2020/07/06 のログ
ご案内:「実習区・雑木林」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
ご案内:「実習区・雑木林」に彩紀 心湊さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 > 実習区。数多の生徒が己が技術を研鑽する場。
炎天下の真昼間にて、男は木陰の下座禅を組んでいた。
何時ぞや、とある少女に技を教授すると約束した手前
其の約束を果たすために男は少女、心湊を呼び出した。
……まぁ相変わらず機械音痴過ぎて送り出したメールの内容が
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件名:〇〇月××日某時間にて待つ
(学園都市マップに実習区がチェックされた.Jpeg)
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……と言うものなので、スパムと勘違いされてもおかしくはない。
当人はそんなミスに気付くはずも無く、その意識は静寂。
微動だにすることなく、汗一つかくことなく
自然の一つの様に、涅槃と一体化していた……。
早く己の過ちに気づけ。
■彩紀 心湊 > 「………。」
届いたメールにはなんとも神妙な顔をしたというのは後日の言。
まあ、あの男性ならこのようなメールを送ってきても仕方がないというか、知ってたというべきか。
むしろメールが届いただけ偉いと言えるかもしれない。
さて、呼ばれたとおりにやってきた少女であるが、探すまでもなく存在感を放つ男はすぐに見つかることだろう。
木陰で座禅など組んでいる男といえばまっ先に目に入るのも然りだ。
「…来たわよ、紫陽花さん。」
ゆっくりと、近くへと歩み寄る。
汗をかいていないのを見れば、一周回って実は熱中症なのではないかと疑いたくもなる。
もっとも、この男に限ってそんなことは無さそうだが。
■紫陽花 剱菊 >
声を掛けられて幾何かして、男は漸く目を開いた。
「……良くぞ、参られた。」
感心と言わんばかりに少女を見上げる。
相も変わらず、涼しげで不愛想な表情をしているが
あんな地図を写真撮っただけのクソ見づらい画像だけでこれた心湊ちゃんを褒めるべきでは?
わからないんだろうなぁ。本人は至って真面目だもの。
「……体の具合は如何に?問題が無ければ契を……それから直ぐに修行に入る……。」
静かに男は語る。
心頭滅却すれば火もまた涼しと言うが、心なしか彼の周りだけちょっと涼しい気もする。
完全に気のせいだけど、プラシーボ効果だ。
■彩紀 心湊 > 「ええ、我ながらよく理解ったと自画自賛したいところだわ。」
心意気よりもここに参る方が大変であったのは言うまでもない。
これも修行の一環?なのかもしれないが、多分違うんだろうなぁ…と内心は思いつつその仏頂面を見て小さくため息を付いた。
「身体は問題はない…。修行も大丈夫よ…。終わったら私からも修行させてほしいけど。」
彼女から彼にする修行。言うまでもない。電子機器の取り扱いである。
■紫陽花 剱菊 >
「……うむ。」
うむ、ではないが?
とりあえず、って感じで返事したぞコイツ。
心湊ちゃんが如何に苦労して此の実習区にきたかわかってないんだろうなぁ。
事実的な訓練区だからきっと広いんだぞ!(公式MAP見る限り)
弟子の苦労師匠知らず。座禅を崩し、ゆっくりと立ち上がる。
「先達に当たって……先ずは先も申した我等が世界の術を授ける。
老若男女……あらゆる人間が使う事の出来る術だ……。」
男の手元には銀色の刀身をした小太刀が握られていた。
彼の異能のよる武器生成だ。
躊躇なくそれを己の手のひらに押し当て…首を傾げた。
「……心湊から私に修めるものが……?はて……。」
皆目見当も付かない、と言った具合だ。
閉鎖的異邦人文化、此処に極まれり。
■彩紀 心湊 > 「……。」
曖昧な笑みでその返事に応える。
後でみっちりしごいてやる。そういう意味も含まれているのは言うまでもなく。
立ち上がったのを見れば、一歩退いて彼を見る。
その身長差は改めて並んで立ってみれば中々のものだ。
「…ええ。それ自体は問題ないわ。出来得る限り、やってみましょう。」
同じく、鞄から以前渡された小太刀を取り出す。
おそらく使うのだろうと、一応持ってきたものだ。
「………まさかこの前帰り道教えてあげた程度で完璧とか思ってないでしょうね…?」
武道ほどではないにせよ、学ぶことは多い。
こと、機械に関してはシニア世代に教えるのと大差ないのではと女学生は思った。
■紫陽花 剱菊 >
「…………。」
その笑顔の意味なんて一切分かってないぞ!
