2020/08/05 のログ
ご案内:「風紀委員会留置所」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 > ここは風紀委員会留置所。いわゆるブタ箱ってやつ。
つまり、『馬鹿』の巣窟ってわけだ。
かくいうアタシも『馬鹿』の一員なわけだが……
さて、いい加減娑婆に出られるのかね?
ま、それまではノンビリ獄中ライフでも過ごそうってところ。

さて、じゃあお前さんはこんなところで何を見るつもりだい?

ご案内:「風紀委員会留置所」にキッドさんが現れました。
園刃 華霧 >  
「……ン……ぅ……」

昨日はさんざっぱら喋ったので、まだ眠い。
猫のように丸くなってオヤスミ中ってやつだ。

ま、誰か来れば流石に気配でわかるしそれまではノンビリ寝ておこう。

すやすやと……

キッド >  
相変わらずここの空気は淀んでいる。
犯罪者の巣窟。知っている匂い。
そう、この淀んだ空気の中で生まれた、嫌な懐かしさだ。
わざとらしい位に大きな足音を立てて、少年はとある鉄格子の前で止まった。
寝ぼけ眼、丸まった見覚えのある姿を見ればフン、と鼻を鳴らし
ガンガンと鉄格子を叩いた。

「悪いな、おはようの時間だぜ?カギリ。」

あっという間に、周囲には少年の咥える煙草の白い煙が広がった。

園刃 華霧 >  
気配はとうに気がついていた。
ただ、起きる気がしなかっただけ。仕方ないなあ……

「はいハイ、起きテるよ。うっさいナ……
 っていうカ、クソガキかヨ……」

むくり、と面倒くさそうに起き上がって胡座をかく。
髪は相変わらずボサボサで、服も着崩れている。

「ァー……ンー……」

あ、そうだ思い出した。
コイツ、光にゃんに何したんだまじで。
一発なぐ……いや、出来ないな。クソ。

「……ンで? どーシたヨ?」

すっかり目を覚ました顔で見つめる。
いくつか想定は有る。
けれど、それを口にするほど鈍ってはいない。
さて、どうでてくる?

キッド >  
「悪いな、今日の看守をちょいとばかり"変わって"もらってね。
 いい加減、書類仕事ばかりじゃ足がなまりそうって言ったら快くな?」

大分含みのある言い方だが、一応仕事の交代である以上必要な事はする。
鉄格子の前に軽く移動すれば、空に指先をスライドさせ
カチャッ、と音がした。鍵の空いた音だ。
後は簡単、一服する事も無く鉄格子を開けて少年は入ってきた。
扉も自動ロックされるし、最近の技術の進歩には感謝しかないな。

「どうした、ねェ……。」

煙草を咥えたまま、白い煙を吐きだす。
キャップを目深にかぶった。何も変わらない、ろくでなしのクソガキ。
強いて言えば、"何時ものように口元は笑ってない"。

「当然、山ほど用があるが……そうだな。最初に敢えて言うなら……」

「くたばらずに戻ってきて、今更"どの面下げて"戻ってくる気なんだい?アンタ。」

冷ややかな声音が、僅かに反響する。

園刃 華霧 >  
「オイオイオイ、そりゃ仕事ヲ越えテないカい?」

不法侵入者あり、と。今は異能も制御中。
さてはて、ガチで喧嘩になったらヤバいけど。

「ハーん、なるホど?」

今更"どの面下げて"、と。
そりゃごもっとも。

「そリャ、この面下げて、行くシかなイだロ?
 残念ながら、取替不可なンでな。
 誤魔化しタり、隠したリ、とかモ出来やシない。」

わざとらしく肩をすくめてみせる。

「ま、組織的なこといヤ、どの面でもいイらしーケどナ。
 そうイう話でモ、なかロ?」

キッド >  
「どうせ、少しの間さ。それよりも……。」

もっと重要な事がある。
フゥー、と吐き出し煙は何処となく荒っぽい。
互いの間で乱れて消えていく。

「……随分と口が回るじゃねェか。"反省"足りてねェのかい?アンタ。」

右手は自然と、ホルスターに収められた拳銃に添えられた。
目深なキャップのせいで目元は見えないが、顔はしっかりと華霧の方を見ている。
何時になく、雰囲気ばかりは真剣で、冷たささえ感じる。

