2020/07/01 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」にレイさんが現れました。
ご案内:「図書館 閲覧室」にソフィア=リベルタスさんが現れました。
レイ > 「試験前は人の出入りが激しいですね...」

おかげで本の場所について聞かれたり、本を返すのを忘れて帰っていく人が多かったり、禁書庫に迷い込む人が現れて私が怒られたり...
それに何よりうるさい人が偶にいるので私にとっては結構なダメージ。
早く試験が終わって静かで落ち着く図書館に戻らないかな、なんて。
受付の椅子にもたれて半脱力しており。

ソフィア=リベルタス > 「本を読もうという若者が多いのは良いことじゃないかな?
いや、君にとっては少々辛いものがあるかもしれないけれどね。」

小さな声で、催促されるでもなく言葉を返すのは、図書委員会に所属する講師。
受付に反対側から寄り掛かり、レイを覗き込んでいる。
にこにこと笑みを浮かべながら話しかける様は、知らぬ人が見れば
子供が迷い込んだかのようにも見えるかもしれない。

レイ > 「私は別に本を読んでいるわけじゃなくて捲っているだけですから。
わかっているんだったら先生がここで受付しててください。
奥に引っ込んで私も勉強したいのです」

比較的聴き慣れたソフィア先生の声だ。
今日も随分と自由そうだ。
小さく片目蓋を上げて楽しそうなその表情を見れば小さくため息。

「そうじゃないなら本の整理とか手伝ってください。
どうせ暇なんでしょう?」

なんて、どうせ嫌がるだろうが。

ソフィア=リベルタス > 「そーんな連れないこと言わないでくれよぉレイくぅん。
私は寂しくて死んでしまうよぉ、ほら、ウサギは寂しいと死んでしまうっていうだろう?」

言いながら、先ほどまで猫耳だったソレを、ウサギの耳に置き換えて見せる。
さながらマジックの様に瞬きの一瞬で切り替わるそれ。

「私はこうして君達と会話をすることが生きがいなんだから、ダメかい?
だめかなぁ?」

上目づかいにうるうると涙目を浮かんで見せる、本当に泣いてるわけでもないというのは
レイでもわかるぐらいにはうさん臭い。

「それにホラ、君も最近はなんだか楽しそうに話していたじゃないか、んー?」

と、さらににやにやとした顔で覗き込んでくる。

レイ > 「先生は猫じゃないですか。
...兎にしても化兎なんですからそれぐらい克服してください」

相変わらず呆れるほどに異能の無駄遣いだなあ...というか猫耳が兎になると違和感が凄い。
なんというかソフィア先生には似合わないなあ

「ダメではないですけど...
私の仕事を少しでも代わってくれれば私がもっとお話ししてあげますよ」

基本的に図書委員会のメンバーは私の体質を理解してくれているので話しやすいです。
逆に私も理解するようにしていますが、ソフィア先生の場合ちゃんと見てないと見た目の芸が細かくて気づかないから目を開くようにしている。
ほら、今だってわざとらしくうるうるしてるよこの人。
落ち着きがない。

「そうですね...最近は愉快な来客が多い...と言えば多いですね
愛ちゃんとも...ちゃんとやってけていると私は思ってます」

確かに最近は楽しいことも多いけど。
なんで知ってるのかは聞いても多分教えてくれない。
覗き込んでくる顔が近い...ちょっと椅子を引いて逃げます。

ソフィア=リベルタス > 「あ、逃げられた。 んー、まだまだレイくんの人見知りは治りそうもないねぇ。
いや、正確には人見知りではないか。 体質上仕方ないとはいえ、少々先生としては残念だ。」

ふふふ、と冗談めかしく笑って、寄り掛かる姿勢を元に戻す。
兎の耳を猫の耳にまたもや移し替えて、ぶるぶると顔を振って猫のようなしぐさをして見せた。

「もちろん。 あぁ、もちろん手伝うとも? なんなら大きな巨人になって君を抱き上げてもいいくらいさ。」

もちろん、そんなことはソフィアはおそらくしない、むやみに触れてほしくない、というレイの感情を尊重する故に。

「まぁ、友達付き合いでもし困ったことがあれば相談してくれて構わないからね。
そのための私なんだから。」

と、教師らしいことを挟み込むずるい先生、を演出して見せて。
引けば追わずに、微笑んで眺めている。

レイ > 「あんまり近いと...ほら、額に指を近づけた時の感覚です。
あんな感じになって嫌なんですよ」

すごく嫌な、そわそわする感じがじわっと伝わってきてちょっと苦手です。
そうじゃなくても近すぎるのは少し苦手かもしれない。

「担ぎ上げるよりも本の整理とか本を片付けない人を見つけて脅してもらえると...あ、やっぱりダメです。
下手に悲鳴とかあげられたら私が動けなくなりますから...普通に注意してもらえると助かります」

冗談で言っているのはわかるからこそ、ちゃんと手伝って欲しいと。
重たい本って持ってるだけで辛いから巨人になって本を片付けて欲しい。
なんて思いながら引いた椅子を元の位置に戻して。

「今のところ特に困っていることはありませんが...
少し不満があるとすれば私が都市伝説扱いされてるみたいで...
なんか図書館の霊とか言われてるみたいです。幽霊の霊です」

相談してくれて構わない、というのなら適当な日頃の疑問でも解消しておこう、と。
比較的最近流れ出した都市伝説についてでも尋ねておこう。

ソフィア=リベルタス > 「おや、そうかそうか。 それは申し訳ないことをしたね。
また何か不手際があったら教えておくれ。
まぁ、巨人になって整理するより、私の本当の異能でちょちょいっと戻せばいいだけなんだがね?」

指で宙をくるくるとかき混ぜる様にすれば、散らかっていた本たちがゆっくりと
音を立てない様にそれぞれ元あった場所に勝手に収まってゆく。
やる気さえあれば、彼女には簡単なこと、簡単なことのはず、なのだが。
基本的には頼まなければやってくれないのは、彼女なりに理由があるのだろうか。

