2020/08/18 のログ
園刃 華霧 >  
――それに駆り立てたのも

  おまえだろう?

其の言葉は毒牙のようにつきたった。
それは確かに林檎に突き立って。
それはしかし


「……な、に?」

なんだ それは
きいてない

なんで そうなっている
なにを まちがえた

そんな ばかは ひとりで いいのに


「……だから、なんなのさ?」

甘ったるい声
こちらを見やる瞳

それらを受けて、先を促した。

月夜見 真琴 >  
顔を近づけた。
間近に。
かつて温泉で互いの瞳を覗き込みあった時より。
もっと近く。鼻先が触れ合うほど。
じっとその瞳を見つめてから。

「やつがれは、おまえの助けとなりたい」

離れて、細い腕をもたげる。
唇のまえに、人差し指を立てて。
にっこりと微笑んだ。

「おまえもレイチェルも、今失われては困る。
 相互に必要とし合う関係なら――あるいは。
 安定にまだ時間などの要因が必要であるなら。
 凛霞か誰かは定かでないが、彼女を現場に欲したというなら、
 件の騒乱から安定しない委員会をせめても、と慮ってのことだろうさ。
 ならばやつがれも、虜囚の身ながらそれに協力させてもらいたい」

小首を傾げて、瞳を開く。
真っ直ぐに華霧を見つめて。指を立てたまま。

「最悪は起こり得る。
 おまえがレイチェルの問題を受け止められないという可能性も。
 何かが起こった結果、レイチェルが失われる可能性も。
 そうならないために、あるいはそうなった時のために。
 やつがれは、おまえのことを深く知っておきたいと思うのだ、が――」

どうだろうか?と。
真っ直ぐ見つめたまま、囁きかける。

園刃 華霧 >  
「……ふぅん?」

人差し指を立てて、にっこりと微笑む女をまっすぐに見つめる。
少しだけ、さっきの気付けが効いた。

助けたい。
そんな言葉は無数に聞いてきた。
そんな言葉を弾くのもよくやってきた。


「なるほど、ね。」

ただ言うことも道理ではある。
先達として其の言葉もまあ、嘘ではないのだろう。
そのために、深く知りたい?
まあ、いいさ。
それがお互いのためだというのなら


けれども


「……いいけど、一個だけ。
 アタシは、一方的に持ってかれるのはだいっ嫌いなんだ。
 それなりに返してもらわなきゃ割に合わない。」

見つめた先で、獣が笑っていた。
猛るようでも、抗うようでもなく。
挑むように。

月夜見 真琴 >  
「フム」

眉を吊り上げて、愉しそうに息を吐く。
では、と彼女の掌に、指を立てていた掌を重ねた。

「なんなりと言ってくれ。
 やつがれはまあ――こう言ってはなんだが信用のない身だ。
 みずから、それをようく弁えているとも。ふふふ。
 おまえが示せというなら、在らん限りを示そうともさ」

臆する様子もなく。
ただ「後輩」の告げる言葉を待つように。
獰悪なる獣の笑みには、涼やかな微笑みを待つ。

園刃 華霧 >  
「簡単。
 月夜見真琴は、それでアタシになにをくれるんだい?
 それに答えてよ」

曖昧な答えは欲していなかった。
真っ直ぐに、獣の双眸が見つめていた。

月夜見 真琴 >  


「                         」
 
 
 

月夜見 真琴 >  
「では、これを"あげた"ということで、どうだろう?
 やつがれのことを、信じてもらえるだろうか?」

と、《嗤う妖精》はにっこりと微笑んだ。

園刃 華霧 >  
微笑む相手を見つめる。
自らの獣はもう、鳴りを潜めていた。
ただ、じっと相手を見る。


「……なるほど。そりゃ……」

わずか、視線を上げる。
相手の言葉を改めて考えた。
そうか、それなら

――対価としては、十分以上のものだろう。
それ以上は、望むべくもない。


「……わかった。
 それで、何が知りたい?」

視線を戻して聞いた。
貰った以上は返さねばならない。
それは、道理だ。

月夜見 真琴 >  
「はっはっはっ。 おまえならそう言ってくれると思ったよ。
 レイチェル・ラムレイの親友。その肩書きに偽り無し、というところかな」

朗らかに笑って、嬉しそうに。
受諾してくれた彼女に対して、親愛の表情を見せた。
体を離すと、グラスを持って立ち上がる。

「さあ、レイチェルの異変についての心当たりとか、
 最近の動向――それとおまえ自身のこと、などなど。
 知りたいことは山程ある、その段階で答えなど。
 いまなにかを聞いたところで、これをせよとは言えないしな。
 言葉を尽くす必要も、ともに思考することも必要だろう。
 まあ概ね、やつがれはおまえのため、おまえの言う通りにするつもりだ」