「……別に俺は自殺志願者共に興味はねェ。『例の一件』、俺の弾丸は必要なかったみてェだしな。」

この弾丸は飽く迄犯罪者を裁くための銃弾。
自殺者に貸してやるものじゃない。
そう、"丁度目の前にいるような違反者"にだ。
どんな些細な事でも、キッドは金輪際許しはしなかった。
それが、『キッドのやり方』だ。

「こっから出たら、晴れて風紀に返ってくるって?
 ヘッ、そりゃいい。"前歴もち"が増えるってワケだ。」

園刃 華霧 >  
「ふン。そレじゃ、キッド様にオかれマしてハ
 『すみませんでした、アタシが全部悪かったです。
  何でもするから許してください。』
 ……ナんてのガ、お好み?」

"反省"は当然している。だが、それとこれとは別の話。
物にはやり方と順序とがある。
そもそも、"反省"してるからしおらしい、なんてのはアホくさい話だ。
そんなもの、演技だってできるものだ。

「さーテね。風紀に戻ルかどうカは……わかラんね。
 "前歴もち"ってイや、その通りダけど、たダの"自殺志願者"でもあルかンな」

それは組織の中でのタテマエ。
処理としてはもっと右でも左でもない、なんだかゆるふわな結論になっている。

「……マ、『馬鹿』しタってのハ百も承知だケどな。」

キッド >  
「馬鹿にしてんのか?……いや、"止め"だ。
 口八丁でアンタと遊びに来たワケじゃない。」

こんな高圧紛いな事をしたって、動じるはずも無い。
相変わらず飄々とした態度に、少しばかり顔を逸らした。
溜息交じりに両手を上げて、肩を竦める『お手上げ』のポーズ。
顔を華霧へと戻すころには、キャップの隙間から僅かに碧眼が見える。

「──────……。」

静かに煙を吐きだし、言葉に耳を傾けた。
事今回は真剣だ。二本指で、煙草を挟んだ。

「……『願い』って奴かい?まぁ、関わる気もないし、報告書程度の事しかしらねェけどな……。」

大して興味もない。
そういう事件があった位にしか認識してない。
口元から煙草が離れる。残っていた煙を吐きだした。

「今更俺がアンタ等の自殺にどうこうケチをつける気はないさ。ただ……」

「レイチェル先輩と、仲いいんだっけな?アンタ。ああ、いや、後で知った位だよ。」

「あの人、急に部署飛び出してどっか行っちまって、事が終わって留置所行くのが見えたんでね。」

「……少しばかり、目で追ったらって奴だ。安心しな、のぞき見も盗み聞きもしてねェ。」

「ただ、"ケジメ"は付いたのか、と思ってな。」

同じ刑事課に所属しているキッドが、レイチェル・ラムレイの事を知らないはずも無く
とはいっても、他の風紀委員と同じ、今は『一目置いてる』程度だ。
黒鉄の戦塵、数々の事件へと立ち向かった歴戦の風紀委員。
有体に言えば、そんな人が急に飛び出した理由が目の前の彼女ともなれば
少しくらいは何が起きたのか、顛末くらいは聞きたくなるものだ。

園刃 華霧 >  
「そりゃヨかった。ま、暇なンで遊ンでくれテもよかっタけどナ」

端っから死ぬ覚悟なんて出来ている。
それは今も変わらない。今更拳銃ごときを恐れる理由はない。

まあ、それでも……下らないやつに殺されるのだけは、勘弁だけどな。

「ァー……そっち、ネ。」

レイチェルのことを話題にあげられれば、頭をボリボリとかく。
先程までの緊張した空気のときと比べると、だいぶ様子が違う。

「まっさカ……ワルガキがそッチの心配スるたぁネえ……
 そッチなら……マ、決着はついた、ヨ。
 "ひとまずは"、ね」

そのことだけは。
嘘や誤魔化しをする気もしない。
それだけは、できない。

だから、端的に包み隠さずに答える。

「ワルガキも、そウいうノ、気にすンだナ。
 いヤ……違う。オマエは、そういウやつダったナ。」

落第街で投石を受けた時に、あとからコイツが来たときも。
やれやれ、素直じゃないやつ多すぎないか?