変な所で人の心に疎い。
さて、掌に押し付けられた刃は徐々に手の中へと沈んでいく。
当然手のひらから穴を開けられた水風船が如く鮮血が溢れていく。
瞬く間に手のひらは赤く染まり、血の溢れる手を差し伸べる。
「……手を……。」
要求。
此れより自らの能力を授けるものだ。
価値観の違いはあるとはいえ、ある程度良識の感覚を持っていれば
躊躇なく己を傷つける行為、涼しい顔をしている彼にある程度不気味さを感じるかもしれない。
「…………。」
「…………?」
此の前の帰り道とは一体。
何も見当ついてないぞ、コイツ!
■彩紀 心湊 > 「……スマートフォンの取り扱い…基礎の基しか理解っていないようだから。」
ここまで言わねばならないのかこの男。
公安。誰か彼の世話をする公安はいないのか。
それはそれとして。
「……え…。」
常軌を逸した光景。
フィクションならありがちではあるが、これは現実だ。
あまりにも現実味のない行いを男は平然とやってのける。
「…え、ええ……。」
手を、と言われれば。
おとなしく差し出すことしか出来まい。その行いが、少なくとも自分のために行われたことだけは頭で理解できていたから。
とはいえど、これから何が行われるか、それは想像もつかないわけで。
■紫陽花 剱菊 >
「すま……?」
あ、先ず機械の名前さえわかってなかったぞ!
仕方ない、携帯端末しか教わらなかったもの。
こんな大の大人に、説明する方がすくないのだ……。
「─────……。」
差し出した手を握る。
ぬめりとした血の感触、生暖かさ。
不快感と手の冷たい感触に包まれるおどろおどろしさ。
その背筋に妙な寒気を覚えるかもしれない頃合いで
男は自らの口元に二本指を立てた。
「契────始────。」
言霊が発せられると同時に
"ずるり"と嫌な音を立てて、その爪先から男の血が侵入する。
そこからは不快感の連続だ。全身の血流がわかる。
血の流れが肌身を以て感じられる。寒気と動悸に苛まれ
巡る血液が"入れ替わる"かのような錯覚。
内側から血管が圧迫され、押し出されるかのような
内側から何かが飛び出そうな恐怖。"自分が自分じゃなくなる感覚"。
炎天下だろうと文字通り全身が冷える体験をした一刻────。
漸くそれらは治まりを見せる。
体に特に変化はない。
急に岩を砕いたり、空まで跳躍するほどのスーパーパワーが手に入る訳では無い。
「……大事無いか?」
心配そうに、男は尋ねた。
■彩紀 心湊 > 「っ………。」
生暖かい、ヌルリとした感触。
不気味な温もりの先を不安そうに見つめれば、男の言葉とともに動き出した血液に目を丸くする。
「ちょ…っ…!?な…っぅ…ぁ………?!」
寒気がする。立ち眩みが更に酷くなったかのようなふらつきを、吐き気を覚える。
入り込んだ爪先からゾワゾワと己の身に何かが侵食してくるかのような感覚に耐えきれず、思わず膝をつく。
何が起きている。私は男に騙されたのか?
そんな思考すらもまともに定まらず、意識を投げ出してしまいたいと悲鳴を上げかけたところでそれは治まり始める。
「……………こういうのは…事前にもうちょっと説明すべきよ…。」
大量に吹き出る汗に、整わない呼吸。
深く、深呼吸を繰り返した後に、皮肉げにそう返した。
■紫陽花 剱菊 >
「…………済まなんだ。必要な事だったので…………死にはしない故……。」
死ななければ良いという問題ではないのだが、平謝り。
先の事も含めて、全体的に価値観のズレを感じるかもしれない。
自ら膝をついて、肩を擦ろうとした。
「今授けた術が、我が世界より伝わりし陰陽道。己が血を媒体に、あらゆる奇蹟を行使する理外の術……。」
そっと手を離せば、立ち上がり、適当な木に血液の円を描く。
「……特別な才能も必要無い。自らの中で奇蹟を思い描き、言葉に発するのみ。代償たる血が足りるのであれば……。」
「────發!」
男の言霊と共に、気がひしゃげる。
まるで万力にでも潰されたかのように、音を立てて太い幹が押しつぶされ
憐れにも木の葉を舞い散らせて倒れてしまった。
「……此の様な事も出来る。」
男は実証してみせた。
如何なる術なのか、目の前で、雄弁に。
……さて、察しが良ければある程度思う所があるかもしれない。
"誰にでも使える術"。それは即ち、どんな一般市民でも目の前で越した術を行使する
誰もが相応の戦闘力を所持する事になるのが当たり前だという世界。
そうでなければ生きられない乱世の世。
一般社会で暮らしたその身心に、授けられた"力"は如何なる手ごたえを覚えるだろうか……?
