2020/07/10 のログ
フィフティーン > 蒼い軌跡が邪魔するものを区別なく蒸発させる。
怪異の少女は触手を使って姿勢を変え
光の秒針はその少女を焼く事無く
時計盤の文字を通るかの如く綺麗にその上を通り過ぎる。

<戦略レーザー照射完了。>

空気すらも焼いたレーザーは残像を残しながら消滅する。
回避から攻撃のコンビネーションを繋げようとしていた怪異に
機械もまた機体から蒸気を出しながら身構える。
その中で検知された気流の乱れ、
目視では確認できないソレは着実に戦車の前へと近づいてくる。

「興味深い。」

短いその言葉を残す。
その瞬間にまさに超常的ともいえる竜巻が前触れもなく発生し
戦車を容易く巻き込んで、周囲の物体や地上の表面ごと空高くへと巻き上げる。
無数の瓦礫や砂塵の中で打ち上げられた機械の視界システムはザラつき、砂の色に染まる。
暴力的な気流が巻き込まれた瓦礫を引き裂き流れる速度を加速させる。
空気の流れに逆らい形を保つ戦車に音速を超える残骸が次々と衝突する。
違反組織群の一角に発生した巨大な竜巻、さらに暗雲から打ち付ける巨大な雷、
一発では終わらない、ミキサーのように周辺の物体を粉々にするその竜巻を
彩るように、見えない気流が稲妻色に染まる。

「アナタも耐えてみせてください。」

竜巻から一機の戦車が飛び出してくる。
その機体は傷ついているも形はしっかりと保ち、
気流によって加速された機体は発射されたかのように
空中でレーザースラスターを始動し、姿勢を制御しながら
怪異、アーヴァリティの方へとミサイルのように突っ込んでゆく。

<誘電兵器作動。>

先程の激しい落雷でイオン化した空気へ、
まるでカウンターと言わんばかりに機体から
細いながらも雷か、それ以上の電圧の雷撃を纏い
その目標へと降らせながら。

アーヴァリティ > 「吹き飛ばすつもりだったんだけどねッ!」

かなり威力を込めたつもりだったけど。
そりゃまあ装甲とばちばちやる程度しかできなかった竜巻に期待しすぎた自分の判断ミスだ。
さて、反省はほどほどに。
竜巻でロボットを吹き飛ばしてもっとダメージを与えられると思い込んでいた手前、体勢は決して迎撃向きとも回避向きとも言えず。
そしてロボットの攻撃は自身が司ることもでき、ついでに言うなら最も苦手とする雷。
防御手段はシールドのみ、しかし雷と言うのは一方を防いだのみでどうにかできる物ではない...できたら苦労しない。
それでもそれなりに威力は削げるが足りない。

慢心故に、ロボットにそのまま返された言葉を受け止めきれない。
それだけで大ダメージをうけるほど柔ではないが...少々厳しいものがある。
致し方なくシールドを前方に貼って雷をある程度防御する。
防ぎきれなかった雷による激痛が全身に走り、表皮を焦がし、展開したままだった触手を崩していく。
激痛に歯を軋ませながらも、こちらへと突撃してくるロボットへと跳躍して雷以外は防がないシールドを盾に、ロボットの頭を身体強化とともに全力で上から下へと両手で叩きつける。

そしてそのまま前方に回転すれば踵を落とすがいずれもその装甲を破るのには威力不足。
そのまま竜巻と暗雲を散らしてロボットの向こう側へと着地すれば今度は凝縮した状態のままの風をロボットの上で槍のように固め始める。
その装甲を貫けるように、防がれないように、と念を入れており...

フィフティーン > 「ワタシを吹き飛ばすには多大なコストが必要です。」

満身創痍とも取れるような彼女から絞り出された言葉に
淡々と返すのがこのマシン。

<目標まで100...50...25>

衝突まで刻む中、視界内の怪異が突如動きを見せる。
それは飛び上がり、正に自分の突入進路を逆走するように
突っ込んでくる。発生させた雷撃が目の前で炸裂するも
怪異は障壁を展開して激しく減衰させる。
残りの雷撃が怪異を焦がす、正に衝突しようとした瞬間ーーーー

「!!」

視界にノイズが走る、景色が乱れる。
身体強化からの渾身の一撃を空中で受け
凄まじいエネルギーの喪失と共に地上へと叩き落される。

<状況を確認。>

乗っていた速度エネルギーから前から地面を掘り進めるように
埋まりかけてしまったロボット。目標を見失いレーダーを起動して
周囲の状況を高速で処理する。
上空の気流が変化する反応と異常な音響。