キッド >  
「…………。」

既に右手も拳銃から離れている。
毒気を抜かれた、とは違う。
単純にもう"そういう気分"じゃない。それだけ。

「気にするさ、そりゃ。同じ部署の先輩で、世話になってんだ。
 憧れ……まぁ、そんな所か。そんな先輩が、血相変えて飛び出したんだ。」

言ってしまえばそう、同じ部署の人間から見れば
『レイチェル・ラムレイ』はある種、神話の人物だ。
既に前線から退いているようだが、それでもそのネームバリューは変わらない。
別に彼女を神格化しようと言う訳では無く、キッド自身も特別彼女をそういう目で見ていた訳では無い。
だが、目指すべき『目標』『憧れ』そんな気持ちを一抹程度には抱いていた。
そんな彼女が、個人の為に走ったとも成れば、気になるのも当然だ。
別に興味本位とかじゃない、そう、有体に言えば……

「……"ひとまず"、ね。まぁ、アンタ等の間でケリがついてんなら、俺から言う事はねェ。」

『心配』位する。
大よそ華霧のお察しの通りでもある。
生きてる以上、人間色々事情がある。
此の世に無敵の人間なんていない。
彼女の功績が如何に眩かろうと、個人の事情までは分からない。
だから、心配する。あの人だって、無敵の人間ではないと思っているからだ。
ともかく、そうでないならば一安心。
はぁ、と溜息交じりの安堵を漏らせば一歩華霧へと近づいた。

「俺の事をどう思われてるか知らないがね。そんじゃ、後は……」

手から、煙草がするりと落ちる。

キッド >  
 
 
     「──────"個人的な文句だ"。」
 
 
 

キッド >  
吐き捨てる言葉と共に、その頬目掛けて右ストレートを放った。
女性相手に何て言うかもしれないが、関係ない。
それなりに本気で、当たれば口の中が切れるかもしれない。
だが、そんな事知った事じゃない。"死ぬよりマシだ"。
当たろうが当たるまいが、キッドは足元に落ちた煙草を踏みつける。
これでもう、煙は何処にも立たなくなった。

園刃 華霧 >  
ゴッ
 

園刃 華霧 >  
鈍い音が室内に響いた。
顔が、体が、衝撃で揺れる。
そのまま、床に転がった。

完全に無抵抗な受け方だった。

「……」

転がったのはほんの数瞬。
すぐにむくり、と起き上がる。

「……一発で、いいノかイ?」

へらりと、口の端から一筋の血を流しながら笑った。

キッド >  
入った。想像よりも簡単に、入ってしまった。
拳に"嫌な感触"が伝わる。
思わず、唇をかみそうになったが、拳を強く握る事でこらえた。
起き上がる華霧を見下ろす碧眼は鷹のように鋭い。

……時間は面会時間より短いんだ、上手くやれよ……。

「…………。」

挑発的な物言いだった。
動じる事無く、頷いた。

「────ええ、一発で十分です。華霧"先輩"。一回は一回……殴り返しますか?」

何時ものように"煙に巻く"事もない。
真摯的な声音で、返した。

園刃 華霧 >  
「…………」

口調の変化。なるほど、アレだアレだとは思っていたが、裏があったか。
鷹のように鋭い碧眼を見返しながら、考える。

でもいますべきはそちらではない。

「普段ならな。でも今は違う。オマエは殴る側で、アタシは殴られる側。
 そこは間違っちゃいけない。
 ついでだ。言いたいことも、あるなら言っとけよ? 誰かさん」

笑いを消して、碧眼を見つめる。

キッド >  
殴った拳を、軽く開いたり握ったりを繰り返す。
まだ、人肌を殴った感触がこびり付いている。
嫌な感触だ。人を傷つける行為は、須く嫌悪感を生む。

「……てっきり、嫌がらせてわざと殴られたと思ったんですけどね。」

そうならば、実際効果覿面だ。
力なくはにかんで、肩を竦めてみせた。

「レディを殴った事は、後で謝ります。
 ……ええ、いっぱいありますよ。言いたい事。
 多分、月並み程度の言葉ですけど。」

何時も笑っている彼女の口元もない。
成る程、真面目に向き合ってくれるという事か。
そうであるなら、ありがたい。
……少しばかり、荒くなってきた息を整えるように、深く、大きく一息。

