2020/08/11 のログ
■マルレーネ > 「逆に、いつだって万全になるのを待っていたら時期を逃します。
大丈夫ですよ、この程度、体調不良にはなりませんよ。
危険についてはともかく、暑さ対策くらいはいるかもしれませんね。」
ほら、と僅かに裾を捲れば、鎖の鎧が僅かに見えるか。
分厚い修道服の下には、きっちりと己を守る鎖も身に着け。
ずっしりと重いそれは、彼女が性善説で動いていないことの証。
むしろ、今ここで殴り合いが始まったとしても、それを見据えて動いている女。
理想論は理想論。割り切っている。
皿を受け取って手伝ってくれる姿ににっこりと微笑みながら、せくせくと働きつつ。
「……塩分はこれでなんとか。」
ワイルドな"焼いた肉"を一切れ加えて。塩味仕立て。
にひ、と笑いながら額に護符を張り付けたまま、笑われて頬をちょっと赤くする。
そんなわけないですよねー、と女の子に笑いかけながら、こそこそ。
「………ええと、実際どう使うんです?」
ガチだった。
■日月 輝 > 皿を片付ける。
皿を片付ける。
皿を片付ける。
マリーと会話をしているからこいつも修道院の関係者なんだろう。多分そんな雑な判定をされている。
あたしの恰好の何処をどう見たら教会関係者だと思うのか、心裡で首が真横になるまで傾ぐ所だけど
彼女が真実、歴戦の旅人であり罷り間違っても平和ボケしていない証拠を視止めると心裡はぐるりと入れ替わる。
「……………」
鎖の鎧。チェインメイルというもの。
それは、いつか扶桑の一角で見た"衣服の一種としてデザインされた鎖帷子"とは明らかに作りが違う。
僅かに捲られたところでもそれは解る。マリーが、今此処に居る人達を信じ切っていない事も。
「……そこまでして、どうしてこんな事を?」
ともすれば自分に危害を加えるかもしれない誰か。
そうした人達のもとで笑顔が出来るのは、どうして?
あたしはマリーの額から護符をそっと剥がして、当惑気味な言葉が小さく落ちる。
それは傍から見たら護符の使い方に悩んでいるように見えたのかも。
『尻にでも貼ってやりゃいいんじゃないか?』
和やかな空気にあって、そう悪気を感じさせない誰かのヤジが飛ぶ。
追従するように太平楽な誰かの笑い声が鳴った。
■マルレーネ > 「続けるためです。」
んふふ、と笑ってウィンク一つ。 受け売りですけどね、と付け加えて。
その上で、目を細める。
「まあ、私も昔怒られたんですけどね。
人を助ける時に、一度何かを投げて渡すようなことだって"助ける"じゃないですか。
でも、それは間違っているんだと。
一つの言葉で、一つの行動で助かる……まあ、ここではあえてその程度って言いますけど。
その程度の人は、そのうち助かっているんだと。
本当に助けてほしい人は、隣で走るくらいの気持ちでないと助けられないんだと。」
いやー、めっちゃ怒られたなぁ、なんて付け加えながら。
「ですから、"何があっても"続けなければ意味が無いじゃないですか。
暴漢の一人や二人、計算の内ですよ。」
にっひひ、と笑いながら輝にウィンクを一つ。
「まあ、涼しくて信用される服装は輝さんに聞かないと分からないですけどー……。」
とほほ、と肩を落として。
「……あー、次は胸って言うんですよね! そういうのわかるんですからね!!」
こらっ、と周囲の人に怒って見せれば、更に笑い声。
■日月 輝 > 「継続は力なり。……こっちの世界の、昔の人の言葉なんだけどさ」
人を助ける話。
二人三脚のように力を合わせて寄り添って、そうしなければならないと言う異邦人の顔を見る。
「……ねえマリー。貴方はさ、あたしが、こっちの世界、楽しい?って聞いた時……楽しいって言ったけど」
遠い世界からのまれ人。
ずっとずっと旅をしてきて、一所に留まることをしなかった彼女。
それでも続けたことがあったのだとしたら、この世界に来たことで、それは、どうなってしまったのだろう。
「元の世界に帰りたい。って、思う?」
"何があっても《例え異世界に飛ばされたとしても》"そうすると当然と笑うマリーに言葉が迷う。
