2019/02/07 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 書物が堆く積み上がった一室。
ソファにどっかりと腰を下ろしたヨキが、缶コーヒーを片手に煙草で一服している。
もちろんここはヨキの研究室ではないし、煙草は「ヨキにもくれ」と強請ったものである。

紫煙を呑んで細く吐き出し、部屋の主へ話し掛ける。

「参ったよ。……『空を飛ぶ魔術』。試そうとしたら勢いよく引っ繰り返って、訓練施設の床に顔から突っ込んだ。
 おかげで眼鏡を一本台無しにしてな……、ヨキにはなかなか、ハードルが高すぎて敵わん」

今日のヨキの眼鏡は以前と違うものらしいが、傍目には見分けがつかない。

「で、獅南、そちらの首尾はどうだ。仕事や研究は進んでいるか?」

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼ニさんが現れました。
獅南蒼ニ > そんな貴方に背を向けたまま,机に向かう獅南の手元にも,缶コーヒーが置いてある。

「単純だが,案外と難しいものだろう?
 箒を使うなんて馬鹿らしい発想だが,形状や重量の認識しやすい物体を飛翔させてそれに乗るというのは理に適っている。」

視線すら向けずに,受け答えをする獅南。
きっと,いつもこんな感じなのだろうという,確信に満ちた安らぎのようなものを感じる。

「魔術学会で講演をしろなどと依頼されてな,どうせ時間合わせだろうが……ほれ。」

視線だけそちらへ向けて,ひょい,と手のひらに乗る程度の石を投げ渡す。
それは水晶の原石を,ある程度研磨して成形したもの。

「お前には必要のないものだろうが,それを必要とする魔術師は,少なくないだろうと思ってな。」

獅南と過ごす時間が長いのなら,すぐに分かるだろう。
それは,以前彼が付けていた指輪と同じもの…魔力を蓄積させる人工の魔石。

ヨキ > 今日の缶コーヒー以外にも、手作りの弁当だとか、新発売の菓子だとか、煙草だとか。
ヨキが差し入れるものは、日によってまちまちだった。

「魔力のコントロールが難しいなどというレベルではない。
 なるほどお前が気に入りそうなテーマだ、と思った」

笑う。普段は泰然としているヨキの顔は、獅南の前ではどこか少年のような稚気を孕んでいる。

講演と聞いて、ほう、とソファの背凭れに肘を載せる。その気楽さはまるで自宅だ。

「凄いではないか。時間合わせなど言うなよ、お前の実績が買われたに違いないぞ。もっと喜ばんか」

自分が褒められたような顔をしながら、咥え煙草で放られた石を受け取る。

「む。これは……見覚えがあるな、お前の指輪と同じ石か。
 『誰でも魔術が使えるように』――これを大量生産でもするつもりか?」

獅南蒼ニ > 喜んで受け取る,という姿はまず見せないのだが,受け取らないということもない。
というよりも,研究への没入具合によっては差し入れだけが唯一の食事になっていることも多々ある有様だ。

「問題は魔力制御ではない。単純に,我々は自己という対象を一つの物体として俯瞰的に捉えることが苦手なのだろう。
経験則や才能で魔力を操っている者ならなおさら,対象の固定と指向性の調整は,至難だな。」

馬鹿を言え,と貴方の言葉に肩を竦め…くるりと椅子を回して貴方の方へ向き直る。

「テーマを提出しろだ,何だと五月蝿くて敵わん。ただでさえ忙しい時期に。」

これは本当に心の底から面倒くさいと思っている顔です。
論文纏めるのは好きだけれど,講演とか好きじゃないタイプ。

「…それは私の仕事ではない,ただ,その可能性を示すだけだ。
 『魔力の貯蔵』……『魔力の概念と,その貯蔵』……」

テーマが良い感じにまとまらないらしい。
この人の論文はホントに面白味も何もないタイトルついてますからね。仕方ないですね。

ヨキ > 「鳥や航空機は、何ともシビアな進化と発展の末に飛んでいるものだ。
 その翼も、羽ばたきの仕組みも、美術のためにはつぶさに観察を重ねたが……自分がいざ飛ぶとなると、さっぱりだ」

こちらを向いた獅南の表情を見るなり、にんまりと目を細める。

「お前がそう言ってトンズラしないように、学会も見張っているのではないか?
 たまには表に出て見れば、ヨキよりずっと賢いお歴々からの賛辞も得られようにのう」

魔石を照明に向けて翳し、無味乾燥とした天井を仰ぐ。

「可能性ね。可能性……」

言い淀む獅南を横目に、ほれ、と水晶を返す。

「……『魔力貯蔵技術を用いた』……、『魔術学の持続可能な発展について』?」

獅南蒼ニ > 「なるほど美術のためか…私とは観点が違うが,魔術学的にも,学ぶものは多い。
 変身術を使うにも対象を正確に把握していればそれだけ,完成度も上がるというものだ。
 ……まぁ,飛ぶだけなら自己の形状や重量を魔術的に再定義すればいい話だが。」

貴方の表情を見れば,大袈裟にため息を吐き,
「そういうお前も同じだ,また個展でも開けばいいものを。」
案外と悪くなかったぞ?などと,その気にさせそうな発言をしたりしつつ…

「……少しばかり,手を広げすぎではないか?」
それでも,自分が考えたテーマより響きが良かったのか,目を細めて真剣に考える。

ヨキ > 「そう。描くにも作るにも、巧い者ほど資料を繰るものだ。
 ……いくら運動や格闘で身体を統御出来ようとも、魔術学の話ではな。
 お前にじっくり習うとしよう」

個展と聞くと、指先に挟んだ煙草を燻らせて笑う。

「もちろん、ヨキもまた個展をやるつもりで居るさ。人間になって以来、作品も増えてきたしな。
 今は……ほれ。少しばかり、単車を弄るのが楽しくなってしまってな。資金を貯め直している」

ふは、と吐き出した息と共に、煙草の煙が宙に消える。

「少しくらい大風呂敷を広げてやらねば、それこそ時間合わせと侮られるばかりだぞ。
 大体、概念と貯蔵でハイそーですかでは、夢も希望も感じられんではないか……。
 お前自身は少なくとも、その魔石に可能性を感じている訳だろう?」

獅南蒼ニ > 「資料が欲しければいくらでもくれてやるぞ?
 ほれ,お前の座っているソファの後ろから,好きなだけ持って行け。」

缶コーヒーを開けて,ぐっと半分ほど飲む。
軽く言っていますが,そこに積み重なっているのは持ち出し注意~厳禁レベルの魔術書ばかりです。

「まったく,私より先に手を出すとは思いも寄らなかったが…
 …この島にも,転がすのに向いた道はあったか?」

単車の話題には,しっかりと食いついた様子。
表情は変わらないが,少しだけ,声のトーンが高くなった気がする。
受け取った人工魔石を机の引き出しに戻しつつ…

「……なるほど,お前が正しい。
 コレはまだ,黎明期の電池も同じだが…誰もが努力と研鑽に応じて魔術を行使する世界の実現には,不可欠な代物だろう。
 現時点ではまだ,魔力供給を人間に頼るしかないのは問題だが…ね。」