2019/05/01 のログ
ご案内:「常世第二病院前の公園」にアリスさんが現れました。
アリス >  
私、アリス・アンダーソン。
数日前に転移荒野に現れた惨劇の館にいた、たった二人の生還者の憐れな片割れ。

いつもの白衣は着ていない。
ガーリィピンクのお気に入りの服も。
ただ、白いワンピースを着て麦藁帽子を被り、病院前の公園のベンチに座っている。

今日は不眠が酷かったため、パパとママに連れられて病院に来ていた。
診断結果は心的外傷後ストレス障害。いわゆるPTSDだった。

私と親友のアガサは転移荒野の館で血と惨劇の体験をした。
それを館ごと爆弾で吹き飛ばし、何とか生還はしたけれど。
ベンチに座って足をぶらつかせながら考える。

私は壊れてしまったのか。

ご案内:「常世第二病院前の公園」に佐藤重斗さんが現れました。
アリス >  
口笛を吹こうとして、何も楽しい曲が思い浮かばないことに気付いた。
昨日は悪夢にあの怪物の姿を見た。

ホラー映画は嫌いじゃないけど。
自分がその主人公になるとは不運も極まったものだ。

目の前で子供が風船を持って走り回っている。
ふと、自分の前でその子が転び、空に向かって赤い風船は浮かび上がっていった。

風船を追って青空を見上げると、そこに怪物に鷲掴みにされたアガサの姿がフラッシュバックした。

鼓動が早鐘を打つ。
目を瞑ると瞼の裏の闇にあの館を見る。
だから、目を開いたままじっと恐怖が過ぎるのを待った。

佐藤重斗 > 麗らかな春の日。一般人は昼寝でもしようと公園を訪れていた。

「ふあぁ~。眠い…。」

目を擦りながら歩いているとベンチに顔色が悪い少女を見つけた。
ここは病院の近くだったはずだ。
具合が悪いならそこまで運んでいった方がいいかもしれない。

「おい。大丈夫か?
具合が悪いなら病院まで送るぞ。」

アリス >  
声をかけられて顔を上げる。
ごく普通の少年が、そこにはいた。

「大丈夫、すぐにおさまるから………」

震える左手を右手で押さえつけるように膝の上で身を硬くする。

「あなたは? 病院にお見舞いって感じじゃなさそうだけど」

そう聞いて震える足にピンと力を入れて、無理やり笑顔を作った。

佐藤重斗 > その傍目から見ても無理をしている笑顔に心配しつつも、しゃがんで視線を合わせ言う。

「俺か?俺はまぁ…散歩かな?
そしたら可愛い女の子が具合悪そうにしていた訳で…
これはお近づきになるチャンスかなぁと。」

少女に少しでも自然に笑って欲しくて冗談交じりで話を聞く。

「具合が悪くないならなんだ?
何か嫌なことや辛いことでもあったのか?
お兄さんに話してみ。ん?」

相手が実は同学年とも知らず話しかける。
他人がみれば誘拐の現場に見えなくもない。
しかし、この男は意地でも引かないつもりだった。

アリス >  
彼が屈んで視線を合わせると、その瞳の黒にすら恐怖を覚えて目を逸らした。

「あなた、変わっているわね……私、あなたより大分年下よ、多分ね」

そう言うと、フラッシュバックがひと段落してきたので呼吸を整える。
そういえば家族と風紀と医療関係者以外にこのことを話していない。
外では、私が遭遇した恐怖は認知されている事件なのだろうか。

「……あなた、噂は聞いた? 最近、転移荒野に突如出現した館の噂」
「あそこに調査に入った第一陣、八人全員と、救出に向かった第二陣の大半…」
「合計十二人が怪物に惨殺されて帰らなかった事件」