アイマスクに覆われた目元が混迷に泳ぐ。
誰かが渡してきた空の皿を、手が取り損ねて床に落ちる。
軽い、硬質な音が鳴った。
「……ぁ。いえ、そのね。どうであれ、そうし続けるなら……未練とかはないのかなあって」
「いつだったか、御家族がいるとか、そういう訳じゃない。って言ってたじゃない?」
「あたしはー……島の外に家族、いるけどさ。あんまり、帰りたいとかは……無いから」
その音で言葉を取り繕うように重ねる。
手にした護符はまだあたしの片手に彷徨っている。
■マルレーネ > 「………。」
相手の質問に対して、少しだけ………疑問、とは別の方向性で首を傾げる。
思案するような、言葉を選んでいるような。
「難しいことを聞きますねぇ。」
困ったように笑いながら、目を伏せる。
皿を重ねながら、少しばかり動きを止めて。
「選んでもいいなら、ここにいたいと思いますよ。
未練はありますよ、当然。
でも、人間、未練無く、なんて無理じゃないですか。」
皿を重ねて、重ねて。
背中を向けて、穏やかな声を続ける。
「それに。
私、思うんですよ。 気が付いたら別の世界にいたんです。
明日の朝、違う世界に行くかもしれないじゃないですか。」
言葉をつづけながら、一つだけフレーズを飲み込む。
その世界が、"人の生きることができる世界"かも分からない。
生死にすら頓着が薄くなっていることは、伏せて。
「そう思うと、今が一番楽しいし、そこにずっといたいって思えません?」
振り向いて、ぱちり、とウィンク。
■日月 輝 > 重なる皿は堆く、言葉もまた斯くの如し。
恰も崩れそうで、けれども崩れない。
崩れてしまえば、いっそ清々するかもしれないのに、そうはならない。
「……………」
未練無くなんて無理とマリーは言う。
ええ、そうよね。全くの皆無なんて赤ん坊くらいのもの。
元の世界に帰れないことを未練だけど仕方ないと言うのは、まだ理解が出来る。
でもねマリー。
"もしも"明日の朝、違う世界に行くかもしれないことまでを、未練だけど仕方ないなんて言ってしまうのは。
言ってしまえるのは、最初から、何もかもが崩れていることにならない?
「どうかしらね。もし貴方が突然別世界に行ってしまったら、あたしは意地でも追いかけて連れ戻してやるわ」
「貴方が楽しいって言ってくれたこと以外にも、まだまだ楽しいことは一杯あるのだから」
「今よりも明日の方が楽しいに決まってるわ。この世界を楽しいか聞いた以上、色々教えてあげないと」
歪に堆くなって、崩れることも出来なく崩れとなって頓着せずに諦念としている。あたしには、そう思えた。
実際は判らない、解らない。もしかしたら押しつけがましくて、きっとそう。
見目不相応に稚気を感じさせるその額に、また護符を押し付ける。
周囲からまた笑いが起きる。
貼られたものは只の耐熱護符でしかないけれど、願わくば、マルレーネに幸がありますようにと祈りが籠る。
「だから、そんな寂しいことは言わないで。ifの話は、あんまり好きじゃないわ」
不満そうに唇を尖らせる。
目隠しで目元を視られない事が今は何よりも良かった。
■マルレーネ > 「あはは、輝さんは本当にやりかねないですからねぇ……。」
からりと笑う。
良く笑って表情がころころと変わって、とても人間臭いまま。
明日の朝いなくなっていることをも、仕方ないことと割り切る。
それは明日をも知れぬ世界で、一人旅を続けたことによって育まれてしまった、彼女の持つ異常性。
悟りとも言えるかもしれない。
諦めとも言えるかもしれない。
乾きとも言えるかもしれない。
それが彼女の当たり前。
異邦人としては異例の速度で溶け込んだ彼女もまた、異邦人。
「……いや、楽しいことはまだまだありますし、まだスマホ買ってないですし。
それを買ったらいろいろやらなきゃいけないことをお友達に聞いたんです。
まずはあれですよね、下着姿で自分の写真を撮って自分を登録するって聞きましたし。」
あう、と額にぐいっと札を押し付けられて、あはは、と笑う。
「当然ですよ、何ですか、寂しかったんですか?