少なくとも、一般生徒の前でやってしまえば、霊の噂と相まって
逆にレイの感覚を傷つけそうなものではあるが。

「そう、都市伝説ね、本物の化け物はまさに君の目の前にいるというのに、実に腹立たしいものだ。
こんなに可愛らしい生徒を持ち上げて幽霊などと。」

冗談めかして笑いながら、本当に憤慨している風でもなく。

「まぁ、君の立ち居振る舞いがそう見せるのだろうね、基本的には喋らない、話しかけない、見ているだけ。
暗い場所でそんな人物と邂逅すれば、そう勘違いするのもわからなくはない。
いや、君が悪い、と言っているのではないから誤解しないでほしい。
ちょっと巡り合わせが悪かったという話だよ。
しかしそうだね、例えばそうだな、軽い化粧でもしてみてはどうかな?
肌感覚の鋭い君には、少々刺激的かもしれないが。」

言って、ソフィアは自分の顔を化粧をしたように、もしくは
西洋にかつて存在した人形のように、白い肌に桃色の混じった肌にして見せる。
雰囲気は、少女から、まさに動くお人形へ。

レイ > 「普段もパパッとそんな感じでやってくれると助かりますが...
とりあえず、ありがとうございます」

こんな体質はいらないから私にもそういった便利な力が欲しい。
この人も普段からこうやって手伝ってくれればいいのに。
そうしたらとても助かる。

「先生と話してると冗談と本音の境目がわからなくなります。
まあそれが先生なんでいいですけど...」

「化粧...ですか...一度やってみましたがずっと顔に何か張り付いてるみたいで気持ち悪いんですよね...
だから...ってお人形みたいな顔に...
先生本当に多芸ですね
一人博物館とか出来そうですね。
やってみてはどうでしょうか?」

ソフィア=リベルタス > 「やろうと思えばできないことはないがね
あまり部分変化と猫以外にはなりたくないのさ。
万能な異能や魔術、というものは存在しないんだよレイ君。
君のその五感のようにね。」

肩をすくめ、ヤレヤレといった風に首を振る。
呆れたというわけでもなく、やはり冗談めかして。

「ふむ、印象を変える、というのには効果的なんだがね。
やはり気持ちが悪い、か。
なかなか難しいな。 
だが、そうだね、これも、君にとっては少々苦悩かもしれないが。」

強制、ではなく提案、あくまでも、自由意志と付け加えた上で

「君という存在をもっとアピールするといい。
そう、例えば、図書館の入り口に職員の顔写真を載せる、とか。
友達を増やして認知を広めてもらう、とかね。」

レイ > 「...痛い程わかりました。
先生には先生なりの何かがあるんでしょうね...」

私にとって最も馴染み深く、最も長く悩み続けた問題を持ち出されて理解できないわけもなく。
先生には先生なりにデメリットだったりがあるのだろうか、なんて思ったけどわからない。

「そればっかりは仕方ありませんから...
にしても顔写真...友達を増やす...うーん
確かに効果的ですけども...」

図書館の入り口に顔写真を貼るなんて。恥ずかしくてやってられない。
友達を増やすのも外に出れないから難しい。
目立てばいいのか...なら何があるかなあ、と腕を組んで唸り出して。

「それっぽい陣でも光らせておけばいいですかね...」

なんて、師匠から学んでいる魔術の陣を構成して。
術自体は一切の効果を持たない光るだけの術式だ。

ソフィア=リベルタス > 「……ははぁ、なるほどね。」

それは、案外面白いかもしれない。
小さく呟いて。

「いや、さすがに君の足元にそれを置くのは悪手だがね?
私としては非常に面白いから構わないが。
顔の下から懐中電灯を当てる、みたいなことになるからね。」

想像して、少し笑いながら。

「ライトアップされた美少女というのも、乙なものだがね。
目印、にしてはどうかな。 そう、例えば。
君がいるときは、カウンターの上、天井にそれをつけておく、夜でも昼間でもね。
逆にいないときには、消灯しておけばいい。
はじめは効果が薄いだろう、けれど、習慣になれば生徒も慣れる。
慣れるとはつまり覚えるということだ、君とそれがセットで存在するということに。」

図書館を使う人間、というのは普段はだいたい決まったものだ。
一度覚えれば大抵の利用者は理解を示すだろう。
たとえ不慣れな人物が来たとしても、そう教えられていれば問題はない。

「君が望むのであれば、教師陣に掛け合って許可を取ってこよう。
ただ、眩しいのが苦手な君が苦痛でない程度に調整する必要はあるだろうがね。」

レイ > 「それは...ちょっとホラーですね...」

顔の下から懐中電灯、と言われればまあ当然思いつくのは文字通りの状態。
実際にやってる人をみるのは近くだと眩しいし近くでやったら眩しすぎて目がやられるからもうかなり長い間そんな風景見てないけど。
まあ想像は安易なため先生と一緒に小さく笑って。

「不在の札みたいな感じですか...
私がいる間は光る魔法陣...
眩しい具合は私が調整するのでいいのですが、掛け合っていただけるのですか?」

まじで?といった表情で。

ソフィア=リベルタス > 「なに、ここは学生が運営する、学生のための都市だ。
 なにより君はここを管理する重要な役割にある。
 職員のために設備の一つや二つ、金もかからないのに追加しない理由もなし。
 なによりほら、相談に乗る。 そう約束しただろう?」

にまり、と微笑んで当然のように答えを返す。

「教師が生徒の悩み一つ解決できないなんて、情けないし。」

レイは、確かに難しい体質を持ち合わせて生まれてきた。
しかし、だからと言って色々なことをあきらめて過ごせ、というのは
個人的には、教師としては、頷くわけにはいかないのだ。
自分の頼みを聞いてくれる、かわいい生徒のためならば、交渉の一つや二つたいしたものではない。

「それに、君がそうやって笑う顔を、もっとみたいからね。」

レイ > 「...ありがとうございます。
本当に。」

こう言うところがあるから。
こうやって一生徒でしかない私のために一緒に考えて、手伝ってくれて、動いてくれるから、彼女はやっぱり教師なんだなって。
受付の机の頭をぶつける少し手前まで頭を下げて。

「そうですね...
少し他の方法も含めて考えてみます。
それで考えがまとまったら。
その時は私が笑うために、協力していただけますか?」

笑う顔を見たい、と言ってくれるのであれば。
今嬉しいのなら。
笑って見せるべきだろうと、明るく笑んで見せた。

ソフィア=リベルタス > 「うんうん、レイ君の為ならば、先生なんだって頑張っちゃうぞー!」
 
 調子に乗ったようにおどけながら、生徒の作る笑顔に、自然と笑みが浮かぶ。
 教師とは、やはりこういう生徒の笑顔のために頑張るものでありたい。
 ソフィア=リベルタスは、そういった良き教師でありたいと思う。