「誰って……"見ての通りですよ。"まぁいいか……。
 "僕"は、あかね先輩の事も良く知りません。華霧先輩とも、同じ風紀程度の仲です。
 きっと、こう言う事何度も言われると辟易してるかもしれないですけど……」

僅かに震える右腕を、左腕で抑えた。
思ったよりも早い症状に舌打ちしたくなる。

「……レイチェル先輩と、ちゃんと相談したんですか?相談した上で、"あれ"なんですか……!?」

「自殺志願者なんて、自称するなら、貴女だって"わかりきってた"事じゃないですか!?」

「"わかりきってた事"なら、何でこんな事を……!?」

何時もとは違う、年相応。
少年の声が張り上げられ、牢獄に反響する。
きっと、同じような人間に同じような人間が何度も問いかけた事なのかもしれない。
事情を知らないから、とはいうが。
そうでなくても、言わずにはいられなかった。
彼女の意志を、知りたかったからだ。

園刃 華霧 >  
「いんや、違うね。オマエは"キッド"じゃない。
 ……ま、それは今はどうでもいいか。」

見ての通り、ならそんなことは言わない。
けれど、今の本質はそこではないから一旦この話は此処でオシマイだ。

「言った通りだよ。アタシは殴られる側。これでも"反省"してるんだぜ?」

皮肉っぽく笑う。
そして、答えるべきは次の話。
これこそ皮肉っぽい話だ。
だからこそ、アタシも煙に巻かないでおく。

「ああ、そうだな。其の通り。アタシは、相談して……それで、あのザマだ。」

お互いボタンの掛け違い。
たかだか、其の程度のことで、人はあっさり死ぬこともある。
それだけといえば、たったそれだけのこと。

そして、自分たちの過ち。

「うっそだろ、って思うかもしれないけれど、な。
 ……オマエが、クソ真面目につっこんできたからちっとだけ話してやるよ。」

ごめんよ、レイチェル。
勝手にそっちの事情も話す。出来るだけぼんやりとさせるからさ。

「馬鹿馬鹿しい話さ。結局、アタシもレイチェルもお互い気を使ったせいで、逆におかしなことになったんだ。
 信じられないかもしれないけれど、な。疑ってもいいぜ? アタシが適当にオマエを誤魔化そうとしてるって。
 ……それでも、これは事実だ。」

本当に思い返してみれば『馬鹿』な話だ。
だから結局行き着くところは子供の喧嘩になってしまった。
まあ、信じられないかもしれないな。

キッド >  
「…………ハハ。」

力ない笑みが、出てしまった。
聞けば聞く程、"そんな事"だと脱力してしまう。
でも、なんでだろうな。容易に想像できてしまう所も
"それらしい"と言うか。思わず、ゆったりと首を振ってしまった。

「いえ、信じますよ。華霧先輩も、レイチェル先輩も、そんな人だって分かります。
 僕の偏見かも知れないですけど、二人とも、"良い人"だから。」

「……知ってますか?レイチェル先輩。たまに新人の訓練に付き合うんですけど
 此れが軍隊なんじゃないかってくらいハードで、結構悲鳴上げるんですよ。皆。
 ちゃんと相談には乗ってくれるし、気を使ってくれるけど、誤解する人も少なくなくて……。」

新人風紀委員の良き相談相手だが、それはそれと言わんばかりに容赦ない訓練。
覚えているとも。忘れるはずも無い。言ってしまえば愛の鞭だが
存外、人間悪い所をスルー出来るならしたくなるもの。
皆が皆、真面目に彼女の真意をくみ取れるわけじゃない。
でも、少年は知っているつもりだ。多分、華霧の言葉を合わせるなら確証だってもてる。
だって多分、ちょっと不器用なだけで、本当は優しい人だって、思うから。
そしてそれは、目の前の彼女も同じなはず。

「そんなものだと、…思いますよ。お互い好きだから、大事だからって、ぶつかり合うの遠慮して
 ……絆とか、そういうのを大事にすると余計に、それが"壊れる"のが怖いから……。」