んもー、仕方ないですねー。」
なんて、ひょい、と輝を抱こうとする。 周囲から口笛が響けば、ウィンクをして笑って見せて。
■日月 輝 > 最初から崩れているなら、諦めているならそれ以上は壊れない。
明朗快活で路地裏で暴れる誰かを諫めれる程にタフな人。
そう思っていたけれど、そうでは無いかもしれないことに、気付いてしまった。
異邦人。
マルレーネには角も翼も3本目の腕も新たな目も無い。
けれども紛れも無く彼女は異邦人。この世界の人と、何処かが異なる者。
怖い?いいえ、ちっとも。ただ、少し驚いて、悲しかっただけ。
「……ああ、そうね。連絡つかないなんて不便だし──ってそんな訳あるかっ!!」
「何処のとんまよ私のマリーにそんなアホなこと抜かす奴──」
崩れることも出来なかったこの歪に堆くなってしまったものを飾りたく思った。
今からでも間に合うかしら。何よりも可愛くしてあげられるのかしら。
傲慢で、我儘で、自己満足にすぎないことだけれど、あたしは他を知らない。
言葉を荒げて腕を振り上げた所で抱き締められて言葉が止まる。
体温を交わすように触れ合って、年上の妹のように感じていた人の優しさの距離が近い。
「し、仕方なくなんて……ちょっと口が滑っただけよ!もう、離して頂戴!」
「……それは兎も角!下着姿で撮影なんてする訳ないでしょう」
「浴衣の下着もそうだったけど、全く油断も隙も無いんだから……ええ、でも大丈夫よマリー」
「あたしがちゃんと教えてあげるから。解らないことはなんでも聞いてね」
ふと、将来は逆瀬の言うように探偵になって様々を探し偵う事として、知り得た色々をマリーに教える。
──そういう未来も良いのかもしれない。マリーの抱擁から脱出しながらそんなことを思った。
■マルレーネ > 「違うんですか!?」
「でもお互いにやろうって言ってましたけど、なるほど、そうやって騙していくんですね……」
なんてこと、また騙されてしまった。
むむー、クラスメイトの悪戯を看破する能力が次第に身についていくシスター。
もう、と少し膨れる程度の怒り方だけれど。
「そうですね、いろいろ教えてもらわないといけませんから。」
「一緒に買い物もいきましょうね。教えてもらわないと、いろいろ危険なようですし。」
あはは、と笑いながら身体を離して。
大きな鍋を抱えて運び、せくせくとまた働き始めて。
「あ、輝さん、一人で帰ったらダメですよー?」
手を振りながら、待つように伝え。
異邦人ではあれど、彼女はどこを切っても彼女のまま。 それだけは変わらない。
■日月 輝 > マリーの友人(?)は一度シメた方がいい気がしてきた。
いえ、いえ、駄目よ輝。暴力はダメ。落ち着きなさい。あたしは善良な生徒なのだから。
深呼吸を数度する。
頬を叩く。
よし、何だか致命的に口が滑った気がしたけれど、多分気のせいね。
「勿論行きますとも。あとはそうね──ってマリー。ストップ、ストップ」
落ち着いた所で顔を向けると、マリーったら額に護符を張り付けたまま働き始めるものだから制止をかけた。
「帰らないったら。旅は道連れ。って言葉がこの世界にはあってね」
「……あと額に張り付けたまま動くの面白いからやめましょうね」
額の護符をもう一度と剥がして背中に張り付ける。
汗染みの随分と付いた様子は彼女の勤労を称えているかのように映る。
あたしは肩を竦めて大仰に呆れてみせて、それから鍋運びを手伝おうかと手を伸ばした。
そんな夏の一日。
ご案内:「落第街」から日月 輝さんが去りました。
ご案内:「落第街」からマルレーネさんが去りました。