「あ、でも仕事を増やすのは勘弁ね!」
 
 でも、できればのんびり過ごしたい、会話しながら。
 そう思うのも本音なわけで、おふざけながら、そういって見る。
 あぁ、怒られる姿が目に浮かぶ様。
 それもまた、良いものなのかもしれない。

レイ > 「最後のそれがなければ本当に完璧でしたね!」

なんて、レイにしては珍しい語尾に勢いのついた声。
まあそれだけソフィアの発言の温度差が彼女の中であったわけで。

「ですが、こうやって話すぐらいだったら、いつでも来てください。
話し相手になりますから」

ただ、こうして次もまた話に来てくれと。
そう言えるような関係を今までも続けてきて。
これからも続けていくんだろうな、と。

それがなんとなく面白くて、気づかれないぐらいの声で、小さく笑った。

ご案内:「図書館 閲覧室」からレイさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」からソフィア=リベルタスさんが去りました。
ご案内:「落第街/────」にNullsectorさんが現れました。
ご案内:「落第街/────」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
Nullsector > 落第街。島の吹き溜まりとも言えるスラム。
そこを知らない者にとっては、地獄の一丁目、或いは魔界か。
だとすれば、女はさながら魔界の門番のようにそこにいた。
聳え立つ二つの柱は、かつて何かのゲートだったのだろう。
今は見るも無残に瓦礫となり、女に足蹴にされていた。

「…………。」

煙草を咥えたまま、女は一点を見据えている。
丁度落第街との境界線の此処で
やってくる人影を見据えていた。
ふわふわと空中を浮かぶお手製のドローンに、導かれるようにやってきた少年を。

「……生身出会うのは、初めましてだな?水無月 斬鬼丸。」

水無月 斬鬼丸 > 半信半疑ではあったものの、ドローンは律儀にやってきた。
更に律儀に安全で…しかも誰の目にもつかないように案内までしてくれて
落第街の…こんな奥まった所まで来たというのに誰にも絡まれることはなかった。
そして、球形のドローンに引き連れられてたどり着いた場所には…

「………」

女性がいた。
聞いた声の女性だった。
タバコを咥え、眼鏡を掛けた、大人の女性
そして、こちらの名前を知っている。

「あんたが…ぬ……代理人…?」

あえてさんはつけない。

Nullsector > 「御名答。」

煙草を二本指で掴んで、白い煙を吐きだした。
煙草特有の嫌なにおいと煙が周囲に漂う。

「情報屋、代理人『Nullsector(ヌルセクター)』……あたいがそうだよ。」

その証左と言わんばかりに斬鬼丸を誘導していたドローンを手招き。
それに合わせてドローンは女の首周りを数度旋回すると
まるで、潰れるかのようにコンパクトに変形し
白衣の裏側へと収納された。

「……正直な事言えば、あの時の勢いだけかと思ったけど、意外と律儀な男だね。」

日常を謳歌する側の人間だ。
それに、鬱屈を重ねているとはいえ、危険に自ら踏み込もうとはしまい。
一時の会話にほだされたせいとは思ったが、その胆力に女は上機嫌だ。

「一応聞くけど、気分はどうだい?」

自身の足元に煙草を捨て、踏みつぶした。

水無月 斬鬼丸 > 「ぬるせくたー……」

彼女の名乗った名を反芻しつつ、妙な緊張感にごくりとつばを飲み込んだ。
改めて来てしまえば、明らかに空気が違う。
タバコの臭いだけではない、明らかな異臭が漂い
道端もそこかしこ瓦礫やら、なんだかよくわからないものがぶちまけられている。
彼女の元へと帰るドローンを見送れば
注視すべきはその女性だけとなった。

「べ、べつに…俺だって、その……
力との付き合い方?ってやつ…?がわかるなら、知っときたいし…」

律儀と言うか、のこのこ出てくるあたり、阿呆のそれだとは思う。
みたこともない、聞いたこともない、ドローンで部屋に飛び込んでくるようなやつのいるところ
普通であればいくわけはない。

「気分…って……、長居は、したくないっすね」

なんだか、ずっと誰かに見られているような
妙な居心地の悪さもある。ようがあっても近寄らないような場所だ。

Nullsector > 「呼びづらいなら、代理人なり、ヌルなり、好きに呼びな。どうせ、本名じゃないしね。」

飽く迄仮称だ。呼びづらいという気持ちは分からなくもない。
ふ、と鼻を鳴らせば周囲を一瞥した。

「ああ、この辺りの瓦礫は気にしない方が良い。たまにあるのさ、秩序を整える側でも、"過激"な事する連中が。」

「いい迷惑だよ。幾らスラムだの、治外法権みたいな場所だからってね。」

確か記憶が正しければ、ちょっとした露店が立ち並んでいた気もした。
ろくな露店かと言われれば怪しいが
脛に傷を持っていても、此処じゃ比較的真っ当な生活風景だった。
そんなものも、砲弾一つで終わりを告げる。
……そう言う日はやけに、火の灯りが明るかった。よく覚えてる。

「……フン、強がるなよ。童貞坊や。」

どう聞いても声は震えている。
女は踵を返し、斬鬼丸へと振り向いた。

「……だが、その考えは間違いじゃない。」

「此処からは、お前が知る事のない日常の"裏側"って奴さ。」

「試されるのは、お前の気の持ちよう。付き合い方もどうするかは、お前次第。」

「……けど、その"普通"の感覚だけはちゃんと鎖で繋いでおきな。忘れちゃいけないものだからね。」

恐らくそれを忘れた時、彼は……いや、ただの憶測だ。
ついておいで、と女はゆったりと歩き始めた。

水無月 斬鬼丸 > 「そ、っすか…」

そう、本名ではない。
こっちの本名はとっくに割れてて、その上異能まで知られている。
こちらは外見以外はドローンを使って調べ回っていることと…代理人…Nullsectorという通称しか知らない。
そしてここは自分が一度も立ち入ったことのない場所。
いわば完全に彼女のホームだし、上に立っているのは彼女だ。
自分の意志でここには来たが……なんだか心臓を握られているような気がした。