■彩紀 心湊 > 「……一瞬死ぬかと思ったけど…。」
死にはしないというのも聞いていないわけで。
もっとも、そういうタチなのだと事前にわかっていながら質問をさしてしなかった自分にも責はあるかもしれないが。
肩を擦られれば、ゆっくりと息を吐いて立ち上がる。
「…陰陽道、ね。……って。」
血が足りればと、簡単に言ってくれる。
そもそも、現代社会に置いて血を流す事自体さほど気持ち良いものとはされていない。
血を自ら流して、それを利用するなどということはかなり思い切りがなければ出来ることではないだろう。
あと、その木勝手に折ってよかったの?というついでながらの疑問。
「……才能がなくても使える…っていうことは、こういうことが頻繁に起こってたのね…アナタの世界は。」
小さく、ため息をつく。
覚悟はあったが、なるほど。それに足るだけのものを問われるわけだと肩を落とした。
■紫陽花 剱菊 > 現代社会において、此れほど不釣り合いな術は無いだろう。
だが、彼のいた世界ではどうだろうか。
当たり前のように戦がおき、当たり前のように人が死んでいく。
其処に民草も武人も無く、ある意味等しく血が流れる。
一撃。一撃受け血を流した時、その血を以て報復する。
そこに技量は必要なく、術一つ以てして完了する。
────乱世の世に編み出された余りにも非情、無常の技。
一般人を瞬時に戦力に変える非業。彼のいた世界の過酷さを、身を以て知る事になったかもしれない。
「……死ぬ程では無い、安心召されよ。」
それが皮肉か冗談の類ともせず、言ってのける辺りやはり生真面目だ。
「……契は結んだ。故に、後は其方の想像次第。代価と想像。二つの陰陽交えて術を成す。」
故に、陰陽道。
血を代価とし、想像力を以て奇蹟を起こす。
裏を返せば、その代価を支払えば一般人でもあの木以上の事を起こし得るだろう。
彼の世界では、それが"当たり前"なのだ。
「……差し当たって、修行に入る。あの小太刀は、持っているか……?」
■彩紀 心湊 > 「……全く。」
安心しろと言われても、ことが過ぎ去った後だと僅かに口先を尖らせて。
貴重な体験ではある。
コレが当たり前とする人間にとっては確かに"死ななければ問題はない"のだろう。
そして、血を流すことですらメリットに変えなければ生き残れない乱世というものの断片を垣間見た気がする。
「……代価と想像。と、ええ…小太刀はちゃんと持ってるわ。
それで、具体的にはどういった事をするの?」
いつか貰った小太刀を手にとって、そちらを見る。
おそらくは、想像するにまずは血を流さねば始まらないのだから…と思うと血の気が失せる気がした。
■紫陽花 剱菊 >
何をすればいいのか。
男は悠然とその場に立ち、心湊を見据えた。
夏の涼風が糸のような黒髪を撫で、僅かに暗い瞳が少女の体躯を捉えている。
「……うむ。基礎的訓練は後程にて……。」
走り込みなどの基礎体力付け。
此の辺りは日常の合間にでもやれる。
先ずは、身に着けるべきは小太刀の使い方。
「……つづがなく、至極単純。如何なる手段を用いても良い。
其方に在った"使い方"を身に着ける。即ち……」
「私に一本、取って見せろ。」
至って単純な命題が下された。
■彩紀 心湊 > 「は、あ…?」
今、なんと言った?
