2019/02/01 のログ
ご案内:「常世私営バスにて」にアリスさんが現れました。
■アリス >
私、アリス・アンダーソン!
去年の四月から常世学園に通っている一年生!
今日は新作ゲーム『アルバータのアトリエ』が発売されるのでちょっと遠出して買ってきたのです。
その帰り。
乗ってたバスがバスジャックされました。
たすけて。
刀を持った――ジーンズに薄汚れたトレーナーの犯人は、壊れたラジオのように次の言葉を繰り返している。
『リブを寄越せェー!!!』
リブ。
あれである。
ライフ・イズ・ビューティフルという名の最近流行の電子ドラッグ。
あれの中毒者……いわゆる電脳麻薬中毒者(チップヘッド)だ。
うわー。
うわー。
今は大勢の客と同様に一番奥の椅子で頭を抱えて姿勢を低くしている。
■アリス >
犯人は私たちを人質に、ライフ・イズ・ビューティフル…LIBを要求していると。
そういう次第なんですね。
LIBは一度、使うと壊れる。
プロテクトを外して無限コピーできたなんて話は今のところ聞かない。
だから、チップヘッドはちっぽけなディスクを手に入れるのに犯罪にすら手に染める。
っていうか私がその被害者なうだよ!!
『希望……時の流れ…………ぱぁっと明るいお辞儀が割り箸ですぅぅぅぅ!!』
うわー。
バスジャック犯は現在進行形でバッドトリップしているみたい。
凡そ意味のわかる言葉はリブを寄越せくらい。
「……よし」
とりあえず手馴れた動きで携帯デバイスから通報しておいた。
私はこの手の事件に頻繁に巻き込まれる。
だから、こういう時の風紀のホットラインはブックマークしてある。
悲しい。
なんでこんなことに慣れなきゃいけないのか。
そもそも電脳化なんて強い意志を持ってやったろうに
あっさりと電子ドラッグに屈してるのが気に入らない!!
■アリス >
バスの出口も入り口も開かない。
運転手に刀が突きつけられているから。
いっそ、異能でバス後部に大穴でも空けようかと思ったけど、犯人が興奮したらどうなるかわからない。
流血沙汰だけは避けたい……今日、帰って気持ちよく新作ゲームをスタートするためにも…
『紙テープが溢れる約束の地に気後れするシロヒトリー!!』
犯人は刀を握ったまま壊れっぱなし。
仮に私がまともに戦闘ができたとしても、周囲に人がいっぱいいる現状で巻き込むのはちょっと。
ああ、日が暮れてきた。
もう夕方。パパとママ、心配してるだろうなぁ……
ご案内:「常世私営バスにて」に正親町三条楓さんが現れました。
■正親町三条楓 > 「あ~……これはちょっと、大変ですねぇ」
たまたまバスに乗り合わせた楓は、うーんと唸る。
バッドトリップした犯罪者が一人に、こちらは人質。
風紀委員もしばらくは到着しそうになく、人質も居る状況。
この犯人がどのような武器や異能を持っているかも分からず、当分状況は膠着しそうである。
「う~ん……仕方がないですねぇ……」
周りを見回しても、異能を使えそうな人間といえば……
そこで見つける、一人の少女。
特に名前も知らないアリスという少女へ、楓は声をかける。
「あなた、学園の生徒ですかぁ? パパっとやっつける異能とか持ってません?」
■アリス >
声をかけられて、スタイルの良い黒髪のお姉さんに向けて顔を上げる。
「異能……あるけど…広い場所じゃないと刀相手は無理かな…」
そもそも狭い中で何を錬成したらあいつをやっつけられるのだろう。
広ければ……犯人が外に出れば…
「……お姉さんは? 何か異能はないの?」
ひそひそと話していると、女の人が抱いている赤ん坊が泣き出した。
『お願い、泣き止んで……っ』
まずい。犯人を刺激する……!
チップヘッドは舌を棒のように硬直させながら突き出してゆらゆらと母子のほうへ歩いていく。
だらだらと涎がバスの床に垂れた。
まずい、多少不利でもここで仕掛けるしかない!?
■正親町三条楓 > 「……あ~」
これはまずい。犯人は何をするか分からない。
おまけに母親と赤ん坊……見捨てるわけにもいかない、か。
「――ねぇ、お兄さぁん、モノが届くまで、退屈じゃないですかぁ?」
自分の異能ならば、相手を抑える事が可能かもしれない。
少々危険な賭けだし、あまり自分の身を賭けるというのは趣味ではないのだが……
この状況では、そうも言ってられない。
「あは、モノが届くまでぇ、私と『イイ事』、しませんか~?」
くすりと笑いながら犯人の前に出て、シナを作ってみせる。我ながら気持ち悪い。
だが、ここは我慢だ。この男から、言葉を引き出さないと。
「お兄さんがぁ、物騒なモノをしまって外に出てくれるって『約束』してくれるならぁ、私に触ってもいいですし、『イイ事』シてあげますよ~?」
■アリス >
………!?