ようやくまともに呼吸ができるようになった。
風に飛ばされそうになる麦藁帽子を手で押さえて。

「……あれの関係者なのよ、私。今はPTSDで治療中で、パパとママはお医者さんの話を聞いてる」

佐藤重斗 > PTSD、心的外傷後ストレス障害。
それを聞いて少女がどの様な状態か理解した。
だから言葉を選びつつ問いに答える。

「そう言えば風の噂で聞いたかもしれないな。
関係者…ってことは生き残った2人って君のことだったのか」

正直知らない人間が何人死のうが興味はない。でもこの少女とはもう知り合ってしまった。
ならば見捨てることはできないし、助けたいと思った。

「その怪物って奴は討伐されたのか?」

アリス > 今はもう震えてはいない掌に視線を落として。

「わからない、逃げた直後に館を爆破したから……」
「人間の生き残りもいたかもね、私が何もかも吹き飛ばしたけど」

青空を見上げる。
晴れている間は何とか外に一人でいられるようになった。
今は話し相手がいるので、幾分か気が楽で。

「カルネアデスの板って知ってる?」

そう話していると、また強い風が吹いて麦藁帽子が飛ばされて。

「あ………」

佐藤重斗 > 「カルネアデスの板…。
確か自身が助かるために他人を蹴落として云々って話だったな。」

麦藁帽子をすんでの所で掴まえて言う。
この少女は怪物が怖いのだろうか。それとも死んでいった人が怖いのだろうか。
頭が回る。この世界に少女と自分しか居なくなる。
一般人である自分の力で少しでも楽になるように言葉を紡ぐ。

「怪物を倒すためとはいえ、まだ生きているかもしれない人ごと爆破するなんて許されないことだ。」

少し語気を強めに言う。怯えさせてしまっただろうか。
申し訳なく思う。

「……なんて普通は言うんだろうな。」
「カルネアデスの板は正しいと俺は思う。
他人の為に命を捨てる必要はない。何故自分の命を他人に使わなくてはいけない。
死ぬなら自業自得だ。勝手にしやがれ!」
「…ハァ…ハァ…。
君が何に恐怖を抱いているかは解らない。
だが、こんな考えもあるんだと心に留めておいてくれ。」

最後は優しい笑顔で話をまとめる。
どうか少女が怯えなくて済みますように。
そんな願いを込めながら。

アリス >  
「ええ、日本語で言えば……緊急避難の話でよく出るわね」

許されない、と言われれば。項垂れてしまう。
私は今もあの館の中にいるんだ。
アガサの手を引いて、血の臭いがする館を彷徨い続けている。

すると。
少年は違う答えを出した。

「………あなた…」

手を伸ばして麦藁帽子を受け取り、被りなおす。

「優しいのね」

心にスペースができた。
それは空虚なものではなく、この先なんでも詰め込める。
そんな暖かな可能性を感じる空間だった。

「私はアリス。アリス・アンダーソン。常世学園の二年生。あなたは?」

見上げて、今度は作り笑いじゃない笑顔を見せた。

佐藤重斗 > 優しい、そう言われて赤面する。
どうやら一般人最大の気遣いはお見通しらしかった。

「俺は二年の佐藤重斗。村人Bくらいの役割だ。」

そう言うと不敵に笑う。
だが、内心は可愛い女の子に笑いかけられ、狂喜乱舞している。
感情を隠すのが上手い少年だった。

「心配すんなよ。
怪物が生きてても俺が完膚なきまでに叩き潰してやるからよ。」

無論噓だ。しかし、この少女の前では強がってしまう。
それでいいと思った。少しでも少女の闇が晴れるなら。

アリス >  
「佐藤重斗ね、覚えたわ。私もホラー映画の主人公じゃなくて村人くらいがよかったのだけれど」

ちょっと笑えない冗談を言って立ち上がる。

「あら、頼もしいわね。それじゃ……次に同じ状況になったらお願いするわ」

白いワンピースの裾と長い髪が風に靡いた。
今日は風が強い。
両手で帽子を押さえたまま、

「そろそろパパとママが戻ってくる時間だから」
「またね、佐藤。学校に復帰したらよろしく」

そう言って病院のほうに歩いていった。

ご案内:「常世第二病院前の公園」からアリスさんが去りました。
ご案内:「常世第二病院前の公園」から佐藤重斗さんが去りました。