正気だろうか。もう一度言ってほしい。
一本取れ、と聞き間違いでなければ男は言った。
基礎もできていない人間が、歴戦の人間から一本取れなどということは正直なところ無茶ではあるまいか。
「…ソレはつまり、どんな手を使ってでもってこと…?」
それしかない。
そのどんな手、というのも平和ボケした人間からすれば限られたものではあるのだが、制約があるとないとでは大きな違いだ。
少なくとも、多少無茶というかこちらが全力で挑んだとしても向こうが死ぬような男ではないと確信できるからこそ出来ることではあるが。
■紫陽花 剱菊 >
「如何にも。」
頷いた。生真面目な男、一切の嘘は吐かない。
「異能、地形、体躯、話術。如何様な方法を問わない。ただ、私に『参った』と言わせれば其れでも良い。」
少女の思う事は尤もである。
乱世の世で生きてきた人間と
異能があり気の世界とは言え、今の今迄学生身分だった少女。
果たして、食いつけるか否か……。
が、男は一矢報いる事も出来ると本気て思っているのだろう。
「……剣は、"握るだけに非ず"。己が最も得意とするものを先ず身に着けよ。千里の道の一歩は其処からだ。」
握って振るだけではない。刃とは、如何様にでも出来る。
幾千、幾星霜と刃を振るい続けたものの言葉。
……正直言ってること自体も大分ぶっとんでいるのだが、やるしかないのかもしれない。
男は静かに、そこに立っている。
■彩紀 心湊 > 「…わかった。」
さて、困った。
ここでそれは止めてよと言うのは簡単だが、この男、おそらくコレ以外の方法を知らないのは今までの行いで分かる。
本気でコレが適していると思っているし、こちらにその気がないのならソレまでとする人だ。
「…握るだけに非ず、ね。ええ、最初から握る気なんてあんまりないわ。」
小太刀を視る。
すると、それはふわりと動き出し、その剣先を男へと向ける。
念力。念動力によるものなのは明らか。
それは男のもと目掛けて、真っ直ぐ放たれる。
■紫陽花 剱菊 > 「……参られよ。」
凡そ憶測通りだ。
余り指導者には向いていないタイプだが
実践値における修行法は間違いなく嘘ではない。
そして、いざ実戦となれば口数は極度に減る。
一切喋ることなくそこに佇み、相手を見据える。
瞬きもせず静かに、微動だにもしない。
浮いた刃を見るに、ある種の妖術、或いは念動力か。
空を切り、飛んでくる刃を一瞥し、最低限半身を逸らして回避した。
「……速度は悪くない。軌道は単調だが……。」
如何なる兇刃も、見えているのであれば容易い事。
それで終わるとは一分も思ってない。
既に男は、次なる攻撃の対処へと動いている。
■彩紀 心湊 > さて、先ずの一撃は容易く避けられた。
しかし、その刃は自らが制御し、動かすもの。
小さく指を動かせば、過ぎ去った刃は振り返るように男の背面へと飛び込んでいく。
「(けれどまあ…この程度じゃ駄目、でしょう?)」
理屈がわかっていれば、過ぎ去った刃を警戒するのは当然だ。
だが、一つにだけ集中させなければその限りではないかもしれない。
視線を移すは先程折られた木。
それなりの重量があると思われるそれも、ふわふわと上空を舞う。
そして――
「落、ちろ……っ」
折られ、鋭利となった先から遠慮なく男の頭上目掛けて叩き落とされる…!