それにしても、こんな破壊が日常的に起こっている…というのは
噂話程度には聞いていた。
聞いていたが、まさか本当だったとは。
喉が渇く。再度硬いつばを飲み込むが、そんなものはなんの意味もない。

「強がらないと…流石になにされるかわかんないんで…」

否定はできない。
強がってることも、童貞ということも。
だが、それでも歯を食いしばる必要はあるだろう。おそらく、ここでは。

「そ、そう、それ!結局こんなところで、なにを…」

そう、なにを見せるというのか。
TVの貧困やら紛争地帯のドキュメントめいたものなど見せられたところで…
そうおもいつつも、彼女のあとを追いかける。

Nullsector > 「…………。」

「……"不公平"、とでも言いたいかい?」

抑揚のない声音だ。怒りや憂いもない。
ただの質問だ。ある意味彼は分かりやすかった。
年頃の、そう、普通の年頃の反応。
偏見の部類だが、正直この島じゃ物珍しい位だ。
握った心臓を撫でるように、相手の底を撫でるようだ。

「……とりあえず、財布はどっか紐付けときなよ。あたいと一緒に居れば、今は大丈夫さ。」

これだけは言っとかないといけない。
後でぶつくさ文句言われるのも面倒だ。


そのまま女と歩いていけば、薄暗く狭い路地を進んでいく。何処かの裏路地だと思えるだろう。
何をしているか分からない建物の隙間を縫うように進んでいくだろう。
何とも言えない生臭い悪臭、湿気、気持ちの悪い空間だ。
そのまま女の後をついていけば、何処かの通りへ出た。

そこは、煤けた街と表現するのが正しい場所だったかもしれない。
薄汚れた建物に、まばらに行きかう人々の身なりは貧層だ。
そうでないものもちらほら見えるが、所謂"お近づきになりたくない"雰囲気を纏っている。
灯りの付いた街灯は何度か点滅を繰り返し、真っ直ぐ進む路地も、幾つかひび割れや欠損が見える。
そこには、学生街にある清潔さや生活感、歓楽街のような煌びやかさも無い。
何処となく淀んだ空気が溜まりに溜まった吹き溜まり。

さて、斬鬼丸が気配に機敏なら、きっと貴方は視線に気づく。
四方八方様々な場所から見られている。奇異の視線。
そう、明らかな"部外者"に向けられたようなものだ。

「……ようこそ、"落第街"へ……感想はどうだい?自分たちの暮らしていた場所と一緒に、こういう場所もあるって感想は。」

水無月 斬鬼丸 > 「ん…あ、ええ…。
だけど…仕方ないことってのもわかります」

相手の質問には萎縮しそうになるが、うつむきつつも素直に答える。
彼女は大人で、裏にも通じていて、自分にそれを見せつけるための案内人。
ならば、心臓を握られるのも、公平でないのも仕方のないことだ。

「え、あ…は、はい」

彼女の言葉には慌てたように従う。
こういう場所だ。彼女からすればこちらを気にかける必要などないのだから
自衛は当然ということか。

そうしてついていくスラムの…更に奥まったところ。
一般生徒が近づけば無事では済まない。そんな空気が充満している。
臭く、じっとりとして、チリつく視線が突き刺さる。
暴力的な空気が、そこかしこに充満している。
彼女がこの中を平然と歩けるのは、慣れからか…それとも…
それ以上のなにかを内包しているからか…。
そして代理人から不意に飛んできた歓迎の言葉。思わず肩を跳ねさせてしまった。
不本意だし情けないが…ビビっている。

「……しょーじき…怖いっすね…」

Nullsector > 「…………。」

女は何も言わなかった。
掛ける言葉が無いとも違い、無視した訳でもなさそうだが……。

「フ……。」

幾ら不慣れとは言え、余りの初々しい反応に思わず笑ってしまった。
からかい交じりなのはそうだが
さながら、ひな鳥を見守る親鳥のような雰囲気を感じる。
一応連れてきた以上、ちゃんと面倒は見るような気兼ねは感じるだろう。

「手でも繋いでやろうか?お前に、女性の手を握るだけの度胸があればだけどね。」

なんて、目の前でゆったり右へ、左へ。
白くて細い指先を振ってやった。

「……ま、空気は気にするな。外の……特に、お前みたいなのには敏感なのさ。」

「少し歩くぞ、斬鬼丸。パンツ、濡らしてないだろうな?濡らしてるなら、置いてくからな?」

水無月 斬鬼丸 > 「ッ……」

鼻で笑われた。
これも仕方のないことだろう。
相手から見ればド素人もいいところだ。こちらの拙い言葉や行動は可笑しく思えたとしても仕方ない。
それはそれとして、そんなふうに笑われて
しかも、バカにされては流石に恥ずかしいやら悔しいやらで

「い、いらねーっす!!歩くくらい…なんてことない」

差し出された指は、この界隈の薄暗さのなかでは
浮き上がって見えるほどに白く、細く、思った以上に綺麗だった。
だが、その手を取ることはなくあるき出す。

「この程度で!そんなふうにはならないっすから!!…くっそ…」

いちいちかき乱してくる。
これも狙い…なのか?それとも性分?

Nullsector > 「ハハ……。」

露骨な迄の乾いた笑み。やや失笑に近い。

「まぁいいさ。男なら、それ位跳ね返りがないと返って心配だ。」

「安心しな、後で泣き言言っても、あたいは置いてかないから精々そのまま強がっておくんだね。」

くつくつと喉を鳴らしながら女は笑う。
薄らと熊の入った目元。常盤色の瞳を細めて、小馬鹿にした態度をしていた。
敢えて表に出さない期待。少しくらい泣き言言うと思ったが
それ位の気兼ね位はあって此方も安心した。
差し伸べた手を引っ込めて、ひらひら、と軽く手招き。