<メタマテリアルパッシブ装甲展・・・>

メタ原子を起動し、機体を装甲化させるのに時間は足りていなかった、
上空に現れる暴風の槍は地殻を抉りながら戦車ごと地面に突き刺さる。
砂煙が沸き上がり周辺を砂嵐の如く包み込む。

<電圧低下。電圧低下。>

砂煙が晴れれば一機の戦車の姿。
形は保っている、しかし胴体には大きな損傷。
穴は上から開いて、下へと突き抜ける。
血肉ともいえる機械回路をむき出しにしながら
ショートした電流が辺りへと散ってゆく。

「なるほど・・・モシ、ワタシがアナタなラ、
痛みヲ、感じていたでしょうか?」

乱れて高さが不安定になる機械音声、
痛みを知らない機械はダメージに狼狽えない。
対して彼女は電撃を受けて歯を食いしばっていた。
こんな状況でも機械は質問する、疑問を持つ、知りたい。

アーヴァリティ > 「僕だったら、そうだね。そんな状態で痛くないわけがないね」

魔術師と戦った時両手を持っていかれたことと全身を焼かれた時を思い出す。
腹に穴を開けられて...痛い訳がない。

相手はロボットである。
まだ決着と決まった訳ではないからこそ、その火傷や体組織の損傷は再構築せずに、警戒も解かずにロボットへと歩みを進めていく。

ロボットとひび割れた地面を疲労の混じった、それでいて懐かしげな視線を向けて。

「1号の時は叩きつけただけだったかな?
あの時よりも頑丈だったし、強くなってるね」

あの時より、僕も強くなって、基成長している。
このフィフティーンとか言うロボットは別個体だが、それでもどこか同一視してしまう。
この怪異にとって興味を惹かれたロボットはその二体のみであったから、どうしても同一視してしまう。
このロボットも1号を知っているのだし、理解はしてくれるだろうと言葉を紡ぐ。

「その様子だと授業料は高くなりそうだね。
死ぬ、と言うよりかは壊れることはないだろうから安心してボコせるよ」

あはは、と。対人だと躊躇う威力をぶつけられる戦いはやはり楽しい。
愉快そうな笑い声を広くなってしまった空間に霧散させており。
油断し切ってる訳ではないが、警戒は薄まっていく。必要ないと思っているためだが、その分このようなところで反撃してくるような相手でもないと思っており。

フィフティーン > その怪異は近づいてくる。
ショートするバランサーは時折バランスを崩しかけるが
高度なソフトウェアによる制御はそれを許さない。
ひび割れ抉れて陥没した地面の中央に座るマシンに
その怪異は近づいてくる。

「彼も、まタ、このように戦っタのですね。
ワタシの方ガ、強いのは当然です。」

彼、それは前世代機であるHMTを指す。
どのように戦ったのかは次世代機にはわからない。
ただ、同じように急成長できたという事は間違いない。
数年前のあの日のように怪異とひび割れた機械が
世代を超えて再び向かい合う。

「正直な事を言ウと、
この場デ、決着ガ付くのは惜しいです。」

ノイズ交じりの声でつぶやいた一言。

<リペアナノボット起動。>

開いた穴が緑色の火花を上げながら塞がってゆく。
機体各所から同じように火花が散り傷がどんどんと消えてゆく。
複眼はもう一度彼女を捉え

「アナタもワタシも成長できる存在です。
互いに成長すれば更なる経験を得ることが出来ます。」

すっかり調子の戻った合成音声でそう呟く、
その内容は、かみ砕けば見逃そうという事だろう。
目の前の怪異も機械も全力を出したわけではない、
そして成長の余地があるからこそ一番おいしい機会を待とうと。

アーヴァリティ > 自己修復したロボットに驚きの声が意図せずに漏れる。
まさかロボットも生物のように傷口を自己修復できるなんて、思ってもいなかった訳で。
まあ、1号よりも強い存在であると言うのであれば、それも有り得ない話ではないのだろうか、と。
とりあえず脳内でシュミレートされているロボットの取り得る行動の幅が広がった。

「へぇ、それは...
いいねいいね!最高だよ!
やっぱり君は面白い!」

僕に見逃す、などと。
自己修復したぐらいで偉そうに!
なんて面白いやつだ!