■紫陽花 剱菊 >
次は如何なる一撃か。刃を曲げるか、或いは分身でもさせるのか。
発想力こそ武器である。それは、先の陰陽道と同じ。
全身の神経を張り巡らせ、あらゆる音、動き、気配と気を巡らせ────。
「(木────成る程。)」
念動力、物を動かす異能であるならば自明の理か。
頭上に浮かび上がった木を一瞥し、鋭利な切っ先が落とされる。
当たれば致命傷、それを無遠慮だと思わない辺り価値観の違いが此処でも出ている。
落とされる木に対して男は────。
即座に手元に生成した小太刀を握り、鋭利な切っ先に刃を添えた。
側面から押し付けるように木を受け流したのだ。
周囲に舞う土煙に男の姿が包まれる。如何に高い戦闘力を持ち得ても人は人。
透視の力を持っている訳では無い。隣に落ちた木をせに、不明瞭な視界を一望した。
■彩紀 心湊 > 「……冗談。」
映画でも見ている気分だ。
こうも簡単にあれだけの質量がいなされて溜まるものかと思いたいが現実である。
だが、役割は十分。
先程翻した小太刀が既に男の背中目掛けて放たれている。
「…(後一手。)」
相手にはどこまでも余裕がある。
それを一瞬でも崩さぬ限りは勝機はない。だとするならば、次なる手は何が必要か。
「――日の元より炎と変わりて 我が手に集いて力となれ。」
詠唱。
同時にその手から放たれるのは炎の魔法。
この世界における、単純でシンプルなもの。
男の刀は背後の刀と前方の炎、どちらも断ち切れるだろうか。
■紫陽花 剱菊 > 土煙が徐々に晴れていく。
が、視界が鮮明になる前に背後から空を切る音がする。
まだ、あの小太刀は"生きている"。
自らの小太刀を構えた途端、前方なら僅かな熱を感じる。
「(────挟撃か。)」
成る程、やはりよく頭の回る子だ。
最初の一打で気を引き、二打で印象をつけ、三手を以て詰ませに来る。
悪くはない手法だ。
自らの小太刀を逆手に持ち、身を素早く翻した。
背に迫る小太刀を身をよじることで避け、僅かに髪先が宙に舞った。
振り被った小太刀を強く握り、一閃。
勢いのまま振り下ろす。空を切る、と言う言葉があるが
一振りにて前方に強い風圧が舞い起こり、迫りくる炎を文字通り"両断"してみせた。
吹き飛ばされた土煙の向こう側で、黒い双眸が少女の体躯を見据える。
一度地面を蹴れば、一足。心湊が飛ばした小太刀の如く
剱菊自らが空を切り距離を詰めてくる。
追い払うか、距離をとるか。
何も出来なければ、冷たい刃の感触が首元に押し付けられることになるだろう。
所謂寸止めだ。
■彩紀 心湊 > 刃は躱され、炎は両断された。
そして、男がこちらへ迫ってくる。
本当に一瞬だ。
こちらの手札に、即座に壁となるものは存在しない。
ましてやこの速度だ。
先に動き出していなければ、詠唱も念力も間に合わない。
「…っ……。」
息を呑む。
だが、"そうしてくる"という確信めいたものはあった。
「そのまま…来い…っ」
男が地を蹴るよりも、先に動いていたものは一つだけある。
それは身を捩って避けた先ほどの小太刀。
男と、再び心湊の元へと戻り立ち塞がる刃。
どちらが疾いか。
「――(防御は、間に合わない…?!)」
普段見えない世界だ。1秒すらも惜しい。1秒すら無駄な動きをすれば負ける。
わずかにだが先に帰ってきた小太刀、それは果たして防御に使えるだろうか。
答えは否だ。なれば――
戻った刃は彼女を守ることなく、男へ向けて突き出される。
■紫陽花 剱菊 >
戦とはまさに刹那のせめぎ合い。
それを見誤った方が負ける。
一手一手最善を打てれば越した事は無いが、それが出来れば苦労はしない。
例え如何なる相手でも、戦いとは不条理なもの。
自らの優位性などを毛ほども男は慢心しない。
疾風が如く迫る刃。心湊の首元を迫る最中────。
「──────!」
先に避けた刃は、まだ生きている。
戻ってきた小太刀を防御に使う気か、否、違う。
"切っ先は自分に向けられている。"
「(成る程──……!)」
押し出しが良い……!