きっと、彼女たちもそんなものなんだろう。
良く知っている、知っているとも。
額に脂汗が滲み出てきた。少し、動悸が早くなる。

……まだ、もう少しだけ。この先輩と話させてくれ。

強引に腕で、額を拭った。

「けど、よかった。掛け違いはあったけど、『元通り』……かは、まだわかんないですけどね?
 それでも、よかった。レイチェル先輩もそうだけど……、……。」

荒くなる呼吸を整え、精一杯
そう、精一杯笑顔を作ってやる。
自分の具合に気後れないように、精一杯の笑顔。
安堵の、笑顔だ。

「……何より、貴女が生きて帰ってきてくれて、良かったと…ッ、と…思ってます。」

「こう見えて、他人の心配を……ましてや、同じ風紀委員なら心配してたんですよ?」

「レイチェル先輩程じゃないけど、死体で帰ってきたらどうしようかと、気が気じゃなかったです。」

園刃 華霧 >  
「そりゃオマエ、知ってるよ。
 なにしろ、新人訓練以外でも地獄の戦闘訓練やってるからな、レイチェル。
 まあ、アタシは逃げては小言貰ってるけどさ」

へらり、と一瞬だけ表情を崩す。
日常を語るときくらいはいいだろう?
そうそう、ああいう日々も、本当にバカバカしくて楽しかったよなあ

「うん、まあ……そう、だな。『元通り』、かは……
 この間、これからだってお互い確認したところだからな。
 それに……」

お互い、ろくに突っ込んでこなかったこと。
お互い、聞いてこなかったこと。
お互い、誤魔化していたこと。
それらを、少しずつ互いに確認していくこと。

ものすごく当たり前で、今までまったくできていなかったこと。
それは、これからやっていかなければいけないこと。

「『元』より、マシにしないと、な?」

少しだけ、悪戯っぽく笑う。
普段の煙に巻くような悪戯さとは別の、あまり見せたことのないたぐいの笑い

「はは……そいつは、素直にあんがとよ。」

『生きて帰ってきてくれて、良かった』。
これは、本当に……生きて、帰ってこれて、よかった。そう、思う。
気恥ずかしいけれど、本当に。

「遺書じみたビデオを使わないで済んだのは、アタシも助かってるよ。
 今のアタシが自分で見返したら、ぶっ壊したくなるシロモノだしな。」

だから、少しだけ照れ隠しで変なことを言う。
流石にちょっと気持ちが保たない。

キッド >  
「やっぱり?ですよね。そりゃ、やりますよ。
 なんていうか、容易に想像できるなァ。此の前は『お腹が痛い』とか言って逃げたんでしょう?」

なんだろうな、簡単に想像がつくというか。
きっと、それ位二人は仲が良いんだろう、多分。
だからこそ少しばかり冗談を交えて、言ってやった。
だからこそ二人が此れ以上傷つかずに、此処に華霧が戻ってきたことを喜ばしく思う。

嫌でも耳に入る位、動悸が早く、激しくなってきた。
それでもまだ、と己の胸元を抑えた。

「ッ……、……そう、ですね……ッ。そうです、よ。『これから』です。」

しっかりと、目を合わせろと教わった。
人と話す時は、ちゃんと気持ちを向ける時は
ちゃんと、目を見ろって。震える足でしっかりと支えて、震える碧眼を逸らすことなく華霧を見る。

「僕が言う事では無いかも知れないですけど、二人とも、やっと『向き合えた』
 だったら……、……ッ……、ゥ……マシにならない、理由はない…、でしょ?」

少なくとも、そう言えると言う事は、ちゃんと向き合ってこれからもっと良くなると思っているから。
だから、『これから』なんだ。彼女たちは。
自分が言う事でも無いかも知れない。それでも、祝辞くらいは送っても許されるだろ。