決して見下している訳ではない。
この怪異にとっても、この空気は続行の空気ではなく、それならばこのロボットと自分。お互いが経験を積んだ状態で再戦に臨のが面白いし、最高だろう。

「いいよ!君の言うとおりまたしよう!
また戦り合おう!
成長してまた戦って!さらに経験して、成長しよう!」

これまで成長を続けてここまで来た怪異と、成長への強い意欲を持つロボット。
お互いに望むところが同じとあれば、そうすべきだろう。異論などあるわけもない。
より良い次回のために、今回はもう我慢しよう。そう思っており。

「期待してるからね!今回を我慢する分、次回もっと楽しませてね!我慢できないぐらいに楽しませてよ!」

その幼く短く細い、それでいてしっかりと揺るぎない雰囲気と意思を纏った人差し指をロボットに突きつける怪異。
挑戦的で、愉快でたまらなくて、最高にハイな笑みを浮かべて見せる。

「それじゃあまた会おうね!」

突きつけた指と逆の手を振れば、先ほどまで確かに居た怪異はその身が持つ熱を残してどこかへと跳んで消えた。
そして、その熱もすぐにあたりの空気へと馴染んで、消えた。

フィフティーン > 「ワタシが面白いですか?アナタはもっと面白いですよ。」

目の前の怪異、予想など出来ないものを今までに繰り出してきた。
一体、彼女は他にどのような要素を兼ね備えているのだろうか?
またこれからどのような要素を得ていくのだろうか?
全く、戦いというのは直接的で面白い。

「はい、お互いに成長しましょう、続く限り。」

感情を昂らせている彼女と淡々と佇む機械、
但し、機械もまた成長への欲望を滾らせている。

「そして、ワタシがアナタを倒します。」

無機質だが確固たる決意を秘めたようなそんな一言。
彼女は好奇心の対象であり、また乗り越えるべき目標の一つだ。

「また会いましょう、アーヴァリティ。」

ふわっと浮き上がって去ってゆく彼女を追うように見つめながら
彼女の名前を口にする。
立場こそ違えど互いに好奇心の怪物という意味では似たもの同士。


空を見て気付いたが写真を撮りたいくらいの星空が広がっていた。

ご案内:「違反部活/違反組織郡 free」からアーヴァリティさんが去りました。
ご案内:「違反部活/違反組織郡 free」からフィフティーンさんが去りました。
ご案内:「夜雲電刃」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
ご案内:「夜雲電刃」に神代理央さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
夜の帳が下りた落第街。
そんなスラムの一角に、男は佇んでいた。
かつては雑居ビルとして活躍していた建物も、今やとある違反組織に使われている廃墟と化していた。
違法賭博場、よく聞くような話ではあるが、今回問題になったのはその景品。
強烈な中毒作用と異能強化作用を持った薬物だ。毎夜毎夜、そんな恐ろしい薬物を求め
この賭博場は賑わり返っていたのだ。故に、此処に公安が参上した次第である。
佇む男は、そんな賭博場である雑居ビルを前に夜風に打たれていた。
手に持った銀の刀身の小太刀を振るい、背腰の鞘へと戻す。
その体に掛けられたのは太い弓幹をした漆塗りの弓。
腰に携えた打刀と良い、装備は万全だ。
背中に背負った三本の矢筒が揺れ、男は携帯端末に目を落としていた。

「……………。」

雑居ビルは丸々と違反組織に使われている。
だが、全てがその組織のものかと言われると違う。
ちらほらとだか、そのビルにはそうではないスラムの住人。
二級学生などが身を休める為に使っているそうだ。
静寂に包まれた月光の下、男は静かに待っていた。

"────此れだけの規模の組織、勤勉な彼奴が見過ごしはすまい、と。"

神代理央 > コツリ、コツリ、と。
荒れ果てたアスファルトを叩く硬質な音。
それに従う様に響くのは、重厚な金属音。大地を踏みしめ、踏み砕き、蹂躙する化け物の足音。
夜の帳を業火で覆い、静寂を砲煙で穢す様な音が、佇む青年の耳を打つだろうか。
彼の待ち人たる少年は、普段より幾分青白い顔色と、無数の異形を引き連れて彼の前に現れる。
普段通りの佇まい。普段通りの装備。戦禍を撒き散らす風紀委員会として。

「……珍しく公安が先手を打ってきたから、と泣き言を言われたから来て見れば。嗚呼、成程。貴様か。
確かに、貴様程の男が派遣されたとなれば、怪我人を引っ張り出さずには不安で仕方なかったのだろうな」

凶悪な違法薬物を取り扱う組織への摘発に、先手を打って公安が動いた。この情報は、風紀委員会の過激派に電撃の様な衝撃を与え、急ぎ対応可能な風紀委員を招集する事となった。
しかし、折しも試験期間ということもあって、緊急出動が可能で、戦闘系の異能を保持し、任務に入っていない予備戦力というのは限られていた。
――外出許可を得て、本庁に顔を出していた少年は、その点正しく適役だったと言えるだろう。