チップヘッド相手に、誘惑!?
い、一体何を………!
『あー……それは“人生”よりイイ事なのかァ…?』
犯人が頭を掻き毟る。
血飛沫が周囲に飛んだ。
見るもおぞましい、末路。
『下げたフォークの狂い咲き!! 外付けルールブックのキッチンフォー!! いい、いいですぅ!! イエスイエス!!』
刀を構えた犯人が、直後……刀を鞘に納めた。
「えっ……!?」
何らかの精神操作が行われた?
暗示? それとも?
犯人は鞘を刀に納めてバスのドアを蹴破り、外によろよろと飛び出した。
チャンス!
私も追って外に飛び出る。
「一つ……聞いてもいいかしら、バスジャック犯」
■正親町三条楓 > 異能を持つ者には見えるかもしれない。
彼がイエスと言った瞬間、その心臓から鎖が生え――彼の四肢を覆う幻影が。
「アハ、じゃあ――」
うっすらと笑う楓は、バスジャック犯の肩に軽く触れる。
これで、『彼女に触る』という約束は果たされた。
「『約束を守っていただきましょうか』」
彼女の異能、《ミスラ・ミトラ》は何者をも逃さない。
それが口から出た約束ならば、たとえその命が尽きようとも守らせる。
犯人は刀をおさめ、よろよろと外へ飛び出す。
――あとは、自分のするべき事ではない。
「任せましたよぉ――あ、名前、なんでしたっけ?」
とぼけたようにつぶやきながら、椅子に座りなおしスマホを取り出す。
『バスジャックなう』
■アリス >
確かに幻視した。
鎖が彼を縛りつけた。
私に魔術の素養はないから、多分異能の。
「任されたわ……アリスよ、アリス・アンダーソン」
お膳立てをされた。
なら、ここから先を失敗するわけにはいかない。
異能の最大出力で短期決戦。それだけ。
「ねぇ……末期中毒者(デッキヘッド)。あなたの…人生は美しかった?」
その言葉に、誓約の拘束から解き放たれた犯人が刀を抜く。
「空論の獣(ジャバウォック)!!」
相手が仮に達人だろうと。
相手が仮に音速を超える速さで刀を振るおうと。
関係のない攻撃。
彼の周囲に砂を創り出し、砂から砂を生むことで犯人の体を砂が包み込む。
あとは力加減だけ。
「おやすみなさい」
ぎゅ、と拳を握るイメージ。
砂に締めつけられた犯人が、耳を劈く絶叫と共に気を失った。
「……はぁぁぁぁぁ…………」
相手が気絶したのを確認してから、その場に屈んだ。
めっちゃ緊張した………
「お姉さん、っていうか先輩かな? 助かったわ、ありがとう」
■正親町三条楓 > あっという間に終わったらしい。
いやぁ、凄い異能だ。戦う力など欠片もないので、素直に感心する。
「いえいえ、実際に戦ったのは貴女ですからぁ……」
そして、気絶した犯人の顔をパシャりと撮ってSNSにアップ。
しばらくすれば風紀委員がやって来てお縄になるだろう。
「あ、はい、三年生で式典委員の正親町三条楓(おおぎまちさんじょう・かえで)と言います~、新入生さんですかぁ?」
にっこり笑いながら式典委員の腕章のついた手を差し出す。
■アリス >
「今のは狭いところだと使えない大技なの」
集中力も並以上に使うし、実戦で使ったのは初めて。
……でもないか。前に友達と本の世界に閉じ込められた時にも似たようなことしたっけ。
自分以上にSNS慣れしてそうな人。
差し出された手には、腕章がついていて。
「おおぎ……か、楓先輩で」
差し出された手を握って立ち上がり、ついでに握手のように上下に軽く手を振る。
「もうすぐ二年生よ、四月には…多分」
テスト勉強もしなきゃなぁ。
そんなことを考えながら騒然とする周囲を眺めた。
■正親町三条楓 > 「ええ、楓で構いませんよ……アリスさん」
にっこり笑って握手。
かなりの大技だけあって、広い空間と集中が必要なようだ。
自分の異能はかなり地味なので、ちょっとだけうらやましい気もする。
「ふふ、ちゃんと進級できるといいですね」
笑いながら、ひらひらと手を振る。
騒然とし始めた周囲を他所に、迎えの車を待つ。
今日の夕食は、常世亭で会食なのだ。時間に遅れるわけにはいかない。
「それじゃあ、また何処かで会えたら――」
■アリス >
「……というか、タメ口はまずいですかよね…」
敬語はとっても難しい。
日本語の使い分けは多様にて。
「ありがとう、楓先輩。またどこかで」
手をぶんぶん振って別れて。
さて。
「……いつもの事情聴取タイムが始まる…」
駆けつけてくる風紀委員。
今日、ママのご飯を食べられるのは何時頃になるのか。
それは誰にもわからない。
ご案内:「常世私営バスにて」からアリスさんが去りました。
ご案内:「常世私営バスにて」から正親町三条楓さんが去りました。