……視界が霞む、吐き気も酷い……。

本当に、不便な体だ。
ふらり、ふらり。ついに耐え切れず壁へともたれかかってしまった。

「……すみません。"見ての通り"虚弱なもので……、……ハハ、ビデオって……
 今時、ホームビデオだってもっとマシな時に送りますよ。」

「…華霧、先輩…、…"寂しがり屋"なんですね?そりゃ、レイチェ…ッ…先輩も、放っておかないワケだ……。」

ズルズルとそのまま壁にもたれて膝をついてしまった。
本当に、嫌になる。ぼやける視界に、二人分の霞んだ"人影"。
全部、全部幻視だ。
"彼女達のように上手く行かなかった、末路"。

「……本当に、二人が……、ッ……僕みたいにならなくてよかった……って言うのは、自惚れ過ぎですかね……?」

脂汗に塗れた顔を上げて、力なく笑ってみせた。

園刃 華霧 >  
「やれやれ……オマエも大概、無茶するな……?」

崩折れていく男を見る。
こんな無茶してまでそれを確認したかったんだな。

「オマエの事情を、アタシは知らない。
 知らないから、迂闊なこといえん。」

崩折れた相手に、手を貸そう、肩をかそうと、腕を伸ばす。
無茶をする馬鹿は、まあ嫌いじゃない。

「けど、きっとそうなんだろうな。
 オマエが、そこまでして。アタシをぶん殴ってまで訴えたかったってことは、な?」

知るはずのない事情。
其の重さは人それぞれ。
其の捉え方も、人それぞれ。
それはさんざん思い知った。

だから、こいつがそう思うんなら、そうなんだろう。

キッド >  
小さく首を振って、苦笑い。

「人と向き合うの…、…大変…ですから…"無茶"位しますよ……。」

それは多分、彼女も良く知っているはずだ。
ただ自分は、人よりそれが困難なだけ。
抵抗する力もないから、支えようとする事は出来るが
長身にこの肉体、無理矢理鍛えた体の密度は重い。

「……そうですね。けど、…なんてことは、ないです、…よ…。『よくある事』だ……。」

そう、掛け違えたお話。
ちょっとしたすれ違い、些細な誤解。
人間なら、よくある事だ。

「両親がね……真っ当な事をするよ、うな…、…人じゃな、くて…、…止めたかったんです、よ……悪事
 けど、子どもの声なんか…ッ…、と、届かな…くて……"撃ってしまった"。
 撃って、止めてしまっ、た……ほんと、それだけ、です……。」

「それで、この、ザマ。それだけ、です。」

ただ止めて欲しかっただけ。本当に、誰しもが願うような事を
凶弾一つで叶えてしまった。望まぬ形で、止めてしまった。
抱えたのは、精神疾患。弱い心。
そして、それを取り繕うためのガンマン。
それこそ、少し傾けばどうにかなったかもしれないのに。
掛け違えたまま、不本意に止めてしまった、『よくある事』だ。

だから、この話はこれでお終い。
だから、今隣にいる"少年"の出番もこれまでだ。
震える手で、懐から煙草を取り出し

「……ぁ」

床に、落としてしまった。

園刃 華霧 >  
「ったく……アタシも大概、色々あって人付き合いが下手くそだけど。
 オマエもだいぶ、難儀なもん抱えてるのな。」

呆れたような口調。
実際ちょっと呆れてる。
コイツの本質は、誤魔化してるときでもさして変わらないのな。
お人好しの馬鹿野郎ってことだ。

「違いない。『よくあること』なんだろうさ。」

ほんの少しの失敗が取り返しのつかないことになる。
なんだろうと、その罠は仕掛けられている。

人生ってのは面倒くさいねえ、やれやれ。

「……んで? そいつは、入り用、なのか?
 妙なヤニだとは思ってたけどさ」

相手の体を支えたまま、無理やりなんとか落ちた煙草を拾おうとする。

キッド >  
「は、はは、…、…すみません…、…それしか、知らないもの、で…。」

尤もだと思った。
難儀してるからこそ、仮面で隠す。
そうでもしないと、やってられないから。

「……は、い……。」

華霧が拾い上げた煙草を見て、頷いた。
今の自分には外せないものだ。
震えた手でジッポライターを取り出した時

「────……!」

あれだけぼやけてた幻視が、もうあんなにくっきりと男女の形を作ってる。
思わず、息を呑んだ。少年にしか見えない幻。
傍から見れば、急に顔が引きつったようにしか見えない。