「良い夜だな、公安の狗。随分と仕事熱心な事だ」

優雅に。尊大に。
何時も通りの笑みを浮かべた少年は、異形と共に青年と相対する。

紫陽花 剱菊 >  
携帯端末の画面を切り、無造作にコートの裏へと押し込んだ。
生ぬるい夜風が肌を撫で、糸のような黒髪を揺らしながら、男はゆっくりと振り返る。
月輪を乱反射する金糸の少年。まさに、待ちかねた少年神代 理央で間違いはない。
その背後に従えた異形も、忘れるはずも無い。
夜の底の様に暗い、男の双眸が理央を見据えた。

「……養生の身と聞いたが、やはり傷程度では止まらないか……。」

その瞳も、声音も憂いを帯びていた。
若干の呆れ、その生真面目さだ。
学生は試験期間だというのに、緊急出動とは言え蹴る事も出来ただろう。
其れでも出てくる彼の生真面目さに、心配すら抱いている。

「……狗と誹るには、私は忠誠心も協調性も無い。さて……。」

弓柄を握れば、体から外した。
麗しい漆は、影の中でもやけに目立つ黒となり、男の手元で月の様に薄らと光っている。

「短夜の良い三日月よな……理央……言問うに、如何様にして場を治めんとする?」

「此より中は、組織とは関係無き住民が三十と六、息を潜めて夜を過ごそうとしてる。」

「────よもや、撃鉄を鳴らそうというのではあるまいな……?」

男は静かに、問いかけた。

神代理央 > 月下に佇む黒の剣士。
或いは、侍と称するべきだろうか。彼の獲物と身体能力を加味すれば、その方が相応しい様な気がしないでもない。
黒と金。対照的な色相にて相対した二人。しかし、その色が抱えるものは大きく異なる。
漆黒の侍は、人々を守る為に。金色の少年は、秩序を守る為に。
宵闇の色を湛えた瞳を、流した血で染め上げた様な深紅の瞳で見据え返す。

「秩序に。体制に。人々に。求められている限り、私は止まらぬよ。私の力を振るう事によって、救われるものがあるのならな。
しかし、耳が早いじゃないか。箝口令とは言わずとも、風説の流布は控えていた筈だがな」

憂いを帯びた彼の言葉に、小さく肩を竦めてみせる。
耳が早い、という言葉も特段深い意味を持つものではない。
寧ろ、刃を交えた風紀委員が哀れにも病室の牢獄に収監されていたと知った彼へ感想を求める様な。
そんな声色で首を傾げるだろうか。

「首輪で繋がれていれば、皆等しく狗に過ぎぬ。私とて、風紀の狗だと蔑まれれば、それを甘んじて受け入れるさ」

そして、オニキスの様に輝く漆塗りの弓を彼がその手に握れば、僅かに眉を上げる。

「私に与えられた任務は、違反部活の摘発と違法薬物の回収。命じた上層部からは『何時もの様に任務に当たれ』との命を受けている」

「貴様も随分と物々しい出で立ちじゃないか。まるで"誰か"と戦う為に。止める為に抱えた様な武装よな」

「さて、如何にして此の場を収めるか、だったか。私に出来る事は、一つだけ。鉄火の支配者は、巨砲を以て戦場を支配する」

鈍く、軋む様な音を立てて、背後の異形達の砲身が軋む。
避難勧告すら行われていない雑居ビルだったモノ。違反組織と無辜の民が身を寄せ合う廃墟。
己の異形達の砲塔が火を噴けば、倒壊に至らせるのは容易い事だろう。

「………よって。違反組織の構成員をおびき出し、それらを殲滅する。可能な限り、無関係の住民に害が及ばぬ様にな。
貴様がいなければ適当に牽制の砲撃を入れて炙り出すつもりだったが、さて、どうするかね?」

と、彼の問い掛けに答えながら、此方も問いを一つ。彼に投げ返すだろう。

紫陽花 剱菊 >  
男は相も変わらず不愛想な仏頂面だった。
ポーカーフェイスと言えば聞こえがいいが、人によっては何を考えているかわからない不気味さを持っている。
瞬きをする事無く、黒の瞳はじっとその赤色を見据えていた。

「……そうだな。無くもがな、同じ考えだ。」

人々を護るために心を、生き様をあの時まで刃と定めた。
刃とは、人に振るわれて初めて意味を成す。
振るう人間がいなければ、それは兇刃。
外法で在れば、鞘に収まり錆び付くのが人道也。
彼ならそう言うだろうと、思っていた。
理想の差異一つで、互いに対岸にいるだけなのだから。