「まぁ……緊張の色が見えるのは減点だな。ドローンを前にした方が、幾分か男らしかったぞ?」

すっかり縮こまった喋り方だ。
女はそのままゆったりと歩き始める。
振り返りはしない、"ついてきている"という信頼があるからだ。


此の場から逃げ出したりしなければ、暫く路地を歩く事になる。
整備は一応されているが、所々コンクリートがはがれて歩きづらい路地。
学生街と比べればどうにも薄暗く、そしてぼろ屋も立ち並ぶ街並み。
相変わらず視線を感じるかもしれないが、確かにそこには"生活"が存在する。
自分たちがすむ場所と少しばかり雰囲気が変わってしまっただけの、人の生活。
決して活気が無いとも言えず、かといって無秩序な雰囲気を感じない。
仮にも落第"街"と名付けられているそこには、吹き溜まりなりの営みが存在していた。
女は徐に、ついてきているであろう後ろを振り返る。
ついてきているなら、女は問いかけるだろう。

「……イメージとの違いはあったか?ん?お前が想像していた、"スラム"との違いだ。」

水無月 斬鬼丸 > 「どーも…」

不機嫌そうに、言葉短く応え
前を歩く白衣の女についていく。
堂々とした歩みではない、もちろん。
正直、ビビってる。代理人もそれは見透かしているようで
律儀にもいちいち馬鹿にしてくる。ドローンで喋っていたときもそうだが
煽りというものは本人を目の前にしていると余計に腹が立つ。

「そりゃっ…!そりゃぁ…あそこは自分の部屋なんで……」

少し言葉に詰まるも、あたりまえだと反論する。
とはいえ、言われっぱなしもムカつくので、少しだけ背筋を伸ばし
おっかなびっくりと言った歩みを正す。
内心はそれほど変わりはないのだが…意地みたいなもんだ。

歩いていけば、目に入る光景は…
廃墟、いや…廃村?廃都?そこにしがみついて活きる人々の姿。
こういう場所だ。もっと略奪や暴力が横行していると思っていた。
そもそも、こういう場所が隣りにある実感というのも薄かったのだが…
漠然と、同じ島の危険地帯…程度の認識だったのに
こんなに簡単に来れる場所に、自分たちの活きる場所とは違う秩序があった。

「……なんか……おもったより、『街』…なんだなって…」

Nullsector > 「気持ちはわからんでもないがな……引きこもりらしい回答だ。……ああ」

「そりゃぁ、"落第街"だからね。一応、街と言う体制は保ってるさ。
 ……まぁ、そもそもなんでこうなってるかは、あたいも正直わからないね。」

「何時から"街"になったのか、どうやって出来てたのか……まぁ、一つだけ言える事があるとすれば……"成るべくして成った"って所かね。」

「人間、案外集まると必要最低限の協調体制はとろうとするからね。例え、吹き溜まりみたいな場所でも、ソイツ等なりの居場所が必要なのさ。」

「……犯罪者や、悪人の集まりとでも思ったかい?間違いじゃないけど、半分……や、多く見積もって7割は違うね。」

「此処はね、"行き場のない"連中の集まりなんだよ。」

「学園のはみ出し者。お前みたいに、自分の異能や、学園の"ちょっとした馴染めなさ"が原因でドロップアウト……。」

「或いは、外部から正式な手続きもせずにつれてこられた連中。」

「異邦人街にも、何処にも馴染めない異邦人……異邦人街には、あそこなりの秩序があるしね。馴染めない奴はとことん、無理さ。」

「あ、異邦人街の説明もいるかい?……ま、そんな連中が集まれば、この状況も必然って事さ。憶測だがね。」

人は居場所無くしては生活出来ない。
生活が無ければ、人は生きれない。
集合、群体。孤高で生きられるのは一握りだ。
例えそこに集まった連中が、世間的には良くない連中だとしても
そこに秩序を敷き、居場所を作る。
成るべくして成った、そう言う場所だ。

「……ただ、お前の想像を間違いじゃない。犯罪者……。」

「あたいを含めた違反活動をする連中が羽休めするには丁度いい場所さ。厄介事を"此処で"派手に起こさなきゃ、追い出されることも無い。」

「……さて……。」

女は足を止めて、踵を返した。
斬鬼丸と向き合い、常盤色の瞳がその瞳を見据える。

「……肉食動物ってのは、巣穴で狩りをするワケじゃない。獲物を探しに行くのさ。」

「手口は様々だけどね。丁度、歓楽街とかは良い手引きが出来そうじゃないか?地区は隣接してるし……あたいが前言った言葉、覚えてるかい?」

「そう言う連中に、"今まさにお前が狙われているとしたら?"」

水無月 斬鬼丸 > 引きこもり…ではないのだが…今は些細なことだ。
彼女の…代理人の言ってることは…だいたい理解が出来る。

行き場のない者たちの集まり。
馴染めない、鬱屈とした気持ちを抱えた者たち
それらが住まう場所。
つまり……自分に近い人々が集まった場所だということだ。
犯罪者の巣窟などではない…そう…
立場のない弱い者たちが集まった末、それを食い物にする奴らが集まったと言うだけの話。
そしてそいつらも、食い過ぎないように
特殊な秩序の中に生きている。

が、そうだ

食い物にする者がいるのだ。
犯罪者たちも…そうだが、それに搾取されるものだって
飢えれば狩る。自分たちを搾取する者たちを真似て。

そこに思い至れば、女の言葉にゾクリと、背筋を震わせた。

「え……今?」

まさか、そんな。周りを見回す。

Nullsector > 「──────……。」

女は何も答えない。
代わりに、口元は薄ら笑いを浮かべていた。
背筋をなぞる悪寒と同じように薄ら寒い笑顔。
語りはしないが、あたかもそれが"答え"と言わんばかりの笑顔。

周囲を見渡しても、景色に目立った変わりはない。

……あそこで屯っている男たちか?

……路地にへたり込み、物乞いをする子どもか?

……それとも、正体がバレぬように目深にぼろ布を被った異邦人か?

一つ疑い始めると、そこからは疑心暗鬼の海が広がっていく。
そう、誰も彼もが君を奇異の目で見ている。
"水無月 斬鬼丸"と言う個人を見ていた。
その視線は何を意味するのだろうか?

もし、君が懐疑の沼にはまってしまったのであれば、そう。
その無数の視線が全身に突き刺さり
或いは、どれもこれもが好機を、"悪意"で全身を這いずり回る錯覚を覚えるだろう。

「……なぁ、斬鬼丸。」

不意に、女は名前を呼んだ。
抑揚のない声音。
女はそっと、君へと手を伸ばした。
揺らしていた、白く細い指先。
それがゆっくり、ゆっくり、"首元"へと伸びてくる。


────さて、今の君は、これにどう応えるだろうか?

