2020/07/21 のログ
ご案内:「ある日の何処か」に北条 御影さんが現れました。
■北条 御影 > ごくごくあり触れた梅雨開けまえのひと時。
御影はスマホを手に自室の机の前、にまにまと嬉しさを抑えきれない様子。
誰に見られているわけでもないので、笑みを抑えるつもりもない。
ただただ、スマホの画面を何度も繰り返し見て、何か操作をしてはまた画面を注視して―
『―だから、此処はこうしてやればキレイに分解できるわけなの。
そうすればほら、分解された式を一つずつ解いていくだけになるでしょ?』
メッセージを打ち終わり、送信ボタンをタップ。
なんてことのない、友人同士のあり触れた宿題に関するやり取り。
ただそれだけなのだが、彼女にとっては何よりも得難いものだ。
ご案内:「ある日の何処か」に城之内 ありすさんが現れました。
■城之内 ありす > デフォルトで設定されている通知音。
メッセージが届いたことを知らせるその音に、ありすはすぐに画面をタップする。
机の上に開かれた数学の教科書とノート。
御影の助言のお陰で、宿題の最後の問題がやっと解き終わろうとしていた。
苦手意識はあったものの、ついていこうと努力はしていたから、助言を理解することはできた。
メッセージが送られてきてから、数分後には。
『終わったーーーーーーー!!!!』
というテンション高めのメッセージと、ウサギが万歳しているスタンプが送られてくる。
『助かっちゃった!ありがとー!!!』
メッセージをやり取りしている相手とは、まだ会ったことが無い。
そのはずなのに、なぜか、友達のリストにそのIDが登録されている。
それどころか、スマホには二人で並んで撮った写真が保存されている。
最初に気付いた時には、怖かった。
だからその連絡先を消そうとタップして、もっと不思議なことに気付いた。
これまでも、何度も何度も、やり取りをしていたのだ。
毎回、ありすが主に数学の宿題について質問して、教えてもらっていた。
だから、勇気を出してメッセージを送ってみて……今に至る、というわけである。
■北条 御影 > 『お疲れ様!お役に立ててなによりだね!』
何処かで見た漫画のキャラクターがサムズアップしたスタンプを付け足しておく。
彼女からメッセージが来るのは、大体は数学の宿題に行き詰った時だ。
そういった理由があるにせよ、こうして「友人」としてメッセージのやり取りが出来ることに改めて喜びがこみ上げてくる。
画面の向こうの彼女も、決して何も考えずに『宿題教えてください』なんてメッセージを送ってきているわけではないだろう。
きっと毎回毎回忘れた上でなお、メッセージを送ってくれてきているのだ。
前にもこうしたやり取りをした記録が残っているから、同じようなことなら、と必死に考えた末でのことだろう。
不安でない筈がない。不気味だと思わない筈がない。
それでも、彼女は「北条御影」という友人を「削除」したりはしない。
その事実がとてもとても嬉しくて。
何度でも彼女がこうやってメッセージを送ってくれるから―
『そういえば、そろそろ夏休みだね』
『何か、予定はあるの?』
普段なら言えない一言を、此方からも投げかけてみた。
「次」につながるフックとなる問いかけだ。
このメッセージのやり取りだけの、画面越しの友人から、その先へ進みたいと。
そう思ったから。
■城之内 ありす > 『なんかいっつもごめんね……すっごい助かる。』
ウサギがお礼を言っているスタンプがぴょこっと送られてくる。
履歴を見る限り……何日かに1回はこうしてやり取りをしている。
それなのに、そのやり取りは全く記憶に残っていないのだ。
だから、ありすはそれを見つけるたびに、最初の日から全部読んでいた。
そして、いつも気付く。
最初の日だけは、学校で会って、写真も撮って…宿題を教えてもらう約束していたのだ、と。
記憶にはないのに、そのやり取りはとても楽しそうだった。
まるで、本当に友達とメッセージをやり取りしているみたいに。
けれど、どれだけ考えても、記憶には残っていない。
『なんでそんなこと聞くの?』
だから、送られてきたメッセージに返したのは、疑問だった。
■北条 御影 > 『気にしないで~。だって友達だもんね』
先ほどと同じく、サムズアップしたスタンプを送れば自分も笑顔になった。
メッセージとはいえ、自分でそう口にするのは恥ずかしくも嬉しいものだ。
幾分か一方的すぎる気もするけれど、このぐらいは許してくれると勝手に思っているのだ。
だって、友達だと、そう言ったのは事実なのだから。
けれど―
『いや、何となく』
疑問に対する返答としては落第点以下だ。
咄嗟に出てきたのは逃げの言葉。
これではまるで自分らしくない。駆け引きの下手な初心な男子高校生のようではないか。
送った瞬間に後悔しても、無慈悲に「既読」のアイコンがついてしまった。
『ほら、夏休みって長いじゃない?』
『宿題もずーっとあるわけじゃないし?』
『暇な時とか、多分あるよねって』
『そういうときとか、どうするのかなーって』
『気になったと!』
『ただそれだけ!深い意味とかないから!』
慌てて取り繕おうと試みたが、どうにもうまくいかない。
余計に不審になっただけだ。
これでは「貴方のプライベートに興味があります」と言っているのと同義ではないか。
『その―なんか、ごめんね』
だから、もう一度逃げの一手。
相手から返信が来る前に、自分の心を守るための無意識の予防線―