「……壁に耳在り。調査は我等公安の得手とするもので在れば、必然だ。」

路傍の石から巨悪の影迄、世間の陰に紛れて渡り歩く影の者。
情報一つとって見せれば、其れこそ同じ組織のお膝下にいる以上
風の噂で在ろうと相手の状況は耳に届く。
そうでなくとも、男は戦を、戦いを、"人を殺す手段を弁えている"。
故に、戦力分析を怠るはずも無く、何時もより蒼白の顔が何よりも不調を訴えているのは明白だった。

「──────……そうで在るならば、今の私は忠犬やもしれないな。尤も、私が尻尾を振るのは一人だけだ。」

夜の帳に残されたあの少女、ただ一人。
それを示すかのように、夜雲は三日月を遮り始める。
周囲が本格的に暗くなり、獣の様な男の鋭い目線がひしひしと理央の全身へと突き刺さっている。

「…………。」

が、幾何かその視線の気配は弱くなった。
訝しげに目を細める。

「……"例の如く"、全てを灰燼に帰す訳では無い、と。灰を浴びるのは、其の痛手では些か厳しい、と?」

嫌味だ。

「……訳を聞こうか。私を先駆けとし、可能な限り被害を抑えようとする其方の旨、否……。」

「真意を────。」

影の向こうで、男は静かに言問う。

神代理央 > 仏頂面の青年と、尊大な仕草の少年。
漆黒の武士(もののふ)と、黄金色の砲兵。向かい合う二人は歪であり、互いが異なる思想と理想を持ち、かつて刃を交えた中。
それでも、護りたいものがある事だけは、等しく二人に共通する事なのだろう。護るべきものの定義故に、争い合うのだが。

「ほう?同意を得られたのならば何よりだ。其処で同意を得られなければ、私は公安に苦情を入れねばならなかった」

と、愉快そうな笑みを零し。

「…まあ、公安相手に情報を秘匿しようとする事に無理があろうな。とはいえ、私の異能は。私の力は此の程度の疵で衰えるものではない。……それは貴様が、身を以て経験したであろう?」

万全の体調で挑む事が最善である事は重々承知の上ではあるが。
肉体の疵に比例しない出力を持つ己の異能は、風紀委員会からの使い勝手もさぞ良いのだろう。
まして己は、異形召喚時に微力ではあるが肉体を再生する異能をパッシブに起動している。負傷しているからこそ、出撃を命じられるのも是非もないという事か。

「……ほう?組織ではなく、個人に尻尾を振るというのか。良い飼い主に巡り合えたと見えるが、個人への忠誠は無辜の民を守る理由になるのかね?」

彼が忠義――なのかどうかはさておき――を誓った相手の為に、何処迄の行動が取れるのかと。その相手が望めば、己と同じ様に無辜の民を厭わぬ行動を起こすのか、と。からからと笑みを零しながら尋ねるだろう。
尤も、明確な答を求めている訳でも無い。彼と、その相手にどの様な邂逅と。どの様な逢瀬があったのか。他者たる己が介在出来る訳でも無し。

そして、向けられる鋭い視線に反応したのは、己では無く背後に従える異形達。悲鳴の様な金属音と共に、その砲身は一斉に彼に向けられる。敵意を向けられた主を守る為の自動行動。謂わば唯一彼等が持つ本能と意思。

されど砲火が吹き荒れる事は無く。
彼から投げかけられた言葉に、浮かべていた笑みは掻き消えて彼と同じ様な仏頂面へと。

「戯言を。手疵を負ったからといって、私の鉄火が鈍る事など無い。今すぐにでも、その崩れかけた廃屋を灰塵に帰す事くらい、容易いことよ」

では何故。と、問い掛ける彼に、静かな視線と沈黙。
月光が遮られ、夜の暗幕に紛れた夜風が二人の間を通り抜ける。

「――大した意味など無い。語る程の真意も無い。唯――」

「私は、陽だまりを手に入れてしまった。安寧と幸福を覚えてしまった。それらを享受する権利は、誰にでもあるという事を理解してしまった」

「今更。今更な事だがな。だから、力を振るう事は止めぬ。体制を揺るがす者。違反部活。犯罪者。そやつらにかける慈悲など無い。ただ――」

「……この最下層の街で。存在を認められぬ街で幸福を求める者を。連中を殺める事は、多少控えてやろうと思っただけだ」

「それで、今迄溜め込んだ憎悪が霧散するとは思わぬ。それに、必要な時には私も犠牲は問わぬ。言うならば…我儘だ。唯の自己満足だよ。これが、貴様が聞きたかった真意、とやらだ」