水無月 斬鬼丸 > 「ひっ!?」

情けない声が上がる。
みられている。
まさかとは思う。
彼女の言葉でここにいる全員が…一斉に襲いかかることなんてありえない。
彼女がそういう異能を持たない限り。
しかし、疑心暗鬼…その視線の一つ一つ、全てが悪意と害意をまとっているように感じる。

やばいやばいやばいやばい…
ますいまずいまずいまずい…
こわいこわいこわいこわい…

そもそも…この女がそういう異能を持っていない…などという楽観など、出来るわけがないのだ。

「へ…ぇ……!?」

身体は、萎縮している。
動けない。
呼吸も、乱れている。
女の手は、いともたやすく…首に触れた。

「なに、なにをっ!」

こんなときに悠長だと思う。悠長だとは思うのだが…自分の異能は『斬る』それだけ
斬ったものを戻すことなんて出来ないのだ。
違ったら?自分の考えが間違ってたら?この女性の手を切り落として、間違えました…などいえるものか。

Nullsector > ぴたり。細い指先が首元に触れた。
頸動脈を柔く撫でるような、優しい手つき。
その手つき事態に敵意は感じない。
一歩、二歩、女は距離を詰める。
ほんのり漂う煙草の匂いと、鼻触りのいい仄かな甘い香り。
"女性"を思わせるような、優しい香り。

「……手の一つ位は、飛ばされると思ったけどな。」

ふぅ、と吐息交じりに女は言葉を吐き出した。

「脅かして悪かったな、斬鬼丸。何もしやしないよ、あたいは一匹狼だ。徒党を組む真似はしないし……」

「わざわざ、目を掛けた相手を騙し討ちするようなマネはしないさ。……怖かったかい?」

少しばかり眉が下がった、表情にも申し訳なさが出ている。
心配するように、常盤の色が相手の瞳を覗き込んだ。
抵抗しなければ、首に添えられた手は頭部へと寄せられ
ぽんぽん、とあやす様に撫でるだろう。
慣れた手つきだ。子どものあやし方を知っているような
そんな、優しい手つきだ。

水無月 斬鬼丸 > 触れた指が動く。
身体は緊張して、呼吸は荒い。
感覚だけが過敏になって、女の指先の感触
撫でる手付き、力加減をかんじとる。
彼女の指先が自身を害する行動をとったときに反射的に行動できるように。
間合いを詰めてくる女の香りは…普段であれば安心するとかドキドキするとか…そういった感情を覚えるのだが…

「へ……?」

手の一つ?何を?
なんで?脅された?
いや…試された?

「なっ…なな…なにっ………何やってんですかあんたはぁ!!」

そんなことのために…自分の異能を知っていてあんなことをしたのか?
度し難い…どころではない、イかれてる!
いかに情報を商い、ドローンを操り、影で活きる女であっても、生身の肉体を傷つけられれば苦痛もあるだろうに。

「バッ、バカなまねは、やめてほしいっす…。俺がほんとにあんたの手を切り落としてたらどうするんっすか!
怖かったすよ!怖かったから…危うく…」

使いかけた。
異能を。
彼女はそれを期待していたのだろうか?
この自分をあやすように優しく撫でる手を…切り落とさせようとしていたのだろうか?
趣味が悪い。

Nullsector > 「何、って……お前の反応を試しただけだよ。驚いて異能を使うか、それとも怖がったままそれを使わないのか……。」

「もし、あたいが本当にその気なら、首の一つ締め上げられてただろうね。あたいに無警戒かどうかはさておき」

「……そうしても、手を飛ばす気はなさそうだね?自分が傷つくよりも、人を傷つけるのが怖いかい?」

趣味が悪いと思われれば、返す言葉も無い。
だが、百も承知で相手を試した。
結果、傷一つついていない。
彼の優しさか、それとも怖気ていたか。
何にせよ……

「変な話だけど、ありがとね。手、飛ばさなくて。」

それだけは、礼を言わなければならなかった。
撫でていた手は、ゆっくりと離れる。
彼女の顔は、何とも言えないはにかみ笑顔を浮かべていた。
これでよかったのか、悪かったのか。
そんな事を決めかねるような、困った顔。

「……飛ばされるだけの"覚悟"はあったからね。あたいは、お前を無作為に怖がらせた。」

「もしかしたら、本当に危害を加えるかもしれなかった。そう考えれば、手の一つ飛ばされても"仕方ない"よ。……お前は違うかもしれないけどね?いいよ。」

「あたいに言いたい事、文句あるなら何でも言ってみな?」

水無月 斬鬼丸 > 「っ………だからっ!!
その気のない人間の手ぇ飛ばしたって…俺は戻せないんっすよ!
自分だってそうだったし、斬る異能があるから斬ったものも戻せるなんて理屈は通らないでしょうが!!
取り返しが付く範囲なら…異能とかそういうの……使わなくてもいいじゃないっすか…」

怖い。当然。
自分を傷つけられるのだって怖い。
他人を傷つけるのだって…怖いと言うか…なんというべきか…
嫌いだし、怖いし、責任を取れない。
彼女が初めから敵として襲いかかってきたならわからなかった。
だが、そうじゃなかった。だから、使わなかった。それだけのことだ。

離れていく手。
傷ついてはいない。
まぁ、当然だ。そうしなかったのだから。
彼女の言葉にも一理ある。危害を加えられていたらどうなっていたか
加えるつもりだったなら、自らを守る…それが正しいんだろう。
でも

「でも、そうしなかったじゃないっすか…それで、俺が切り落としてたら…
それは俺が一方的に怖がって、一方的に取り返しのつかないことをしたってだけだ…
あんたは…その、色々教えてくれてるってのに…」

Nullsector > 「……あたいは……あたいはな、斬鬼丸。」

「"怖くなかったよ"、斬鬼丸。あたいはね、されても良いという"覚悟"があった。戻せなくてもいい、斬れたらそれまで。」

「覚悟があれば、怖いものは無い。」

相手の恐怖とは相反する感情だ。
何処となくやつれた眼差しも、それを語る時は固い決意を感じる。
そう、何があってもそれだけは"ぶれない"。
彼女を形成する軸と言ってもいい。いかなることをされようと
彼女にとって、その覚悟さえあれば怖いものはないのだろう。