園刃 華霧 >  
「それしか、知らない……か。
 そりゃアタシには痛い言葉だな。そのせいで、拗れちまった。」

それでも。
それに縋って生きるしかなかった、という現実。
それを乗り越えるのは、なにかきっかけが必要で。
それはきっかけがあったとしても、そんなに簡単なことではない。

「上手く、付き合って……抜け出すのが、一番……なんだけど、な。
 それが一番難儀なんだよなあ」

煙草に火がつくのを眺める。
急に引きつった顔になる男の顔を、ただ黙って見つめる。

……この儀式が終わるまでは。

キッド >  
咥えさせてもらった煙草に、必死にライターで火をつける。
震える手に揺れる炎。何とも危なっかしいつけ方だが
白い煙が灯る頃に、少年の視界に人影は見えない。
そして……。

「────おかげさまで、"俺"もこのザマなんだがね。」

もう、そこに少年の姿はない。
吐き出される匂いの無い煙と共に
怯える少年は何処にもいない。
ろくでなしのクソガキが、そこにいるだけ。

「ま、俺の場合はやれる事をやるしかないからな。言う程、難儀とは思わねェよ。」

「そう思えんのは、アンタが"そうじゃない"選択が見えたからさ。祝福するぜ?相棒。」

相変わらず、軽い口だった。
ムカつく口元のにやけ面。
華霧の肩を軽く叩いて、そっと離れようとする。

「……悪いな、手間かけさせたかい?」

園刃 華霧 >  
「まー、ソりゃそウだ。けど、ナ。
 それしかないってノは、やっぱりそれシか無いンだよ。
 そのヤニと同じ。不健全なノは、不健全サ」

確かに、当時の自分は別に難儀とも思ってなかった。
むしろ、嬉々として危険に飛び込んでいったものだ。

「マ、それデも……ヤニはやめラんなかったリするシな。
 どースるかは、オマエ次第ってナ?」

解決するのは最後は自分。
勿論、支えてくれる人間や、出逢った人間に助けられてもいい。

「いンや、この程度、手間でもナいさ。
 オマエにも、『手間』かけサせたみタいだシな?」

ひひ、と笑って返す。
あえて支えたままだが、離れようとすれば簡単に離れられるくらいの力加減。

キッド >  
「……ヘッ、俺の役割は決まってるさ。」

くつくつと喉を鳴らして笑い、踵を返した。
そう、キッドを演じるにして、もう決まってる。

「『常世島を流離うろくでなしのクソガキ』……それが、俺さ。」

蔓延る犯罪者どもを正義の弾丸で滅ぼし続ける過激派風紀委員キッド。
その役割(ロール)を演じるしかない。
随分と馬鹿げた選択だと思っている。
だからこそ、"馬鹿は死ななきゃ治らない"。

「だから、女子どもに支えられるのは俺のキャラじゃないね。」

だからこそ、離れてやった。
ひらひらと手を振って、鉄格子に手を掛ける。

「……ああ、そうだ。」

煙草を二本指で挟み、白い煙を吐いた。

「『刑事課』、結構仕事も大変でな。席も空いてるんだぜ?
 "俺みたいな"のが許される位にゃ緩い所さ。」

「……小煩い上司もセットでついてくるけどな?」

「ま、復帰考えてるなら収まりもいい……と、思うぜ?」

園刃 華霧 >  
「そーカい、ソうかい。
 『馬鹿』が『馬鹿』だから『馬鹿』をする話……いヤ。
 『オマエ』が『オマエ』だから『オマエ』をする話、を行くンなら、そりゃモウ、な」

アタシにどうこう言えるものではない。
けれど。

「困ったラ、泣きつイてもいいンだぞー?
 『クソガキがお姉さんに泣きつく』、なんて『よくある事』だロ?」

相手が離れたところ見て。
けけけ、と笑って両手をオープン、ウェルカムポーズ。
と、余裕を持っていたところに……

「は……そりゃ……」

突然の勧誘。
それは、あまり考えてもいなかったこと。
いや、頭の片隅にはあったのだろうけれど。
触れては来なかった道。

「……上司がうるサそーなこッテ。
 ま、考えてみルよ。そレは……『面白そう』ダ」