アトリエの奥、高級チェアのある作業場のほうに。
華霧に背を向けて窓の外をぼんやり眺めながら、グラスを傾けて。

「やつがれはただ、助けになりたいだけさ」

それはもう疑いようもないことだろう、と。
だからこれから始めなければならない。
レイチェル・ラムレイと園刃華霧を失わないためにはどうするか、だ。
そこで、あっ、と思いついたようにカウチセット、華霧のほうを振り向いた。

「一緒に住まないか?」

色々都合も良いだろうし、と。
にっこりと満面の笑顔で提案する。

園刃 華霧 >  
「ふ、ん……ま、確かに話は山積みだな。
 差し当たってチェルちゃんの異変、辺りを優先するっとこかね。
 それ以外は、まあ……時間をかけて、か。」

やれやれ、気の長いんだか短いのだかわからない話だ。
思わず背もたれに背中を委ねて、ぐたっとなる。
その姿勢のまま


「……なーるほど?」


―― 一緒に住まないか?

その一言を受けて、飲み込んだ。
少し意外でもあり、納得でもある。
都合は、確かに。いいのだろう。


「堅磐寮、下見までシたンだけどナ……
 ま、別にいっカ」

ちょっとした苦労が水の泡であった。
まあ、それはいい。些細なことだ。
これからのことに比べれば。

「……は、いいんだけど。
 ほいほいと人、住ませていいの? ここ」

なにしろ、一応自分は風紀委員であり、相手は第一級監視対象だ。
いや、都合という意味ではある意味都合は良いのだろうけれど。
その辺の仕組は実はよく分かってないから、疑問である。

月夜見 真琴 >  
「残された時間はまだまだ、あるさ」

生きていればな、とは口にせずに窓の外を眺める。
思考や感情を流し込むように大きめにグラスを傾けて、
氷だけが残ったグラスを手近な作業台に置いた。
これからを思って、肩を上下させた。ナイフが目に入る。 

「レイチェルがいなくなれば現場の士気にも大いに影響がある。
 この流れで凛霞まで持ち崩してなければいいが――うん?
 ああ、そのあたりは仔細ない。本来なら色々と煩雑な手続きが必要だが」

グラスを手に取り、そちらへ戻った。
トレイに各々のグラスとジェラートの皿を戻す――自分の分は融けていた。
手を伸ばす。

彼女の首に嵌っていたもの、罪人の証。
それに指を通して、ぐい、と引っ張るような動きを。

「おまえが尋常の風紀委員でなくなっていることがいくらか都合がいい。
 そのあたりは融通が効く、ということだ。やつがれが視ているよ、とな。
 まあ、必要とあらばおまえに、一時的にでも、
 "四人目"になってもらうかもしれないが――
 この件で落第街に行くことにならなければ良いのだがね。あまり気が進まない」

監視対象としてはこちらのほうが締め付けが強く――ゆえに。
強引に一所にまとめられると、"何かあった時"には都合がいい、というわけだ。

「来客用の寝室はあるし、やつがれの料理もついてくる。
 まあ幾らか、同居するにあたっての作法は覚えてもらうが。
 ――いや実際、ひとりだと多く作れなくてな、レパートリーが限られる。
 そういう意味でも助かるよ、さて、さっそく今夜、なにを食べたい?」

にっこりと微笑んだ。満面の笑み。
長い付き合いになるか、それとも。
少なくとも現状、切っても切れない間柄であるのは――確かだ。

園刃 華霧 >  
「……リンリンは、あの様子ならまだ平気……とは思う、けど……」

とはいえ、確証はない。
ケアも必要かもしれない。
たった一人でどんだけ影響与えてるんだか……まったく
そんな事を考えていると


「ん、ぐっ」

ほぼ首を引っ張られるかのような感覚。
わずか、息苦しい。

「なーるほど。実に賢いことで。
 確かに、それなら色々と都合はつくわな。」

彼女の考えを聞いて、苦しい息の下、
軽く肩をすくめる。
まったく大したもんだ。
賢い、というよりは悪辣、なのかもしれないな。


「そりゃ……サービスのいいことで?
 アタシはとりあえず、希望はないから適当に任せるよ。
 あんま詳しくないしね」

寝室に料理までついてくるときた。
高級ホテルにでも泊まっちまったのかな、まったく。
ややこしいことになったもんだな。

月夜見 真琴 >  
苦しそうな表情を見下ろして。
薄っすらと笑みが浮かぶ。
もっと指を引いてしまうべきか、きつく締めてしまうべきか。
その逡巡は瞬きとともに消えて、彼女を解放する。
実際にリードなど、なくとも。

「パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ」

諳んじるように。

「――英治が得意な料理だ、という。
 本当はご馳走になろうかと思っていたのだがな、
 なかなか機会も巡らんし、いっそどちらがより美味しいものを作れるか、
 競争しようと考えている、ぜひ食べてくれ!あとあれと、それも」

上機嫌な微笑みだった。
同居人ができて嬉しい、という感情をそのままに表現している。
料理も絵も好きだ。それは本当。

「では」

よいしょ、とトレイを持ち上げて。

「これからよろしく――華霧」

甘く《嗤う妖精》はささやく。
どのみちもう――逃がさない。

奇妙な同居生活への期待に、そのまま鼻歌まじりに。
アトリエを出て、キッチンのほうへ向かっていった。

園刃 華霧 >  
……ったく、やっと開放された。
軽く息をすってほんの僅かの息苦しさを元に戻す。


「えいじぃ?
 まーたアイツは、妙なモンを……」

時折、アレの発想はどこからキているのか首をひねることがある。
まあ逆に言えば、そんな胡乱な名前の料理など飛び出すところはしれている、ともいえる。
なるほど、妙なところでつながってるのね。

そして

「――ああ」

上機嫌の笑み
紡ぎ出される言葉
それらを一身に受けて、言葉にする。

そうだ、これは始まりだ。
なら――
一度始めてしまったことは、『続けるしかない』
だから、まずは

「よろしくな、マコト先輩」

そう口にした。

ああ――しかし

園刃 華霧 >  
「                                   」
 

月夜見 真琴 >  
アトリエを出る。
鼻歌まじりに。
たとえどれだけの徒労となろうとも。
"正義"のためにそれを成す。

廊下に出ると、ふと。

「おや」

古風なアトリエの外観ながら、設備は最新のものだ。
玄関扉――複数の魔法錠や機械錠が巧妙に、
扉の美を損なわぬように隠されて添えている。
そのなかで、ほとんどついているだけの物理錠。

さっき、華霧が通された時のせいだろう。
サムターンが回って、空きっぱなしになっていた。
簡単に破られる、閉める必要もない鍵だ。

鍵を閉める、という動作は、わりと好きだ。
そっと冷ややかな金属の感触に、指をふれて。
力を込めて、サムターンを回す。
このアトリエを、外界から隔絶する。

月夜見 真琴 >  
 
 
かちゃり。
 
 
 

ご案内:「邸宅内のアトリエ」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「邸宅内のアトリエ」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「邸宅内の客室」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ

言葉の意味はよくわからないが、とりあえず美味かった。
……くそ、なんなんだあのクソアフロ。
なんであんなけったいなモノ知ってるんだ本当に。


まあ、それは別にいい。
食後、あてがわれた部屋のベッドに腰掛けつらつらと今日起きたことを考えた。

レイチェルのこと、月夜見真琴のこと、
事故のこと、トゥルーバイツのこと
その他にも、色々

園刃 華霧 >  
「………ダメだな」

ため息を一つ。
あまりにも考えることが多すぎた。
頭の処理が追いついてこない。

仕方ない。

まずはやるべきことを整理して、先のことを考えていこう。
なにしろ、時間はまだある。
其の上、雨露を凌ぐのであれば最適な場所も手に入れた。


……あ


「……コイツ、は……しばらく、封印……だな。
 使う機会がくるかも、わかラんけど」

じっと、手のひらの上に乗っている鍵を見つめる。
あの日、差し出されたレイチェルの部屋の合鍵。

それをつまみ上げ……ごくり、と飲み込んだ。

園刃 華霧 >  
「……ま、先のことはもう、先のこと、だな。
 あとはやるだけやるしかない。」

ぽつり、とつぶやいた。

ご案内:「邸宅内の客室」から園刃 華霧さんが去りました。