飛ばなかった右手を一瞥しながら軽くぐ、ぱー。
ふ、と思わず吹き出してしまった。

「……あたいは此の島が嫌いだけど、子どもや人間は嫌いじゃない。怖がる子どもなら、なおさら……。」

「ああ、お前は良い子だな。最初に言った言葉を忘れちゃいない。」

"怖い"と言う感情を忘れてはいけない。
この当たり前を、この場所でも忘れてはいけない。
彼はそれを護った。そう言う性分だとしても、ずっとそれに苦悩し、今でもこうやって、怒ってくれる。
その性根を無碍にする程、腐った人間ではなかった。
だからこそ、彼と対等に、真っ直ぐ向き合う。

「……だがな、斬鬼丸。今言った事は強ち嘘じゃない。」

「名前も姿も知らない犯罪者が、お前に目をつける。別に、落第街に限った話じゃない。」

「お前は今まで、"たまたま"目をつけられなかっただけだ。そう言う意味では、幸運だったな。」

恐怖とは隣人だ。
何時その扉があけられるかはわからない。
特にこの島は、そう言った連中が何処に潜んでいるかはわからない。

「……もし、今のがあたいではなく、本当にお前を襲ってきた相手だとして……例えの話だ。」

「お前は、自分の異能を使ったとする。」

「────それでも、お前は、傷つけた相手を慈しみ、後悔するのか?」

水無月 斬鬼丸 > 「覚悟…覚悟ってそんな…なに、なにを……あんた…
ちょっと会ったガキに…手ぇ飛ばされてもいいなんて覚悟っ…!!
ばかっ!馬鹿かよっ!!
頭いいんだろっ!!なのに……そんな覚悟なんて!!」

もはや言葉にならない。
頭に血が上っている。
相手を否定する…というわけではない。
怖かった。斬ったとして、間違ったとして、それすらも怖くないと言われたら、覚悟していたと言われたら。
自分はどうやってその間違いと向き合えばいいのかわからなくなる。
なにより、彼女に対しての負い目を一生背負うことになる。

噴き出す女に対して、こちらはにらみを効かせ、歯を食いしばった怒りの…
いや、泣き出すのをこらえているようにも見えるか。
代理人がなだめ優しい声をかける間に、その勢いも萎えていき
やがて、苦しそうな、悲しそうな、そんな表情を見せていく。

「たま…たま…?」

彼女の投げた問。
そうなる可能性は…多分にあった。
襲われたら?力を使ってしまったら?考えなかったことはないわけではないが…

「………慈しみなんてしないし…後悔だって…多分しない…
だけど、なんだ…嫌な気分には…なる…たぶん」

Nullsector > 馬鹿。
ストレートな罵倒だ。否定する気にも、怒る気にもなれない。
相手が子どもだからとか、そう言うのじゃない。
"的を射ている"からにならない。
そうだ、馬鹿だ。大馬鹿者だ。
そんな馬鹿だからこそ考えた、計画した、憎んだ。
その結果、犯罪者まで身を堕とした。
ペラペラとそんな事を話す気は無い。
けど、そんなストレートな気持ちをぶつけられてしまった女は……。

「ごめんな。」

謝った。謝ってしまった。
申し訳なさそうな、はにかみ笑顔。
さっきまでの態度は何処へ消えたのかわからない。
どうしようもなく、どうしようもない位の寂しい笑顔だ。

「嫌な気分にはなる、か。……それでいいさ。人を傷つけるのは、嫌な事だ。お前はよくわかってる。」

「だが、そう言う奴等は必ずいる。そう言うのは巧妙でね、こういう場所でも顔を出さないものさ。」

「けどな、嫌な事を承知で言おう。もし、お前自身がそうなった時、お前の人間がそう言った連中に襲われた時は……」

「ほんの少し、あたいの覚悟を持って行ってくれないか?躊躇いなく、その異能を使わなきゃいけない。」

「その時、ほんのちょびっとだけ怖くなる覚悟……勿論、そうならないようにするのが一番だけど、出来るかい?」

まるで子供を諭すような、穏やかな声音だ。

水無月 斬鬼丸 > 謝った。
強気、軽口、煽りのプロ…
そう思っていた。だが、こちらのなんのひねりもない言葉に謝った。
その表情を見ればわかる。
嘲り、侮辱、余裕…そんなものはなかった。
覚悟を持っていた、多くの悪行をなしたであろう女性が普通に謝ったのだ。
その姿を見れば…それ以上なにも言うことなど…

「いいよ」

それが精一杯。
きっと彼女だって…そうなんだ。
そんな覚悟…本当は…。

彼女の言葉は、まるで自身のこともに言い聞かせるような声色。
危なくなったら逃げろ、隠れろ、ブザーを鳴らせと教える…母親や教師のような。
無理強いするわけでもない、だが、その自分の足りない部分を後押しする言葉…
それに対して、ゆっくりとうなずいた。

「わかった…でも、なんで俺に…そんなこと、教えてくれるんだよ…」

言葉を受け止めた上で、浮かんだ疑問。
他にも山ほどいるんだろう。自分のような学生は。
何度も同じような覚悟を決めて、同じようなことをしているのか?
まさか…

Nullsector > 「……ありがとう。」

何の捻りも無いお礼だ。
そこに他意はない。他意はないからこその、"精一杯"。
常にいっぱいいっぱいの大人なんだ。

「なんで?ふ、最初に言った通りさ。あたいの邪魔をしないように、ってだけさ。」

余計な連中に利用されないように、と言う念押し。
念押し一つしても余りにも体を張っている。
きっともっと単純な感情だが、彼女はそれを口に出す事は無い。
気づけば先程と同じような気だるそうな表情に戻って、態度もどことなく素気ない。
"そこには初めからいなかった"。そう言わんばかりだ。

「…………。」

「……確かに、似たような覚悟をしてるやつはいるだろうな。風紀や公安、生活委員……。」

「自分から暮らしを護ろうとする連中は、皆相応の"覚悟"を持ってる。けど、だからって張り合う必要はないよ。」

「斬鬼丸、そのままでもいい。ほんのちょっぴり、怖いものから皆を護れるだけでいい。……下手に背伸びしたって、コケるだけさ。」

昨日今日で、一朝一夕で手に入るようなものではない。
何事も段取りが必要なものだ。
それに、彼のメンタルを考えれば、下手に比較対象を比べさせては、またヘンに捻くれる可能性だってある。
打算的な考えを含んでも、よそはよそ、うちはうち。
それだけはしっかり説きつつ、ちょいちょい、と手招きをした。

