね。でも途中からは僕もライバルだよ?』
「はい、その時は負けません!」

ぐっと拳を握り締めてでっかいジュースの缶から顔面が覗く先輩さんに元気良く宣言する。
そうこうしているうちに空間が切り替わり、虚空にたくさんのブロックや一本橋が浮かんだコースが目の前に展開される。
周囲からはホー!ホホー!などアバターの鳴き声?なのか元気良く雄たけびがあがっている。
さあ、戦いだ!

crow(天月九郎) > 『ほら、そこの段差を使えば次の足場に跳べるぞ!』
「はい!こうですね!」

なるほど確かにアドバイスを貰わなければなかなか進む事が出来なかっただろう。
足の速さ、ジャンプ力といったステータスがアバターで固定される、それはつまりこの距離なら跳べる、といった感覚がアテにならないという事だ。
とりわけ自分は身体強化型の異能が常駐しているので自分の感覚でジャンプするとまず距離が足りずに落ちてしまう。

そんな自分をアバターの性能を熟知した先輩が導いてくれ、宙に浮かぶ足場を渡っていく。
それはとても達成感があって爽やかな快感を与えてくれる。
競い合うはずの場所で協力し合う、そうだよこれがゲームのあるべき姿だよ。

しかしコースのあちこちからホー!という雄たけびが聞こえ、落ちていくアバターもホーホホーッ!と叫んだりしている。
このゲーム特有のノリなんだろうか?

crow(天月九郎) > 「これは……失敗したらまっさかさまですね」
『うん、落ちたらチェックポイントから開始になるけど。ここで落ちると脱落する可能性は高いね』

ここから先は『掴み』の技術も要求される。
崖っぷちからジャンプして次の足場にしがみつき、よじ登れば後はゴールまで一直線。
しかし踏み外してしまえばかなり後方のチェックポイントまで戻されてしまう。
大量のアバターがホホー!と絡みあってるエリアを抜けて復帰するのは難しいだろう。
そしてここから少し迂回すれば遠回りだがジャンプを使わずまわれるコースがある。

『大丈夫!僕を信じて跳んで』
「はい!判りました!」

とう!と足場ギリギリで踏み切り、なんとか次のブロックにしがみつく事が出来る。
あとはこのまま身体を引き上げれば……。
そう思った瞬間、視界が影にさえぎられ、ドン!と突き飛ばされる感覚があった。

「……え?」
『じゃあね、途中からはライバルだ』

そこには自分を踏み台にして軽がると跳躍するジュース缶。
踏まれた衝撃で手が外れ、浮遊感に包まれる俺。

crow(天月九郎) > 「ホー!?」
crow(天月九郎) > こんのクソがぁ!と叫んだはずの言葉はほのぼの変換フィルターに変換されて鳴き声として出力される。
そうか、ちょくちょく聞こえてた鳴き声はこれか。

crow(天月九郎) > 結局、裏切られた失意と冷静に打ちひしがれ。
良く見たらこいつら掴み合いしたり突き飛ばしたりめっちゃ醜い争いしてんじゃねえか。
なにがほのぼのだバカバカしい!と呆然としているうちにゴール前に透明な壁が出現し最後の一人が突破した事を知らせる。
そのまま床は消失し、空の底へと落ちていく、落ちていく。
有象無象どもがホー!と雄たけびをあげながら落ちていく。

そうしてロビーに到達するとポコン!と音がして視界の端に通知がポップする。
【ブロンズトロフィー ようこそ美しきこの世界へ】と。

crow(天月九郎) > 「そうかよ、そういう事かよ……」
低い声で搾り出すように呟きながらメニュー画面を呼び出しアバターカスタマイズをタップ。
ペイントツールを起動。
親指を始点に設定。
ぐりぃ……と目の下に親指を擦りつ真っ赤な涙のラインを刻み込む。

本当の意味でこのゲームのプレイヤーが誕生した瞬間であった。

crow(天月九郎) > 「ホー!!」(どけ雑魚が!)
「ホホー!!」(落ちろオラァ!)