突き出された刃を咄嗟に振り抜き、打ち合いに持っていく。
金属同士がぶつかり合い、甲高い音が響いた。
ギリギリと刃同士が押し合う形になるが、剱菊の方から力を抜いた。
受け流す様に、打ち合いの形を解こうとする。
「……良い判断だ。間に合わぬと見てから、相打ち覚悟か……然れど、未だき甘い。間に合わっていなければ、首と胴が泣き別れ……。」
「其方の異能は理解した。察するに必要なのは……此の間合い。」
互いの刃が、拳が、迫り合うこの至近距離。
此の間合いにこそ技量が必要だ、と。
■彩紀 心湊 > 「……っ。」
念動力と男の筋力の鍔迫り合い。
それは男が先に力を抜いたことで収められた。
しかし、このまま続けていれば押し切られていたことだろう。
そして何より、これより先の手はなかった。
「………はあ…。
分かってる…。正直、もうちょっと準備を整えてから挑むべきだったかしらね…。」
近づかれてしまえば、脆い。
それは自分もわかっている致命的な弱点だ。
もっとも、ここまで高速で距離を詰められるとは思いもしなかったが。
「この間合い、ね…。難しいこと言うわ…。」
男の示された意味を理解して苦笑する。
やはり…とはいえ、どう抑えるべきか。それを訓練となると…中々骨が折れそうなものだ。
■紫陽花 剱菊 >
「否、素人にしては……────。」
口にして初めて、男は自覚する。
確かにこの島も此の世界も、途方も無い争い事は起きていたかもしれない。
"だが、誰も彼もが戦わざるを得ない自分の世界とは違う"。
確かに異能者が溢れる世界では在るが、そのどれもが刃を手に取る世界ではない。
寧ろ、彼女に手取らせたのは自分だ。
自らの世界との差に、愕然と心が揺さぶられた。
「……否、私こそ端倪(たんげい)を推し量れずにいた……。」
収穫が在ればこそだが、異能者だからと言って"そういうもの"ではない。
憂いに眉を下げ、静かに頭を下げた。
相も変わらず生真面目だ。
「……差し当たって、先ずは体裁きを鍛えるとしよう。小太刀の扱い、基礎体力と身心の強化……。」
近距離の間合いを詰めるにあたっても、それが重要だ。
「……其れと、予言(かねごと)を二つほど。」
人差し指と、中指を立てる。
「一つ、小太刀を飛ばすのは必殺、必中を心掛けよ。其れは其方の命綱。投げ捨てる時は、命を投げると胸に止めよ。」
素手と一本持っているのでは差が生まれる。
女性の手でも比較的扱いやすい武器だ。
今から鍛えるので在れば、先ずは此れを約束とする。
人差し指を折り曲げ、二つ目の予言。
「二つ。……此れは無理にとは言わぬ。武を心掛けるものは日常は無く、全てが戦場。
即ち、警戒しない日々は無い。其方に此れを押し付ける訳では無い。
然るに、"急所"だけは咄嗟に庇えるように心掛けよ。」
首、胸、頭部……人間の人体は脆く、特に急所に入れば即死もあり得る。
剱菊の様に常に武に行き、安念を捨てさせるのは罷り成らぬ。
であればこそ、先ずは死なない心構え。
先の予言と合わせて、二つの目標を持たせることにした。
「……さて、少しばかり休息を挟むとしよう。焦った所で、意味は無い。急がば回れ、だ。」
■彩紀 心湊 > 「…難しい言葉使うのね、相変わらず。」
分かるけど、と苦笑して大丈夫だと手をふる。
この感じ、おそらく男がこの世界で誰かにものを教えるというのは初めてだったのだろう。
されど、そんな世界で生きてきた男の鍛錬を受けると言ったのは自分であり、そこは通すべき筋だ。
その2つの忠告は、何も言わずただ男の目を見て聞いていた。
理にかなっている。
現に、手元に何も残さなかったからこその最後の手だ。
手札のカードを全て切ってしまう状態は好ましくはないというのは今のでしっかりと理解ったつもりだ。
「少し、ね…。私としてはもう大分疲れてるのだけど…。」
最初の揺さぶられるかのような衝撃と、今の模擬戦。
肉体的にあまり動いていないにせよ、疲労するには十分すぎる内容だった。
■紫陽花 剱菊 >
「……済まなんだ。」
未だにこの世界の言葉に成れていない。
けだしに聞いてはいるが、無意識化で話そうとすると中々……。
むぅ、と気難しそうに顔をしかめた。
「…………。」
そうか、争いの無い世界で在れば体力も相応か。
無理はいけない。男は静かに首を振った。
「なら、今日は此処までにしよう。……心湊、時間は在るか?」
「私には食したい"すいーつ"がある、共に食べに行こう。」
焦る必要は無い、彼女は優秀だ。
正しく導けばきっと下手に外道に堕ちる事は無いだろう。
では、と今回は此れにて解散。
彼と共に甘味を食べる為にファミレスへと赴く事になるのだが……
目当ての抹茶ばばろあに在り付けることはなく
先の訓練とは打って変わってテーブルに情けなく突っ伏す姿が見れたとさ……!
ご案内:「実習区・雑木林」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「実習区・雑木林」から彩紀 心湊さんが去りました。