「……少しだけ、耳を貸せ。」

水無月 斬鬼丸 > こんなところで、こんな経緯で
交わすのにはあまりにも普通すぎる会話。

ごめんな
いいよ
ありがとう

これだけなのに…なんだか、彼女に触れた気がした。
だからこそ、彼女が元の…『代理人』に戻ったとしても
その言葉に耳を傾ける気になった。

「確かに、邪魔する気はなくなったけど……」

それにしたって気合が入りすぎている。
そのために手首から先、腕一本、もしくは命…
賭けるにはあまりにも不釣り合い。

もとに戻った彼女…ではあったが、その言葉には先と同じく…
どこか妙な、優しさのようなものが見え隠れしているようだった。
覚悟と、そのあり方を教えるにしたって…妙に不器用に見えた。

「その、できるだけ…頑張ってみる。護るって言っても…そんなひと、いまはいないけど…って…え?」

護る対象は今のところはいない。
友人などと言えるのは……小夜さん?
いや、あの人は同じ部活の…。
……栂さん?シュシュクル?どっちにしても、護る必要があるようには思えない。
少し悩んでいると、耳をかせと言われた。

素直に彼女の方へと耳を向けて寄せる。
先のことを思えば、無防備に不注意…なのではあるが…

Nullsector > 「…………。」

「……此れは、余計なお世話だけどね……自分に"善意"で接する相手は、護る人って思った方がいいよ?」

「力の強弱はともかく、お前しか動けない時があるかもしれないからね。お前は鬱陶しいと思ってても、失った時の喪失感は計り知れないからね。」

人にいい奴程に、いなくなった時の穴埋めは難しい。
今でこそそうやって憎まれ口一つ言える相手が言えるだけ充分だ。
それをありがたいもの、かけがえのない日常の"一つ"と考えれるようになれたら
きっと、彼の心を成長するだろう。

耳を寄せた相手に、女はそっと顔を近づける。
小さな吐息がかかるほどに、その唇は近い。
その口が語るのは────。

Nullsector > そっと、女の顔が離れていく。
女は何も言わない。
『それをどうするかは、お前次第』
そんな感じで、少年の目を一瞥した。

水無月 斬鬼丸 > 護る…なんてのは、戦えるやつのやることで
自分はそうじゃない。なんて…どこかで思っていた。
でも、彼女の言うことは腑に落ちた。
戦えなくても…やれるのが自分だけだった時、やらなくては…それこそ嫌な気分になる。
そのとき、力に怯えて、傷つけることに怯えて
なにも出来ないんじゃきっと…

「……わかった」

うなずいた。正直、まだ怖い。
力を使うのも、それを鍛えるのも。
でも、使うときに使う…『覚悟』を受け取ることには
もう怯えはなかった。

そして、寄せた耳に残った彼女の言葉にうなずく。

「ありがとうございます、『代理人』さん。教えてくれて…」

Nullsector >  
「……しつこいようだけど、気負うな。"お前はお前のままでいい"。」

「ヘンに決めるよりは、嫌な気分は嫌な気分のままで、慣れなくていい。慣れていいものでもない。」

「まぁ、そのままだとストレスで死ぬからな。それこそ、お前の周りの連中と適当に遊んでおけ。……まぁ、あたいも暇なら付き合ってやるよ。」

素気ない態度は相変わらずだが、お節介もお節介だ。
彼が普通に暮らしてる限りはきっと、大丈夫だろうが
"もしも"の事を引き摺り続けるのはよくない。特に、引っ込み思案
メンタルケアの術はこうやって口に出した方が早い。

「──────……。」

ちょっと目を逸らして、溜息を吐いた。

「……"さん"はよせ……。」

ちょっと声が上擦った。さては、照れているな?

「……ああ、それと。お前の異能はまだまだ未知数な事が多い。」

「異能の使い勝手の向上、能力強化が必ずしてもいい方向に動くとは限らない。」

「……少しでも違和感を覚えたら、私に連絡しろよ?」

……少しは良い目をするようになった。
口元を緩めれば、そっと手を差し伸べた。

「帰ろうか。……こんな場所でも、人がいることを忘れるな。」

「その上で、今のお前は此処にいるべきじゃない。変に長居する前に、帰るぞ。」

水無月 斬鬼丸 > 「それは流石に、慣れないとは思うんで…。
ってか、変に覚悟決まってる人たちに比べりゃ豆腐みたいなもんっす…俺の覚悟なんて
だから、まぁ、なんつーか…はい、そーします」

肩の力が抜けたのか、彼女に対する不信感が払拭されたのか
少しばかり言葉か軽くなった。
彼女がささやき、教えてくれたことは、そう思うに足りた。
だからこそ、彼女の仮面…通称に『さん』をつけてみたが…

「……あー…ヌル…さん、のがよかったですかね…」

そういう問題かどうかはわからないが、バツが悪そうに頬を掻く。
出歯亀なお節介焼きの優しい犯罪者。
そんな彼女でも照れることはあるらしい。

「未知数…っすか…。流石に、そのへんは詳しくないんで…
そんときは、その、よろしくおねがいします」

確かに、自分の異能に関しては…嫌な予感はある。
異能が成長していけばどうなるか、自分が努力を続ければどうなるか
きっと恐ろしいことが起きる。
それは、なんとなくわかっているから…

差し伸べられた手をとった。

Nullsector > 「…………。」

「……好きにしろ……。」

はぁー、クソデカ溜息。
そう言う話ではないが、こう言うのは厄介だな。
意外とこういう純粋な声音でさん付けされるとむず痒いのがよくわかった。
……ちょっと耐性つけるか、口元ハッキングしておこうかな、と、ちょっと思った。

「ああ……こちらこそ、な?斬鬼丸。」

程なくして、相手の携帯には見知らぬメールアドレスが届くだろう。
彼女のアドレスだ。
そのままとった手を優しく握った。
我が子を護る親の様に、優しく包み込み
暖かい体温に包んだまま、その場を去る様に誘導するだろう…。