走りながらこけた他のアバターを踏みつける。
狭い一本橋でよろけたアバターを体当たりで落とす。
叫び声はすべてホー!と変換されるので暴言は消えてほのぼのとした空間だけが残される。

「よっし!今度こそ突破が! ッ!?」
飛ぼうとした瞬間、ガクン!と引っ張られる感覚。
目を見開き振り返るとニタァ…と笑いながらしがみつくサボテンの鉢みたいなアバター。

なんとなく判った。このゲーム暴言がフィルターされるかわりに表情で伝えようと皆顔芸がうめぇ。

自分が勝つために蹴落とすというのは理解出来ても他人を絶望させるためにもろともに逝くという発想が無かった俺の油断だ。

本来なら簡単に飛び移れたはずの足場の縁に捕まり、足場の移動に合わせてゆーらゆらと上下する。
そして自分にしがみついたサボテンもずるずると落ちていき足首をガシッと掴みぶらぶら揺れる。
このままでは這い上がる事すら出来ない。
無常にも突破枠の残りカウントが減っていく

crow(天月九郎) > 「ホー!」(離せ!一人で死ね!)
「ホーホホッホー!」(クッソが!この雑魚が!俺の道を阻むんじゃねえ!)

ガシガシと顔面を蹴る。
思い切り揺らす。
どれだけ振り落とそうとしてもがっちり捕まって離れやしねぇ。
このままだと相手も脱落するというのに、まさに愉悦といったニタァとした表情を浮かべ『ホー……』と囁くような声が聞こえる。
何言ったんだよマジこえぇよ。

crow(天月九郎) > 「はっ!?いや、何やってんの!?」

移動する足場は上下に位置を変え、近付いたタイミングで跳ぶというもの。
しかしその端っこに二人がぶら下がってる今、こう考える奴がいた。
これあいつを足場にすれば行けんじゃね?と。

『ホッホー!』
雄叫びを上げながら可愛い猫ちゃんのアバターがジャンプし、届かなくてサボテンの脚に掴まります。
次にやってきたのはウサちゃんです、可愛いですね。
そんな可愛いウサちゃんもジャンプに失敗、猫ちゃんの脚に掴まります。
そしてこれ梯子に出来んじゃね?と次々と可愛い動物さんやフルーツさんが捕まり縦に伸びていきます。
ガンバレ、ガンバレ
なんでお前ら一人も成功しないの?

crow(天月九郎) > 「ホー!?」(バッカじゃねえのお前ら!?)
「ホッホッホー!」(一人で地べたペロペロしやがれクソどもが!)
「ホー!ホー!」(ああああああ!脱落する!また脱落する!離せ雑魚ども!)

フィルターによって罵声は全て可愛い声に変換されます。
むしろそのおかげで口汚い罵りを思う存分叫べるのがちょっと気持ち良くなってきてしまいました。
だから皆元気にホー!と叫びながら走ってるんですね。
ストレス発散はほのぼのするのにはとても大事。

crow(天月九郎) > 「ホー!」
『ホッホー!』
『ホホッホー!』
「ホホー!ホー!」
『ホッホッホッホー』
『ホホッ!』
『ホー!』
『ホー!』
『ホー!』
「ホァァァァァァ!」

crow(天月九郎) > 醜い争いは突破枠が埋まり足場が消える事で終結しました。
争いは何も生まない?
いいえ違います、確かに形ある物は生まれませんでした。
でも……。

ポコン
【ブロンズトロフィー カンダタ】

「判ってたよそういうゲームなんだよな……」

ここに一人の修羅が生まれたのは間違いありません。

ご案内:「ほのぼの系アスレチックバトルロイヤル~Its a Beautiful world~」からcrow(天月九郎)さんが去りました。